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    バカらしいトランプ発言

    米国のドナルド・トランプ大統領は火曜日、日本と中国を名指しして、「自国通貨安誘導を行っている」と批判しました。

    米大統領、製薬業界首脳に薬価下げ・国内増産要請、為替で日中批判(2017年 02月 1日 08:05 JST付 ロイターより)

    ロイターによると、トランプ氏は大手製薬会社の首脳との会談の中で、「日本や中国を名指しして通貨安を誘導していると指摘」したとしています。

    トランプ氏は具体的にどのような発言を行ったのでしょうか?次のCNNの報道を眺めてみましょう。

    Japan: Trump’s currency criticism ‘totally incorrect’ (2017/02/01 07:14付 CNNより)

    トランプ氏の発言は、次の通りです。

    “Look at what China is doing. You look at what Japan has done over the years. They play the money market, they play the devaluation market and we sit there like a bunch of dummies.”

    この「bunch of dummies」という表現は、おそらく俗語で、「道化師のように」(あるいは「バカみたいに」)、という意味合いでしょう。トランプ氏の発言を私なりに意訳しますと、

    「中国を見てみろ。過去数年、日本が何をやったのか?彼らはマネー市場で暗躍し、市場を切り下げ、その間私たちは指をくわえて座っているだけだったじゃないか?」

    といったものでしょうか?

    トランプ氏がいかに経済素人なのか、あまりにもバカらしくて、最初はこのニュースを「スルー」しようかとも思いました。しかし、この「為替介入」について、日本でも正確に理解している人は少ないようにも思えます。そこで、この見解について私なりにフォローしておきたいと思います。

    事実関係

    為替介入とは?

    そもそも「為替介入」とは何でしょうか?

    現代社会では、外国為替は自由に取引されており、為替相場は日々、市場原理に基づいて決定されています。たとえば、「1ドル=120円」という為替水準は、「この値段で円を売ってドルを買いたい」と思う人と、「この値段でドルを売って円を買いたい」と思う人が均衡していることを意味しています。

    そして、為替相場は変動します。たとえば「1ドル=120円」だった円が翌日に、たとえば「1ドル=125円」などのようにドルの価値が上昇(つまり円の価値が下落)することを「円安」、逆に「1ドル=115円」などのようにドルの価値が下落(つまり円の価値が上昇)することを「円高」と呼びます。

    そして、「日本国内で製品を作って、これを外国で売る」という輸出企業があったとします。この企業が、1ドル=120円の前提で製品を作っていたとします。この企業は製品を120万円で売らないと利益が出ないと仮定します。この時に、この製品を米国で販売すれば、1万ドル(=120万円÷120)です(ただし、関税や輸送費用は考えません)。

    しかし、ここで「1ドル=60円」という極端な円高になったとすると、この製品は2万ドル(=120万円÷60)に値上がりしてしまいます。これが「為替変動」の怖いところです。

    そこで、為替市場で「行き過ぎた円高や円安」を牽制するために、国や中央銀行が為替市場に介入することがあります。これが「為替介入」です。

    為替介入には2種類ある

    ところで、為替介入には、一般に「自国通貨買い」「自国通貨売り」という2種類があります。

    「自国通貨買い」とは、「自国通貨が売り浴びせられた時に、外貨を売って自国通貨が下落するのを防ぐ介入」であり、俗に「通貨防衛」とも呼ばれています。一方、「自国通貨売り」とは、「自国通貨が買われ過ぎた時に、外貨を買って自国通貨が上昇するのを防ぐ介入」です(図表1)。

    図表1 為替介入の2種類
    種類 目的 備考
    自国通貨買い 自国通貨が下落し過ぎることを防ぐ介入 外貨準備が尽きるとそれ以上介入することはできない
    自国通貨売り 自国通貨が上昇し過ぎることを防ぐ介入 通貨を「刷る」ことで、理論上は無制限に介入ができる

    つまり、2種類の介入のうち、やりやすいのは「自国通貨売り(外国通貨買い)」介入であり、「自国通貨売り」については、理論上は、それこそ「無制限に」介入することができます。主要先進国でもスイスが旺盛な自国通貨売り・ユーロ買い介入を行っていることで知られています(ユーロ圏のマイナス金利で安全資産としてスイス・フランが買われ過ぎているため)。

    しかし、「自国通貨買い」については、裏を返せば「外国通貨売り」であり、手持ちの外貨準備が尽きてしまえば、それ以上の介入をすることはできません。ちなみに、多くの発展途上国が「財政破綻」するのは、ほとんどの場合、外貨が尽きてしまうためです。アルゼンチンなども米ドル建て国債を発行し、過去に大規模な「デフォルト」を起こしていますが、手持ちの外貨が尽きてしまえば、たとえ国家であっても財政破綻してしまうのです。

    日本の為替介入実績

    日本の場合だと、財務省の「外為特会」が為替介入を担当しています。過去に行われた為替介入の多くは、「円売り・ドル買い」介入です。

    といっても、財務省は「役所」であり、紙幣を発行する権限を持っていませんから(※日本の場合、紙幣の発行権限を持っているのは、原則として日本銀行だけです)、「円を売る」ための資金がありません。そこで財務省は市場で国債(短期国債、現在のTDB)を発行し、円資金を調達。その円を外国為替市場で売却し、ドルなどを買い入れる、というオペレーションが基本となります。

    では、実際に日本はいくら為替介入を行っているのでしょうか?

    財務省が公表する『外国為替平衡操作の実施状況』によれば、1991年5月13日から2017年1月27日までの期間で行った為替介入額は、次の通り、圧倒的に「日本円売り・米ドル買い」の介入(つまり日本円の価値を下げる介入)がメインです(図表2)。

    図表2 過去26年間の為替介入額
    売り通貨 買い通貨 金額
    日本円売り 米ドル買い 79兆8,237億円
    米ドル売り 日本円買い 4兆8,794億円
    日本円売り ユーロ買い 1兆0,753億円
    米ドル売り インドネシアルピア買い 693億円
    米ドル売り 独マルク買い 139億円
    日本円売り 独マルク買い 48億円
    85兆8,664億円

    そして、この「日本円売り・米ドル買い」の介入が行われた時期を眺めてみると、小泉政権下での2003年と2004年、さらに民主党政権だった2010年から2011年にかけて、多額の為替介入が行われていることが確認できます(図表3

    図表3 「日本円売り・米ドル買い」介入の実績
    時期 金額
    1993年から1996年までの5年間 11兆1,797億円
    1999年から2002年までの4年間 17兆1,442億円
    2003年 20兆2,465億円
    2004年 14兆8,313億円
    2010年 2兆1,249億円
    2011年 14兆2,971億円
    合計 79兆8,237億円

    つまり、日本では過去に80兆円近い「円売り・ドル買い」が行われています。そして、その巨額の介入の結果、積み上がった米国債とその利息により、現在の日本は実に130兆円にも達する外貨準備を保持しているのです。

    ただ、2012年に成立した安倍晋三政権下では、為替介入はそれこそ1銭も行われていません。そして、円安が進んだのは2012年11月14日(水)に野田佳彦首相(=当時)が当時の野党・自民党の安倍晋三総裁に対し、国会で衆議院解散を確約したことがきっかけであり、「為替介入により円安を維持している」というトランプ氏の認識は、基本的なところから誤っていることは明らかなのです。

    為替介入と量的緩和の違い

    ただし、日本では2013年4月4日の黒田東彦(はるひこ)日銀総裁による「QQE」導入以降、円安・債券高・株高が常態化しています。この「QQE」は、あくまでも日本国内における貨幣の供給量を増やすことで、デフレからの脱却を目指すというものであり、円安を目的としたものではありません。

    ちなみに詳しくは、過去に配信した『あれほど「為替介入と量的緩和は違う」と…』や『量的緩和と為替介入をごっちゃにする韓国会計士協会長』などもご参照ください。余談ですが、韓国政府・メディアあたりでは、日本のQQEが「為替政策である」と勘違いしている人が非常に多いようです。

    中韓の為替介入は別問題

    ただし、日本の場合は「自国通貨をわざと安くすることだけを目的とした為替介入」が行われていないことは明らかですが、中国や韓国の場合は、堂々と為替介入をしており、この事実は、実は米国財務省当局が把握しています(詳しくは『「トランプ通商戦争」の3つの相手国』あたりをご参照ください)、

    トランプ氏の発言の中で、日本に関するものについては、それほど気にする必要はないでしょう。しかし、中国と韓国のように、「自国企業に有利になるような為替操作」を常態化させている国にとっては、こうしたトランプ氏の発言は非常に気になるものでしょう。

    今後のトランプ政権の言動には注意したいところです。

    ※本文は以上です。

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