韓国を「ホワイト国」から除外するなどの措置を直前に控えるなか、ロイターは日本時間の本日早朝付記事のなかで、「匿名の米政府高官が『スタンドスティル協定』の締結を日韓に呼びかけたと述べた」、と報じています。記事自体、事実誤認や曲解の嵐ですが、同じ記事をブルームバーグも報じるなどしたため、これを単純に「ロイターがでっち上げたフェイクニューズ」だと決めつけるのは難しくなりました。それでは、果たしてこれをどう見るべきでしょうか?
ロイター記事の衝撃
日本が韓国を輸出管理上の「ホワイト国」から除外しようとしていることなどに関連して、当ウェブサイトでは以前から、「韓国はあらゆる手段を使ってそれを阻止しようとして来るだろう」と申し上げています(たとえば先ほどの『破局の原因を作った側が「韓日関係破局させるな」とのたまう』の末尾参照)。
こうしたなか、ロイターが日本時間の本日早朝、こんな記事を配信しました。
U.S. urges Japan, South Korea to look at ‘standstill agreement’ for trade feud(2019/07/31 02:50付 ロイターより)
配信時刻は「午前2時50分」とありますが、これはおそらく日本時間ベースでしょう。
ロイターといえば『「輸出管理」を「戦時徴用工」と絡めるプロパガンダの実例』でも報告したとおり、「日韓のハイテク貿易紛争は日本の戦時中の歴史に原因がある」などとする、明らかに荒唐無稽な内容を世界にばら撒いているメディアの1つです。
ただ、今回の記事の執筆者欄には “Roberta Rampton” とあるとおり、前回問題にした記事の執筆者( “Makiko Yamazaki, Heekyong Yang, Ju-min Park” の各氏)とは別人が執筆しているようです。
それはともかく、ざっくりした内容は次のとおりです(順序を整えたうえで意訳し要約します)。
- 米国政府高官は火曜日、日韓の外交上の対立が深刻化している問題を巡り、米国が「スタンドスティル協定」を日韓に提案したことを、匿名で記者団に対して明らかにした
- 日本は韓国で1910年から1945年の朝鮮半島占領期に発生した工場での強制労働問題を巡る損害賠償判決を契機に、今月、韓国に対してハイテク関連素材の輸出を阻止する措置をとった
- ドナルド・J・トランプ米大統領は今月、日韓の対決を緩和する準備があると明らかにしたし、ジョン・ボルトン大統領特別補佐官も今月、両国を訪れてディスカッションをした
- この高官は、米国が提案する「スタンドスティル」が日韓両国の相違を埋めることはないにせよ、両国の対立がこれ以上深まることを防ぎ、両国が話し合いに入る効果が期待できるとしている
- この高官は、米国が8月24日に日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)の更改期限が到来することと、韓国大統領が8月15日に発するであろう第二次世界大戦に関する発言に注目していると述べた
スタンドスティルとは、「静止する」「現状に留まる」という意味ですが、これに「協定(agreement)」を付ければ、経済界では「とりあえず停止する協定」のことを意味します。こういう言い方が適切かどうかはわかりませんが、一種の「停戦協定」のようなものでしょうか。
また、ロイターはこの高官の発言について、「木曜日にタイで開かれる地域会合(おそらくARFのことでしょう)で日米韓3ヵ国外相会談の場でポンペオ長官が日韓両国にスタンドスティル協定を提案する、ということだ」と解釈しています。
まるで韓国政府の主張?事実誤認が酷すぎる!
それにしても酷い記事です。なぜなら、記事の中身は事実誤認で間違いだらけだからです。あるいは、韓国政府の主張をそのまま記事に仕立てたと思しき下りも各所に見られます。
まず、ロイターの記事は、そもそも日本政府が何度も何度も、経産省が7月1日に打ち出した輸出管理の運用変更措置については「安全保障上の理由」によるものであり、自称元徴用工の問題とは無関係である、と述べているという事実を無視しています。
ついでに申し上げるならば、自称元徴用工問題を「1910年から1945年の日本の植民地支配中に発生した強制労働事件」と述べている時点で、この記者(あるいはそれを発言した米政府高官)が問題をまったく勉強していない証拠でしょう。
これに加えて、決定的に重要なポイントがあります。
記事の中でトランプ氏が「今月、日韓の仲裁に意欲を示した」と述べている下りがありますが、これ自体、おそらく事実誤認ではないでしょうか。念のため原文を示しておきましょう。
“President Donald Trump said earlier this month that he wanted to help ease tensions between the two biggest U.S. allies in Asia.”
しかし、トランプ氏は「日韓両国から仲裁の依頼があればそれをやらないわけではない」と述べましたが、「自分で積極的・主体的に日韓関係を仲裁する」などとはヒトコトも言っていません(『「トランプ氏が日韓仲裁に意欲」?そんなこと言ってません』参照)。
また、ロイター記事は、7月24日のWTO一般理事会会合で韓国代表者の発言に対し、米国の代表者を含めた各国が沈黙したという情報(『現代版「ハーグ密使事件」?WTO直訴事件の当然の顛末』)などについても、完全に無視しています。
さらには、そもそもこの日本による輸出管理の運営変更は、(おそらくは)米国の了解を得ていると考えられるのですが(『鈴置論考「米中代理戦争」と経済焦土化』など参照)、ロイターが報じた「匿名の高官の発言」には唐突感がありすぎます。
本当にこう発言したという可能性は濃厚
ただし、現時点において、このロイターの記事が「完全なフェイクだ」と決めつけるのは尚早です。
ロイターの記事をよく読むと、日韓スタンドスティル案を明らかにした人物は「匿名の政府高官」だとしていますが、同時にその「匿名の政府高官」は「ロイター記者に対して」ではなく、「記者団に対して」このことを明らかにした、と読めるからです。
日本語と違って英語には複数形があり、原文では “a senior U.S. official told reporters” となっています。ということは、ロイター以外にもこれを記事にしている社がある可能性がある、ということです。
これについて調べていくと、ブルームバーグがロイターの後追いで、同じ内容の記事を配信しているのを発見しました(ただし、有料契約がないと読めないようですので、英語版『YAHOO!ファイナンス』に掲載された同じ記事のリンクも示しておきます)。
U.S. Urges Japan, South Korea to Reach Standstill in Trade Spat(2019年7月31日 6:34付 Bloombergより)
U.S. Urges Japan, South Korea to Reach Standstill in Trade Spat(2019/07/31付 YAHOO!Financeより)
このブルームバーグ記事でも、はやり “A senior U.S. official told reporters Tuesday that the U.S. is urging South Korea and Japan to reach a ‘standstill agreement’” とありますので、このことから、実際に米国政府高官が複数の記者にそのように語ったということは間違いなさそうです。
なにより、先ほどの「1910年から1945年にかけての強制労働」などの下りがロイターの記事と共通していることから、少なくともロイター、ブルームバーグの両記者がこの米政府高官から話を聞いたか、それとも示し合わせて実在しない「匿名の政府高官」をでっち上げ、ウソ記事を書いたかのいずれかでしょう。
米国内にもさまざまな意見がある
もちろん、この報道だけで、「米国が日韓両国の仲裁に乗り出した」、「米国が日本に対し、ホワイト国リストから韓国を削除することを制止しようとしている」と見るのは尚早です。
注意しなければならないのは、米国政府内にも、また、米議会にも、さまざまな意見を持つ人がいる、という点です。
実際、米議会は今年4月、「日米韓3ヵ国連携が重要だ」という趣旨の宣言を採択していますし(『ウソツキ国と米国 「米国さん、主張する相手が違うでしょう」』参照)、米国内にはこの期に及んで「日韓両国はともに米国の同盟国であり、緊密に連携すべきだ」とのたまう学者もいます。
このことから、「日韓関係において事実誤認がちりばめられた記事」を複数メディアが報じたという事実を見るにつけ、米国政府内に「韓国に配慮せよ」とする意見を持つ高官がいて、その高官がメディアに対して自分の意見をリークした、というのが、現時点では一番自然な見方ではないでしょうか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
もっと嫌なことを申し上げるならば、米国政府内で韓国のプロパガンダの毒気に当てられた政府高官がいて、その高官がトランプ政権幹部に対し、「日本が韓国に譲歩する」ということを進言している可能性は十分にあるでしょう。
実際、昨日は韓国の康京和(こう・きょうわ)外交部長官が日韓GSOMIAを破棄する可能性を示唆したと報じられましたが(『【速報】「破棄するなよ、絶対に破棄するなよ!」』参照)、米国政府内にこれを警戒する意見があったとしても不思議ではありません。
(なお、康京和氏は「GSOMIAを破棄する」とはヒトコトも言っていないという指摘もありますが、韓国メディアが「康京和氏が状況により破棄検討の可能性ありと述べた」、と読めるタイトルで記事に仕立てている以上、ここでは米国への「伝わり方」が問題になるのです。)
このことから、いよいよ本格的に韓国の日本に対するプロパガンダ戦が本格化してきたのではないか、という気がしてならないのです。
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今の米国政府で、トランプ本人ですらちゃんと発言通りに動くか確信が持てない状況で、こんな観測気球を真面目に捉える必要性があるのでしょうか。
私自身の感想でしかありませんが、まぁ本当なんだろうな、という気がしてます。
過去の報道を見る限り、ポンペオ(ポンペイオ?)氏は南北朝鮮に少し柔らかなところがありますから。
ここは河野大臣、冷静に「全て韓国が原因。今後の交渉や和解があるとすれば、まずは非礼に対する謝罪から」を言って突き放して欲しいです。
たぶんここを折れたら政権そのものが危うくなると思います。
複数紙が個別に報じたようなのでそのような発言があった可能性は高いでしょうが、どのような権限があるかも判らない者(多分韓国ロビーに乗せられた田舎のおじさん)の発言に右往左往する必要はないと思います。
非は全て韓国にあり、かつ、ここで手を緩めることは、中国への資産移転を進めるサムソンを逃がし、日米にとって対中戦略での致命的な敗着になります。
また、三品目管理強化、ホワイト国見直しに対し、韓国も対策を打ち始めているので時期を逃すと効果がなくなります。逆に、一気呵成に韓国経済焦土化迄持って行かなければ、復活した韓国企業により、日本企業が損害を被ります。(杞憂かもしれませんが)
ここは安倍政権を信頼してホワイト国外しの閣議決定と施行を待ちましょう。
おそらく米国からの公式な働きかけはないと思いますが、たとえあっても、日本政府は調停を受け入れないと思います。
理由は、ホワイト国からの除外の理由が安全保障上であり、これを米国から言われたからたやすく受け入れるとは思いません。もし受け入れるなら、米国からのなんらかの担保が必要であり、米国が提言できるとは思いません。
2つ目は韓国をホワイト国から除外するのは大多数の国民が賛同しており(世論調査の結果)、またパブリックコメントを募集し、このコメントの90%以上が賛成しているという結果を覆せば、安倍政権はもたないのではないでしょうか?
消費税・憲法改正をもくろむ自民党としては、米国からの提言があっても、「ホワイト国からの除外の停止」は飲めないと思います。
新宿会計士様、記事も更新有難うございます。
そもそも、この様な重大な発言”ある高官”の話で済む内容ではありませんね。
当然、安倍政権は直接トランプ大統領に確認すればいい話です。
ロイターも買収されていると思って間違いないですね。
確かにそうですね、もう確認しているでしょう、トランプやボルトンさんに。願っています「何それ、聞いてない、止めさせる、そのままでOKよ」と。
確か5?6?月に N.TやW.S.Jが源?らしいボルトン解任の報道もありました(JBプレス)し、米国の情報もそのまま信ずることが出来なくなってきました。
商務長官、ボルトンさん、何とか国務省次官補?の発言等、更には韓国がWTO絡みで3.5億ドル米国から補償される件も考えれば、せいぜい、やんわりとした提案のレベルなのでは。(無いに越したことは無いのですが、願いも込めて)
でも、米もいい加減にしてくれませんかね、ゴチャゴチャの大元は自分ですよ。忘れてもらっては困るんですよ、責任。日本人にいつまで付き合えと言うんですか、何重かわからないが超多重人格の気狂いと。
しかし、万が一を考えて、首相官邸へお願いをしました、頓挫することなく継続してくださいと。
以上、もやもやした思いでした。
日本政府がアメリカ政府に確認してその「高官」をきちんと追求してほしいですね。トランプさんもフェイクニュースはお嫌いのようですから犯人探しをしてくれるでしょう。本来ならロイターの韓国系記者が確認すべきことですよね。
更新記事が出ました。
米政府 日韓両政府に争いの一時休止促す ロイター通信
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190731/k10012015161000.html
>米 ロス商務長官「取り扱いは日韓2国間で」
一方、アメリカのロス商務長官は30日、ブラジルで記者会見し、日本が韓国に対する輸出管理を厳しくした措置について、日本と韓国の2国間で取り扱うもので、アメリカの問題ではないという考えを示しました。
ロイター記者の”飛ばし記事”ですね、必要な部分を抜粋、不利な事実を無視。
>日本が韓国に対する輸出管理を厳しくした措置について、日本と韓国の2国間で取り扱うもので、アメリカの問題ではないという考えを示しました。
上記部分が無視された部分ですね。
ロイターはやはり買収されていますね。
日米ともにマスコミの劣化が止まりません。
ここは冷静に真実を見ることが大切だと思います。
8月1日(明日)になれば、記事の信憑性は確認できます。
8月2日になれば、閣議決定が行われるかどうか分かります。
3者協議が行われ、閣議決定が延期せれれば記事の通りの
流れと云うこと。過去の様に譲歩して自然消滅でしょう。
その場合、韓国は何を米国に約束したのかが興味深いところです。
記事の真贋を確認する術として、その背景(理由、根拠)はなにか。を押さえることだと存じます。
今回報道されたアメリカの動きが本当であれば、その理由はなにか。
私はGSOMIAのことぐらいしか、思いつきません。
日本にとってGSOMIAは、対韓国という観点では、ほとんど意味がないと存じます。情報を与えるだけの関係なので。がしかし、別稿でも申し上げましたが、GSOMIAは、日韓政府でどうこうする問題ではありません。
実質は、対北朝鮮(対中国)で、在韓米軍とバックアップする在日米軍が情報共有するツールです。
それを破棄することイコール、同盟破棄に繋がる行為です。だから、日本側からは絶対に破棄は言わない。
文在寅政権は、次々と各国から加えられる攻撃に、”窮鼠”状態となり、無思慮にGSOMIAに言及してしまいました。
がしかし、すぐに軍関係から待ったが入ったのだろうと思います。実にかっこの悪いしぼみ方をしています。
このような状況で、GSOMIAが日韓にアメリカが介入する根拠は薄い。
であれば、何か?この報道が正しいものであるならですが。
鈴置氏の論考によれば、アメリカの本尊、トランプ政権は、北朝鮮の核廃棄と日韓同盟解消を隠さなくなっているそうです。難しい。報道の根拠が見つかりません。
御投稿お疲れ様です。
個人的には記事の信憑性は置いといて、南には瀕死でギリギリ生きていて欲しいんですけどね。
扱いやすい敵がいた方が国政もやりやすいでしょうし、北は死に体過ぎるのと、ミサイルだけだと何故か一般的な方々の反応鈍いですので(コレもおかしな話ですが)
まだ元気に騒いでくれる南の方が、分かりやすい敵として世論を動かしやすい気がするんですよね。
NHKも飛ばし記事!、いい加減にしてほしいですね。
ある高官⇒米国政府との記述、NHKは完全に敵です!
税金返せと言いたいですね。
N国党の言っている通りNHKは完全に電通に乗っ取られている説に妙に説得力がありますね。
確かに何の証拠もないですが、電通乗っ取り説だと今起っている多くの異常な現象に大方説明もつくのも確か。「何の根拠もない間抜けな陰謀論だ!」と簡単に切って捨てられないものがあります。
空心配のようで、少し落ちついているところです。
ただ、あいも変わらずNHK、昨日はtelで朝鮮人まで言って聞いたのに。
news責任者が目の前にいれば、言葉が荒くなり、手が出て、警察沙汰になります。NHK data放送のnews、12/48〜13/08時点での韓国関連記事。
上位から、ポンペイさんの関係改善促す ー※韓国議員団日本へ出発ー官房長のロイター記事否定ー※韓国官民協議会がどうのこうのーロイター通信となっています。
ページ数は、官房長記事が3ページ、他は、4ページ〜6ページ。
※の記事、特に後の※の記事どうでもいい、韓国の中がどうのこうの全く不要。
何んで、官房長の記事が※記事の後。
IT無ければ、何を信ずれば。
以上
更新ありがとうございます。
このロイター発、マユツバ物ではないですが、米国政府を代表した発言とは到底思えません。政府高官って誰だ?
ポンペオ氏が河野外務大臣、コウ長官と会うらしいが、三者会談をするとも、この事項について仲裁するとも、ニュースは入ってません。(韓国ニュースは期待値のみなので無視)。
ロス長官「日韓の問題は、日韓二国で考えるべき問題だ。米国は中には入らない」とブラジルで述べてます。いろいろな考え方の米国議員やスタッフがいるんでしょうね。
もしも日本が譲歩することがあれば、今の国民の民意から言って、政権持たないですよ。どんな卑劣な悪辣な手を使われてても、韓国に負けるなッ。ホワイト国から韓国を外せ!と願います。
本当にこれがアメリカ政府の方針ならこの謎の「米政府高官」も匿名で発言する必要がないんですよね。どんな続報がでるかを注意深く見ていきたいところです