X

韓国「韓日が水面下で協議」、「米国が対日圧力」

米韓同盟消滅、「大きく変わるときはあっけないもの」』でも報告しましたが、日韓GSOMIA破棄をきっかけに、米韓関係が極端に悪化しています。とくに、日韓GSOMIAの失効を今週末に控え、韓国メディアからは毎日のように、虚実ないまぜになった報道が垂れ流されているようです。普段から韓国政府や韓国メディアは米国などの報道発表を歪曲して報道することが多いのですが、昨日から本日にかけて、韓国メディア『中央日報』に掲載された報道(あるいは韓国政府高官の発言)などには、目に余るものがあります。

日韓GSOMIA終了まで、あと3日半

秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』(俗に「日韓GSOMIA」)の終了まで、あと3日半となりました。

現在のところ、韓国政府は「日本が輸出規制(※正しくは「輸出管理適正化措置」のこと)を撤回しない限り、韓国がGSOMIA破棄を撤回するつもりはない」と頑なな姿勢を崩しておらず、一方で日本も輸出管理適正化措置を撤回するわけにはいかないため、このままだと破棄は確実な情勢です。

ところが、この期に及んで、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されたようです。

GSOMIAの終了が有力だというが…韓日、水面下では妥協カードも議論中?(2019.11.18 14:05付 中央日報日本語版より)

この記事は、あたかも「日韓両国が現在、水面下で日韓GSOMIA延長を巡って議論中」であるかのタイトルですが、実際は不確定情報の塊のような記事です。

全体で1200文字少々ですが、うち1000文字近くが日本のメディアの報道の紹介であり、タイトルにある「水面下では妥協カードも議論中?」の下りも、日本のメディアの引用を孫引きしているようです。

日本のメディアは、一方では韓日両国が水面下で繰り広げている終盤の外交折衝戦も紹介した。/日本経済新聞は「韓国側によると、韓国は日本側に『GSOMIA延長の大義名分を与えてほしい』と伝えてきたが、マ向きな反応は得られなかったという」と報じた。」(※「マ向き」は「前向き」の誤植と思われますが、そのまま転記しています。)

この「日韓GSOMIA延長の大義名分を日本が作ってほしい」という議論は、朝日新聞編集委員の牧野愛博氏が執筆した論考とも内容としては整合しています(『GSOMIA問題は「省益の抑え込み」に成功した好例』参照)。

しかし、韓国政府側が「水面下での日本との交渉」を希望していることはおそらく事実だとは思いますが、それと同時に日本の側はあまりこれをまじめに相手にしているという形跡はありません。

エスパー長官が河野大臣に「日本の努力を歓迎」

ところで、「ASEAN拡大国防相会議」(ADMMプラス)にあわせてタイ・バンコクを訪問した河野太郎防衛相は月曜日、マーク・エスパー米国防長官と会談しました。その会見録が、米国防総省(ペンタゴン)ウェブサイトに掲載されています。

Readout for Japan Bilateral Meeting ASEAN Defense Ministers Meeting-Plus(抄)

Secretary of Defense Mark T. Esper met with Defense Minister Kono Taro in Bangkok, Thailand on the sidelines of the ASEAN Defense Ministers Meeting (Plus).

―――2019/11/18付 米国防総省HPより

米国側の発表で河野氏が “Taro Kono” ではなく “Kono Taro” と記載されているのは、河野氏なりのこだわりでしょうか(『シンゾー・アベじゃなく、アベ・シンゾーと呼んでください』参照)。なかなか興味深いところです。

それはさておき、米国側の発表だと、前半部分は次のように記載されています(当ウェブサイトにて翻訳します)。

  • 両リーダーは米・日同盟がインド太平洋地域における平和、安全保障、繁栄のコーナーストーンであり続けていることを確認し、今日の安全保障環境における動的な挑戦に対応するために、同盟を強化するための進行中の努力について意見交換を行った。
  • エスパー長官と河野大臣は自由で開かれたルールベースの秩序が東シナ海、南シナ海、さらには全世界において維持されるべきであると改めて宣言する。
  • エスパー長官は米国が北朝鮮の最終的、完全かつ検証可能な非核化と大量破壊兵器、大陸弾道ミサイルのすべてを完全に破棄することへの責任に繰り返し言及する。
  • 両閣僚は地域で志を同じくするパートナーとの安全保障ネットワークを発展させることの必要性で合意した。エスパー長官は日本がASEAN諸国、インド、オーストラリア、そして日米韓の協力関係と相互運用を強化するという努力を歓迎した。

要するに、以前から繰り返している「基本的価値を共有する国同士の連携」ですね。

ASEANとインドとオーストラリアが単体で触れられている一方で、韓国については単体ではなく「日米韓」(trilaterally with the United States and the Republic of Korea)となっている点は引っ掛かかる点です。

しかし、それでもエスパー氏が日本に対し、「自由で開かれた法に基づく秩序」を維持するために、「志を同じくする(likeminded)」アジア諸国と米国との連携を取りまとめていることについて、素直に歓迎していることは間違いないでしょう。

どうしてそうなる!?

ところが、この同じエスパー氏の発言も、中央日報の手にかかれば、次のように曲解されるようです。

米国防長官「米韓日3カ国の協力に向けた日本の努力を歓迎」(2019.11.19 07:26付 中央日報日本語版より)

中央日報はこのエスパー氏の発言を巡って、

これは今月23日に終了する韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長が必要だという米国側の立場を反映した発言という見方も出ている

と報じているのですが、はて、そうですかね?

たしかにエスパー氏を含め、米国政府関係者は以前から日韓GSOMIAの延長が必要だ、と述べ続けていますが、それらの発言はあくまでも日本に向けられたものではなく、韓国に対して向けられたものです(『そもそもなぜ、米国は「韓国にだけ」圧力を掛けたのか』参照)。

また、ペンタゴンの報道発表についても素直に読んでいけば、日米両国が「自由で開かれたルールベースのインド太平洋」を実現するために深くコミットする、という内容であり、むしろ名指しこそしていませんが、中国に対して向けられている発言であることは明らかでしょう。

このような文脈からは、すなおに「日米を基軸として、ここにASEAN、オーストラリア、インド、韓国などを参加させる多国間のネットワークを構築するうえで、日本がとても協力的であることを歓迎する」という意味だと解釈するのが自然ではないでしょうか。

基本的な報道発表資料を正しく読もうとせず、自分にとって都合よく曲解するというのは、どうも感心しません。

「米国が韓日に圧力」?まさか!

では、どうして韓国メディアがこのような曲解をしてしまうのでしょうか。

そのヒントになるのが、次の記事かもしれません。

韓経:韓国国防部長官「GSOMIA、外交で解決する問題…米国、韓日に強い圧力をかけている」(2019.11.19 08:03付 中央日報日本語版より)

同じく中央日報によると、鄭景斗(てい・けいと)韓国国防部長官は17日、ADMMプラス後の記者懇談会で、日韓GSOMIAを巡り

  • GSOMIAは韓米同盟で象徴的、戦略的価値が大きい
  • (米国側は)日本にも圧力をかけ、韓国にも維持することを求めている

などと述べたのだそうです。

「米国が日本にも圧力をかけていた」とは、初めて知りました(笑)

もちろん、米国側からは、日韓関係の悪化局面において、「日本も日韓関係を悪化させないように努力すべきだ」といった発言がまったくなかったわけではありません(たとえば『日本政府はナッパー国務副次官補の更迭を要求すべき』など)。

しかし、米国政府の公式発表などから確認する限り、少なくともGSOMIA問題を巡って米国が日本に圧力をかけたという事実は確認できません。

いや、厳密にいえば、米国が日韓両国に対して「日韓GSOMIAは必要だ」と発言すること自体、間接的には「日本に対する圧力」といえなくもないのですが、仮に日本に対して水面下で多少の圧力をかけていたとしても、韓国に対する圧力のほうがはるかに大きいことは間違いないでしょう。

韓国の言い分を呑むなら、日本が輸出管理適正化措置を撤回しなければ、韓国は日韓GSOMIAには復帰しないわけですから、こんなむちゃな言い分など聞き入れられるはずはありません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ただし、この「米国は日本にも圧力を加えている」とする議論は、中央日報の他の記事にも見られます。たとえば、冒頭に紹介した『GSOMIAの終了が有力だというが…韓日、水面下では妥協カードも議論中?』のなかにも、

しかし、韓日関係に詳しい専門家の間では「日本も米国の圧迫で完全に自由でないため、日本が指摘する輸出上の問題点に対して韓国が『修正する』という意味を明らかにした後、両国間に懸案協議のためのハイレベルチャンネルが作られれば、突破口が開かれる可能性がゼロではない」という期待も一部残っている。

という下りが含まれていますが、これなども「日本も韓国と同様に米国からの圧力に苦しんでいる」という認識で執筆された(あるいは「韓日関係に詳しい専門家」とやらがそう考えている)、という証拠ではないかと思います。

それにしても、日本政府はこれまでしつこいくらい、何度も何度も、「輸出規制ではなく輸出管理の運用変更だ」と強調して来たというのに、国を挙げて確証バイアスの塊になってしまっているためでしょうか、当ウェブサイトが知る限り、ただの1社として、韓国メディアはこれを正しく伝えようと努力していません。

だからこそ、「輸出管理上の問題点について韓国が修正すると述べたら、これを契機にハイレベル協議が創設され、日韓GSOMIA破棄を撤回する名分も立つ」、などと軽々しく結論付けることができるのだと思いますが…。

新宿会計士:

View Comments (28)

  • 更新お疲れ様です。

    確証バイアス…米中からの「ショーザフラッグ!」コールをラブコールと勘違いしてるのも、そのひとつなのかも。

    何はともあれ、韓国には心置きなく破滅に向かって突き進んで頂きたいと思います。

    日本としては難民とかが来なければどころか元難民をさっさと送り帰したいところですが。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     韓国にとっては、「アメリカが日本にも圧力をかけている」と、日本の
    中で思ってくる人がでれば、それで十分なのではないでしょうか。

     駄文にて失礼しました。

  • 日本にも圧力をかけているってことにしといて欲しいという韓国の懇願にも冷たく対応するアメリカ。

    アメリカが逃げ道を作ってあげないところからみてアメリカも同盟解消を覚悟してるのかもね。

    • 暇人Zさま
      この報道が、現実なんじゃ無いですかね。
      このスレの韓国のマスコミは、皆んな妄想を記事にしてるだけ。

    • 暇人Z様

      この報道は、私には

      日「愛想がつきた」
      米「韓国のことは諦めた」

      というふうに聞こえるのですが、これは認知バイアスでしょうか。

    • 最初の記事は上三行のみで、30分後に8行追加、
      その後に今の状態のようですが、結局大した内容ではなかったようです。
      失礼致しました。

  • エスパー長官の発言の主旨説明は、新宿会計士さんの書いてある通りだと思います。
    韓国の記事は、妄想だと思うんですが、誰に向けて書いているんですかも分かりません。
    昨日書いた「一人ババ抜き」で、日米に「さあ引くニダ」と言ってる、積もりなのか?
    「日本が貿易管理の見直しをしたら、GSOMIA破棄を検討する」のと合わせて、ずっとおんなじ記事が、続いているので、だんだん訳が分からなくなって来ました。
    これが、嘘も100回言うとってやつですかね。

  • >米国側の発表で河野氏が “Taro Kono” ではなく “Kono Taro” と記載されているのは、河野氏なりのこだわりでしょうか

    これについては、先日、文科省及び文化庁からお達しが出ています。

    公用文等における日本人の姓名のローマ字表記に関する関係府省庁連絡会議にて申合せを行った結果、各府省庁が作成する公用文等において、原則として「姓-名」の順で表記することとし、令和2年1月1日から実施(可能なものはすぐに)するものとする。

    だそうです。

    • 新茶狼 さん
      これ、私も職場でお知らせを受けました。
      民間にも協力?を要請しているようです。
      今後は、「YAMADA Ichiro」のような表記とするようです。

      • ばんきり 様

        コメント&情報ありがとうございます。

        姓は大文字でしたっけ

        なんか姓-名の順って言われてもまだ慣れないなぁ…

        • 新茶狼さま
          日本語と同じ並びだから、すぐに気にならなくなると思いますよ。
          私は、野球のストライク、ボールが、逆になったのに、まだ慣れません。

  • 北朝鮮との終戦宣言について
    後から取り消してもいいみたいな発言もあり
    大統領は国家間の約束を軽く考え得過ぎじゃないでしょうかね
    国民も国際法を破ることに抵抗感がなくなるよう
    リードされている気もしますし
    香港の問題は軽々しく言えませんが
    小さな問題が将来にどんな問題をもたらすのか
    国民は敏感に感じ取り反応するわけです
    韓国は引き返すことが不可能な川を渡ろうとしてるわけですが
    あまりにも鈍感に思えます

  • 韓国のマスコミの皆さんは、今週は日本の「救命ブイ」や米国の「ガイアツ」に期待を盛り上げて、来週に「後頭部を殴られた」と騒ぐためのネタ仕込みに励んでいるんじゃないですかね。

    はいはい、悪いのはGSOMIAを破棄した韓国じゃなくて、譲歩しなかった日本と譲歩させなかった米国ですとも。もちろん反日を煽りに煽った韓国マスコミには責任の一端もありません。韓国内ではそういうことでいいんじゃないかな。

  • 基本的なことで恐縮ですが GSOMIAは8月半ばの韓国の「延長しない宣言」で終了。但し「即日失効」ではなく 11月22日いっぱいで失効するのではありませんか?22日が「宣言撤回の期限」というのはおかしいのではないでしょうか?勉強不足で申しわけないです。

  • > 日本経済新聞は「韓国側によると
    > 朝日新聞は、韓国青瓦台に近い関係者を引用して

    『日本のメディアは』とか言ってるが、よく読むと韓国が出どころの情報を紹介してるだけ。

    > 米国、韓日に強い圧力をかけている

    これも韓国側が勝手に言ってるだけ
    口先だけの捏造情報を垂れ流して逆に袋小路に嵌っていく。

    • 確証バイアスか・・・ アサヒなどもその点同じですよね。不都合な事実は無視、自分の思い込みに合致することだけ都合よく解釈して袋小路に入って行く人のこと。ですか。

1 2