以前から当ウェブサイトで強い関心を抱いている論点のひとつが、今回のコロナ危機が、金融危機ないしは通貨危機に波及するような事態があり得るかどうか、です。金融危機ないしは通貨危機が発生するプロセスにおいて、いちばん怖いのは、世界の金融機関が外貨(とくに米ドル)で資金調達できなくなってしまう事態ですが、これについては米FRBが先月、9つの中銀等と為替スワップを結んだため、当面の危機は回避されたと考えて良いでしょう。しかし、もし米国が半年後に為替スワップを「更新しない」と言い出したら、いったいどうなるのでしょうか。
米国と為替スワップを結んでいる国、いない国
米連邦準備制度理事会(FRB)は以前より常設型・金額無制限の為替スワップを5つの中央銀行と締結していますが、これに加え、3月19日には新たに9つの中銀・通貨当局との時限為替スワップを締結しました(『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』等参照)。
一方で、FRBはこれら14の当局以外の中央銀行・通貨当局(たとえば、中国、香港、ロシア、インド、インドネシア、トルコ、アルゼンチンなど)とは、為替スワップを締結していません(『米FRB為替スワップの解説と「中国へのメッセージ」』等参照)。
現時点において為替スワップという点で、米FRBと諸外国の中銀・通貨当局の関係は、次のとおりです。
為替スワップから見たFRBと各国中銀等の関係
- 期間・金額無制限…日本、英国、スイス、カナダの各国中央銀行と欧州中央銀行(ECB)
- 期間6ヵ月~・金額上限600億ドル…豪州、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポール、スウェーデン
- 期間6ヵ月~・金額上限300億ドル…デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド
- 為替スワップのない相手…中国、香港、ロシア、インド、インドネシア、トルコ、アルゼンチンなど
いわば、このコロナショックのさなか、全世界の金融機関は、「自国の中央銀行を通じて米ドルを借り入れることが可能な金融機関」、「米ドルを市場から調達しなければならない金融機関」に、くっきりと色分けされた格好です。
実際の入札額データが出てきた、借入額トップはなんと日本
さて、ここで興味深い資料があります。
ニューヨーク連銀のウェブサイト “Central Bank Liquidity Swap Operations” によると、今回の14本の為替スワップ(正式名称は「外国為替流動性スワップ」)を巡っては、日銀が最大の借入人になっているようです(図表1)。
図表1 3月4日以降の為替スワップに基づく米ドル資金供給の状況(4月3日時点)
借入人 | 残高 | 入札回数 |
---|---|---|
日本銀行 | 1835.0億ドル | 14回 |
欧州中央銀行 | 1396.4億ドル | 16回 |
イングランド銀行 | 367.9億ドル | 12回 |
スイス国民銀行 | 89.4億ドル | 14回 |
韓国銀行 | 87.2億ドル | 2回 |
シンガポール通貨庁 | 69.1億ドル | 3回 |
メキシコ銀行 | 50.0億ドル | 1回 |
デンマーク国民銀行 | 28.5億ドル | 2回 |
ノルウェー銀行 | 10.8億ドル | 2回 |
豪州準備銀行 | 6.5億ドル | 2回 |
合計 | 3940.7億ドル | 68回 |
(【出所】ニューヨーク連銀(Federal Reserve Bank of New York)の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” より著者作成)
これは、4月3日までの入札回数、4月3日時点における残高を一覧にしたものですが、9つの中銀・通貨当局がFRBから為替スワップでドル資金を借りた実績を持っていることがわかります(4月3日時点の残高は3940.7億ドル)。
このうち意外なことですが、借入額のトップは日銀で、金額も1835億ドルと全体の半分近くを占め、ダントツのトップという状況であり、これに欧州中央銀行(ECB)の1396.4億ドル、イングランド銀行の367.9億ドルが続きます。
やはり、国内にいくつかのメガバンクが所在し、かつ、地域金融機関などが為替ヘッジ付きで外債投資などを活発化させているという事情もあるのかもしれませんが、それにしても欧州よりも日本の方がドルの借入額は多いというのも、個人的には非常に意外な感じがしました。
金利がやたら高い国がある
ところで、このデータを眺めていてもうひとつ気付くのは、加重平均借入金利が国によってずいぶんと違っている、という点です(図表2)。
図表2 国による加重平均金利と平均借入日数
借入人 | 平均金利 | 平均日数 |
---|---|---|
メキシコ銀行 | 0.91% | 84.0日 |
韓国銀行 | 0.87% | 76.9日 |
シンガポール通貨庁 | 0.73% | 31.3日 |
ノルウェー銀行 | 0.37% | 84.0日 |
欧州中央銀行 | 0.36% | 73.2日 |
日本銀行 | 0.34% | 63.1日 |
デンマーク国民銀行 | 0.34% | 80.4日 |
イングランド銀行 | 0.34% | 48.7日 |
スイス国民銀行 | 0.33% | 41.7日 |
豪州準備銀行 | 0.32% | 84.0日 |
全体 | 0.37% | 65.1日 |
(【出所】ニューヨーク連銀(Federal Reserve Bank of New York)の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” より著者作成)
9つの中銀・通貨当局が4月3日時点で借りている金額(3940.7億ドル)全体の平均金利は0.37%なのですが、個別に見ていくと、金利がやたらと高い国と、そうではない国に、くっきりと分かれているのです。
具体的には、メキシコが0.91%でダントツに高く、次いで韓国(0.87%)、シンガポール(0.73%)が続きますが、それ以外の6つの中銀(ノルウェー、ECB、日本、デンマーク、英国、スイス、豪州)は、いずれも借入金利が0.3%台です。
- 調達金利が高い…メキシコ(0.91%)、韓国(0.87%)、シンガポール(0.73%)
- 調達金利が低い…ノルウェー、ECB、日本、デンマーク、英国、スイス、豪州
念のため、借入金の加重平均借入日数についても計算してみたのですが、べつにメキシコ、韓国、シンガポールの借入期間がほかの中銀と比べて長い、というわけではありません。それなのに、一番金利が低い豪州(0.32%)と比べ、メキシコはその3倍近い金利を払っているのです。
これはこれで意外な気がしますね。
為替スワップは為替介入に使えない
さて、今朝の『韓国、リーマン前後の為替介入額は累計500億ドル?』や『通貨スワップ「BLCSA」と為替介入の関係を考える』では、為替介入と外貨準備、通貨スワップ(とくにBLCSA)との関連について考えてみました。
ただ、自分自身で「韓国が3月だけで、少なく見積もって70~80億ドルを為替介入で溶かしたらしい」という点を書いてみて、ふと気づいたのですが、韓国がFRBから「第一弾」として借り入れた金額は87.2億ドルであり、為替介入で溶かしたと思しき金額とだいたい釣り合っています。
韓国が為替スワップで借り入れた金額
- 期間7日物…8億ドル(金利:0.5173%)
- 期間84日物…79.2億ドル(金利:0.908%)
もちろん、為替スワップ(正式には “bilateral foreign exchange liquidity swap agreement” 、つまり「二国間外国為替流動性スワップ協定」)は通貨スワップ(正式には “bilateral currency swap agreement” 、つまり「二国間通貨スワップ協定」)とは性質がまったく異なります。
通貨スワップの場合だと、中央銀行が相手の通貨当局などから外貨を借り入れて、それを直接、何らかのオペレーション(たとえば通貨防衛など)に使うことができるのですが、為替スワップの場合、借入人はあくまでも民間金融機関だからです。
もしかすると、韓国銀行の「中の人」は、今回の米国との極度額600億ドルの為替スワップを本気で「上限600億ドルの通貨スワップだ」、と勘違いしていて、前回のリーマン・ショック時の通貨防衛で使った500億ドルと同じようなものだと位置付けているのかもしれません。
もしそうだとしたら、これは非常に怖い話です。
今回のスワップは、あくまでも民間金融機関に対する有期・有利子のターム物貸付であり、期間が到来したら利息とともに耳を揃えて返さなければなりません。もし6ヵ月が到来した時点で、米FRBが「韓国銀行との為替スワップを更新しない」と言い出したら、いったいどうするつもりなのでしょうか。
疑問は尽きないところです。
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日本としては、
他の東南アジアの国々で連鎖的に金融危機にならないように、さらにスワップラインを拡充していってほしいと思います。
もちろん、ついでに円建ても増やして。
今後、東南アジアでの製造業が大きく成長していったときに、円建てで決算できると心強いですね。
しかしシンガポールの金利高いなぁ。
先日のBSフジプライムニュースで鈴置先生が、金を返せなくなったら娘を差し出せとなると、その時のためにも韓国は日本との通貨スワップが欲しいのだとおっしゃっていました。
なるほどなあと、経済問題さっぱりの私ですが感心して聴いていました。
韓国はこれからもあの手この手で日本にスワップ締結を言ってくると思いますが、日本は今までの度重なる不法行為を解決してからと返答して欲しいです。
アメリカさんが韓国を助けろと日本に押し付けてくるのかな。これが難題だな。
日本に対して数々の狼藉を仕掛ける国を助ける事などあり得ないと思いますが今までの事を思い起こすと不安もありますね。
アメリカは共和党政権になったので流石に日本に対して日韓スワップ締結を押し付ける事は無いと思っていますが。
アメリカが日本に対して日韓スワップの締結を要求して来た場合アメリカに連帯保証人を要求する事は出来るのでしょうか?
もし6ヵ月が到来した時点で、米FRBが「韓国銀行との為替スワップを更新しない」と言い出したら、いったいどうするつもりなのでしょうか。
>「韓国向けは、更新されると思っていたニダ」、「アメリカに後頭を叩かれたニダ」と言うでしょう。
外貨準備金から米国債が600億ドル消失するだけでしょ。
当ブログに為替スワップと書いてある件、楽観ウェブさんによれば通貨スワップとの事ですが、実際の所どっちなんでしょうか?あちらのコメント欄も通貨スワップだ、為替スワップだと荒れてるようですよ。
http://rakukan.net/article/474422341.html
色々調べてたら、報道は圧倒的多数が通貨スワップですが、先週のプライムニュースでは為替スワップでしたね。
楽韓さんはその辺りを気にしない人のようで、コメント欄の指摘も無視です。この問題に関しては新宿会計士様が再三説明している説明に敵う言説はないと思います。
> 再三説明している説明
すみません、推敲不足で「馬から落ちて落馬した」みたいな物言いになってしまいました。
阿野煮鱒様、
座布団2枚を進呈しますので、どうぞ安全に着地なさって下さい。
米国が武富士になり、多重債務の韓国にカードを持たせてやっただけの話ですね。🐧
まだ、韓国をレッドチームに追いやるべき時期では無いと米国が考えているだけの、一時的金融支援措置であり例え半島に新国家が誕生し、大韓民国を継承しなくとも必ず取り立てる積もりなのでしょう。🐧
ハゲ親父さま
韓国がレッドチーム入りして南北統一というのが文在寅の野望です。それを叶えてあげるほど米国はお人好しではないと思います。そして、経済的に韓国を破綻させ、韓国がレッドチーム入りしたら、韓国には中国軍(場合によってはロシア軍も)進出してきます。両国にとっては、韓国の港湾は日本海や太平洋に進出するための足掛かりとして重要でしょう。そうなると東アジアの軍事バランスが大きく変わってしまうし、在日米軍の負担もとても大きくなります。だから米国は韓国のレッドチーム入りを歓迎しないはずです。米国は裏切り者の韓国を破綻させ、借金漬けと、これまでの裏切りの数々の証拠を元に韓国が身動きできないようにして、韓国の領土を我が物顔に使い放題にして、中国、ロシア、北朝鮮の封じ込めを強めるのではないでしょうか?もちろんそうなった場合、米国は韓国を同盟国として扱わないし、韓国は、最貧国として米国にぶら下がるしか生きる道がありません。結局韓国は、レッドチーム入りなら中国の属国だし、ブルーチームではアメリカの属国になるしかないのでは?
まあ、私の妄想ですが。
>、韓国銀行の「中の人」は、今回の米国との極度額600億ドルの為替スワップを本気で「上限600億ドルの通貨スワップだ」、と勘違い
役人が苦し紛れに、大臣クラスにそう説明しちゃって、大臣が「それなら、通貨スワップなら為替介入に使っちゃえ」と言われてやっちゃったかも。
いずれバレたら、FRBの説明が悪いとか、日本が通貨スワップしてくれると思ってたのに応じなかったとか、他人のせいにするんじゃないかと。
そして泣きながら、日本に物乞いしようとするも、日本に入国できず、コロナのせいにするあたりで終了かと。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
ハンガリーが「新型コロナウィルス感染での打撃抑制のため、外国企業
や銀行などに、資金協力の義務化」を発表しました。
このため、(韓国とは限りませんが)同じことを考える国が出てくる可
能性もあるのではないでしょうか。
駄文にて失礼しました。
120億ドル募集して未達だったのだから、提示された最低金利で入札しても落札できます。5カ国の無制限枠の国は全部の入札が最低金利のはずです。オーストラリアも金融機関の数と今回設定された上限の兼ね合いで、全額落札が明らかだったからみんな最低金利で札を入れた。その他の「枠あり」国は上限額を超過して競争になる可能性があったから、みんなそれなりの金利を入れた。
>ただ、自分自身で「韓国が3月だけで、少なく見積もって70~80億ドルを為替介入で溶かしたらしい」という点を書いてみて、ふと気づいたのですが、韓国がFRBから「第一弾」として借り入れた金額は87.2億ドルであり、為替介入で溶かしたと思しき金額とだいたい釣り合っています。
韓国の外貨準備は、韓国の民間銀行が保有する不良債権を支えるために使うことができるのかもしれません。
1997年のアジア通貨危機において韓国の外貨準備が民間銀行の不良債権を支えるために使われていたことが、当時のFRB議長だったアラン・グリーンスパンの回顧録に書かれています。
アラン・グリーンスパン『波乱の時代 -わが半生とFRB- 上』(日本経済出版社)
韓国の銀行が保有する不良債権と外貨準備がつながる仕組みがあるのであれば、為替スワップと外貨準備がつながる経路が存在することになります。
専門家「韓国の財務状態に『監査意見拒絶』の恐れは無いか」
https://sincereleeblog.com/
モルディブなど入国禁止措置緩和...'企業の出張許容'20余ヶ国説得/YTN
https://www.youtube.com/watch?v=kWBx6iW_Chg
『基軸通貨』を持つ日本、EUとの通貨(Cross Currency)スワップを要求する声が相次いでいます。
全経連通貨(Cross Currency)スワップ日本水準拡大必要"
https://news.v.daum.net/v/20200405113101434
イ・ホンソク入力2020.04.05.11:31
危機克服ための貿易・通商分野10個の政策課題建議
15台輸出品目、「武漢肺炎ウイルス(コロナ19)」で今年輸出7.8%↓展望
▲韓国企業の入国入国禁止および制限措置迅速解除
▲通貨(Cross Currency)スワップ契約締結国
および地域(日本・ヨーロッパ連合・英国など)拡大
▲攻勢的多者・両者自由貿易協定(FTA)推進
▲グローバル保護貿易主義措置凍結先導などだ。
高麗(コリョ)大学のイ・マンウ名誉教授がこんなコラムを載せました。
[多産コラム]大韓民国財務状態'意見拒絶'危険ないか
https://news.v.daum.net/v/20200406001303714
韓銀がFedのようにできない理由は、財務状態の違いで現れる。
EY英会計法人とKPMGからそれぞれ外部監査を受けた韓国銀行とFedの貸借対照表を見ると、貨幣発行規模は韓国銀行が126兆ウォンであるのに比べ、Fedは17.2倍の2167兆ウォンだ。貨幣発行力と相関関係が高い支給準備性預金の違いも17.2倍だ。
外貨買い取り資金のための韓銀の通貨安定証券の発行は164兆ウォンだが、Fedは外貨買い取り負担自体がない。
基軸通貨を持たない韓国銀行にあまり負担をかけると、アーンスト・アンド・ヤング(韓英会計法人)から監査を受ける韓国銀行としては、大きな問題、最悪、「意見拒絶(監査・意見を拒絶される)」になる恐れがある、とのことです。
円もユーロも基軸通貨じゃありません。