令和元年度の貿易収支が赤字 データで状況を確認する
本日の「速報」です。財務省が本日公表した貿易統計(速報)によれば、令和元年の貿易収支が1.6兆円の赤字になったのだそうです。
令和元年は貿易赤字に
財務省は今朝、令和元年分の貿易統計(速報値)を公表しました。
報道発表 令和元年分貿易統計(速報)の概要(※PDF)
令和元年分については、輸出は自動車の部分品、鉄鋼等が減少し、対前年比▲5.6%の減少となった。また、輸入は原粗油、石油製品等が減少し、▲5.0%の減少となった。その結果、差引は▲1兆6,438億円となった。
―――2020/01/23付 財務省貿易統計より
これによると、令和元年(2019年)における貿易高(速報値)は、輸出が前年比5.6%減って76.9兆円、輸入が5%減って78.6兆円で、差引貿易収支は1.6兆円の赤字となり、赤字幅は前年より34.2%拡大した計算です。
- 輸出高…76兆9278億円(▲-5.59%)
- 輸入高…78兆5716億円(▲-5.00%)
- 貿易収支…▲1兆6438億円(+34.24%)
ただし、当ウェブサイトで普段から好んで引用している『普通貿易統計』については、現時点でまだ更新されていませんので、ここでは2019年の数値について「速報ベース」、あるいは11月までの数字を使いつつ、日本の貿易の姿を眺めてみましょう。
過去35年分で眺める日本経済の姿
さて、今回の速報値に加えて、財務省が公表している『年別輸出入総額(確定値)』をもとに、過去35年分の日本の貿易統計を眺めてみると、興味深いことがわかります(図表1)。
図表1 日本の輸出入(1984年~2019年)
(【出所】財務省『年別輸出入総額(確定値)』および『報道発表 令和元年分貿易統計(速報)の概要』より著者作成)
ついでに、データが存在する1950年代以降について、貿易黒字の額の平均値についても示しておきましょう。
- 1950年代…▲2306億円
- 1960年代…▲1805億円
- 1970年代…+5687億円
- 1980年代…+6兆9032億円
- 1990年代…+11兆0288億円
- 2000年代…+8兆1440億円
- 2010年代…▲2兆5914億円
1980年代といえば日本が「エコノミックアニマル」と叩かれ、1985年の「プラザ合意」で円高を容認させられたことで、貿易黒字体質が是正された、という認識がある人も多いと思います。しかし、データで見れば明らかなとおり、むしろ日本の貿易黒字のピークは、1980年代ではなく、1990年代でした。
これらによると、日本はとくに1990年代を通じて、併記すれば年間10兆円を超える貿易黒字を計上しており、1998年には13.99兆円という過去最大の黒字を記録したほどです。
しかし、こうした傾向が明らかに変わったのが、2000年代以降です。
2000年代に入ってから日本の貿易黒字が10兆円を超えたのは2003年、2004年、2007年の3年で、それ以外の年の貿易黒字は10兆円を割り込み、とくに世界的な金融危機が発生した2008年とその翌年の2009年には、貿易黒字は2兆円台に留まっています。
そして、2011年以降は貿易赤字基調が定着し、貿易赤字幅は東日本大震災が発生した2011年に2.56兆円、2012年に6.94兆円、そして民主党政権が終わった直後の2013年と2014年にはそれぞれ10兆円を超える貿易赤字を計上しています。
また、2016年と17年にはそれぞれ3.99兆円、2.91兆円の貿易黒字を計上していますが、2018年と19年には再び貿易赤字に沈んだ格好です。
日本の輸出入品目は何が多いのか
さて、この輸出入品目について分解していくと、興味深いことがわかります。
2010年以降の『普通貿易統計』で見れば、日本の輸出品目の構造はほとんど変わっておらず、「機械類及び輸送用機器」が一貫して60%前後を占めており、続いて「原料別製品」と「化学製品」がそれぞれ10%前後を占めていることがわかります(図表2)。
図表2 2010年以降の輸出品目の構成
品目 | 2019年(※) | 2010年代平均 |
---|---|---|
0_食料品及び動物 | 0.81% | 0.64% |
1_飲料及びたばこ | 0.15% | 0.11% |
2_原材料 | 1.31% | 1.48% |
3_鉱物性燃料 | 1.81% | 1.73% |
4_動植物性油脂 | 0.03% | 0.03% |
5_化学製品 | 11.34% | 10.56% |
6_原料別製品 | 10.94% | 12.16% |
7_機械類及び輸送用機器 | 60.41% | 60.65% |
8_雑製品 | 5.86% | 6.06% |
9_特殊取扱品 | 7.33% | 6.59% |
(【出所】『普通貿易統計』より著者作成。ただし、2019年のデータは11月までのものを使用)
一方、これに対して輸入品目については、貿易赤字が最大となった2013年や2014年においては「鉱物性燃料」が占める割合が全体の3割を超えていたのですが、これについては最近、やや落ち着いていることが確認できます(図表3)
図表3 輸入額合計と鉱物性燃料
年 | 輸入額合計 | 鉱物性燃料 |
---|---|---|
2011年 | 68兆1112億円 | 21兆8161億円(32.03%) |
2012年 | 70兆6886億円 | 24兆0882億円(34.08%) |
2013年 | 81兆2425億円 | 27兆4438億円(33.78%) |
2014年 | 85兆9091億円 | 27兆6924億円(32.23%) |
2015年 | 78兆4055億円 | 18兆2181億円(23.24%) |
2016年 | 66兆0420億円 | 12兆0520億円(18.25%) |
2017年 | 75兆3792億円 | 15兆8400億円(21.01%) |
2018年 | 82兆7033億円 | 19兆2940億円(23.33%) |
2019年 | 71兆8379億円 | 15兆4075億円(21.45%) |
(【出所】『普通貿易統計』より著者作成。ただし、2019年のデータは11月までのものを使用)
以上のデータから見れば、東日本大震災直後に巨額の貿易赤字を計上した理由は鉱物性燃料の輸入が激増したことによる一時要因として見て良いと思いますが、2010年代後半の貿易赤字体質については、もはや一時要因というよりは構造として定着しているのではないか、との仮説が成り立ちます。
相手国で見たら中国が最大
ついでに、2019年(※11月まで)のデータを使い、昨年の貿易相手国を、貿易黒字が大きい順、貿易赤字が小さい順に、それぞれ並べておきましょう(図表4、図表5)。
図表4 貿易黒字が大きい相手国(2019年1月~11月)
国 | 輸出額 | 輸入額 | 貿易収支 |
---|---|---|---|
アメリカ合衆国 | 14兆0255億円 | 7兆8725億円 | 6兆1529億円 |
香港 | 3兆3558億円 | 1961億円 | 3兆1597億円 |
大韓民国 | 4兆6419億円 | 2兆9471億円 | 1兆6948億円 |
台湾 | 4兆2323億円 | 2兆6766億円 | 1兆5557億円 |
シンガポール | 2兆0134億円 | 7787億円 | 1兆2347億円 |
(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)
図表5 貿易赤字が大きい相手国(2019年1月~11月)
国 | 輸出額 | 輸入額 | 貿易収支 |
---|---|---|---|
中華人民共和国 | 13兆2696億円 | 16兆9026億円 | ▲3兆6329億円 |
オーストラリア | 1兆4647億円 | 4兆5558億円 | ▲3兆0911億円 |
サウジアラビア | 4974億円 | 2兆7072億円 | ▲2兆2098億円 |
アラブ首長国連邦 | 7105億円 | 2兆5941億円 | ▲1兆8836億円 |
カタール | 1106億円 | 1兆3013億円 | ▲1兆1907億円 |
(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)
貿易相手国として見て、輸出額で大きいのは米国と中国です。
ただ、貿易収支で見れば、米国は6兆円を超える貿易黒字をもたらしてくれているのに対し、中国との間では3兆円を超える貿易赤字が生じています。
「中国は日本にとって非常に大事なお得意様だ」という論調を見かけることもありますが、現実には、むしろ日本が中国にとっての「大事なお得意様」なのかもしれませんね。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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鉱物性燃料の推移と原発稼働率の相関が見てみたいですね(当然あるはずですが)。
中国の貿易赤字は、日本企業が中国で生産した物を、輸入しているように思います。
現在の日本は、モノを売る製造業は停滞気味で、サービスや投資での稼ぎが増加している筈です。ですから収支でも、モノ主体の貿易収支だけではなく、サービス収支や所得収支を含む、経常収支で見ないと実態が見えてこないと思います。その上で、我が国の「稼ぐ力」が衰えているのであれば大いに問題でしょう。しかし、私の認識は甘いかもしれませんが、現状そこまで憂慮すべき状況にはなってないのではありませんか?
きっと貿易収支が赤字基調にかわたのは、きっと日本からの海外の系列製造拠点へと垂直展開されてた部素材の物流が現地調達へと水平展開され始めたからなのでしょうね。
ですが、例えばトヨタ自動車がどこで稼いだとしても「日本の稼ぎ」には違いないのですから、貿易収支だけに注目するのではなく、国際的なサービス・金融収支まで含めた「経常収支」が黒字でありさえすれば、そんなに悲観するような事態ではないのだと思います。
支那への輸出入プラマイゼロでしょ、兆円単位では。
中
華人民共和国への輸出は、台湾を表に出し香港を経由しなければ危険とのこと。
香
港と中華人民共和国との収支を合計すると兆円単位ではトントンですね。
台
湾経由も考慮して香港、台湾、中華人民共和国をひとまとめにすると兆円単位でなくともトントンなんじゃありませんか。
中華人民共和国、香港、台湾をひとまとめにくくると輸出超過であり貿易黒字。
実
際の貿易赤字は、中東や豪州などの資源国だけなんじゃありませんか。
こ
の赤字は、ドルでしか取引できない石油やガス等だから ドル/円相場 しだいでトントンにも黒字にもなりますね。
イ
ランの石油が制裁を解除されたり、1ドル90円とか100円とかへと ドル安/円高へふれれば忽ち貿易赤字は解消されるでしょう。
ものすごい雑な計算をすると,貿易赤字額はiPnoneの中国からの輸入総額より少し少ないくらい,ということですね。今後のAppleの方針にも注目しましょう。