あらためて、日韓両国の経済的なつながりを確認する
昨日の『「日韓Xデー」が到来しても、それは韓国の責任だ』では、朝日新聞論説委員の箱田哲也氏の寄稿などを手掛かりに、「日韓関係の破綻」について少し深く考えてみました。冷静に考えると、日韓関係が破綻すれば、経済面では日本に大きな打撃が生じることは間違いありませんが、ただ、それらの打撃はコントロールできないものでもありません。こうしたなか、またしても根本的なレベルで勘違いしたメディアが、「日本は大人になれ」、などと主張しているようです。正直、議論としては周回遅れも甚だしい気がしますが…。
目次
日韓関係悪化は共通認識に
「日韓関係が悪化している」という点に関しては、日本国内では論者の立場を問わず、認識はほぼ一致しているはずです。実際、産経新聞に代表される保守系メディアであれ、「ATM」と俗称されるメディアであれ、日韓関係を巡っては一様に「悪い」と述べているほどです。
ただし、「日韓関係が悪化している」からといって、「だから私たちの国・日本がどうしなければならないか」という「処方箋」の部分に関しては、一致していないようです(※日本は言論の自由が認められている国ですので、べつに意見が一致する必要もありませんが…)。
こうしたなか、昨日の『日本企業の資産売却なら韓国経済が崩壊の可能性も』と『「日韓Xデー」が到来しても、それは韓国の責任だ』では、朝日新聞論説委員の箱田哲也氏の寄稿などを手掛かりに、「日韓関係破綻」について少し深く考えてみました。
箱田氏は『ウェブ論座』の1月24日付『迫る日韓「Xデー」、日本企業の資産売却の危機』という記事で、自称元徴用工問題を巡り、現在、原告側が差し押さえている日本企業の資産の売却が実現してしまう日のことを「日韓Xデー」と呼んだうえで、記事の末尾で
「安倍首相は『問題は日韓協定で解決済み』と言い、文大統領は『最も重要なのは被害者の同意を得ること』と言う。だが、2人が『すべての問題は解決済み』『すべての被害者の同意』とだけ主張するのであれば、座して『Xデー』を待つしかない。」
と主張しました。
つまり、この論考は、「日韓双方がそれぞれの立場を譲らないままで日本企業の資産売却が実現してしまえば、日韓関係は破綻してしまう」、という箱田氏なりの警告と見るべきでしょう(あるいは、言外に、「日本は譲るべきところを譲れ」、とでも言いたいのかもしれません)。
日韓の経済的なつながり
ヒトの往来は1000万人を割り込む
この点、当ウェブサイトとしては、「もしも日本企業の資産の売却が実現してしまえば、日韓関係は新たな対立局面に入る(場合によっては日韓関係が破綻しかねない)」という点については同意しますが、「これを何が何でも避けるべきだ」、とする主張は、果たして妥当なのでしょうか。
よく、「日韓両国は古代より交流の歴史を有しており、文化的にも密接な関係がある」、などと議論されることがありますし、また、「遠く離れた欧米諸国では、見た目が良く似ている日韓両国民は、同じアジア人同士として助け合うべき関係にある」、などとする言説を聞くこともあります。
ただ、こうした「感性に訴えかける主張」ではなく、ここでは冷徹に、経済関係、つまり「ヒト・モノ・カネの交流」という側面から、日韓関係が日本にとってどのくらい重要であるかを確認しておきたいと思います。
まず、「ヒトの交流」という面からすれば、日韓関係は、確かに重要です。日韓の往来は、1000万人の大台を超えた2018年と比べれば確かに減っているとはいえ、2019年においても依然として900万人近くに達しているからです。
2019年における日韓の往来
- ①日本に入国した韓国人…5,584,596人(2019年1月~12月、速報値)
- ②韓国に入国した日本人…3,016,350人(2019年1月~11月、速報値)
- 日韓往来:①+②の合計…8,600,946人
もっとも、やや細かいことを申し上げておきますと、日韓交流が1000万人時代を迎えたのは昨年のことであり、また、近年の日韓交流ブームはおもに訪日韓国人の急増によるものであるため(図表1)「歴史的に日韓は往来が盛んだった」というものではない点には注意が必要でしょう。
図表1 日韓の人的交流の状況
(【出所】日本政府観光局(JNTO)、韓国観光公社。ただし、②の2019年については11月までのデータ)
韓国は輸出相手国としては米中に次ぎ3位
一方、「モノの流れ」という点からは、日韓の貿易高が参考になるでしょう。
少し古いデータで恐縮ですが、日韓の2018年における貿易高は、輸出が約5.8兆円、輸入が約3.6兆円で、日本は韓国に対して2.2兆円もの貿易黒字を計上していて、輸出入を合算すれば日韓貿易額は10兆円近くでした。
※2018年における日韓貿易額
- 日本から韓国への輸出高…5兆7926億円(日本の輸出全体の7.11%)
- 韓国から日本への輸入高…3兆5505億円(日本の輸入全体の4.29%)
- 日本の対韓貿易黒字金額…2兆2421億円
(【出所】『普通貿易統計』)
また、対韓貿易において、少なくとも2011年以降で見ると、ほぼ毎年のように、貿易黒字が2兆円を超えています(まだ12月までのデータが出ていない今年を除けば、貿易黒字額が2兆円を割り込んだのは1兆6776億円となった2012年と1兆9246億円となった2014年だけです)。
図表2 日韓の貿易高の推移
(【出所】『普通貿易統計』。ただし、2019年については11月までのデータ)
ただし、「日本経済の規模」と比べて、この金額が大きいといえるかどうかは別です。
2018年と2019年のデータで見る限りは、日本にとって最大の貿易相手国は中国と米国であり、輸出相手国としての韓国は米中各国の3分の1あまりに過ぎません(図表3、図表4)。
図表3 2018年における日本にとっての貿易相手国
国 | 輸出額 | 輸入額 | 貿易収支 |
---|---|---|---|
アメリカ合衆国 | 15兆4702億円 | 9兆0149億円 | +6兆4553億円 |
中華人民共和国 | 15兆8977億円 | 19兆1937億円 | ▲3兆2959億円 |
大韓民国 | 5兆7926億円 | 3兆5505億円 | +2兆2421億円 |
台湾 | 4兆6792億円 | 2兆9975億円 | +1兆6817億円 |
香港 | 3兆8323億円 | 2347億円 | +3兆5977億円 |
(【出所】『普通貿易統計』)
図表4 2019年における日本にとっての貿易相手国
相手国 | 輸出高 | 輸入高 | 貿易収支 |
---|---|---|---|
米国 | 14兆0255億円 | 7兆8725億円 | +6兆1529億円 |
中国 | 13兆2696億円 | 16兆9026億円 | ▲3兆6329億円 |
韓国 | 4兆6419億円 | 2兆9471億円 | +1兆6948億円 |
台湾 | 4兆2323億円 | 2兆6766億円 | +1兆5557億円 |
香港 | 3兆3558億円 | 1961億円 | +3兆1597億円 |
(【出所】『普通貿易統計』。ただし11月までのデータを集計)
貿易黒字の額については決して少ないとは言いませんし、韓国が日本の産業のサプライチェーンを締めていることは事実でしょうから、万が一にも日韓断交が生じてしまえば、産業面ではそれなりの打撃が生じることは間違いありません。
ただし、金額で見る限りにおいては、とくに輸出入における韓国の位置付けは台湾とあまり変わりませんし、GDP規模、地理的距離を踏まえると、「意外とつながりは少ないな」という印象を持ちます。ましてや日韓関係が日本の産業にとって「死活的に重要だ」、とまで断言してしまうのはいかがなものでしょうか。
カネの面からは「取るに足らない国」
一方で、「カネの流れ」、つまり日本から韓国への与信や対外直接投資の金額については、正直、「取るに足らない国」と考えて良いでしょう。
日本から韓国へのカネの流れ
- 日本の金融機関の韓国に対する与信…561億ドル(日本の対外与信全体の1.27%)※2019年9月末時点
- 日本企業の韓国への対外直接投資額…391億ドル(日本の対外投資全体の2.38%)※2018年12月末時点
(【出所】BIS最終リスクベース統計、JETRO『直接投資統計』)
(※ちなみに「カネの流れ」という意味では、「韓国から日本へのカネの流れ」というものもあるのですが、金額としては「日本から韓国へのカネの流れ」と比べればさらに少ないので、議論をする上では無視しても良いでしょう。)
つまり、ヒト、モノの流れと比べ、金融面での日韓の結びつきは、隣国同士とは思えないほど少ないのです。
ちなみに韓国が全体として外国の金融機関から借りている金額は昨年6月末時点で約3291億ドルですが、このうち日本の金融機関が占めるシェアは約17%です(図表5)。
図表5 韓国が外国から借りているカネ(2019年6月末、最終リスクベース、金額単位:百万ドル)
相手国 | 金額 | 比率 |
---|---|---|
米国 | 87,980 | 26.74% |
英国 | 81,600 | 24.80% |
日本 | 56,068 | 17.04% |
フランス | 26,322 | 8.00% |
ドイツ | 15,220 | 4.63% |
その他 | 61,863 | 18.80% |
合計 | 329,053 | 100.00% |
(【出所】CBS『B4-S』より著者作成)
韓国から見て、日本からの借入を大きいと見るか、小さいと見るかは微妙ですし、日本の金融機関の資産規模が大きすぎると見るのか、韓国の資金調達の規模が小さすぎると見るのかはわかりませんが、少なくとも日本の金融機関にとって韓国は「取るに足らない国」です。
結論:日韓関係破綻はコントロール可能
以上より、「日韓関係が破綻の危機に瀕している」のが事実だからといって、「日本が韓国に譲るべきだ」、とする主張が妥当なのかどうかは、また別の話でしょう。
というよりも、昨日の『日本企業の資産売却なら韓国経済が崩壊の可能性も』で報告しましたが、もし韓国が国際法を破って日本企業に不当な損害を与えた場合は、韓国は「コーポレート・ジャパン」を敵に回すことになります。
なぜなら、韓国に投資している日本企業の経営者にとっては株主代表訴訟のリスクもありますし、国際法が守られない国を相手に、事業活動や投資活動を続けること自体がきわめて大きなリスクとして認定されるのです。
また、韓国から見た日本の存在感が大きいことは事実ですが、日本から見た韓国の存在感が大きいとは限りません。いや、正確にいえば、リーガルコストが大きすぎる韓国でわざわざビジネスを展開する意味がないと判断する日本企業が、今後、激増していく可能性もあります。
そして、日韓関係が破綻したとしても、経済的な面からは、十分にコントロール可能だ、とだけ申し上げておくのが良いと思います。
また出た!「大人になれ」論
さて、こうした文脈で、もうひとつ紹介しておきたいのが、『現代ビジネス』というウェブサイトに掲載された次の記事です。
「韓国が嫌いな日本人」を世界はどう見ているのか/冷静に考えるべきときが来ている
いろいろな事情が相まって、日本人の「嫌韓ムード」がかつてなく高まっている。むろん、日本なりの言い分はある。だが、それがどこまで他国の人々に理解されているのかといえば、はなはだ怪しいのだ。<<…続きを読む>>
―――2020.01.24付 現代ビジネスより
ただ、これについて紹介し始めると、少し記事が長くなり過ぎてしまいます。
そこで、大変申し訳ないのですが、いったんここで筆をおき、続きについては、できれば本日午前中に掲載したいと思います(なお、記事のタイトルは『アメリカに言われたら日韓友好を復活?そんな馬鹿な!』を予定しており、公表次第リンクがつながると思います)。
※もっとも、記事タイトルについては変更する可能性もありますが…。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
正直言って、緩衝地帯でなくなった韓国は「どうでもいい国」だと思っています。
順序前後して コロナウィルスは入国管理の在り方を見直すチャンス にコメントさせていただきました在韓邦人の脱出が、Xデーをきっかけとして急速に進むことを期待しています。
(ANA がソウル便を飛ばしていることが心強いです)
日本が本格的に経済報復に乗り出すのは、残念ながらその後になるのでしょうね。
ソビエト崩壊と米中国交回復以後惰性で続いてきた米韓同盟も既に形骸化が著しい段階に差し掛かっています。
共和党のトランプ大統領には朝鮮戦争で5万人に及ぶ多大な犠牲を払って作った韓国を損切りする覚悟はできているように思えます。
アメリカの次期大統領が民主党候補にならないことを願うばかりです。
日本はもう十分にアメリカの戦後東アジア政策に協力してきたと思います。
今後は朝鮮半島では無く太平洋、インド洋でアメリカとの協力関係の再構築を急ぐ時期ではないかと思うのです。
韓国から、また観光客が来ていると言う、中央日報の記事です。
東京・銀座通りから聞こえてくる韓国語…日本「韓国観光客が戻り始めた」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200127-00000001-cnippou-kr
理由は、日本に来る事を我慢できなくなったり、酷いものになると、日韓関係が改善しているからというもの。
増えても、月間30万人は来ないと思いますが、どうなることやら。
更新ありがとうございます。
現代ビジネスの言わんとするところ、理解できる部分は少しはありますが、朝日新聞が得意な論法、「ちょっと待って欲しい」「〜〜で良いのだろうか」「〜民意を反映した事になるのだろうか」「〜〜私だけではないだろう」、、(笑)
これよりは少しソフトですが、同じ匂いがする。【昨今の文政権の主張が「無理筋」であること、そしてそれが日本人の感情を逆なでしていることについては、世界の識者たちの見解も一致するところなのだ。】
と言いつつ、日本は大人になれ、我慢できるところは我慢して話をする、なんて海外の識者は言うが、コチラは限界超えてんの。だから70%超えなの。
すぐに旧ナチスの収容所の件を出すが、日本は朝鮮人を集団で殺戮した事は無いし、この世から無にするつもりも無かった。
日韓問題は「勝手にしろ」で世界の方々には良い。何も介入して貰う事は考えてないです。ただ、一人でも多く、コトの顛末を理解して、非常識な韓国、北朝鮮を見ていただければ結構です。既に自由主義民主主義国家は日本側で、火病起こす朝鮮人は相手にされてません。
本来なら韓国は「欧州における旧植民地」の立ち位置ではなかったのですから、賠償をせしめるとの考え方自体が認識の誤りです。
だから、欧州的な謝罪と賠償のあり方を日韓関係に求める見識には無理があるのではないでしょうか?
確かに欧米諸国の物差し〔韓国は旧植民地であったとの先入観〕で日韓関係を捉えられると、韓国に同情する判官贔屓な世論が形成されやすい実状なのでしょうね。
それならば、なおのこと声を大にして「植民地支配ではなかった事実」を何度も何度でも発信し続けるべきだと思います。
対日プロパガンダが催されたイベントの場で「日本は謝罪して終わってる」との控えめな抗議に終始しているようではダメなんです。
何故に「事実無根の主張である」と猛抗議しないのか不思議でなりません。
やはり、国際社会では「沈黙は肯定とみなされてしまう」ってことなのでしょうね。これも、事なかれ主義の成れの果てだと思うと情けないやら哀しいやら・・。
さて、過ぎてしまったことを悔やむばかりでは何も始まらないので、日韓関係を改善〔諸説あり〕したい気持ちが少しでも存在するのなら、そろそろ日本政府にも「真の大人の対応」を期待したいと思います。
つまり「甘やかすばかりが大人では無い」ってことなんですけどね・・。
長谷川氏なども寄稿してるとこだし、ゲンダイだからと脊髄反射せず一応元記事を読んでみるか…と思いリンク先を読んだのですが、やっぱり損でした。
さんざん韓国側がおかしいことは否定できない、と前置きしながらの結論が日本が譲れ寄りの大人になれ論とは。支離滅裂です。
さらに各国識者の発言も記載されていますが。ナチスドイツやイギリス対アイルランドを引き合いに出した話…すなわち「日韓の関係とは一致しないお決まりのズレた喩え」による、一般論でしかない発言です。さらには大人になれとの文言はあるものの、どちらも譲れなどとは言っていません。世界は冷ややかに見ている、という話であり、アメリカとしてはこうあってほしい、程度の話です。
世界は日本の方にのみ厳しい目を向けている、という解釈は記者にベクトルがかかりすぎています。ベクトルなんてものじゃありませんね、力技ゴリ押しアクロバットですわ。
次記事本文でがっつり指摘されてますね。ハズカシイ
ページめくるたびに広告オンにしろって煩いしやっぱり読まなければ良かった(笑)