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「韓国が銀行の先物外為限度額拡大」→え?それだけ?

今朝の『韓経も日韓スワップ待望論の一方、副首相が軽率な発言』で、韓国の「経済副首相」が「外為安定化策を発表する」と述べた、という話題を紹介しましたが、これにさっそく続報が出てきました。韓国政府が銀行に対する規制を緩め、先物外国為替ポジションの保有限度額を自己資本の40%から50%に拡大するそうです。これに対する第一印象は、「あれ?それだけですか?」です。

なんだかよくわからない中央日報の記事

今朝の『韓経も日韓スワップ待望論の一方、副首相が軽率な発言』で紹介した論点のひとつが、韓国の洪楠基(こう・なんき)経済副首相が「外為安定化策を発表する」と述べた、というものです。

その続報が、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に出ていました。

韓国政府、銀行の先物為替ポジション限度拡大…「外貨資金の流入拡大に期待」(2020.03.18 09:21付 中央日報日本語版より)

中央日報によると、韓国政府は企業と金融機関の円滑な外貨調達に向け、銀行の先物為替ポジション限度額を25%拡大し、国内銀行は40%から50%に、外資系銀行支店は200%から250%にそれぞれ引き上げられる、としています。

正直、この記事を読んだ人の99%は、

と思うはずです。

真っ先に思いつく疑問点のは、「それをすることで韓国の金融機関の外貨流動性を改善することにつながるのかどうか」という点ですが、それだけではありません。

そもそも、この記事では「自己資本に対して」という単語が抜けているため、「何に対しての40%から50%への拡大なのか」がわかりませんし、そんな規制があるということ自体初耳という人も多いはずです。これについて、記事を何度か読み返してみたのですが、とくに次の記載は意味不明です。

企画財政部、金融委員会、韓国銀行、金融監督院は19日に報道資料を通じ、(中略)と明らかにした。」(※下線は引用者による加工)

韓国の当局が19日に明らかにした、ということですが、本日は19日ではありません。18日です。

どうもこれを執筆している記者自身もかなり混乱しているようです。

韓国の外為保有規制とは?

さて、結論的に言えば、今回の規制は「自己資本に対する先物外国為替ポジションの限度額を、国内銀行については40%から50%へ、外資系銀行の在韓支店については200%から250%に緩和する」という措置で、発表されたのは本日です。

まず、そもそもの韓国における銀行の外為保有規制について確認するために、日経電子版に掲載された10年前の記事を紹介しましょう。

韓国、外貨取引に新規制 ウォン乱高下を防止/銀行取引に限度額、企業の借り入れは実需に限定(2010/6/13付 日本経済新聞電子版より)

日経によると、韓国政府は自国通貨・ウォン相場の乱高下につながる急速な資本流出入を抑制するために、為替先物取引など通貨関連の金融派生商品ポジションを、自己資本に対し、国内銀行は50%、外国銀行の在韓支店は250%に制限する、という扱いだったのだそうです。

このようなポジション規制は、もちろん本邦金融機関には存在しません。

日経電子版はまた、韓国政府が企業に対し外貨貸出を韓国外での設備投資などの用途に限定する規制も導入する、などと述べているのですが、こうした一連の規制の狙いについては

金利の低いドルや円で借り入れてウォンで資産運用する『キャリー取引』を防ぐのが狙い

と解説しています。

おそらく、中央日報が報じた「先物外国為替ポジションの限度額緩和」という記事についても、この10年前のポジション規制がそのまま生きているということなのだと思います。

韓国銀行の報道発表

さて、中央日報と日経電子版の記事は以上のとおりなのですが、その前提知識を踏まえて韓国銀行のウェブサイトを読むと、こんなプレスリリースが出ていました。

銀行先物為替ポジション限度25%拡大【※韓国語】

詳細については、添付ファイルを参照してください。
―――2020/03/18付 韓国銀行HPより

リンク先にはPDFファイルが掲載されていて(※ダウンロード方式)、これを翻訳エンジンなどを使って日本語訳して読んでみたのですが、中央日報が報じたとおり、韓国の金融当局が明らかにしたという措置は、この「先物外国為替ポジション限度額拡大」というものしか見当たりません。

なんだかよくわかりませんね。

いずれにせよ、事実関係だけを述べると、今回の措置は韓国国内の為替スワップ市場(※)において、銀行が保有可能な外貨ポジションを拡大することで、外貨資金流入拡大を期待する、という措置なのだとか。

(※ここでいう「為替スワップ」とは、中央銀行同士のスワップ “bilateral liquidity swap” のことではなく、広義のデリバティブ取引の一種である “foreign exchange swap” のことです。)

為替スワップと資金調達

ちなみに為替スワップとは、(あくまでも日本法の世界では)「直物(スポット)外国為替取引」と「先物(フォワード)外国為替取引」を同時に実施する取引のことであり、たとえば「ドル・円のバイセル」とは

  • スポットでドルを買って円を売る
  • フォワードでドルを売って円を買う

という取引を同時に実施することを指します。

これについては法人税法上と会計上はデリバティブ取引に該当しているのですが、金商法上のデリバティブ取引には該当していないため、基本的には一連のデリバティブ規制(※)の適用対象外であるなど、比較的規制が緩い取引でもあります。

(※デリバティブ規制とは:店頭デリバティブ取引に対し、適格中央清算機関(=CCP)での決済を原則としつつ、CCP決済できない店頭デリバティブ取引については証拠金(IM/VM)の授受を義務付けるというルールのこと。)

しかし、為替スワップは、事実上は通貨スワップ(※ここでは中央銀行同士のスワップ “bilateral currency swap agreement” ではなく “cross currency swap” のこと)と経済的な性質がそっくりでもあります。

通貨スワップは日本法では金商法(第2条第21項)でいうデリバティブ取引に位置付けられ、金融機関同士では通常、ISDA(※)が定める雛形に沿った契約書(マスターアグリーメント)とCSA(※)を取り交わしていないと取引自体が実施できません。

(※ISDAは「国際スワップデリバティブ協会」、CSAは “Credit Support Annex” のこと。)

このため、わが国では数年前まで、メガバンク等は通貨スワップや外債レポ取引で、地域金融機関等は為替スワップを使って外貨資金調達をするということが一般的に行われていました。

わが国では為替スワップに対する総量規制は存在していないのですが、その理由はおそらく、そもそも論として総量規制をしなくても日本の金融機関は過度に為替スワップポジションを積み上げる必要もないからでしょう。

なお、少し古い記事で恐縮ですが、「通貨当局間の通貨スワップ、為替スワップ」、「デリバティブの通貨スワップ、為替スワップ」という4つのスワップについては、『総論:通貨スワップと為替スワップとは?』で説明しています。

(※もっとも、記事自体が2年以上前の古いものですので、近日中に書き換えても良いかもしれませんね。)

あれ?それだけ?

以上を踏まえて今回の韓国銀行の報道発表について考えてみると、正直、

あれ?それだけ?

という感想を抱きます。

現在、韓国の市場で発生しているのは、為替スワップ市場における調達金利(スワップポイント、あるいはネガティブ・ベーシス)が拡大しているという問題点であり、韓国が必要としているのは「真水」(外貨そのもの)です。

当たり前の話ですが、この「真水」の部分を増やす努力をせずに為替スワップ取引の限度額を緩和したとしても、あまり意味がありません。

もしやるのであれば、韓国銀行が保有する4097億ドルという外貨準備から民間銀行に対して直接、外貨を貸し付ける取引の方が効果的でしょう(※もっとも、韓国の国内法的にそれができるのかどうかは存じ上げませんが…)。

また、韓国銀行が外国中央銀行と締結している唯一の為替スワップ(※)がカナダ銀行とのものですが、この為替スワップを「アクティベイト」して、「外貨流動性に困っている国内銀行に対してカナダドルを供給する」とでも宣言すれば良いのに、と思います。

(※ここでいう為替スワップは “foreign exchange swap” ではなく “bilateral liquidity swap” の方です。)

もっとも、韓国の銀行が必要としているのは「米ドル」であって「カナダドル」ではありませんので、韓国の銀行がカナダドルを入手したとしても、あまり意味はないのかもしれません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、外為市場では韓国ウォンが「フリーフォール」状態になるのかどうかが気になるところですが、本日午前11時前の時点で韓国ウォンは1240ウォンの大台を少し割り込むなどの小康状態にあります(これが韓国銀行による為替介入などの結果なのかどうかはよくわかりませんが…)。

現在、同国からの資金流出が生じるかどうかは、どちらかといえばグローバルなリスク選好ムードとも密接に関連していると考えられ、たとえば日本の株価(日経平均など)が買われるなど市場全体のリスク選好が回復すれば、韓国ウォンも買い戻されるかもしれません。

しかし、韓国が置かれている外貨流動性は楽観視が許されない状況にあることもまた事実でしょう。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • 10数年前の知識ですが、当時は韓国ウォンは通貨の先渡し(フォワード取引)が規制で出来なかったので特に長期フォワードのニーズにはNDF(差金決済形式のフォワード。スキームのどこにもウォンの決済が生じないから規制しようがない)を使うイメージでした。

    さすがに時代が降ってフォワード取引はできるようになったんですね。で、今回それにかかってた規制が若干緩んだと。

    取引総量に規制があれば事実上自己取引、ディーリングは出来ません。自己取引をしていては反対取引がどんどん積み重なって、どんな規制量もすぐ超えてしまいます。

    結果、顧客からの注文のフォワード取引のみに限定。それでも、もはや総量規制に引っかかって新規取引に応じられない状況だったのでしょうね。

    まあ、私のみたてではありますが、今回の規制緩和はあくまでも実需取引に関するもの。ヘッジファンドやら世界に渦巻く投資、投機の世界に影響を及ぼすような規模の話じゃないことだけは確かです。

  • 自己コメント。こんな記事も発見。

    韓国与党代表「通貨危機に広がる前に通貨スワップ締結を」

    韓国与党・共に民主党の李海チャン(イ・ヘチャン)代表が18日、国会で開かれた最高委員会議で通貨スワップの締結を強調した。(…続きを読む
    ―――2020.03.18 11:29付 中央日報日本語版より

    何だかすごいことになってきましたね。
    ちなみに肝心の外為市場については、WSJによると

    USDKRW 1236.58
    10:36 PM EDT 03/17/20
    で小康状態です。

    • 新宿会計士さま
      何も手が無いので、騒いでやってる様に、見せてるだけだと思います。
      「G20相手に通貨スワップを締結すべきだという提案も政府にすることにした」にしてもと言っても、全部出禁(入国制限)されてる国でしょう。
      続いてスワップ関連の記事が、出ています。
      韓国、新型肺炎で通貨危機の懸念拡大…「韓米・韓日通貨スワップ締結が最も重要」
      https://s.japanese.joins.com/JArticle/263800
      最後を引用します
      キム教授は「新型肺炎で世界的なドル不足、韓日と韓米の通貨スワップ拒否、韓国の短期対外債務比率上昇、75%と韓国の高い貿易依存度、そして新興国のデフォルトなど国際金融市場の不確実性が増加している。最も重要なのは韓米・韓日通貨スワップ締結だ。速やかに外貨準備高を2倍に拡大して備えなければならない」と主張した。
      引用ここまで。
      文中で、1997年の通貨危機当時も短期対外債務の割合が上がり、日系資金の流出から始まった。
      としてますので、まだまだですかね。
      韓日と韓米の通貨スワップ拒否>なのに最も重要なのは韓米・韓日通貨スワップ締結だ。
      速やかに外貨準備高を2倍に拡大して備えなければならない>ただでさえ粉飾している外貨準備高高が、毎日減っているのに、出来る訳無いじゃん。
      集団で、スワップ、スワップと騒いでも、どうにもならないんですけどね。
      断末魔の叫びでしょうか?知らんけど。

    •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

       韓国与党代表の発言を聞いて、日本の野党の発言みたいだと感じたのは
      私だけでしょうか。

       蛇足ですが、韓国にとっては解決策は外国政府が考えるもので、今回の
      措置は、外国政府が解決策を示すまでの時間稼ぎなのでしょう。

       駄文にて失礼いたしました。

  • あら残念、予想が外れてしまいました。ってこれはわからん!
    溜めて溜めて溜めて、たいしたこと言わないのは東京03のコントを思い出しましたよ...

  • > 韓国の当局が19日に明らかにした、ということですが、本日は19日ではありません。
    異次元空間のラ・ラ・ランドの話ですから。

  • >韓国の当局が19日に明らかにした、ということですが、本日は19日ではありません。18日です。
    >どうもこれを執筆している記者自身もかなり混乱しているようです。

    韓国当局筋としては予告して二日間程市場に期待させてから発表しようと考えて準備していたところ、市場の反応が予想とは逆方向だったので前倒しして発表したところ日付の修正をし忘れたとか?

    • イーシャ様!クロワッサン様!日付のことは大事だとおもいます!この発表は、解決案ではないのです。何日か前に策定して、もったいつけてジラセて、いばって発表するのが目的です。逆にいうと、解決したら困るのです。
      新型コロナ肺炎の場合もおなじです。病気が終息したら文大統領は困るのです。なにかもったいつけて形だけメチャクチャ検査して病気を拡散させるのが目的です。
      スワップの問題にしてもおなじです。デフォルトしなかったら文大統領は困るのです。韓国だけじゃ、つまらない!だれか道連れがほしいだけです。誰でもいいのです。特に日本はキライだからこれを騙し討ちにしたい。スワップのおかげで韓国経済がよくなったら文大統領は困るのです。
      4月の韓国の選挙のこともおなじです。予定どおりなんてバカみたい。中止か延期か、どっちでもいいけど、選挙もメチャクチャにしてやる!が文大統領の本音です。
      最後に、文大統領は人間じゃありません、悪魔です!

  • 中央日報の記事です。
    【コラム】経済的死亡がもっと恐ろしいかもしれない=韓国
    https://s.japanese.joins.com/JArticle/263796
    以下引用します。
    「持たない人に危機はさらに苛酷なものだ。家を売り車を売り危機をどうにか耐え忍んでみたら、待っているのはさらに貧しくなった暮らしだ」。
    「医学的死亡(medical death)だけが深刻なのではない。経済的死亡(economic death)が始まるだろう」。17日に電話をかけて李憲宰元副首相はこのように話した。「医学的死亡だけでなく深刻だ。だが今回の事態で経済的重傷を負ったり死亡状態になる人たちは病気で亡くなる人よりもっと多いだろう。数十万人が崖っぷちに追いやられるだろう」と彼は警告した。
    引用ここまで。
    「持たない人に危機はさらに苛酷なものだ。」は、国内だけでなく、国際的に同じ事が言えます。
    家計負債、小規模事業主の負債などの国内負債と、マンションバブルという時限爆弾を抱えた状態ですので、日韓に例えると、持っている国と持って無い国の状況です。持っていない国は、持っている国よりも、さらに危機が過酷になるのは、以前から言っています。
    「もう、終わりダニ」、秋の気配です。
    「春なのにお別れですか」、溜息は出ますが、涙はこぼれませんね。

    • 日本も同じですね。
      中小企業が耐えれるか、耐え切ったとしても復帰できるか。

    • 匿名さま

      >日本も同じですね。
      >中小企業が耐えれるか、耐え切ったとしても復帰できるか

      一人親方もどき企業経営者のひとりとして打ち明けますが、積み上げてしまった損金をちゃらにしてバランスシート真っ赤かの状態で円満廃業していい特例?徳政?がなされるなら、喜んで「コロナ廃業」する経営者は少なくないと思います。これは淘汰の一種はないでしょうか。

      • 知人の経営者、
        必死で走り回ってます。
        投げ出したほうが楽かも、と、傍目に思います。

        そこがいいところなのだと思っています。

  • 4月になれば韓国は多額の配当金の支払いがあるようですから、ロールオーバーするのはその頃なのでしょうかね。

    •  タテマエで言えば、利益の中から納税と配当ですが、「多額の配当金の支払い」ができるほどの「利益」があるのでしょうか?
       株主に見放されないために、無理をして配当する(粉飾する)と、却って短命になるかも・・・。

  • ダウ先物がサーキットブレーカー発動してから、アジアの株が軒並み暴落しましたが、
    同時にドルウォンが吹っ飛んで行きました。16時現在で1249KRW/USD前後です。
    1250で何かが起こるような。

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