今月16日、日本の経産省で、韓国の輸出管理体制を巡って、「日韓政策対話」が開かれます。先週の『中央日報「韓日首脳会談前に輸出規制解決策も?」』でも触れたとおり、この政策対話を巡っては、韓国メディアでは「日本が対韓輸出『規制』を撤廃するための結論が出る」、といった、意味のわからない誤解が出ているようですが、そもそもの対韓輸出『管理』適正化措置の趣旨を踏まえると、これはあり得ない話です。その具体的な証拠でしょうか、梶山弘志経産相が先週金曜日の記者会見で、16日の政策対話で輸出管理が「議題になることはない」「その撤廃や見直しという結論が出ることはない」、「日本の(輸出管理適正化措置措置の見直しなどは)わが国が決めること」、などと述べたそうです。
そもそもの認識が違う
これまでも『総論 対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ』などで議論してきたとおり、日本が韓国に対して輸出管理の適正化措置を発動した理由は、韓国の武器輸出、戦略物資の軍事転用などを国際的に防ぐ仕組みが不十分だったからです。
これについて、保守側の論客のあいだでも、いまだに、「一連の自称元徴用工判決問題などに対する日本政府からの経済報復だ」とする分析をまことしやかに展開する人たちがいるのですが、少なくとも経済効果という面からすれば、こうした見方は正しくありません。
というのも、もし本気で日本政府が韓国に「経済報復」を実施しようと思うのならば、「ヒト・モノ・カネの流れの制限」という観点からは、ほかにも「やりよう」があるからです。
たとえば韓国国民に対する日本入国については、現在は「観光・商用目的の90日間の入国は査証(ビザ)を免除する」という措置が取られていますが、これに対して何らかの制限を加えることがわかりやすいでしょう。
また、輸出管理厳格化措置についても、日本政府が発動した措置のうち「リスト規制の強化」に伴う個別許可制の対象は3品目に限られていますが、これを他の品目にも拡大することは、経産省の一存で、いつでもできるはずです。
さらに、(旧)ホワイト国リストからの韓国の除外措置により、韓国は輸出管理上の「グループB」に区分されていますが、より厳格な管理の対象となる「グループC」に区分変更していないことも、輸出管理適正化措置自体に「経済制裁」としての実効性がほとんどない証拠です。
もし将来、経済制裁を発動するならば…
もっとも、韓国側(あるいは一部の政治・経済評論家など)が、この輸出管理適正化措置を「経済報復」と決めつけている点については、日本側にとって思わぬ「メリット」もあります。
それは、もし仮に日本政府が本気で韓国に対する経済・金融制裁を発動した場合、韓国がどんな反応を示すかについての「シミュレーション」にはなったからです。
すでに当ウェブサイトでは何度も議論してきたとおり、日本政府がこの措置を発表した直後から、韓国政府は「ウソツキ外交」、「告げ口外交」、「瀬戸際外交」を駆使して、全力で日本政府を揺さぶりました。
また、「ノージャパン運動」は韓国国民に広がっているらしく、ごく一部の品目(たとえば、ビールや乗用車、日本旅行など)には確実に影響が出ている状態にあります。
(※もっとも、『韓国「ノージャパン運動」の日本経済への影響は限定的』で議論したとおり、もともと日韓は隣国同士でありながら経済的な結びつきは弱く、韓国の「ノージャパン運動」が日本経済に与えている影響は非常に限定的ですが…。)
韓国側の盛大な勘違い
さて、韓国側は日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)の破棄を事実上の撤回に追い込まれた格好なのですが、その際に苦し紛れに持ち出したのが、「輸出管理を巡る政策対話に応じる」、という言い訳でした(『韓国の「GSOMIA瀬戸際外交」は日本の勝利だが…』参照)。
すでに複数のメディアに報じられているとおり、具体的には今月16日に東京で日韓政策対話が開かれるのですが、この政策対話や日本の輸出管理適正化措置全般を巡っては、韓国側でも酷い事実誤認が蔓延しています。
たとえば、先週も『中央日報「韓日首脳会談前に輸出規制解決策も?」』で紹介しましたが、日本側が現在、韓国に対して提示しているとされる「輸出管理適正化措置の撤回条件」は、「必要条件」であって「十分条件」ではありません。
※3つの条件とは:経済産業省の保坂伸・貿易経済協力局長が11月25日の自民党の国防部会で「少なくとも必要な条件」として示した、次の3項目のこと。
- ①日韓の2国間での「政策対話」で信頼関係を築くこと
- ②韓国側が通常兵器に関する輸出管理態勢を整えること
- ③輸出検査にあたる人員拡充などの態勢強化
ただし、韓国側ではこのうちの①については「政策対話」ではなく、「輸出『規制』解除のための協議」と勘違いしているフシもありますし、また、韓国側では「①と③が実現したことで、あとは②を残すだけだ」、「日本の輸出『規制』の解決策が近日中に出てくる」、といった勘違いに基づく報道も見受けられるのです。
そのなかでもとくに酷いのが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載された次の記事です(※もっとも、この記事については、当ウェブサイトではすでに先週取り上げているため、本稿では具体的な記載を省略します)。
3年ぶり韓日政策対話を再開…首脳会談前に輸出規制解決策?(2019.12.05 11:34付 中央日報日本語版より)
梶山弘志経産相「撤廃や見直しは議題にならない」
ちなみに韓国メディアが輸出管理適正化措置を「輸出『規制』」と言い間違え続けている責任の一端は、日本のメディア(たとえば共同通信など)にもあると思います。というのも、これらのメディアは現在でもしつこく、「輸出『規制』」と誤報し続けているからです(あるいは、ここまでしつこいと「捏造報道」でしょうか)。
ただ、この点を割引くにしても、韓国側が政府、メディアを挙げて、輸出管理が何なのかについて、まったく理解していない点を踏まえるならば、やはり日本政府が短期的に(少なくとも数年以内に)韓国に対する輸出管理適正化措置を元に戻すことはあり得ないと考えて間違いないでしょう。
とくに、16日に開かれるのは政策「対話」であって「協議」ではありません。
この「対話」と「協議」、まったく性質が違います。
「対話」とは体よくオブラートに包まれた表現ですが、実質的には日本政府による韓国政府に対する「指導」のようなものでしょう。要するに、日本が韓国に対する輸出管理適正化措置を撤廃するためには、韓国が少なくとも何をしなければならないかを指摘するための会議だからです。
このため、当ウェブサイトとしては、韓国メディアが16日の「対話」で「日本の輸出規制の撤回が協議される」などと報じていることを、「何をどう勘違いしたらそうなるのか」、という気持ちで受け止めているのですが、先週金曜日にはこんな記事も発見しました。
16日の日韓政策対話、日本の輸出管理について結論は出ない=梶山経産相(2019年12月6日 12:44 付 ロイターより)
これはロイターに掲載された記事で、梶山弘志経産相が6日の閣議後会見で、日本が韓国に向けて行っている輸出管理強化について
- 「議題になることはない(し)その撤廃や見直しという結論が出てくることはない」
- 「韓国からの主張や要望はあるかと思うが、(輸出管理強化の見直しは)わが国が決めること」
などと述べたのだとか。
ただし、このやりとりについては、現時点で経産省のウェブサイトを見ても掲載されていないので、あくまでもロイターの報道をベースに判断するしかないのですが、仮に梶山氏が本当にこのように発言したのだとすれば、ごく当たり前の話です。
なぜなら、日本政府が主張してきた内容は、ただの一点もブレておらず、日本の主張の要諦は、「韓国の輸出管理体制が甘くて信頼できない」、「(武器拡散などに関する)不適切な事例も出ている」、というものだからです。
むしろ輸出管理のさらなる厳格化も?
いや、そもそも論で申し上げるならば、論点の中心は、「日本が韓国に対する輸出管理適正化措置を撤回するかどうか」、ではありません。
むしろ、「今後さらに対韓輸出管理措置を厳格化する可能性」すらあると思います。
というよりも、韓国を「(旧)ホワイト国」に相当する優遇対象国に設定していたのが、G7のなかでは日本だけだったということ自体、果たして輸出管理の在り方として適切だったのかについては、今後、よく反省する必要があるでしょう。
そして、韓国の態度次第では、むしろ個別輸出許可対象となるリスト規制品が追加される可能性もあるかもしれません。というのも、韓国が北朝鮮を支援する「瀬取り」などの違法な貨物の輸出に関与している疑いも否定できないからです。
もし韓国が国を挙げて瀬取りなどに関与していたという具体的な証拠が出てくれば、北朝鮮制裁との関連で、経済制裁の対象が北朝鮮から韓国にまで拡大される(いわゆるセカンダリー・サンクション)、という可能性もあります。
あるいは、韓国が政府、メディアを挙げて不要な大騒ぎを繰り広げることで、日本企業の間で韓国との取引を手控える動きが出てくれば、それは結果的に韓国が経済制裁を受けたのと同じような経済効果がもたらされる可能性もあります(いわゆるセルフ経済制裁)。
いずれにせよ、来週・16日に行われると見られる政策対話は、韓国メディアが考えるほど甘いものではないことだけは間違いないでしょう。
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> 「対話」とは体よくオブラートに包まれた表現ですが、実質的には日本政府による韓国政府に対する「指導」のようなものでしょう。要するに、日本が韓国に対する輸出管理適正化措置を撤廃するためには、韓国が少なくとも何をしなければならないかを指摘するための会議だからです。
なんでしょうかね?
私は、細川氏の御発言等から、「対話」は「事情聴取」の様なものだと思ってます。韓国側が自主的に説明しようとしないので、日本側から不明な点を「事情聴取」し、その結果、日本が、「韓国は、旧ホワイト国相当である。」と判断するに足る材料が得られれば、韓国をグループAに戻すという事でしょう。但し、韓国の内情が、キチンと輸出管理出来て居る状況とは程遠いので、その可能性は限りなくゼロだとは思いますが。
韓国側が盛大に「勘違い」して見せるのは、日本政府の言う事を信用せず、「輸出規制だ」、「経済報復だ」と大騒ぎした日本人が居た(ここにも居ましたよね)事にツケ込まれている訳です。
「対話」と「協議」の違いですら、11月22日頃には、「局長級協議を行うというのが譲歩なのでしょう。」とか「韓国と協議をするということです。」とか「定期的な実務協議も行われてないってのを問題視してる」とか言う人がここにも居た位ですから。
細川氏が仰る様に、「輸出管理」は相手国から色々事情聴取した結果に基づいて、戦略物資輸出国側が、所定のルールに基づいて判断するものであり、本来的に「協議」する様な性質の事柄ではないでしょう。
韓国の勘違いじゃなくて、意図的な捏造なんじゃないのかな?
でも、経済戦で勝利したとか言ってたし、急がなきゃいけない理由もよくわかんないのです♪
韓国政府が言っているように、短期間で元に戻る事は、あり得ないというのが、擁韓でない日本人の認識でしょう。
私は、局長級の対話後の両国の会見に齟齬が出て、その後の進展は、考えられないと予想しています。
梶山氏の発言に対する韓国ネット民の考え方は、日本が約束を守らなければ、GSOMIAを破棄すれば良いというのが大半です。日本がしていない約束を、韓国政府がねつ造して、韓国政府を追い込む形になります。
韓国政府が、日本が悪いと言い、日本のせいにする所までは、決まりでしょう。GSOMIA破棄はどうするのか、生温く見守っていれば良いと思います。
良心の呵責を感じないのか(自縛|自爆)発言がふたたび炸裂するのでしょうか。
いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。
>②韓国側が通常兵器に関する輸出管理態勢を整えること
だったら「不要な」「核兵器に関する」輸出管理範囲として従来通り「フリーパスで日本製品を横流し」するニダ。
→韓国の大勝利ですね。限定を議題に出された時点で日本の負け。
更新ありがとうございます。
韓国と16日に輸出関係について対話をするという事ですが、前回のように手製の印刷、拡大コピーーで「対話」をホワイトボードに磁石かテープで止め、さりげなさを出して頂きたいと思います。
もちろんノーネクタイ、シャツ姿或いはジャケット+スラックスで宜しいかと思います。暖房も無いなら余計に良いです。周りにシュレッダーを置いとくのも効果的です。*使わないでネ。
「韓国に対する輸出管理適正化措置を元に戻すことはあり得ない」との梶山大臣のお言葉、頼もしく思います。あと3年?隣国は無くなってるね(笑)。
対話時間は1時間程度、文句を言うなら「3年間待たせた貴国に責任がある。この話はこれ以上やっても無駄」と言ってやればいいです。
また、大事な事は彼らは直ぐに嘘、でっち上げ報告しますので、ビデオ録画と録音も必ず怠らないようにお願いします。 結果、心待ちにしております。
めがねのおやじさま
大きな旭日旗の真ん中に、大漁ではなく対話と大きく書いてあげましょう。
更新お疲れ様です。
>ちなみに韓国メディアが輸出管理適正化措置を「輸出『規制』」と言い間違え続けている責任の一端は、日本のメディア(たとえば共同通信など)にもあると思います。というのも、これらのメディアは現在でもしつこく、「輸出『規制』」と誤報し続けているからです(あるいは、ここまでしつこいと「捏造報道」でしょうか)。
客観的事実は「輸出管理適正化措置」なのに、主観的意見である「輸出規制措置」で報道すると言う事は、「国民が物事を正しく判断する材料として客観的事実を伝える」と言う報道機関の存在意義を自ら揺るがす暴挙ですね。
戦前の大本営発表の教訓を活かせていないって事で。
辞書を引いてみました。
https://www.kpedia.jp/w/11043
협의
協議、交渉、協商、打ち合わせ
https://www.kpedia.jp/w/11355
대화
対話、お話
https://www.kpedia.jp/w/3161
회의
会議、打ち合わせ、打合せ
韓国では「打ち合わせ」と「会議」の区分があまりなく、「회의(会議)」や「미팅(meeting、ミーティング)」をよく使う。회의は社内の、미팅は取引先など外部との打ち合わせとしてよく使うが、区別なく使っても問題ない。
「対話」→(幸福回路)→「協議」
「意見交換会」→(幸福回路)→「問題解決会議」
こんな感じに脳内変換されているのかも?
ちょこ さん
根本的な問題点が「愚民文字」にあるのか「幸福回路」にあるのか。
・・・うーん、「幸福回路」に一票で。
日韓政策対話「大韓民国による日本製戦略物資の不適切な再輸出についての事情聴取」位の看板を掛けて、彼等全ての希望を打ち砕いて欲しい。🐧
選べるのは、さらなる輸出管理厳格化か国連安全保障理事会制裁のみで良いのです。🐧
『輸出管理を行っている部屋の電気が消えていることを確認する管理士』や、
『ホワイトボードが消されていることを確認する情報防衛士』などの目的で、
60才以上の高齢者や浪人中の学生を非正規雇用で雇い入れて、
貿易管理体制の強化が図られたと言っている様な気がするのだよなぁ。
一般市民さま
有るかも知れないけど、人数が少ないですよね(15人なんですよね?)。
どうせなら、1万人増やすとかやればいいのに。
そうなんですよねぇ。
確か日本が百数十名だった様な記憶があるので、あの韓国のことなので、『意地でも、そしてプライドを賭けて』日本よりは『大幅に』人員を強化するものとばかり思っていました。
ちょっと拍子抜けしてます。
一般市民さま
韓国も最初は110人とか言ってて、どんどん齟齬が出て、今の人数が30人+15人で5割増しらしいですよ。
貿易額だと、日本が160兆円くらいで、韓国は100兆円。
同じような比率で、「専門家」の人数は必要なはずですよね。
経産省HPに以下が掲載されています。
「第7回輸出管理政策対話に向けた局長級準備会合を開催しました」
https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191205004/20191205004.html
経済産業省は、12月4日、オーストリア共和国ウィーン市において、韓国産業通商資源部との間で、第7回輸出管理政策対話に向けた局長級の準備会合を開催し、同政策対話の日程・議題等の調整を行いました。
準備会合の結果、懸案の解決に資するべく、別紙の通り第7回輸出管理政策対話を実施する旨、合意しました。
なお、両者は、今後の政策対話を通じて、相互の輸出管理制度の理解が増進されることとなるとの認識を共有しました。
<第7回輸出管理政策対話>
日程:12/16(月)10:00-17:00
場所:経済産業省内会議室
議題: 1.機微技術管理をめぐる情勢・課題について
2.日韓両国の輸出管理制度・運用について
3.今後の進め方
出席者:(日本)飯田貿易管理部長、ほか
(韓国)イ・ホヒョン貿易政策官、ほか
昨今の輸出管理に係る世界情勢や課題についておさらい共有し
日韓両国の国内ルールを再点検した上で
韓国のグループA国復帰への道筋を示す
という感じでしょうね。
韓国は、国内向けポーズも含めて最初から輸出規制を打ち出した日本が悪い、というスタンスを崩していませんが、この政策対話でどこまで理解が進むか、といったところでしょう。
まあ、本当は韓国は自国の輸出管理が杜撰だということがわかっていたような気がしますが。
どうでもいので皆さまお忘れの事と思いますが、日本が韓国からホワイト国を外されてますが、それは話し合われないんでしょうね。
まあ、下手に言い出すと、韓国側のカードになるだけかもしれません。
だんな様
>お忘れの事と思いますが、日本が韓国からホワイト国を外されてますが、それは話し合われないんでしょうね。
忘れてましたw
「カの2」国落ちのやつですね。
日本が韓国を信頼できないとしてホワイト国から除外するのであれば、韓国も日本を信頼できないとそっくり同じ言葉を返し、「今までとは違う」「日本に引きずられない」「韓国は変わった」ということを示すための「象徴的」除外措置…
じゃなくて、単なるおこちゃま的報復
日本への影響はほぼ皆無ですし、日本から元に戻してとは言わないでしょう。
仮に言っても交換条件にされるとかでしょうし。