【速報】米朝首脳会談巡る「理論遊び」
北朝鮮の金正恩は、果たして本当にシンガポールに出掛けるのでしょうか?これについて、ちょっとした理論遊びとともに、考えておきたいと思います。
目次
北朝鮮と米国
金正恩撃墜プラン
一昨日、『【昼刊】ぶれまくりのトランプ氏に不安を感じる』という記事の後半で、日経ビジネスオンライン(NBO)に掲載された、鈴置高史・元日本経済新聞社編集委員の手による、次の記事を紹介したばかりです。
「暗殺」「猫なで声」で金正恩いぶし出すトランプ/シンガポールで米朝首脳会談は開かれるのか(2018年6月8日付 日経ビジネスオンラインより)
朝鮮半島問題に興味がある方であれば、必読の記事といえるでしょう。この記事には、現時点で36件のコメントが寄せられており、なかには「鈴置論」を公然と批判するコメントも散見されるものの、圧倒的多数が記事を支持するコメントです。
常々申し上げているとおり、私自身はこれまで、米国の目的が、とにかく金正恩(きん・しょうおん)をシンガポールまでおびき出すことにあると考えており、その部分に限定していえば、「新宿会計士説」は「鈴置説」と似ていたな、と自負しています。
ただし、鈴置元編集委員は、米国がいずれ、金正恩を排除するつもりではないかと指摘されているのですが、この点については私としては同意し辛い点です。というのも、米国が直接、北朝鮮に軍事侵攻して(あるいはスパイを送り込んで)金正恩を排除するためには、かなりの苦労が伴うからです。
この点については長い間、私は「鈴置説」に同意できなかったのですが、鈴置説ではもう1つ、非常に興味深い可能性が指摘されています。それは、
「シンガポールの米朝首脳が決裂した場合、米軍は会談後、金正恩を乗せた航空機を帰路で撃墜する」
というプランです。
実際、鈴置氏が指摘するとおり、F22ステルス戦闘機が沖縄で待機しています。鈴置氏はステルス機が金正恩の搭乗機を海上で撃墜する、という可能性を指摘。「北朝鮮はそれを警戒し、陸つたいに平壌まで戻る計画ではないか」とする「軍事専門家の多くの指摘」を紹介しています。
なるほど。確かに金正恩の搭乗機の航路次第では、確かに米軍のステルス機がこっそり尾行し、撃墜してしまうことは不可能ではありません。しかも、中国が「支配している」と言い張っている南シナ海上で撃墜すれば、中国のメンツも同時に潰すことができ、それこそ一石二鳥です。
何がダミーかわからない
「金正恩撃墜計画」に関連し、もう1つ、重要な論点があります。それは、金正恩が本当にシンガポールに現れるかどうか、という点ですが、これについて、私は良くてもせいぜい五分五分くらいだと考えています。
まず、金正恩が物理的にシンガポールに出掛ける手段が限られている、という制約があります。北朝鮮の所有する交通手段でシンガポールに到着したければ、高麗航空が所有するオンボロの航空機に限られているそうです。
もっとも、金正恩が北京国際空港を経由して、民間機を使ってシンガポールに出掛けるという可能性は、ゼロではありません。この場合、米国としては金正恩を撃ち落すわけにはいかなくなります。その意味で、高麗航空機をダミーとして飛ばし、金正恩本人は中国の民間エアラインを使うように思えてなりません。
実際、今朝の韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)には、こんな記事も出ているからです。
中国要人専用機が平壌出発 正恩氏らシンガポール訪問か(2018/06/10 09:35付 聯合ニュース日本語版より)
もっとも、この場合、中国国際航空機自体がダミーであるという可能性はあります。「金正恩が中国の航空機でシンガポールに向けて出発した」と思わせておいて、実際には高麗航空機を使う可能性もあるからです。
北朝鮮で革命は起きるのか?
また、金正恩が2~3日、国を留守にすることができるかどうか、という問題点もあります。金正恩が不在中に、朝鮮人民軍が反乱を起こしてしまう、という可能性です。この場合、金正恩は結果的に国外追放措置となってしまい、そのままどこかに亡命することになるかもしれません。
ただ、そうなった場合には、金正恩自身が排除されたとしても、金正恩の「あとがま」が、米国の傀儡なのか、中国の傀儡なのかは読めません。昨年、金正恩の手下に暗殺された金正男(きん・せいだん)の子息を米国が匿っているとのうわさもありますが、その人物がすんなり北朝鮮に入れるかわかりません。
もちろん、「ウルトラC」として、すでに金正恩の排除で米中双方が「密約」を取り交わしている、という可能性も、非常に低いものの、いちおう、ゼロであるとまでは断言できません。
このように考えていくならば、金正恩が国内の反乱を恐れ、6月12日の米朝首脳会談について、ひたすら先延ばしを図る可能性もあります。しかし、それと同時に、会談を先延ばししたところで、米国の経済制裁は解除されるものではありません。
結局、北朝鮮にとっては「進むも地獄、戻るも地獄」なのです。
CVIDと経済制裁の関係
首尾一貫している米国の立場
ところで、日本国内のメディアの報道を読んでいると、「トランプ政権が北朝鮮の核の段階的非核化を容認した」といった誤報(あるいは捏造報道)を目にすることがあります。そのなかでもとくに酷いのは、次の記事でしょう。
トランプ氏段階的非核化を容認 米朝12日に会談(2018年6月2日 23時51分付 毎日新聞デジタル日本語版より)
毎日新聞は、トランプ大統領が6月1日の記者会見で、
「北朝鮮の非核化について「時間をかけても構わない。速くやることも、ゆっくりやることもできる」と北朝鮮側に伝えたとも述べた。首脳会談の実現を優先するために、非核化の「即時達成」を追求してきた方針を転換したともいえる。」
と伝えました。どうして毎日新聞は、少し調べたらわかるようなウソをつくのでしょうか?これに相当するホワイトハウスの記者会見で、実際にトランプ氏が発言した内容は、次のとおりです。
We talked about about a lot of things. We really did. But the big deal will be on June 12th. And again, it’s a process. It doesn’t go — we’re not going to sign a — we’re not going to go in and sign something on June 12th and we never were. We’re going to start a process. And I told them today, “Take your time. We can go fast. We can go slowly.” But I think they’d like to see something happen. And if we can work that out, that will be good. But the process will begin on June 12th in Singapore.(下線部は引用者による加工)
確かにこの下りでトランプ氏は、「非核化については6月12日の段階で署名する必要はない。早くやっても良いし、ゆっくりやっても良い。北朝鮮が自分のペースでやれば良い」と言っていますが、この「自分のペースで」と言っているのは「CVID」のことであり、「非核化」のことでありません。
ここで、CVIDとは、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のことであり、日本と米国が一貫して求めてきたものです。しかも、CVIDの対象は「すべての大量破壊兵器」であって、核だけではありません。
そして、トランプ氏の発言の真意とは、「北朝鮮が6月12日の段階でCVIDを呑まなくても構わないが、その時に何が起こるかは保証しない」、というものです。当然、北朝鮮がCVIDを呑まなければ、少なくとも北朝鮮に対する経済制裁は今のまま続く(あるいは強化される)ことになります。
論理遊び:「北朝鮮の非核化」を定義する
繰り返しになりますが、米国にとっては、北朝鮮の核・大量破壊兵器のCVIDは、絶対に譲れないポイントです。なぜなら、北朝鮮が核武装した状態を放置すれば、北朝鮮製の核兵器がテロリストの手に渡るかもしれませんし、日本を初めとする諸国が核武装に踏み切るおそれもあるからです。
ここで、世界中の人々は、「北朝鮮が核兵器を所持していない状態」とは、「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が核兵器を廃絶すること」だと考えているかもしれませんが、そうとは言い切れません。「北朝鮮が核兵器を保持したまま、国家主権を中国やロシアに譲渡する」、という状態でも良いはずです。
もっといえば、北朝鮮という国が地球上から消滅し、旧北朝鮮が中国領やロシア領になってしまえば(あるいは中国やロシアに分割統治されれば)、すでに核武装国である中国やロシアに取り込まれる、というだけの話です。
そうなった場合、今後の日本は、中国とロシアの非核化を、それこそ「国家百年の大計」に基づいて実施していけば良いのです。どうして日本のマス・メディアが「北朝鮮という無法国家が今後も存在し続けること」を前提に議論を進めているのか、私には理解できません。
いずれにせよ、今週前半の見どころは、シンガポール会談の場に金正恩本人が現れるかどうかという点と、もし会談が実現した場合、それがどのような結果になるか、という点でしょう。しばらくは片時も目が離せない展開が続きそうです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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< 【速報】の更新ありがとうございます。
< 金正恩が平壌を2~3日留守にするというのは、私達が想像できないほどリスキーな状況のようです。一番金正恩が恐れているのは、朝鮮人民軍最高幹部の不平分子によるクーデターです。次いで内務省的な役割の国務委員会。従来は睨みを効かせ、軍の最上級幹部らをコントロール出来てましたが、6月12日以後、反旗を翻す可能性はあります。
< そんな事、荒唐無稽だと思われるかも知れませんが、今まで金が留守にして出かけた国は中国である事。もし反乱が起きても習近平に恃めば鎮圧されていたでしょう(貸しを作る事になるが)。ところが今度はシンガポール、出国してしまえば手に負えませんし、中国も見限るでしょう。
< 特に今年に入ってからの日米はじめ各国の経済封鎖が効き、十分な物資を、最優先の軍にさえ渡っておらず、下級兵士などは地方の農家で『食糧確保の為の速度戦』収奪行為も行なわれています(以前からもありましたが)。
< 一般兵クラスなら締め付けも効くでしょうが、労働党の幹部らがこの日を「千載一遇のチャンス」と行動を起こす可能性はあります。しかし金王朝は排除出来ても、新軍事政権がどういうリーダーによって臨時政権が組み立てられるか、つまり当面は北だけでの生き残りを賭けCVIDを認め、見返りを求める。そしていずれは北が中国の属国になるとか、更に高麗半島統一をして、南北属国化まで進むのかは不明です。あと2~3日、目が離せません。
< 先ほど安倍首相のツイッターでG7サミットが終了した事が報告されていました。『貿易をめぐり、激しいやり取りになった。直接、膝詰めで議論を重ね、合意に達した』そうです。難しい局面がヒシヒシと感じられますが、ここまで日本のトップがやられたのは、安倍首相が初めてではないでしょうか。ただ、米朝会談にも影響が出ないか少し心配です。
< 失礼します。
論評、ありがとうございます。
影武者の可能性は別にして、権力の継承以降、国外に出ることがなかった金正恩がシンガポールまで出てくるという時点で相当に追い詰められている感が強いですね。しかしシンガポールまで遠征したところで金正恩にとってプラスになる点はあまりないと思われます。あくまでも大失点にはならないというレベルでしょう。
さて、交渉が決裂した場合のF22戦闘機による撃墜ですが、普通であればかなり荒唐無稽な話ではあります。しかし相手はアメリカ。大量破壊兵器があるかもしれない、というあやふやとも言える話でイラクを叩いた国です。しかも大将がトランプ大統領。何があってもおかしくありません。とは言え、民間機の体をなす航空機に搭乗中のターゲットを狙うためにステルス戦闘機を持ち出すのは明らかにオーバーキルと言えます。国際世論からの非難も避けられないでしょう。撃墜ではなく事故の形であればその限りではありませんが。
ここからは完全に荒唐無稽な話になります。
2014年にマレーシア航空機が行方不明になった事件がありました。消息を絶った場所はシンガポールからそう遠くはありません。衛星等による監視が行き届いている現代において、ボーイング777という大型旅客機が跡形もなく姿を消し、その後1年以上にわたって何も見つからないことがあり得るのかという疑問を感じていました。しかしあの事件が、排除したい人物の乗機を撃墜する予行演習だとしたら・・・・などと、出来の悪い荒唐無稽な話に思いが至る今日この頃です。