本日は珍しく、2本目の配信を行います。韓国メディア『中央日報』の日本語版に掲載された記事の「クリッピング」をしておきたいと思います。
ネタの宝庫『中央日報』
韓国の経済危機
私が「愛読」(?)している韓国のメディア『中央日報』に、興味深い記事が、いくつか掲載されています。
韓経:韓銀総裁「為替操作国指定・4月危機の可能性低い」(2017年02月24日13時51分付 中央日報日本語版より)
リンク先の記事の要点は、次の3つです。
- 韓国経済の「4月危機説」は誇張である
- 家計債務負担は軽視できない問題である
- 政策金利のジレンマ
この短い記事に、これほど「ネタ」が詰まっているとは、非常に興味深いものがあります。ただ、これらのネタの中には、過去に当ウェブサイトで取り上げたものも多く(例えば『新春ネタ「三つの経済爆弾抱える韓国」』や『為替介入報道:FTに「抗議」する韓国政府の愚』などもご参照ください)、本日はこのうち、「4月危機説」の下りのみを取り上げます。
韓国経済・4月危機説
記事本文にある「4月危機説」とは、簡単に言えば、韓国が「資金ショート」を起こしてしまうかもしれない、ということです。記事によれば、4月には、
- 大宇造船海洋の社債満期が集中する
- 米国の為替報告書の発表も予定されている
という、二つの興味深い現象が発生するのだそうです。記事は李柱烈(り・ちゅうれつ)韓国銀行総裁が、「4月危機説はあたらない」と述べた、ということですが、この発言は、図らずも韓国の金融当局者が「火消し」に追われているという事実が露呈したともいえます。
中央日報は、このうち「米国の為替報告書」については、
「李総裁は「全くの予想外のことではなく、すでに知られているリスク」とし「関係機関がこのようなイシューに積極的に対応している」と述べた。為替操作国指定の可能性についても「昨年2月に発効した米国の貿易促進法を基準に見ると、韓国は(為替操作国に)該当しない」とし「米国が従来の総合貿易法を活用したり細部基準を変えることもあるだろうが、結論的に可能性は高くない」と診断した。」
と述べていますが、では、実際のところはどうなのでしょうか?
米財務省報告書
中央日報の記事に出てくる「米国の為替報告書」とは、『「日本が為替監視対象国」報道の真相』でも引用した、米国の「2015年貿易促進・強制法」(the Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)に基づく「アメリカ合衆国の主要な貿易相手国の外国為替相場政策について(原題“FOREIGN EXCHANGE POLICIES OF MAJOR TRADING PARTNERS OF THE UNITED STATES”)」というレポートの2017年4月版のことを指しています。
このレポートは、米財務省が毎年2回、米国議会向けに作成しているもので、次の3つの条件を満たした国を「為替操作国」と認定するものです(図表1)。
図表1 為替監視対象指定の3要件
番号 | 内容 | 仮訳 |
---|---|---|
(1) | a significant bilateral trade surplus with the United States | 米国との間で重要な貿易黒字(年間200億ドル超)を計上していること |
(2) | a material current account surplus | 重要な経常黒字(その国のGDPに対して3%以上)を計上していること |
(3) | engaged in persistent one‐sided intervention in the foreign exchange market | 外国為替相場に対して継続して一方向の為替介入に関与し、その金額が1年間でGDPの2%を超えていること |
前回(2016年10月時点)報告書では、「為替操作国」と認定された国はなかったものの、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスの6か国が「為替操作国であるかどうかを監視する対象国」として列挙されています。そして、特に韓国については、同レポートの5ページにおいて、次のように指摘しています(図表2)。
図表2 米財務省の指摘
原文 | 仮訳 | 意訳 |
---|---|---|
Treasury has urged Korea to limit its foreign exchange intervention to only circumstances of disorderly market conditions. | 米財務省は韓国当局に対し、為替介入は市場の状態が秩序を失っているような場合に限定すべきであると勧告してきた | 韓国当局は常に為替介入を繰り返している |
Treasury continues to encourage the Korean authorities to increase the transparency of their foreign exchange operations and to take further steps to support domestic demand, including more robust use of fiscal policy tools. | 米財務省としては韓国当局に対し、外為市場に対する操作の透明性を向上させ、より大胆な財政出動などを含めて国内の需要を喚起することを強く勧める | 韓国の為替介入には透明性がないし、韓国政府の財政出動を通じた内需喚起努力は不足している |
米財務省レポートの原文は、極めて官僚じみていてわかり辛いのですが、「意訳」すれば、
「韓国の為替介入は常に行われていて、不透明だし、内需を喚起する努力を怠っている」
という主張(あるいは米財務省による、韓国に対する強い批判声明)ですね。ただ、中央日報の記事を読む限り、韓国銀行の李総裁が、この報告書を読み込んだ形跡は見られません。
韓国は為替操作国だ!
中央日報の記事は、こう続きます。
「政府と韓銀は、韓国を為替操作国に選んだ英フィナンシャルタイムズに抗議の書簡を送るなど迅速に応している。李総裁は「(当時の)記事は明確にファクト(事実)とは距離があった」とし「為替市場の変動性が拡大する場合、市場の安定のために微細調整をするだけであり、他の目的で市場に介入するのではない」と述べた。しかし李総裁は「中国が為替操作国に指定されれば、中国の成長減速と人民元安で韓国の輸出と景気にマイナスの影響を与えることがある」と懸念を表した。」(太字下線は引用者による加工)
この英FTに反論文を送ったという話題については、以前『為替介入報道:FTに「抗議」する韓国政府の愚』で紹介したとおりです。もちろん、もともとのFTの報道にも大きな問題があるのですが(詳しくは『FT「韓国が為替介入」記事とトランプ通商戦争』をご参照ください)、これに対する韓国政府の反論も反論になっておらず、支離滅裂でした。
そして、今回の記事でも李総裁は、「為替市場の変動性が拡大する場合、市場の安定のために微細調整をするだけ」と述べていますが、これを経済学的には「為替介入」と呼ぶのです。いわば、「ちょっとだけだから為替介入には当たらない」という、強引な主張ですが、国際的にはこのような主張は通りません。
為替介入と量的緩和を混同する韓国人
繰り返しになりますが、米財務省が問題視しているのは、次の2点です。
- 韓国当局が為替介入を常態化させていること
- 韓国当局の為替介入が不透明であること
そして、李総裁の発言は、いずれの問題点に対しても、全く反論になっていない点に注意が必要です。それだけではありません。韓国では、高級官僚経験者で「韓国公認会計士協会」の会長職にある人間などが、為替介入と量的緩和を、完全に混同しているようなのです(詳しくは『量的緩和と為替介入をごっちゃにする韓国会計士協会長』や『あれほど「為替介入と量的緩和は違う」と…』などもご参照ください)。
金融政策の最高責任者が、この程度の認識であると考えるならば、韓国が早晩、「トランプ通商戦争」の相手国となることは、時間の問題ではないかとすら思えるのです。
次号以降の予告
さて、本当は次のニュースについても取り上げたかったのですが、本日はどうも時間がなさそうです。
韓国の家計負債1200兆ウォン突破…国民1人当たり2400万ウォン(2016年02月25日10時02分付 中央日報日本語版より)
この記事については、できれば来週、どこかで取り上げたいと思います。
むしろ、明日は『ニュース女子』騒動を巡る、出演者らによる東京での記者会見や、「イケメン議員」との呼び声も高い丸山穂高議員のタブーに踏み込んだ国会質問などを手掛かりに、日本のマス・メディアが深刻な岐路に立たされているという事実を紹介したいと思います。是非、お楽しみに!