先週の『緊急措置法の発動により悪質な「テンバイヤー」駆除へ』の続報です。マスクの「テンバイヤー」の皆さんがマスクを使ってカネ儲けできるのは、今週土曜日までだそうです。日曜日以降、転売行為をやれば、最大で懲役1年、罰金100万円が科せられるので注意しましょう。それはさておき、今回の措置の注目点は、「これによってマスク不足が解消するのかどうか」、です。
先週、当ウェブサイトでは『「国民生活安定緊急措置法」に何が規定されているのか』で、「国民生活安定緊急措置法第26条第1項」などの条文を紹介しました。
改めて紹介すると、「第26条第1項」とは、「割当て又は配給等」に関する条文であり、必要な数量を国民にちゃんと行きわたらせるために、割当て、配給、使用、譲渡制限、禁止などについて強制力を持った政令を定めることができる、とする規定です。
国民生活安定緊急措置法 第26条第1項(割当て又は配給等)
物価が著しく高騰し又は高騰するおそれがある場合において、生活関連物資等の供給が著しく不足し、かつ、その需給の均衡を回復することが相当の期間極めて困難であることにより、国民生活の安定又は国民経済の円滑な運営に重大な支障が生じ又は生ずるおそれがあると認められるときは、別に法律の定めがある場合を除き、当該生活関連物資等を政令で指定し、政令で、当該生活関連物資等の割当て若しくは配給又は当該生活関連物資等の使用若しくは譲渡若しくは譲受の制限若しくは禁止に関し必要な事項を定めることができる。
国民生活安定緊急措置法 第37条(罰則)
第二十六条第一項の規定に基づく政令には、その政令若しくはこれに基づく命令の規定又はこれらに基づく処分に違反した者を五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨の規定及び法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関して当該違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する旨の規定を設けることができる。
要するに、第26条第1項の配給等の政令には、「違反したら5年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される」、などの規定を、その政令の中に書いて良い、という規定ですね。
これを受けて『緊急措置法の発動により悪質な「テンバイヤー」駆除へ』で紹介したのが、政府がマスクの転売に罰則を適用しようとしている、とする報道です。
本日、その続報が出て来ました。
「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定されました
本日、「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定されました。(中略)法第26条第1項及び第37条の規定に基づき、以下を定めます。
- 法第26条第1項の政令で指定する生活関連物資等は、衛生マスクとすること。
- 衛生マスクを不特定の相手方に対し売り渡す者から衛生マスクの購入をした者は、当該購入をした衛生マスクの譲渡(不特定又は多数の者に対し、当該衛生マスクの売買契約の締結の申込み又は誘引をして行うものであつて、当該衛生マスクの購入価格を超える価格によるものに限る。)をしてはならないこと。
- 規定に違反した場合について罰則を定めること。
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―――2020年3月10日付 経産省HPより
具体的には『国民生活安定緊急措置法施行令』に「衛生マスク」という文言を書き込む、というものです。条文は少しややこしいのですが、かみ砕いていえば、
- ①衛生マスクを不特定の相手方に対し売り渡す者から
- ②衛生マスクの購入をした者は、
- ③当該購入をした衛生マスクを購入価格を超える価格で譲渡してはならない
という、だいたい3つの要件で成り立ちます。
おそらく具体的には、スーパーマーケットやコンビニ、薬局、ドラッグストアなどで買ってきて、メルカリやヤフオクなどのインターネットサイトを使い、買った以上の値段で転売する行為全般がアウトになります。
ちなみに法律では、最高刑は「5年以下の懲役か300万円以下の罰金、またはその併科」とされていますが、今回の政令ではこれが「1年以下の懲役か100万円以下の罰金、またはその併科」に緩和されています。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、刑事罰に関しては「罪刑法定主義」、「法の不遡及」という鉄則がありますので、今回の政令(明日公布、日曜日施行)については、法律に定める以上に厳しい罰則を科すことはできませんし、施行日前に行われた転売行為を罰することはできません。
インターネット上では「転売をした奴は死刑にすれば良いのに」、「過去にさかのぼって罰すれば良いのに」といった、やや過激な書き込みも見られるのですが、それをやった瞬間、某隣国とやっていることが同じになってしまいます。
日本は近代法治国家である以上、「法に定めていない罰を科すことはできない」、「過去にさかのぼって罰を科すことはできない」というのは、仕方がないのです。
それよりも、個人的には今回の政令により、果たしてこれでマスクの品不足が解消するのかどうか、とくに「危機管理」という観点からは興味深い前例になるのではないかと注目しています。
とくに『人間の合理的な行動から考える「買占めをどう防ぐか」』でも議論した「法的な強制力を使うこと」が妥当なのかどうか、実例を検証する貴重な機会だという言い方もできるのかもしれませんね。
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人々の困窮に付け込んだ不当利得行為は許されないこと。
ならぬことは、なりません。日本人ならば。
国税当局は、懲罰的に徴税してください。
どこかの県議は破滅しなさい。
・ マスクは、自分自身への感染防止には効きません。
・ マスクは、周りへの感染防止には効きます。
・ 発症していない人が周りを感染させる可能性は
否定できませんが、大きくはありません。
従って、
・ 非感染者はマスクをつけません。
・ 感染者はマスクをつけます。
・ 非感染者は、棚に多量にマスクがある時だけ購入します。
これが徹底できればいいのですが。
花粉症対策、個人的対応としては、布製を洗いながら使い、
洗濯の合間に布製を2、3日、連用しています。
ここにおられる論者の方々が仰る通り、マスクにウイルス防止の意味はあまり無いというのは確かだと思います。
しかしこれを日本の国民全体に浸透させるのは極めて困難だと思います。一種の信仰みたいなものですし。
であれば日本国内の需要がある程度賄えるまで、手作りマスクや布マスクにも数%の効果はあるので(デタラメですよ、実際は)しときましょうとかの方が一時凌ぎになるかなと思いました。
まあ曹操の、水がないときの酸っぱい梅の話みたいな物かと。
これWHOでも言ってますけど、マスクが【供給できるなら】、マスクはした方が良い派です。
①マスクは感染者による飛沫感染防止に功がある
②非感染者は口周りをさわれないことにより間接的な予防になる
③感染者の一定割合が無症状で、自分が非感染者だと思ってるが感染予防だと思ってマスクをしていると、実は他の人に移さないと言う役に立つ
以上です。
有事の生活物資の安定供給には課題が残ってますね。転売への罰則導入だけでは十分とはいえないので、いくつもの策を多重的に組み合わせて防衛していかなければいけないでしょう。個人レベルでは、平時からの適切な量の備蓄が重要だと思います。個人備蓄は安心感を生むので、パニック買いの抑制にもつながります。
今回のマスクに限らず、中国人の『爆買』は日用品の供給不安定を招く最大のリスクだと認識して、「売れれば何でもいい」というスタンスの商売から脱却してほしいものです。小売店舗での購入個数制限だけでも、帰国前の中国人や転売ヤーの買い占めを多少は緩和できたでしょう。観光地にしろ、外国人インバウンドありきの商売を始めてしまうと、結果的に日本人客をないがしろにすることになる。
取引が違法とされたので、メルカリとかネットとかに出品があったときに、事業者に通報したら削除してくれるようになるのかな?
そうすれば、取引前だから検挙はできなくても、取引自体は防げそうですね♪
生産量が十分ではない状況で、転売防止にどれだけ効果が期待できるのか、結果に非常に興味があります。
最初は、購入価格を基準に禁止するのは手間がかかるのではと考えましたが、以下の理由で問題無いと思いなおしました。
・オークションサイトへのマスクの出品自体が著しく減少すると思われる
・金額を見てわかるような出品はしないだろうし、少しだけ利益が出る程度なら見逃しても問題ない
・もしルールに反した転売が散見されるようなら見せしめとして少数を検挙すればよい
マスクの転売は割に合わない、というのが常識になってくれるといいんですけどね。「マスクが不足している? ならまた転売禁止だ」という感じで機敏に対応できる状況が理想です。
ピークを過ぎたソフトエンジニア 様
>購入価格を基準に禁止するのは手間がかかるのではと考えました
実際に検挙して有罪にしようとすると、購入価格と販売価格の立証をしないといけないから、ちょっとした小遣い稼ぎのために少し上乗せしてるくらいだと難しいでしょうね♪
そもそも買った人も黙ってるだろうから事件化できないんじゃないのかな?
ただそんなことよりも、ピークを過ぎたソフトエンジニア様の「マスクの転売は割に合わない、というのが常識になってくれるといいんですけどね」というのが、目的な気がするのです♪
・・・ちょっと考えたのですが、禁止されてるのは譲渡だから、売買じゃなくて購入代行だったらセーフなのかな?
なんてな不埒なことを考えるんじゃなくて、必要な分だけ自分で買う、怪しげな人からは買わないって当たり前の行動をすればいいんですよね♪
七味 様
>そもそも買った人も黙ってるだろうから事件化できないんじゃないのかな?
実は、マスクを転売する場合は購入価格をきちんと立証する義務が生じることになって、それができない場合は出品できないのでは、とちょっと思ってます。出品する側に立証する義務がなく、検挙する側にあるとすれば、まったく検挙できないことになるので。
そうだとすれば、けっこうえげつないというか、割と良く考えられてるというか。
まあ、不満の無い流れなので、マスク価格を眺めて楽しんでます。
>売買じゃなくて購入代行だったらセーフなのかな
明確に感じる意図は、自分で使用する以上に購入するのを防ぐ、つまり店頭在庫を適正にしたいということだと思います。たぶん古物商における古物の定義と同じで、「一度でも消費者として購入したマスク」はどのような経緯であっても対象じゃないかと。
でも、穴を探せば色々あるかもしれませんw
余談ですが、「衛生マスク」としているのは、おもちゃのマスクとか含めないためなのかとか、それでも感染症対策以外のものも入っちゃうんじゃ? とか変なところを考えてしまいます。
ピークを過ぎたソフトエンジニア様
返信ありがとうございます
出品ルールをどうするかは、オークション事業者の裁量だから、なんとも言えないのですが、大量の出品を機械的に禁止するとかしてくれれば、転売ヤーを牽制できるかな?って思うのです♪
あと、細かな点ですが、
>出品する側に立証する義務がなく、検挙する側にあるとすれば、まったく検挙できないことになる
という部分は、犯罪行為を立証する責任があるのは検察官で、被疑者じゃなかったと思います♪
とはいえ、判決自体は裁判官の心象によるところもあるので、市場価格に比べてあからさまに高ければ、購入価格より高いと推認して有罪を出してくれるかもしれませんね♪
ただ、薄利多売はサイト側で1回の出品は1点かぎりとかの規制を掛ければできなくなるし、高額取引は検挙で対応みたいな棲み分けになるのかな?って思います♪
抜け道はありそうだけど、この手のことがいたちごっこになるのは仕方ないと思うのです♪
それに朝から薬局の前に人を並ばせて、一人一箱とかの制限をくぐり抜けるみたいな手法はやり辛くなるだろし、結果に期待なのです\(^o^)/
本日、がっかりしたのは、毎日の配信で、政府が省庁横断の「マスクチーム」を創設するとの記事。
国や自治体が購入・保有するマスクを高齢者施設や医療機関などに優先的に配布する調整を担うチームとのことですが、抜本的な解決策にはなりません。
現状の生産体制の下、どう遣り繰りしたところで、やがてストックは底をつき、自衛隊等備蓄が必要な部署に欠損が生じ、医療機関等の優先されるべきところに行き渡らず、といった具合で生産量が需要を満たせない状態が続くものと思われます。
新型コロナ感染防止対策への取組が中長期にわたって見込まれ、マスクの必要量を輸入で補いきれないというのなら、供給体制を整備するしか方法がありません。
たとえば、あるメーカーの製造ライン設置等に数十億円必要かもしれませんが、それに必要な資金を無償で供与するなどの特例措置が必要でしょう。
マスクは足りてなくてもいいよ、高齢者はある程度淘汰された方がいい、というのなら話は別ですが。
駄文、ちょっと言い過ぎてしまいました。失礼。
これを機に 安全保障という観点から医療用マスクの生産体制(含、国内生産の割合とか国内の生産設備への補助金とか)を見直すことも必要かもしれませんね。
現在は良くも悪くも ある日本企業(ここはアンタッチャブルです-笑)のカンバン方式やオンタイム納入やグローバル調達が世界標準になり 一たび何かが起こると生産現場が大混乱するようになりました。 日本国内では様々な天災から少しだけ反省して 少しだけマシになっているようですが、、、。
企業でも 安全保障分野と金儲け分野は分けた方が良いのですが、この手の大企業は「わが社の系列の〇×は 安全保障に於きましても、、、」とか発言力のある屁理屈を述べますので厄介です。
ネットでのマスクの値段だいぶ落ちてきてますね。
今日近所でもマスク入荷しましたし、少しづつ供給も増えているのかな?
(医療機関に最優先してくれた方が嬉しいけど)
私のところ、どこにもありませんけど。
近所のホームセンターによると先週は先々週より
入荷量が減った…とのこと。
私は騒動以降未だに店頭でマスクを目にしたことは
ありません。
地域差があるのでしょうか?
マスクは医療従事者に求められる高性能でお高いモノもあれば普及品もあります。私は前者は法も含めて確保する必要があると思いますが、後者はどう言う買占めが起こって居るのかもう少し調べないとよくわかりません。
購入時の(メーカーから卸に出荷した値段も勘案して)インボイスで保健所などが買い上げる措置はあっていい様にも思います。
また静岡の議員転売ヤーが自称する様に10年以上も塩漬け保管していた可能性や今後10数年塩漬けでほとぼりをさます奴、外国に流す奴もいるかも知れません。
転売でボロ儲けした人には徴税サイドからの一時収入への適正な課税や、利益隠しには査察。転売ヤー長者番付の公表も面白いかも知れません。
日本の経営者はカントリーリスクを過小評価する傾向が強いので、国家安全保障上必要なものは、補助金を出す等して自給率を確保する必要があると思います。
> 購入時の(メーカーから卸に出荷した値段も勘案して)インボイスで保健所などが買い上げる措置
消費税を完全インボイス方式にするおは賛成です。
また。長年死蔵されていたものを、需要が高まった時に放出する事自体は、悪い事ではないので、所得税とは別の税率で転売益に課税する(若干の転売益は公的に認めるが、累進度合いや最高税率を所得税より高める)のが良いのではないでしょうか。
禁止すれば、ただ闇に潜るだけ。なんの意味もない。
転売目的に在庫を抱えた人に、ダークサイドの人が近寄ってくるでしょう。
今回の法改正で、マスク不足が解消するのか、と言う命題を考えると、日本国内での転売行為に対してはある程度の効果が期待は出来ますが(商品"価格"は上げずに"送料"を高額にするなどの抜け道有り…送料は規制の対象ではない)、中国人転売ヤーが日本国内で大量に買占めたマスクを、中国に送って(日本の法律が及ばない国外で)高値で売りさばく行為には歯が立たないから、マスクの品不足の解消には、余り期待できないと言うのが結論ではありませんか?
何しろ彼らは、大量のアルバイトを動員して「お1人様1個限り」の制限を軽々と突破するのは、得意芸ですからね。