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予想どおり韓国へのフッ化水素輸出が量・金額とも増加

日本政府が昨年7月1日に発表した対韓輸出管理適正化措置を巡っては、世の中でもさまざまな仮説が乱れ飛んでいるようです。こうしたなか、当ウェブサイトでは先週の『ラジオ「韓国がイランに日本海でフッ化水素を横流し」』や『韓国へのフッ化水素輸出が再び増加する可能性もある』などを通じ、「フッ化水素の対韓輸出も禁輸ではなく、いずれ用途が確認された品目については元どおりに輸出許可が出るのではないか」、との予測を立てていました。結論的にはこの仮説が正解だったようです。

フッ化水素の輸出巡る「瀬取り仮説」

当ウェブサイトでは先週、『ラジオ「韓国がイランに日本海でフッ化水素を横流し」』のなかで、あるラジオ番組で、「韓国海軍駆逐艦によるレーダー照射事件が発生した2018年12月20日、韓国がイランと日本海上で石油とフッ化水素の瀬取りを行っていた」とする説を紹介しました。

といっても、個人的には、この情報についてはかなり信頼性が低いと考えています。というのも、イランの小型船がわざわざ日本海くんだりに石油を積んでやってきて、日本産のフッ化水素を受け取って再びマラッカ海峡を越えてイランに戻っていくというのは、非常に不自然だからです。

ただ、話の要点はそこではありません。

この仮説自体、貿易統計などから判明する実際のデータとは、うまく整合していない部分もあるからです。

以前、『対韓輸出が急減しているのは「低価格フッ化水素」か?』のなかで紹介したとおり、「なぜか韓国に対する『品番2811.11-000』(フッ化水素)の輸出品のkgあたり単価が、2019年9月以降、急激に上昇している」、という事実があります。

(※ただし、経産省の昨年9月27日付けの発表によると、日本から輸出されるフッ化水素は「品番2811.11-000」だけでなく「品番0000.00-190」(再輸出品)などに計上されることもあるようですが、本稿では「再輸出品」などを考慮していません。)

このことから、kg単価が低いフッ化水素の対韓輸出が激減したことは間違いなく、kg単価が高い水素の輸出については続いている、ということです。

当ウェブサイトの予想が当たりました

こうしたなか、先日から当ウェブサイトでは、『韓国へのフッ化水素輸出が再び増加する可能性もある』のなかで、「2019年12月以降、韓国に対するフッ化水素の輸出高が、金額、数量ともに再び増加する可能性がある」と報告しました。

なぜなら、日本の外為法の枠組みでは、用途がきちんと確認できたものについては基本的にそのまま許可が出ると考えられるからです(逆に、要件を満たしていないのに許可を出さなければ、経産省がメーカーから訴えられるかもしれません)。

逆に、韓国に対するフッ化水素輸出が新たに禁じられた、という話題は聞きませんので、確認が取れた品目については順次、韓国への出荷が始まっていると考えるべきであり、とくに重量当たりの単価が低いフッ化水素の対韓輸出が再開されれば、kg単価も再び下がるはずです。

結論的に言えば、この予測は完全にあたりました。

本日公表された『普通貿易統計』の最新データによれば、昨年12月の『品番2811.11-000』の輸出量は、数量、金額ともに増加に転じたからです(図表1)。

図表1 韓国に対する品番2811.11-000の輸出高(2019年各月)
金額 数量 kg単価
1月 6.3億円 3,348.3トン 187.2円
2月 6.9億円 3,215.6トン 213.3円
3月 7.7億円 3,518.5トン 219.1円
4月 6.3億円 2,874.9トン 219.3円
5月 5.5億円 2,628.7トン 210.1円
6月 5.9億円 2,932.7トン 202.8円
7月 4.0億円 479.1トン 837.0円
8月 0 0
9月 3,723千円 0.1トン 37,230.0円
10月 0.4億円 0.9トン 45,352.7円
11月 0.5億円 0.9トン 49,558.6円
12月 1.5億円 793.8トン 189.5円

(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)

過去の金額、数量、kg単価

ちなみに、「品番2811.11-000」の韓国に対する輸出高は、2011年以降、2017年までの期間で見て、毎年2~3万トン、輸出金額は30~50億円程度であり、kg単価を求めるとだいたい160~170円のあいだで推移していることがわかります(図表2)。

図表2 韓国に対する品番2811.11-000の輸出高(暦年、2011年~2019年)
金額 数量 kg単価
2011年 40億円 23,512トン 170.8円
2012年 42億円 25,145トン 165.1円
2013年 42億円 26,315トン 158.3円
2014年 41億円 25,306トン 161.0円
2015年 35億円 21,385トン 162.5円
2016年 35億円 21,875トン 160.8円
2017年 47億円 29,058トン 162.0円
2018年 75億円 36,824トン 203.4円
2019年 44億円 19,794トン 227.5円

(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)

つまり、2019年9~11月の3ヵ月間に関しては、韓国に対する『品番2811.11-000』の輸出高は、数量単価が著しく下落していたのが、12月に入って単価だけはもとに戻った、という言い方をしても良いでしょう。

いずれにせよ、日本政府が昨年7月1日に発表した、韓国に対する輸出管理適正化措置自体が、日本の韓国に対する「経済制裁」でも「報復」でも何でもない、という証拠が、またひとつ、積み上がった格好だともいえます。

そして、『韓国に対するフッ化水素の輸出許可は「譲歩」ではない』でも紹介したとおり、森田化学工業に対してフッ化水素の対韓輸出許可が出たという話題もありますので、2020年1月以降は韓国に対するフッ化水素の輸出は再び増えていくのだと思います。

結局、何だったのか

さて、以前から報告している仮説と、今回のデータを統合すれば、次のような仮説が成り立ちます。

  • 2019年7月まで日本から韓国に輸出されていたフッ化水素は低価格帯が中心だったが、9月~11月は低価格品の輸出がなくなった
  • 日本政府が発表した「輸出管理に関する著しく不適切な事例」とは、フッ化水素に関してはkg当たり単価が低い製品を中心とする「迂回貿易」や「目的外使用」であった
  • kg当たり単価が低い製品の輸出再開に時間を要した理由は、用途の確認に時間をかけたためである

ちなみに半導体製造に必要なフッ化水素は純度がきわめて高く、日本企業が世界で強みを持っている品目ですが、そのキログラム単価が数百円と安いのは不自然です。このことから、日本の輸出管理適正化措置発動前後で半導体製造などに使われる「高級品」の輸出は継続されていると考えられます。

これについては『イランの核開発再開宣言と対韓輸出管理の関連性を疑う』でも述べたとおり、たとえば韓国がイランとの間で抱えている「ウォン建て銀行口座凍結問題」に関連し、日本から輸入した低価格フッ化水素をイランに横流ししていた、という疑惑にもつながります。

(※もっとも、くどいようですが、念のため付言しておきますと、「ウリィ銀行のウォン資金口座」、「物資横流し」などに関しては、当ウェブサイトとして確たる証拠を掴んでいるわけではありませんが…。)

しかし、今回の輸出管理適正化措置により、とりあえず韓国による「著しく不適切な事例」が発生しないような土壌が出来上がったためでしょうか、今後は徐々に、日本の韓国に対する「個別3品目」の輸出も正常化していくものと考えて良いでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、以前の『総論 対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ』や『輸出管理の「緩和」を「対韓譲歩」と勘違いする人たち』でも述べましたが、そもそも今回の輸出管理適正化措置は、日本が米国の要請を受けて講じた措置ではないかと思います。

ただ、余談ですが、今回の輸出管理適正化措置自体、「日本が韓国に対して何らかの経済制裁を発動した場合、韓国が日本に対していかなる攻撃を仕掛けて来るか」、という意味において、非常に良いシミュレーションになったのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (4)

  • > 韓国が日本に対していかなる攻撃を仕掛けて来るかという意味において、非常に良いシミュレーションになった
    さっと思い出せる範囲ながら。
    ・報復(なんの?)であり日本による非道であると、筋違いな喚き声を人に聞かせるため世界中で活動する
    ・「日本には二度と負けない」「良心の呵責を感じないのか」「やってみろ」「梯子を外すつもりか」という歴史に残る迷発言をして失笑を集める

  • 新宿会計士さま、何時も興味深く為になる論説を読ませて頂きまして有難うございます。ところで、文中の次の箇所

    >逆に、要件を満たしていないのに許可を出さなければ、

    この部分の「要件を満たしていないのに」は「要件を満たしているのに」ではないでしょうか?

  • 経済制裁のシミュレーションになって良かったという総括は、なんだかなあと思います。
    ウォンが少し下がって来ました。上がっていたのは、アメリカの株価高値誘導のせいだと思います。
    とどめを刺すチャンスは、あったんですけどね。

  • > 2019年9~11月の3ヵ月間に関しては、韓国に対する『品番2811.11
    > -000』の輸出高は、数量単価が著しく下落していたのが、12月に入っ
    > て単価だけはもとに戻った、という言い方をしても良いでしょう。

    「下落」は「高騰」の単純な間違いだと思いますが、単価が元に戻ったとなると、「低価格帯と高価格帯」の話が、ますます疑わしくなって来ませんか?

    フッ酸の価格性向は知りませんが、工業製品には全く同じものでも、1個買えば@50円、1万個買えば@0.1円なんてのがザラにあります。(十個程しか使わないのに、箱で大人買いした為に、99%以上納戸で眠っているものが沢山ある。超小口で売ってくれる店が激減しているのも理由の1つだけど。)

    本当にフッ酸は大量に買っても単価が余り変動しない品なんですか?