「外交に関する世論調査」2018年最新版レビュー

先週金曜日に『外交に関する世論調査』の最新版が公表されました。米国、ロシア、中国、韓国に対する日本国民の親近感を眺めていると、ある意味で私自身の予想通りの結果となっており、やや尊大な言い方かもしれませんが、「日本国民の見識が示された結果だ」と表現することもできるかもしれません。本稿では今年版の調査結果について、「相手国に親しみを感じるかどうか」という観点に絞って、ざっとレビューしておきたいと思います。

お詫びと訂正(2018/12/26 16:15付追記)

マロンP」様からのご指摘にありましたとおり、図表2のグラフに誤りがあり、「どちらかというと親しみを感じない」、「親しみを感じない」が逆転しておりました。「マロンP」様には御礼申し上げますとともに、読者の皆様にはご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。

今年版の「外交に関する世論調査」レビュー

内閣府のウェブサイトに、先週金曜日付で、『外交に関する世論調査』の最新版が公表されています。

外交に関する世論調査(平成30年10月)(2018/12/21付 内閣府HPより)

これは、調査の対象者に対し、国・地域の名前(アメリカ合衆国、ロシア連邦、中国、韓国の4ヵ国に加え、毎年変わるその他の複数の国・地域)を挙げてそこに対して「親しみを感じるかどうか」、「日本との関係は良好と思うかどうか」などについて尋ねるものです。

こうしたなか、『外交に関する世論調査』をめぐって、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』としてもっとも注目している論点は、日本国民が相手国に対し、親しみを抱いているか、抱いていないか、という論点です。

とくに、急速に悪化する韓国との関係で、日本国民が韓国に対してどういう感情を抱いているのか、という論点については、実に興味深い点でもあります。

といっても、調査実施時期が今年の10月18日から28日の期間だったため、私が注目していた韓国に対する国民感情が「徴用工判決」や「慰安婦財団解散」、「レーダー照射事件」などによってどう変化したかについてを知ることはできません。

ただ、ほぼ同一の方法で定点観測的に国別に調査を実施すること自体は有意義であり、また、現在のタイミングでこれについて簡単に触れておく価値は十分にあるといえるでしょう。

なお、調査の概要については内閣府HPの『調査の概要』に記載されていますので、注意点についてはそちらをご参照頂きたいと思います。また、当ウェブサイトでは質問項目の一部しか紹介しておりませんので、調査の全容については知りたい方は、ぜひ、内閣府HPをご参照ください。

安定のアメリカ合衆国:「親しみを感じる」

当ウェブサイトでは、「親しみを感じる」、「どちらかというと親しみを感じる」の2つの回答を「親しみを感じる」、「親しみを感じない」、「どちらかというと親しみを感じない」の2つの回答を「親しみを感じない」に集計して、単純化してみました。

その結果が、図表1のとおりです。

図表1 2018年10月時点において、米露中韓4ヵ国に日本国民は親しみを…
相手国感じる(%)感じない(%)
米国75.522.4
ロシア22.271.9
中国20.876.4
韓国39.458

(【出所】『外交に関する世論調査』より著者作成)

ついでに「親しみを感じる」「親しみを感じない」の詳細についても、わかりやすくグラフ化しておきましょう(図表2)。

図表2 親しみに関する内訳グラフ

(【出所】『外交に関する世論調査』より著者作成)

これを見ると、日本人の4ヵ国に対する親しみは、

米国>(越えられない壁)>韓国>ロシア>中国

といった状況にあると考えて間違いないでしょう。

ちなみに、米国に対して「親しみを感じる」と答えた人の割合は75.5%(「親しみを感じる」33.5%、「どちらかといえば親しみを感じる」42%)で、前年の78.4%(35.6%+42.9%)と比べるとやや低下しています。

しかし、長いタームで見ると、日本国民の親米感情は一貫して7~8割程度で推移しており、かたや、反米感情の割合は10%台か、多くても30%に届いたことはない、ということをうかがい知ることができるでしょう(図表3)。

図表3 日本人はアメリカに対して親しみを感じているか?

(【出所】『外交に関する世論調査』より著者作成)

ロシア、中国に対する悪感情

一方で、非常にわかりやすいのがロシアに対する感情です(図表4)。

図表4 日本人はロシアに対して親しみを感じているか?

(【出所】『外交に関する世論調査』より著者作成)

ロシア(1991年までは「ソ連」)に対する日本国民の感情は一貫して悪く、一番好転した1990年前後においてさえ、親露感情は40%に届きませんでした。

今年の調査ではロシアに対して親しみを感じる人の割合は22.2%(1.4%+20.8%)で、昨年の28.7%(1.6%+27.1%)から低下していますが、「良くなったり悪くなったり」の波を繰り返す中で、安定的に悪感情が続いていると言って良いでしょう。

これに対し、中国に対する感情には、また違った特徴があります(図表5)。

図表5 日本人は中国に対して親しみを感じているか?

(【出所】『外交に関する世論調査』より著者作成)

調査が始まった1978年頃、中国に対して親しみを感じている人の割合は6割を超えていました。日中国交正常化、上野動物園へのパンダの貸与など、日中友好ムードを受けた要因が大きかったのでしょうか?

ただ、天安門事件のためでしょうか、日本が平成に入った直後から中国に対する親近感が急落。親近感と不信感が拮抗する状態が15年ほど続いたのですが、2004年から2005年に掛けて、いきなり「親中派」と「反中派」が逆転。

その後、現在に至るまで、「中国に親しみを感じる人」の割合が「親しみを感じない人」の割合を上回ることはありません。

といっても、2005年や2012年の反日デモ、2010年の尖閣諸島沖漁船衝突事故や日本人拘束、さらには中国の海洋進出や領海侵犯の常態化などを見ると、中国を「好きになれ」という方が無理な気がするのは私だけではない気がしますが…。

この期に及んで韓国に親しみ抱く?

ただ、この調査を見る中で、私がいつも疑問に感じるのが、韓国に対する親近感です(図表6)。

図表6 日本人は韓国に対して親しみを感じているか?

(【出所】『外交に関する世論調査』より著者作成)

ヒトコトでいえば、愛憎半ばする関係、といったところでしょうか。

調査が開始された直後から、日本国民の間で韓国に親しみを感じる人、感じない人の割合が、しばしば逆転しつつも、ほぼ拮抗して来たことが、非常によくわかると思います。

小渕恵三元首相と金大中(きん・だいちゅう)元大統領が東京で「日韓共同宣言」に署名したのは、今から20年前の1998年10月のことですが、それ以降は「親しみを感じる」割合が「親しみを感じない」割合を大きく上回ることもありました。

しかし、これは私自身もハッキリ覚えているのですが、2012年8月、李明博(り・めいはく)大統領(当時)が島根県竹島に不法上陸し、天皇陛下を侮辱する発言を行ったことで、私の周囲にいた人たちも韓国に対しては激怒。

野田佳彦首相(当時)にとっては、前年10月に日韓通貨スワップ協定を700億ドル相当額にまで拡大するという恩を売ったにも関わらず、完全にメンツをつぶされた格好になったと思います。

その後、日本人の対韓感情は最悪時には「親しみを感じない」と答えた割合が7割近くにも達しましたが、近年はやや落ち着き、今年に関しては58%(31%+27%)と、6割を割り込んでいる状況にあります。

ただし、この調査自体、10月30日の韓国大法院(※最高裁に相当)による「徴用工判決」や、今月のレーダー照射事件などを反映していません。

今この瞬間、同じ調査を行えば、どの程度の割合が韓国に「親しみを感じない」と答えるのか、少し知りたい気がするのは私だけではないと思います。

外交も結局、人間関係の延長

さて、この「外交に関する世論調査」、当ウェブサイトとしてもかなり以前から追いかけているテーマの1つなのですが、やはり定点観測にはそれなりの意味があると思います。ちょっとした変化から、世の中が変わる兆候を発見することができることもあるからです。

何より、外交といえば「外務省の専門家が何やら難しいやりとりをする、どこか遠い世界のこと」と考えている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

貿易にせよ、投資にせよ、領土の問題にせよ、ビザの問題にせよ、私たちの生活と安全に直結する重要な課題ばかりですし、何より、国もしょせんは人の集まりである以上、外交関係も人間関係の延長で理解すべきだからです。

人間関係では、他人同士が仲良くなるためには、何といっても「ウマが合う」(価値観が合う)ことが必要だと思いますが、ウマが合わない相手であっても利害関係が一致すればお付き合いしなければなりません。つまり、国同士が仲良くなれるかどうかは、

  • 基本的価値を共有しているかどうか
  • 戦略的利益を共有しているかどうか

という2つの軸から判断することが基本でしょう。

日本と米国は遠く離れていますが、投資、貿易などの関係に加え、文化面でも密接なつながりを持っています。何より、基本的な価値観(自由主義、民主主義、積極的平和主義、人権尊重、法治主義など)が合致していますし、利益も共有しています。

日本にとって米国がもっとも重要な相手国であることは論をまたないと思いますが、世論調査の結果でも親米感情が極めて高いことは、一種の日本国民としての見識ではないかと思います。

その意味で、私が現時点で考えている、「日本が仲良くすべき国、そうでない国」を整理しておくと、図表7のとおりです。

図表7 価値と利益の同盟
 利益を共有する利益を共有しない
基本的価値を共有する米国、英国、豪州、NZ、台湾、インド、ASEAN諸国の一部、欧州連合(EU)の一部EUの一部(例:ドイツやギリシャ)
基本的価値を共有しない中国、ロシア、ASEAN諸国の一部韓国、北朝鮮

(【出所】著者作成)

もちろん、この図表7の考え方は私個人の持論に基づくものであり、これが一般的だと決めつけるつもりはありません。ただし、あらゆる国との関係を考える上では、「価値」「利益」という2つの軸での整理は必要だと思うのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. ヘイジ より:

    新宿会計士さんへ

    私も新宿会計士さんと全く同じ意見です。

    •基本的価値を共有しているかどうか
    •戦略的利益を共有しているかどうか

    を好き嫌いの感情は横に置いて判断しなければなりませんね。( ´ ▽ ` )ノ

  2. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < なんじゃ?このアンケートの結果は?!「韓国に親しみを感じる」40%、「韓国に親しみを感じない」60%、、、数値を操作したのか?(笑)
    ま、10月実施ならこんなもんかな。今なら、もっと差がついてたでしょうね。私のカンから言えば90%ー10%かと。

    < 長いスパンで見ると、毀誉褒貶が激しいのは中国ですね。国交樹立後右肩上がりだったのに、今や「好感を持たない」人の方が多い。当然です。なんも無い頃はペコペコしてたのに、低賃金と人口だけでのし上がって来た。

    < 世界のモノの価値、価格破壊をやった。決していい意味では言ってません。シナのやる事は、我がの勝手だけ。

    < ロシアは従来、社会主義で分かりにくい国家でしたが、好感度は上がってますね。モノカルチャーだから、いずれぶっ壊れたら、もっと好きな人が増えると思う。

    < 米国は安定、順調。このままで結構ですよ、ハイ(笑)。

  3. マロンP より:

    一般ののグラフと凡例の並びが異なるので原典にあたったのですが、「親しみを感じない」と「どちらかというと親しみを感じない」について凡例の色が異なっているようです。

    1. 新宿会計士 より:

      マロンP 様

      いつもコメントありがとうございます。また、ご指摘を賜り、大変ありがとうございました。
      調べたところ、ご指摘通り「親しみを感じない」と「どちらかというと親しみを感じない」が入れ替わっていましたので、グラフ自体をもっとわかりやすいものに差し替えたいと思います。
      非常に助かります。

      引き続きのご愛読とお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

  4. りちゃ より:

    Wikipediaの【親日派】
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%AA%E6%97%A5%E6%B4%BE
    ここを読むと100%の人が韓国政府が大嫌いになるでしょう。

  5. 774 より:

    「この期に及んで」など余計な作者の主観的主張は不要です。
    それこそ貿易文化面で日本と韓国はアメリカと同じように密接に交流してますよ。
    日本の貿易相手国ランキングで韓国はずっとアメリカ中国に次いで3位ですから。
    その理屈を借りるなら単に日本人が無知で見識がないってことになるのでは?

    あとスマホからだと図7が完全に見えません。

    1. りょうちん より:

      >あとスマホからだと図7が完全に見えません。

      ただのtableタグなので、スマホ側の問題だと思います。
      ブラウザの拡大率を調整するなりで対応するしかないと思います。

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