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怪しい通貨・人民元と「北朝鮮制裁の実効性」の関連性

本稿では久しぶりに、「通貨」について深く考えてみたいと思います。国際決済銀行(BIS)統計によれば、わが国の通貨・日本円は世界で3番目の取引高を誇り、また、国際通貨基金(IMF)の統計によれば、外貨準備に組み入れられている通貨としても上位3番目に位置付けられているのですが、本稿のメインテーマはそちらではありません。むしろ「ハード・カレンシー入り」を目指す中国・人民元と北朝鮮経済との関連性、そして米国が人民元に対して何を仕掛けようとしているのかについて、やや根拠が不十分な点もありますが、じっくりと考えてみたいと思います。

2019/12/17 10:00 追記

本文中に計算間違いがありましたので修正しております。りょうちん様、ご指摘大変ありがとうございました。

通貨論

ハード・カレンシーの定義

ときどき当ウェブサイトで使用する単語のひとつに、「ハード・カレンシー」というものがあります。

当ウェブサイトの定義で恐縮ですが、「ハード・カレンシー」とは、

その通貨の発行国・発行地域に留まらず、国際的な商取引・資本取引等において広く利用されている通貨であり、為替取引等においても法的・時間的制約が少ないもの

のことをさします。

逆に、「ソフト・カレンシー」とは、

主にその通貨の発行国においてのみ利用されている通貨であり、決済機能面や通貨の安定性等の観点から国際的な商取引・資本取引には馴染まないもの

です。

この「ハード・カレンシー」と「ソフト・カレンシー」の違いは明確に線引きできるものではありませんが、市場参加者の感覚などに照らせば、「ハード・カレンシー」とはおもに先進国の通貨を指すことが多いと考えて良いでしょう。

世界の通貨の数

ところで、この「ハード・カレンシー」、世界にはいったいいくつくらいあるのでしょうか。

それを知る以前に、現在の世界にはおよそ160~170の通貨が存在している(らしい)、という点について説明しておきましょう。

外務省のウェブサイト『世界と日本のデータを見る』によると、世界には日本が承認しているだけで196の国が存在しており(※日本を含む)、これに日本が国家承認していない台湾や北朝鮮などを含めれば、現代の世界には事実上、約200前後の国が存在する計算です。

これらの国のうち、ユーロやCFAフランのように複数国が同一通貨を使用している場合もありますし、単一国で複数の通貨を使用しているパターンもあります(中国の人民元、香港ドル、マカオ・パタカという3種類の通貨、フランスの本国と海外領の通貨など)。

さらには、後述するとおり、英国の場合は英本国のポンド、スコットランドのポンド、ジブラルタルのポンド、北アイルランドのポンドなど、「法的には等価だが事実上は分断されている通貨」というものも存在しています。

これについて分類すると、図表1のとおりです。

図表1 世界に通貨はいくつあるのか
区分 国・通貨の数 備考
①世界の国の数 200ヵ国前後 日本が承認していない国も含む
②同一通貨を使用する国の数 33ヵ国 ユーロ(19ヵ国)、CFAフラン(14ヵ国)
③独自通貨を発行していない国 約10ヵ国 米ドル使用国(東ティモール、パラオ、マーシャル諸島等)、ユーロ使用国(バチカン、サンマリノ、アンドラ、モナコ等)
④単一国で複数通貨を使用している国 3~6通貨? フランス海外領(CFPフラン)、中国特別行政区(香港ドル、マカオ)、英国(スコットランド・ポンド、ジブラルタル・ポンドなど)
⑤世界の通貨の数 約160~170通貨 ①-②+2-③+④

(【出所】著者作成)

つまり、「通貨の種類」をどう定義するかにもよりますが、世界にはおよそ160~170の通貨が存在していると思われます。

ハード・カレンシーには先進国通貨が多い

しかし、この約160~170の通貨のすべてが「ハード・カレンシー」と呼ばれているわけではありません。「ハード・カレンシー」と名乗るためには、資本移動に制限がないこと、決済などで便利であることなど、いくつかの条件を満たすことが必要です。

もちろん、「ハード・カレンシー」自体に具体的な定義、範囲があるわけではありませんが、いちおう、「何となくの基準」を例示しておくと、次のように分類されると思います。

ハード・カレンシーの具体例範囲
  • ①世界の基軸通貨である米ドル(USD)、「準基軸通貨」であるユーロ(EUR)、日本円(JPY)、英ポンド(GBP)、スイスフラン(CHF)を加えた「5大通貨」をハード・カレンシーと呼ぶ
  • ②「5大通貨」に豪ドル(AUD)とカナダドル(CAD)を加えた「7大通貨」をハード・カレンシーと呼ぶ
  • ③「7大通貨」にアジア・太平洋地域では香港ドル(HKD)、シンガポール・ドル(SGD)、ニュージーランド・ドル(NZD)、欧州では北欧のデンマーク・クローネ(DKK)、スウェーデン・クローナ(SEK)、ノルウェー・クローネ(NOK)、アフリカの南アフリカランド(ZAR)などを加えた通貨群をハード・カレンシーと呼ぶ
  • ④上記③で示した通貨と法的に等価とされる通貨、たとえばシンガポール・ドルと等価とされるブルネイ・ドル(BND)や英ポンドと等価とされるジブラルタル・ポンド、スコットランド・ポンド、北アイルランド・ポンドなど
  • ⑤上記③で示した通貨と事実上等価として通用している通貨、たとえばマカオ内では香港ドルとほぼ等価で用いられているマカオ・パタカ(MOP)など

変わった通貨もありまして…

もっとも、「市場関係者の誰に聞いても、間違いなくハード・カレンシーだといえる通貨」は、②か、せいぜい③まででしょう(※③のなかにも若干怪しいものがありますが…)。

そして、④や⑤については、発行体の国・地域がしっかりしていて、通貨自体もきちんとした法律などを裏付にして価値が保証されているものの、その国・地域の外に出てしまえばほとんど両替ができないという、非常に特殊な通貨です。

アジアの産油国であるブルネイの通貨であるブルネイ・ドルは、シンガポール・ドルと法的に等価と定められており、シンガポールでブルネイ・ドルを使うことができるとされる一方、ブルネイでもシンガポール・ドルが普通に通用しているそうです。

また、マカオ域内で使用されている通貨・パタカは、マカオ域内では香港ドルとほぼ等価として流通しています(※厳密には微妙に等価ではありませんが…)。というよりも、マカオでは香港ドルがそのまま支払いに使用できますが、逆にマカオ・パタカを香港で使うことはできません。

一方でスコットランドは法的には英国の一地方ですが、いくつかの民間銀行が「スコットランド・ポンド」を発行していて、法的には英ポンド(スターリング・ポンド)と等価らしく、スコットランド内では普通に流通しているそうですが、スコットランド外(ロンドンなど)では使用できません。

英国の海外領であるジブラルタルで発行されているジブラルタル・ポンドも、スターリング・ポンドと法的には等価とされているものの、英本国では使えないそうです。

ちなみに本国と海外領で異なる通貨が使われているという事例はほかにもあり、代表的なものがフランスの海外領であるCFPフラン(太平洋フラン)です。いちおう、ユーロとの固定相場制を採用しているのだそうですが、外国での両替は困難とみて良いでしょう。

通貨の基本統計

上位4通貨で外為市場取引の75%

以上、通貨にはたくさんの種類があることはわかるのですが、銀行間外為市場(いわゆる「OTC市場」)で取引されている通貨を数えてみると、上位4通貨で全体の75%を占めていることもまた事実です。

これは『デジタル人民元と犯罪資金、そして最新BIS統計』でも紹介した、国際決済銀行(BIS)が3年に1回公表している次の統計から明らかになるものです。

Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Over-the-counter (OTC) Derivatives Markets in 2019(2019/12/08付 BISウェブサイトより)

この調査によれば、2019年4月における外為市場の取引高の1日平均値に関する「通貨ペア」の構成については、上位4通貨(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド)だけで外為市場のざっと75%を占めていることがわかります(図表2)。

図表2 OTC外為市場通貨ペア比率(単位:%)
通貨 2013年 2016年 2019年
米ドル 87.04 87.58 88.30
ユーロ 33.41 31.39 32.28
日本円 23.05 21.62 16.81
英ポンド 11.82 12.80 12.79
豪ドル 8.64 6.88 6.77
加ドル 4.56 5.14 5.03
スイスフラン 5.16 4.80 4.96
人民元 2.23 3.99 4.32
香港ドル 1.45 1.73 3.53
NZドル 1.96 2.05 2.07
スウェーデン・クローネ 1.76 2.22 2.03
韓国ウォン 1.20 1.65 2.00
シンガポールドル 1.40 1.81 1.81
ノルウェー・クローネ 1.44 1.67 1.80
メキシコ・ペソ 2.53 1.92 1.72
インド・ルピー .99 1.14 1.72
その他 11.38 11.60 12.04
合計 200.00 200.00 200.00

(【出所】BIS “Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Over-the-counter (OTC) Derivatives Markets in 2019 (Data revised on 8 December 2019)” の “Foreign exchange turnover” より著者作成。なお、「通貨ペア」が集計されているため、合計すると100%ではなく200%となる)

ちなみに日本円のシェアが高い理由は、おそらく、巨額の資金を保有している日本の機関投資家による取引フローが、スポット取引だけではなく、先物外国為替取引・為替スワップや通貨スワップなどといったオフバランスシート取引(OBT)が全体のボリュームを押し上げているためだと考えられます。

上位4通貨で外貨準備の9割超

ついでに、「通貨の地位」を推し量るうえで、もうひとつの興味深い統計についても紹介しておきましょう。

外貨準備とは、各国の政府ないし中央銀行が、自国からの資金流出などに備えて保有している外貨のことであり、普段は現金・預金に加えて格付の高い国の国債などの有価証券で運用されています。

そして、この外貨準備高の通貨別構成を知るための統計が、国際通貨基金(IMF)が公表する『公式外貨準備統計』(Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves, COFER)という統計です。

これは、世界各国からの報告を受けて、外貨準備高の通貨構成別割合を明らかにした統計ですが、2019年6月末時点において、「4大通貨」(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド)の割合が全体の9割を超えていることがわかります(図表3、ただし「内訳判明分」のみ)。

図表3 COFERに見る外貨準備の通貨別構成(2019年6月末時点)
区分 米ドル換算額(十億ドル) Aに対する比率
外貨準備合計 11,733
内訳判明分(A) 11,021 100.00%
うち、米ドル 6,792 61.63%
うち、ユーロ 2,243 20.35%
うち、日本円 597 5.41%
うち、英ポンド 489 4.43%
うち、人民元 218 1.97%
うち、加ドル 211 1.92%
うち、豪ドル 188 1.70%
うち、スイスフラン 16 0.14%
その他の通貨 269 2.44%
内訳不明分 711

(【出所】IMFのCOFERより著者作成)

2016年10月にIMFの特別引出権(SDR)の構成通貨入りした中国・人民元の外貨準備に占める割合がジリジリと上昇し続けていることは気になる点ですが、それでも「4大通貨」がいかに大きな地位を占めているかという点については、抑えておいてよいポイントでしょう。

人民元と北朝鮮制裁

怪しい通貨・人民元

さて、先ほどの定義のなかで、「ソフト・カレンシー」とは「決済機能面や通貨の安定性等の観点から国際的な商取引・資本取引には馴染まない通貨だ」という説明が出て来ましたが、この説明は「ハード・カレンシー」の定義の裏返しでもあります。

アジア、あるいは日本の近隣国の「ソフト・カレンシー」としては、中国人民元(CNY)、オフショア人民元(CNH)、韓国ウォン(KRW)、北朝鮮ウォン(KPW)、新台湾ドル(TWD)、ロシア・ルーブル(RUB)などがあります。

また、ASEAN諸国の通貨であるタイ・バーツ(THB)、マレーシア・リンギット(MYR)、ベトナム・ドン(VND)、インドネシア・ルピア(IDR)などもソフト・カレンシーですが、要するにアジア通貨は日本円などを除くと大部分がソフト・カレンシーだと考えて良いでしょう。

ただ、これらの「ソフト・カレンシー」についても、内情はさまざまです。というのも、「ハード・カレンシーほどではないにせよ、そこそこ通用している通貨」もあれば、「自国内ですらまったく信頼されていない通貨」もあるからです。

実際、先ほどの図表2によれば、当ウェブサイトが「ソフト・カレンシー」と位置付けている人民元や韓国ウォン、メキシコ・ペソやインド・ルピーのように、経済・貿易の規模などが大きいといった理由により、取引ボリューム自体では「OTC外為市場ランキング」に掲載されてくるケースもあります。

そのなかでもとくに近年、地位が上昇しているのが中国の通貨・人民元で、2016年10月には国際通貨基金(IMF)から「自由利用可能通貨」(Freely-Usable Currency)に指定され、特別引出権(SDR)の構成通貨に組み込まれたほどです。

もっとも、人民元は法的・経済的な実情に照らすと、とうてい「自由に利用可能」とは言い難い状況であり、中国本土で債券を発行したり、債券で投資したりするのには、いまだに厳しい制約も存在しています(このあたりの事情については『危険なパンダ債と「日中為替スワップ構想」』あたりをご参照ください)。

(※余談ですが、人民元のような怪しい通貨をSDRに組み込んだときの責任者であるクリスティーヌ・ラガルドの罪は重いと言わざるを得ませんし、そのような者を総裁に任命した欧州中央銀行(ECB)という組織も腐敗し切っていると思います。)

北朝鮮では物価は顕著に上昇していない

とくに、人民元の場合は、中国国内だけでなく、周辺国(ミャンマー、パキスタン、カンボジア、ラオスなど)でも部分的に使用されているという話はよく耳にします(※といっても、これらの国で人民元の決済比率がどのくらいかについて信頼できる統計は見当たりませんが…)。

こうしたなか、あくまでも「数字をもとに議論すること」を重視する当ウェブサイトらしからぬ表現で申し訳ないのですが、「なぜ、北朝鮮で物価が上昇していないのか」という現象を、この人民元との関係から説明することができると考えています。

以前、当ウェブサイトでは『米朝首脳会談と「今、北朝鮮制裁を解除すべきではない理由」』のなかで、『Yahoo!ニュース』とウォール・ストリート・ジャーナル(日本版)に掲載された2つの記事を紹介し、「どうも北朝鮮では物価が安定しているらしい」という話題を取り上げました。

該当する記事2本のリンクを再掲しておきましょう。

北朝鮮経済、制裁にどう耐えているのか(2019 年 2 月 26 日 15:47 JST付 WSJ日本版より)
北朝鮮内部の「肉声」を聞く――制裁は特権層を直撃 揺れる金正恩政権(2019/2/23 8:44 付 Yahoo!ニュースより)

どちらの記事も共通しているのが、北朝鮮では国連安保理制裁以降も、物価も為替相場(対人民元)も顕著に上昇していない、という指摘です。

「(国連制裁の強化はエリート層などの外貨収入を奪うことで)北朝鮮にある程度の打撃を与えた。しかしそれ以外の面では、北朝鮮経済は持ちこたえているように見える。コメの価格は安定しており、制裁強化後に上昇していたガソリン価格は2017年秋の高値から大幅に低下した。北朝鮮の通貨ウォンの対ドル相場も安定している。首都平壌(ピョンヤン)では建設プロジェクトが続いている。また脱北者や北朝鮮を最近訪れた人々によれば、制裁強化前には目立っていた中国製加工食品など外国製品の多くは、国内工場の生産拡大を受けて国産品に置き換えられている。」(WSJ)

中国元の交換レートは安定を続け、ガソリン、軽油の価格が乱高下した以外に、大きな物価上昇はなかった。食糧、日用品の価格の値上がりは20~30%の範囲内だ。/2017年末に経済制裁の強化が始まった時、筆者はインフレの発生を予測した。外貨不足は必至なので、北朝鮮ウォンが下落すると考えたのだ。ジンバブエやベネズエラのように数十万%に及ぶハイパーインフレが発生すれば経済は大混乱だ」(Yahoo!ニュース)

物価とは「カネの値段」

はて、これは非常に不思議な話題ですね。

おそらく、WSJと『Yahoo!ニュース』という、お互いに無関係なメディアが独自に取材をした結果、同じような結論に達しているため、少なくとも今年2月の時点で、「北朝鮮では顕著な物価上昇が観測されていない」というのは、ある程度は信頼できる情報だと考えて良いでしょう。

一般に、モノ不足の国では物価が急騰します(終戦直後の日本がその典型例ですね)。なぜなら、モノ不足ということは、生活や生産活動などに必要なモノの供給が圧倒的に不足している状況だからであり、かたやカネが余っている状況だと、カネを持っている人とモノを持っている人のバランスが崩れるからです。

ただ、「物価上昇」というと「モノの値段が上がること」だと考えるとわかりやすいのですが、これを経済学的にはもう少し正確に定義してあげる必要があります。

「物価」とは、「モノをカネと交換するときのレート」のことです。たとえば、1ドルを日本円に交換するときに、「コンチネンタルターム」では「1ドル=110円」などと表現しますが、これは「ニューヨークターム」で「1円≒0.0091ドル」と表現し直すことができます。

物価もこれとまったく同じで、「コメ5キロ=1580円」、「白菜1玉=398円」、などと表現することが一般的ですが、じつは、「100円≒コメ0.316キロ」「100円≒白菜0.251玉」、と表現し直すことができるのです(とってもわかり辛いですが…)。

このように考えると、「インフレ」とは「モノの値段が上がること」であると同時に、「カネの値段が下がること」でもあります。たとえば、「米5キロが1580円から2180円に値上がりした」という現象は、「100円で買えるコメの量が0.316キロから0.229キロに減った」と表現し直すことができます。

北朝鮮に人民元が入って来なくなっていたとしたら…?

以上を踏まえてたうえで、北朝鮮でなぜインフレになっていないのかを考えてみると、可能性はふたつあります。

  • ①モノの供給が意外と十分になされているから
  • ②そもそもカネ自体の供給が不十分だから

先ほど紹介した「北朝鮮では物価が上昇していないらしい」という話題は、いずれも「北朝鮮の経済は思ったほど打撃を受けていないようだ」、という文脈で用いられているのですが、果たしてこれは本当なのでしょうか。

じつは、「北朝鮮ではモノ不足も深刻だが、そもそもカネ自体が十分に供給されていない」、という可能性もあるのです。そこで参考になるのが、先ほどの「ソフト・カレンシー」の説明で出てきた、「自国通貨の信頼が崩壊した」という事例です。つまり、

  • 北朝鮮では、すでに貨幣経済が崩壊していて、自国通貨である北朝鮮ウォン(KPW)自体が通貨として信頼されていない

という仮説を立てることができます。

つまり、北朝鮮では自国通貨が信頼されておらず、事実上、中国人民元などの外貨が通貨として流通している、という可能性ですね。このように考えれば、

  • 北朝鮮では自国通貨・北朝鮮ウォンではなく人民元などが通貨として通用している
  • しかし、中国からモノを輸入するのに人民元が使われてしまう結果、通貨が国外に出てしまう
  • 一方で中国へのモノの輸出が滞っており、新たな人民元が北朝鮮国内に入って来ない
  • したがって、北朝鮮国内で流通する通貨(人民元)が不足し、モノの値段が上がっていない

という流れが出来上がるのです。

要するに、「モノの値段が安定している」のではなく、「単純にカネ不足になっている」、というわけですね。つまり、この仮説が正しければ、もはや北朝鮮経済は実質破綻状態にあるのです。

私自身がこのアイデアを初めて知ったきっかけは、あくまでも記憶ベースですが、今年の春先に経済評論家の上念司さんがどこかのインターネット番組で話していた内容だったと思います。

北朝鮮といえば米ドルなどの外貨を偽造している国として有名ですが、北朝鮮国内で毛沢東の人民元紙幣を偽造している形跡がない理由は、さすがに人民元まで偽造すると「宗主国」である中国を敵に回すことになるからなのでしょうか。

親ガメこければ何とやら

さて、本稿は「ハード・カレンシー」だの「BIS統計」だの、少し難しい話を掲載してしまいましたが、当ウェブサイトで経済・金融の話題を好むのには理由があります。それは、こうした前提条件を抑えていなければ、北朝鮮制裁などについて正確に理解することが難しいからです。

当ウェブサイトの読者コメント欄などによれば、韓国観察者の鈴置高史氏は13日(金)のBSフジ『プライムニュース』に出演され、「親ガメ(=中国)に2匹の子ガメが乗っかっていて、(アメリカは)親ごとひっくり返そうとしている」などと述べたのだそうです。

あいかわらず軽妙洒脱でわかりやすいたとえ話だと思います。

なぜならば、経済面から見れば、韓国も北朝鮮も、「中国におんぶに抱っこ」であるのは明らかだからです。

また、人民元自体、近年市場での存在感が増していることは事実ですが、それと同時に「今ならまだ潰せる」(?)という状況にあります。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

現在、ドナルド・J・トランプ米大統領が中国に対して貿易戦争などを仕掛けている理由は、結局のところ、「共産党一党軍事独裁体制」を維持しながら、自由主義に関するWTOルールを守らず、それどころか自由主義経済にタダ乗りして経済発展しようとしてきたからではないでしょうか。

そして、数日前の『デジタル人民元と犯罪資金、そして最新BIS統計』でも報告したとおり、人民元の取引高は徐々に伸長しているのに加え、中国共産党は「デジタル人民元」を推進しようとしており、「世界をカネの面から支配する」という野心を抱いているフシがあります(※それができるかどうかは別として)。

だからこそ、人民元の地位がまだ「7大通貨」を凌駕しないうちに、いずれ米国は金融封鎖などを通じ、人民元を封殺しにかかるのではないでしょうか(それがいつ、どのような形で始まるかについては、現時点では予測できませんが…)。

来年以降の隠れたテーマは、米中「貿易」戦争が米中「通貨」戦争に発展するかどうかだ、という言い方もできるのかもしれませんね。

新宿会計士:

View Comments (12)

  • >物価もこれとまったく同じで、「コメ5キロ=1580円」、「白菜1玉=398円」、などと表現することが一般的ですが、じつは、「100円≒コメ0.316キロ」「100円≒白菜2.513玉」

    朴夫人「イヤだわ、奥様、白菜が10倍の値段ですわよ。」
    李夫人「韓国では暴動が起こりますわね」

    • ギャグが滑ったので無視されたようですがw
      白菜のコンチネンタルタームの逆算が一桁間違ってますよと。

      • りょうちん 様

        いつもコメントありがとうございます。
        ご指摘大変ありがとうございました。ご指摘のとおりですので、さっそく修正します。
        引き続きご愛読とコメントを何卒よろしくお願い申し上げます。

  • 古川勝久氏の著書によると、北朝鮮に対する国連の経済制裁は抜け穴が多く、特に中ロが制裁を実行する意思がなく(むしろ北をかばっている。)、経済制裁はあまり効いていないという意見もあります。

    とはいっても、北朝鮮経済は1990年代から破綻状態にあるといわれておりますので、現在でも、経済状態はかなり悪いと思われます。

    自給自足経済、違法な武器や薬物の輸出による外貨の取得(マネーロンダリングを含む。)、中朝国境での密貿易、韓国による人道?支援もありますので、すぐに経済が崩壊するわけではないかもしれませんが、「すでに貨幣経済が崩壊していて、自国通貨自体が通貨として信頼されていない」という会計士様のご指摘はおそらく正しいと思います。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     中国はデジタル人民元というデジタル通貨を使うことによって、米ドル
    基軸通貨だけでなく、『ハード・カレンシー』そのものを壊そうとしてい
    るのでは、ないでしょうか。もちろん、その次に来るのがデジタル人民元
    とは限りませんが、『ちゃぶ台返し』で、全てをガラガラポンすることだ
    けを、狙っているのではないでしょうか。

     駄文にて失礼しました。

    • 中国はキャッシュレス化が進んでいますものね。
      ありえると思います。

    • > 通貨の流れを全て個人レベルで把握できるという話もありますが、本当ですかね?

      本当です。自分は微信アカウントを持っている職場の日本人が、中国人から依頼されてチャットで彼にお金を貸するところをまのあたりにしました。場所は国内です。すなわち、携帯電話=個人チャットアカウント=銀行口座が完全に連動しています。すなわちチャットの内容を監視さえすれば(監視されています)だれがだれにどれだけ送金しているか、当局は実時間で把握できています。

    • ひきこもり中年さま

      フォロー記事を取り違えました。非礼ご容赦ください。

  • そういえば、日本もかつては、宋銭や明銭といった中国通貨を輸入し国内に流通させていましたよね。もっともその頃の一般日本人は中国と交易することなど無く、それが出来る人たちは、中国との取引決済には金銀を使ったと思います。なので、我が国における中国銭の大量輸入の理由がイマイチ分かりませんでした。

    しかし、この、スレ主殿の「カネの値段」説にヒントを得、自分なりに納得できました。多分この現象は、北朝鮮での人民元流通とは理由が異なり、中国銭の方が低製造コストだったからなのでしょう。つまり、当時の日本の金属鋳造技術では中国銭よりもコスト的に割高だったため、一部を除き国産せず輸入しただけということだったと考えれば理解可能ですね。

    で、本題に戻りますが、北朝鮮では物価が上がっていないとのことですが、そうであれば、後は、生活の良し悪し変化は所得水準変化で決まると思うのですが、そのような情報は入手が難しんですかね?もっとも、北朝鮮の一般庶民経済は、自給自足・物々交換が主で、貨幣経済は従でしかなくなっているのであれば何をか言わんやですけどね。

    あと、デジタル人民元ですが、ビットコインなどこれまでの仮想通貨とは異なり、通貨の流れを全て個人レベルで把握できるという話もありますが、本当ですかね?もし本当なら、これと中国のような強権独裁体制とが組み合わされば、究極の監視社会が出来上がり怖い気がします。

  • 更新ありがとうございます。

    【モノが不足しているのではなく、カネ自体が不足している】なるほど、そういえば北朝鮮ウォンなど、一体どうなっているのか、見当もつきませんね。

    もう既に北ウォンは通貨でなくなり、中国元が通貨なのか、それか商店も気の利いた店は無いだろうし、田舎も都市部も簡単なモノなら物々交換をしていそうな(笑)。それか肉体労働か人身売買、売春か(笑)。

    もう終わっている国、北朝鮮ですね。

  • 北朝鮮

    そもそも通貨が流通してなかった。

    いうことなんじゃないかな。

    貨で売買できたのは金一族に極めて近い朝鮮人だけ(それも自由な購入でなく実際は配給物への支払い)、その他大勢(ほとんどの北朝鮮人)は李氏朝鮮と同じ物々交換...←単なる直感←嘗てのNHK北朝鮮映像からの閃き(=妄想)

  • 私がデリバティブをやってた頃の印象で通貨を区分けすると
    デリバティブ出来た通貨
    JPY USD EUR GBP CHF AUD CAD 北欧の通貨 HKG NZD SGD あと THB IDR(インドネシアルピア)
    出来なかった通貨
    人民元 KRW インドルピー メキシコペソ トルコリラ

    多分オフショアでの取引規制の絡みだと思うんですけどね。
    私のイメージでタイバーツや香港ドルってのは「こちら側」、人民元、韓国ウォンってのは「あちら側」のイメージですね。

    ごく最近はまた違うのかもですが。。まあ私の感触ではタイバーツより人民元はマイナー感強いです。