【夕刊】AIIBと中国に開発援助の資格はあるのか?
最近、AIIBや一帯一路構想など、中国が主導する国際金融協力に関する話題を見かけることが増えています。これについて、少し気になった記事がありましたので、コメントしておきたいと思います。
目次
鳴かず飛ばずのAIIB
中国が主導する国際開発銀行である「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を巡っては、当ウェブサイトでも以前から関心を払っており、定期的に状況のアップデートをしています。
今年4月に執筆した『AIIBの現状整理・2018年4月版』の内容をベースに、AIIBの現状を簡単に振り返っておきましょう。
まず、「出資国数」という問題があります。AIIBによれば、出資を約束した国の数が84ヵ国(※4月3日時点)に達していて、同じアジアの国際開発銀行である「アジア開発銀行」(ADB)の出資国数(67ヵ国)を大きく上回っている、としていますし、日本のメディアもそう報じています。
しかし、現実にはこの「84ヵ国」とは「出資を約束した国」であって、実際に出資している国はこれより少ない64ヵ国に過ぎません。「出資を約束した状態」で「出資国」と取り扱うあたり、やはりAIIBは「アジア・インチキ・イカサマ銀行」の略ではないかと思わざるを得ません。
また、昨年9月末時点で出資金の総額は約186億ドルですが、このうち実際に融資されている金額は6億ドル少々、つまり出資金の約3%に過ぎません。残りは定期預金や売買目的金融商品、あるいは加盟国からの払込金債権などで構成されているという惨状です。
これに対してADBは資本が480億ドル、発行済の債券などが1086億ドルで、融資残高は約946億ドルに達しています。これだけで比べてみても、AIIBは「鳴かず飛ばず」の惨状にあると考えて良いでしょう。
そういえば、AIIBの融資にあたり、今から約3年前には、人民元の利用を中国が働きかけるとの報道もありました。
AIIB融資、人民元の利用を中国が働き掛けへ=香港紙(2015年4月15日 12:07付 ロイターより)
しかし、少なくとも現時点で見る限りは、AIIBの融資は全て米ドル建てであり、人民元建てのものはないようです。この点からも、AIIBが当初の中国のもくろみ通りには成功していないように思えてなりません。
中国流のインフラ開発
NBOのレポート
さて、私は日経ビジネスオンライン(NBO)というウェブサイトをときどきチェックするのですが、本日、少し気になる記事を発見しました。
中国、「一帯一路」沿線住民の不安(2018年6月28日付 日経ビジネスオンラインより)
記事を執筆したのは、日経ビジネスの飯山辰之介記者です。記事のサブタイトルには『記者が各国を歩いてわかったこと』とありますので、飯山さんは実際に記事を書くにあたって各国を歩いた、ということでしょうか。
リンク先記事はウェブページ換算で2ページであり、NBOの記事の中では短い方ですが、ヒトコトでいうならば、「非常に良くまとまっていて、読みやすい記事」です。それは、カンボジアやスリランカなど、インフラが不足している国と中国との関係を、「各国を歩いた目線から」触れているからです。飯山記者は、
「港や空港、高速道路に高速鉄道といった莫大なコストが掛かるインフラが不足している国・地域にとって、投資を積極的に進める中国は渡りに船の存在だ。中国人観光客による「爆買い」によって経済が潤っている地域も多い。」
としつつも、彼らの全てが中国からの投資を、諸手を挙げて歓迎しているわけではないと指摘。スリランカ南部の港町・ハンバントタの住民による、
「いずれこの地域は『中国化』して、我々の文化も住まいも資源も根こそぎ奪われてしまうかもしれない」
という懸念の声を拾っています。
余談ですが、こうした声を拾うことこそ、ジャーナリストやメディアの記者の仕事だと思います。NBOによれば、飯山さんは2008年に日経BPに入社されたそうですが、新卒で入社されたのであれば、30代前半といったところでしょうか。そうだとしたら、まだお若いのに優れた記事を書く記者だと思います。
なぜ沿線住民は不安になるのか?
今回の飯山記者のレポートに出てくるのは、スリランカ南部にある「ハンバントタ港」です。
この港は昨年、99年にわたる運営権をスリランカ政府が中国企業に売却したことで注目されたものであり、中国側は「この港を軍事利用することはない」と明言しているのだそうですが、飯山記者はこれの言い分を「字義通りに受け取る向きは少ない」と指摘します。
それどころか、何と「最も港に近い検問所の警備員は自動小銃で武装している」のだそうです(下線部は引用者による加工)。まるで「遅れて来た植民地主義」のようなものを感じてしまうのは、私だけではないでしょう。
しかも「99年」といえば、英国が1898年に九龍半島の「新界」を租借地とした際の租借期限と同じです。中国は自分たちが列強(というか英国)からされたことと同じことを、アジア諸国に対して行っているのでしょうか?これだと地元住民が不安に思うのも当然です。
飯山記者は、中国が進めるプロジェクトについて、次のような問題を提起します。
「「政府なのか民間なのか、中国のインフラプロジェクトは誰が主体となっているのかはっきりしない場合が多い」。ある国の援助機関関係者は言う。プロジェクトを進める主体がはっきりしないということは、つまりその目的も、中国以外の関係者からすれば容易には把握できないということだ。」
この点については、以前から中国がアジアで進める「一帯一路構想」などのプロジェクト全般について言えることです。スリランカ南部のハンバントタ港のケースについても、経済合理性というよりはむしろ、中国にとっての軍事的な要衝という意味合いの方が大きいのではないか、という疑念は払拭できません。
中国に開発支援の資格はあるのか?
真珠の首飾り
もっといえば、このスリランカ南部の港湾にしても、本質は中国による「経済開発支援に名を借りた軍事侵略」ではないかとの疑いがあります。実際、中国が進めている構想をつないでいけば、インドを牽制する軍事拠点の輪っかができます。これを俗に「真珠の首飾り」と呼びます。
この「真珠の首飾り」構想について、最もよくまとまっている日本語の記事は、意外なことに、次の韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)のものです。
ジブチで現実化する中国初の海外軍事基地(2016-08-22 07:20付 ハンギョレ新聞日本語版より)
リンク先記事には地図が示されていて、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン、オマーン、イエメン、ジブチ、といった具合に、中国が開発支援を行っている地点が示されています。これをつないでいけば、たしかにインドを牽制する意味合いが出て来ます。
もちろん、中国の海軍には実戦経験もなく、艦隊も「カネだけ掛けたポンコツ」ではないかとの指摘もあるようですが、それでも中国の海外進出の意図を、甘く見るべきではありません。
開発支援の最大の問題点
一方で、先ほどのNBOの記事には、次のようなくだりがあります。
「日本を含む先進国による途上国への投資や援助については、その目的をはっきりさせ、双方を混在させないようにするのが一般的だ。だからたとえばJICA(国際協力機構)が、自国の貿易拡大を目的に融資を行うJBIC(国際協力銀行)と組んで事業を実施することはない。」
この下りからわかるとおり、むしろ日本がJBIC、JICA、ADBなどの機関をトータルに活用して国益を最大化させようとしないことは大きな問題ですが、それでも日本の場合は「相手国のため」という目的が最初に来ます。
さらには、日本が関与する国際的なインフラ支援事業などを巡っては、「当該国を含めた各国と広く情報共有」する仕組みが確立していますが、飯山記者によれば、中国は「こうしたルールを踏襲せず、援助機関の国際的な枠組みからも距離を取る」という、非常に問題のある態度を取ります。
中国が現在行っている行為とは、ずばり、「開発支援」に名を借りた、単なる侵略準備行為ではないでしょうか?いずれにせよ、中国に国際的な開発支援をする資格はあるのかと問われれば、そこは果てしなく疑問です。
中国の侵略に加担しないことが大事
いずれにせよ、『AIIBの現状整理・2018年4月版』でも主張したとおり、現在のところ、日本がAIIBに参加していないこと自体は、私としては評価したいと思います。しかし、それと同時に金融庁はAIIBに対して「ゼロ%リスク・ウェイト」の適用を早々に決定してしまいました。
金融庁の小役人に代表される日本政府の官僚・職員には、本当に日本の国益が見えていないのでしょう。余談ですが、私は金融庁の銀行自己資本比率告示を執筆した人間のことを、心の底から軽蔑したいと思います。
ただ、重要なことは、日本として「中国の侵略行為に加担しない」ということだと思います。特に、AIIBが債券を発行し、それに日本の銀行や生命保険、信用金庫などが投資するかどうかについては、当ウェブサイトとしても緊密に見守っていきたいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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読ませていただきました。ありがとう。今後も読ませていただきます。
個人名を出すのがまずい場合は削除ください。今の状況で、安倍首相が中国と交流しようとしているので気になり関係の論文等を読んでいました。管理人会計士さんの前にキャノングローバル戦略研究所の研究主幹が「中国は米中貿易戦争を回避しなければならない-安倍総理を中心に日本が米中関係改善に果たせる役割は大きい-」という小論を研究所のページに掲載してました。私による偏見の要点は、「日本を侵略するかもしれない中国だが困っているなら助けなければならない。日本も連関して貧困化するからだ」と、私によれば中国が経済的に困れば沖縄に北海道に侵略しないであろう、軍事拡張できないであろう。また米中研究職の彼が正しくて本邦も経済的に困窮するかもしれないが、日本はパクリのメッキの国ではない。焼け野原から回復したように青年たちが必ず勤勉努力をして復興するであろうと信じている。ならば痛みはあるが尖閣沖縄などへの侵略を受けチベット化するよりは貧乏を、高楊枝の武士を選択した方がよい。そんな思いで貴殿のご意見を読んでおりました。
時事通信の記事の問題点 参考になりました。