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瀬取り監視活動と韓国政府の「レーダー照射宣言」の危うさ

昨年の韓国によるレーダー照射問題の続報が思わぬ形で波紋を広げています。韓国軍は米軍機以外の軍用機が韓国軍艦に近付くとレーダーを照射するという、正気の沙汰とは思えない新基準を策定していたそうです。しかも、これに対する韓国政府側の説明が二転三転するなどしています。折しも北朝鮮の瀬取り監視を巡り、日本だけでなく英米仏加豪などの軍用機が朝鮮半島近海に出現することが見込まれる中、こうした新指針の怖さとは、偶発的な戦争につながりかねない点にあるのではないでしょうか。

レーダー照射警告

信じられない指針

昨年12月20日に発生したとされる、韓国海軍駆逐艦による日本の海自P1哨戒機に対するレーダー照射事件が、ここにきて再び注目を集めているようです。

国防部「哨戒機が近接すれば軍事的措置」日本に説明していた(2019-04-23 07:32付 ハンギョレ新聞日本語版より)
自衛隊標的か?韓国海軍が“異常指針” 艦艇に近付けばレーダー照射で警告 識者「軍事常識からして『正気の沙汰』ではない」 (1/3ページ)(2019.4.23付 zakzakより)
日本側の報道で韓日哨戒機問題第2ラウンド(2019年04月23日06時55分付 中央日報日本語版より)

事件の概要は、こうです。

昨日、読売新聞オンラインに掲載された『レーダー照射警告の韓国軍新指針、安保協力に影』(※ただし、会員限定記事のため、読売新聞オンラインの会員以外は閲覧不可)という記事で、次のような内容が報じられました(※報道内容自体はハンギョレ新聞、中央日報を参照)。

  • 韓国が決めた新指針によると、韓国海軍艦艇から3カイリ以内に接近した場合は火器管制レーダーの照射を警告することにした
  • この指針は米国を除くすべての国家に適用されるとし、日韓関係が悪化する中で韓国が日本に対して強硬な姿勢を強調するために取った措置と見られる
  • 日本政府は11日、両国軍当局実務会議で「友好国に対する過度な軍事措置を撤回すべき」と要求したが、韓国は応じない立場を明らかにした

迷走する韓国政府の説明

しかも、これに対する韓国政府側の説明がちぐはぐです。

ハンギョレ新聞によれば、昨日午前中、韓国政府は「(このような)対応マニュアルを(日本側に)通知したことはない」と述べていたのですが、その約3時間後にはこの説明を撤回し、「(日本政府には)軍事的措置と基調を説明した」と述べたのだそうです。

また、中央日報によれば、この読売報道を受け、韓国政府関係者は22日午後、メディアに対し、

1月23日に在韓日本大使館の武官を呼び、『日本軍用機が3カイリ(約5.5キロ)以内に接近する場合、わが艦艇と乗務員の安全を保護するために追跡レーダーを照射する前に警告通信を送る可能性がある』という趣旨で強く警告した

という事実を認めたとのことであり、夕刊フジ(zakzak)も、同紙の取材に対して防衛省幹部が22日朝、

「(同日の読売新聞の)報道内容は正しい。その通りだ。許しがたいことに、韓国が一方的に通告してきた。でも、こちら(=防衛省・自衛隊)は絶対に認めない。当たり前のことだ

と言い切った、などと述べています。

本質的な問題

この指針の何が問題なのか

事実関係を簡単に振り返っておきましょう。

まず、日本政府は昨年12月21日、「前日の午後3時ごろ、石川県能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で韓国海軍駆逐艦が日本の海自P1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した」と発表しました。

これに対して韓国政府は、当初は「悪天候のため、艦に搭載していたすべてのレーダーを稼働していたに過ぎない」などと反論していたのですが、いわば、「行方不明になった北朝鮮の漁船を捜索している際にたまたまP1哨戒機に火器管制レーダーが当たった」とでも言いたかったのではないかと思います。

ただ、日本政府が12月28日に当時の哨戒機から撮影した動画を『YouTube』に投稿した前後から、韓国政府側は「むしろ日本の海自哨戒機が低空威嚇飛行をしてきた」と主張するようになります。

実際、年が明けて1月4日に韓国政府が『YouTube』にアップロードした動画日本語版もあり)では、「日本はわが国の軍艦の上を低空威嚇飛行をした」と批判しており、いわば、レーダー照射の事実を頑として認めずに、むしろ日本に謝罪を促す戦術に転じたと見て良いでしょう。

その後も日韓両国はレーダー照射問題を巡り非公式協議を続けたのですが、最終的には日本側は「最終見解」を公表し、1月21日には韓国との協議を打ち切ってしまいます(『【速報】レーダー照射事件巡り、防衛省が「最終見解」を公表』参照)。

これを踏まえて先ほどの一連の記事を眺めると、韓国政府が「日本の哨戒機が近づいたら火器管制レーダーを照射する」と警告した日付(1月23日)は、日本政府が協議打ち切りを発表した2日後でもある、という点に気付くでしょう。

ウソ・ごまかしの上塗りが窮地を招く

当たり前の話ですが、外国の哨戒機などに対して火器管制レーダーを照射するというのは、きわめて危険な準戦闘行為であり、国や状況によっては、それだけで戦争が始まってもおかしくありません。

(※私自身などはむしろ、レーダー照射が行われた現場で、韓国の海軍と海上警察当局が何をやっていたのかという点に強い関心を持っているのですが、この論点については本稿では割愛します。)

そして、日本政府は韓国側がレーダー照射を行ったことに関する多数の証拠を公表していますし、韓国政府側の本件を巡る説明は素人目にも支離滅裂です。

この2点より、少なくとも私自身は韓国軍が日本のP1哨戒機に対して火器管制レーダーを当てたことについては間違いないと考えているのですが、問題はそれにとどまりません。

普段から当ウェブサイトでも申し上げているとおり、韓国という国は、自分たちが100%悪いときには、「お互い反省すべき点がある」などと述べ、強引にイーブンに持ち込もうとする悪い癖があります。

今回の「低空威嚇飛行」主張もこれと同じで、いわば、国際社会から見て、自分たちが明らかに100%悪いからこそ、強引に「日本が低空威嚇飛行を行った」という虚構を事実にしようとしている、というのが実情に近いのではないでしょうか。

そして、「日本が低空威嚇飛行を行ったことが問題だ」と言い張るあまり、「今後は韓国の軍艦に日本の哨戒機が近づいて来れば火器管制レーダーを照射する(つまり攻撃を仕掛ける)」と述べたことは、解釈を間違えれば韓国による日本に対する宣戦布告だと受け止められかねません。

瀬取り監視の強化から対韓攻撃へ?

問題はそれだけではありません。

「宣戦布告」という意味では、日本に対するものだけでなく、日本以外の諸外国に対しても宣言したようなものになってしまっています。

折しも昨日、当ウェブサイトの『【速報】徴用工問題と瀬取り問題巡る重要な報道記事の紹介』で取り上げたとおり、河野太郎外相は英フィナンシャル・タイムス紙(FT)に対し、対北朝鮮制裁は「抜け穴だらけだ」と述べたところです。

こうしたなか、以前、『北朝鮮「瀬取り」 国際社会の対応主導する日本、逃げる韓国』でも紹介しましたが、日本は具体的に米国を筆頭に、英国、フランス、オーストラリア、カナダ、インドなどとも防衛協力を強化しており、これらの国の中には、瀬取りの監視活動に協力してくれる国もあります。

言い換えれば、日本海や東シナ海などを中心に、北朝鮮制裁を逃れる目的で横行している瀬取りを、今後、日本は米英豪加などの国際社会と連携して、こうした瀬取りの監視活動を強化することが期待されている状況にあります。

こうしたなか、もし韓国軍が「米軍以外の軍用機が韓国の軍艦に3海里以上近付けばレーダーを照射する」という指針を運用し始めれば、日本の自衛隊以外の軍用機(たとえば英国やフランスの軍用機)に対しても火器管制レーダーを当てる、という宣言でもあります。

素人の国・韓国

ところで、現在の韓国政府のさまざまな行動を見ていると、明らかに素人が運営しているのではないかと思しき危うさがあります。

「米軍機以外の軍用機に対し、韓国軍艦から3海里以内に近付いたら火器管制レーダーを照射する」という基準は、正直、正気の沙汰とは思えませんが、もともとは「ウソにウソを上塗りする」という行動から出たものであるに違いありません。

つまり、単に「日本に対して警告する」というだけの目的で基準を策定しただけの状態だと、正直、あまり問題にはならないのですが、こうやって大々的に報じられてしまった以上、今後、韓国軍はメンツにかけてでも、このルールを強引に運用しようとする可能性があります。

そうなれば、日本の自衛隊以外の軍用機に対しても火器管制レーダーを当てれば、それこそ韓国が宣戦布告されても文句は言えないと思います。

個人的には、韓国が滅亡しようがなにしようが関係ないのですが、日本を巻き込まないでほしい、というのが正直な気持ちなのです。

新宿会計士:

View Comments (29)

  •  各国の哨戒機が日本海に展開することになってました。今後もこのような事が何度もあるかと思います。
     
     https://trafficnews.jp/post/81614

     ところで、韓国軍は米国を除く全ての国の軍用機に火器管制レーダーを使用するとしていますが得意の嘘です。恐らく、他の国の軍用機には「脅威に感じなかった」でスルーでしょう。小生ミリオタではないのではっきりとは言えませんが、レーダー照射事件の後韓国側が威嚇飛行を主張した際の自衛隊がとった飛行高度やルートは恐らく各国の軍隊でも使用されていると思います。各国の持つ哨戒機がP-3というほぼ同一機種で構成されているため、速度等が同じだとすると同じような飛行をすると考えられます。勿論電子機器やその他の装備の違いはあるかも知れませんが・・・。

     他国の哨戒機は日本の哨戒機とペアで韓国艦艇に接近飛行してもらいたいものです(ペアは正常な哨戒機の運用とは違うような気がしますが・・・)。これだけ大見えを切って発表したのに、実際に他国の軍用機には何もできない韓国海軍のヘタレっぷりを世界に示して欲しいですね。
     
     駄文にて失礼します

    • 韓国在住日本人さんなのであえてハングルの記事を紹介します。

      http://monthly.chosun.com/client/news/viw.asp?ctcd=G&nNewsNumb=201308100011

      まあGoogle翻訳でも十分理解可能なんですが。

      >レーダー照射事件の後韓国側が威嚇飛行を主張した際の自衛隊がとった飛行高度やルートは恐らく各国の軍隊でも使用されていると思います。
      >各国の持つ哨戒機がP-3というほぼ同一機種で構成されているため、速度等が同じだとすると同じような飛行をすると考えられます。

      これの答えが全て載っていますwww

    • ・平気でウソをつくがハッタリである
      ・「ウソも通ればめっけもの」の世界である

      彼らの習性はかように周知されつつある

  • 乗り物ニュース
    2019.01.08 関 賢太郎(航空軍事評論家)

    哨戒機は普通、監視対象にどれくらい近づくものなの?
    https://trafficnews.jp/post/82564/2

    >たとえば韓国海軍は、P-1哨戒機とほぼ同様の運用をしているP-3哨戒機を保有していますが、韓国メディア「月刊朝鮮」の記者が2013年7月10日にこのP-3へ搭乗取材した記事によると、「目視識別のために高度を100mまで下げた」「外国の艦艇監視のため高度60mで接近飛行する」とあり、韓国海軍の哨戒機部隊自身が外国の艦艇に対して、今回の事件におけるP-1よりもはるかに低い高度を飛んでいることが分かります。
    *****

    低空威嚇飛行の言いがかりは、自分たちがやっているから「日本も同じことをしているはず」との思い込み。

    3カイリでのレーダー照射の運用は、「無差別な宣戦布告行為」でしかないと思います。

    「米国以外の国を対象に運用する」とは、『米国以外は同盟国ではない』と宣言したも同じだと考えるからです。

  • >ウソ・ごまかしの上塗りが窮地を招く

    この点については少々の異論があります。

    このブログの投稿で見かけて同意するところなのですが、韓国人は嘘をつくことも、嘘がバレることも悪いことだとは思っていません。

    ですから、永遠に嘘の上塗りを続けます。
    日本相手なら、なおさらです。

    嘘をつくのは問題ないが、嘘がバレるのはマズいことだと認識している中国人とは違います。

    韓国人からしたら、こんなことは日常であって大したことだとは思っていないでしょう。

    ところで、徴用工に関して面白い記事がありました。
    http://news.livedoor.com/article/detail/16348317/

    この記事を読むと、現在の徴用工問題の状況は、慰安婦問題の初期に似ていますね。

    矛盾を次々に指摘されて自称慰安婦の証言内容が変わっていったのですが、結局、国際社会からは二転三転した証言が受け入れられてしまいました。

    今度こそ、何とかしたいものです。

    上記の記事も、英語での発信が必要かな・・・
    日本国内だけで発信しても意味ないかも・・・

  • 政府は公式の対応方針を内外にアピールする必要があると思う。このあたりの徹底さがどうも欠けているような気がする。防衛大臣はそろそろ交代したらどうだろうか?岩屋氏も疲れているはず。

  • この期に及んで まだ行動を起こさないのでは
    安倍政権は 自衛隊員に死人が出るのを待っていると言われても仕方がないだろう。

  • 正気の沙汰とは思えませんが、恐らくは日本の自衛隊以外には適用しないのでしょう。
    自衛隊には火器管制レーダーを照射しても実害ないからです。
    深刻な害がでないギリギリのラインを見極めて無茶を主張する才能には溢れた国です。
    北朝鮮と同族なだけはあります。

  • 読売の記事(日本政府のリークと思いますが)は、韓国に対する踏み絵でしょうね

    韓国船による瀬取りが公になったところで、韓国の過去の言い訳を蒸し返して、
    本当に反省しているかの、日米が仕掛けたリトマス試験紙でしょ

    だから、最初は、言ってないことにしてウヤムヤにしたかったけど、
    結局は、強硬派が勝って、反日(=反米)を貫くことにした
    いくら同盟国である米国には照射しないといっても、瀬取り監視自体が、
    アメリカによるイニシアティブなので、反米は明らか

    ボクから見るといままでの戦略が破綻しているんだから、考え直せばよさそうなものだけど

    とにかく文は逸材ですね

  • >日本軍用機が3カイリ(約5.5キロ)以内に接近する場合、わが艦艇と乗務員の安全を保護するために追跡レーダーを照射する前に警告通信を送る可能性がある

    えーと、たしか、そもそも、通常の通信も怠ったり、照射後の問い合わせも拒否したから起きた事件じゃ無かったっけw
    あいかわらず事実のすり替えをスムーズに行おうとする連中だな・・・。

    • ちなみにP-1に搭載可能な、ASMは

      91式空対艦誘導弾(ASM-1C) 公称射程 150km
      ハープーン(AGM-84)      射程:124km以上

      ですので、軍事的に3マイルの接近拒否には、まったくもって何の意味もありません。
      逆に近づくというのは害意がない振る舞いなんですが・・・。

  • もし、日本の自衛隊機と間違えて、英仏豪機のいずれかにレーザー照射しちゃったら、どうするんですかね。
    というか、そもそも、根本的な問題として瀬取り現場を押さえられたら、どんな嘘や言い訳をするのかしら。
    セカンダリーサンクション対象となるのが、一国の政府や軍の場合、制裁内容はどうなるのかしら。

    トランプ大統領は、金剛山観光と開城工業団地にノーと言い、制裁解除はありえないと、報道陣の前で、文在寅さんに、ハッキリと言い渡しました。
    しかし、文在寅さんは、制裁違反を続けると思います。文在寅さんには、それのどこが悪いのかが基本判らないのだと思います。トランプ大統領がダメだといっているが、見つからなければいいのだと。

  • >この指針は米国を除くすべての国家に適用されるとし

    実際は日本のみを対象とすると思うが、自衛隊から英仏加豪軍に「韓国軍にレーダー照射される可能性があるから各国注意してください」とちゃんとアナウンスしているのだろうか?

    これだけでも韓国の異常性が伝わると思うのだが。

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