韓国経済新聞が報じた「3つの苦境」とは?

当ウェブサイトは「政治経済評論サイト」を自称していますが、最近、経済ネタをあまり取り上げていないことに気付きました。そこで、昨日発見した興味深い記事をもとに、「韓国経済の3つの苦境」について解説を試みたいと思います。

韓国「3つの苦境」説

「輸出立国の悲哀」ということでしょうか?昨日、韓国メディア『中央日報』の日本語版に、こんな記事を発見しました。

韓経:ウォン高まで襲いかかるか…輸出で持ち堪えた韓国経済に「トリプル悪材」(2018年04月03日11時26分付 中央日報日本語版より)

掲載されているのは中央日報ですが、記事の配信元は『韓国経済新聞』だそうです。この韓国経済新聞は、「経済専門紙」と見せかけながらもデタラメな経済理論に基づく記事を掲載するという点では、日本経済新聞とそっくりなのが特徴です。

ただ、リンク先の記事は、なかなか興味深く読むことができました。というのも、韓国メディアの報道には、得てして何がいいたいのかさっぱりわからないという代物が多いのですが、リンク先の記事については、韓国メディアにしては珍しく、韓国経済の苦境をうまくまとめているからです。

韓国経済新聞の主張は記事の冒頭部分に要約されています。要するに現在の韓国経済が、

輸出好調のおかげで1年以上巡航していた(韓国)経済が貿易戦争、ドル急落、金利引き上げの「トリプル悪材」で足踏み

という状況にある、というものです。これは非常に興味深い指摘です。ただ、目の付け所は良いのですが、「どうしてそうなるのか」という説明が全然足りていないので、読後感としては、若干の物足りなさを感じてしまうのが残念なところでしょう。

そこで、本日はこのリンク先の記事に、「金融規制の専門家」という観点から、いくつかの情報を加味して、現在の韓国経済の苦境を眺めてみたいと思います。

米韓貿易戦争

貿易戦争でほくそ笑んでいたはずが…?

さて、韓国経済新聞の指摘は韓国経済が現在、「(米国との)貿易戦争」、「(為替相場での)ドル急落(=ウォン高騰)」、「金利の引き上げ」という3つの問題に直面しているというものです。このなかで一番分かりやすいのは、「米国との貿易戦争」という側面でしょう。

韓国経済新聞は、韓国が「大国の争いで流れ弾を受けている」と主張します。すなわち、

最近米国と中国の貿易戦争が本格化し、輸出依存度が高い韓国経済には厳しい状況

にある、という下りがその説明でしょう。

この説明は、部分的には非常に正しいといえます。実際、韓国の輸出依存度は、GDPの約40%前後に達しており、これはドイツとほぼ同じ水準です(ちなみに日本の場合、輸出依存度はせいぜい10~15%程度で推移しており、数値上、日本は貿易に過度に依存している国とは言えません)((出所:『世界の統計2018』図表9-3)) 。

そして、韓国国内では、米国が3月に発動した、鉄鋼・アルミニウムの制裁措置から、欧州連合(EU)やメキシコ、カナダなどとならび、韓国が除外されたことで、「米国との交渉に勝利した!」といった高揚感が溢れていました。

FTAと米朝首脳会談を天秤にかけられる愚

しかし、実際には、米韓自由貿易協定(FTA)の改定交渉で、「米国側から為替介入抑制策を突きつけられた」だの、「改訂FTAの発効は米朝首脳会談後に先送りにされそうだ」だの、実は韓国自身が米国からも厳しい条件を突きつけられているのではないかとの観測が出て来ました。

いわば、韓国が3月に政府高官を北朝鮮の首都・平壌(へいじょう)に派遣し、独裁者の金正恩(きん・しょうおん)と会談したことで、韓国の特使経由で米朝首脳会談が提案されたことで、韓国は「朝鮮半島問題の運転席に座った」と大喜びしました。

しかし、これに対してトランプ政権は、いわば、韓国に「米朝首脳会談がうまく行かなければ、米国は韓国に対する貿易制裁に踏み切るぞ」と脅している格好だとも言えます。やはり、朝鮮半島問題で韓国ごときが「運転席」に座るのは、力不足だったのかもしれません。

ただし、ここで1点、留意する必要があります。それは、韓国にとって米国は最大の輸出相手国ではない、という事実です。

少し古い2016年のデータでみると、韓国のGDPは約1.4兆ドル ((出所:『世界の統計2018』図表3-2)) ですが、中国に対する輸出額は約1244億ドルと、実にGDPの約8%にも達しています ((出所:『世界の統計2018』図表9-6)) 。しかし、対米輸出額は667億ドル程度で、対中輸出額の半額程度に過ぎません ((出所:『世界の統計2018』図表9-6)) 。

このように考えていくと、韓国の輸出の苦境は、どちらかといえば、中国から受けている「高高度ミサイル防衛システム(THAAD)制裁」の方が大きいといえるかもしれません。

為替競争

ソフト・カレンシーの限界

ただ、それと同時に、韓国が金融面では米国に依存していることも事実です。

韓国は輸出立国でありながら、自前の通貨が国際的に通用しない「ソフト・カレンシー」であるという、構造的な問題を抱えているのです。ではどうして韓国は自国通貨を外国でも利用できるような通貨にしようとしないのでしょうか?

おそらく、その理由は、「ソフト・カレンシー」のままで置いておくことで、好きな時に為替介入ができるというメリットを享受しようとしているからではないでしょうか?また、自国通貨が「ハード・カレンシー」となるためには、自国の金融市場を外国人投資家に対して開放する必要もあります。

実は、これとまったく同じ問題が、中国の通貨・人民元についても当てはまります。人民元は2016年10月から、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の構成通貨に組み入れられましたが、その割に、人民元のハード・カレンシー化は遅々として進んでいません。

韓国ウォンもこれと同じで、外国でまともに通用しないため、為替相場のコントロールも容易であるというのが実情なのでしょう。

ドル安による輸出競争力の問題

ただ、先ほども少しだけ論点として出てきたのが、「為替介入の制限」という論点です。米韓FTAの改定交渉では、為替介入抑制が話題になっています(為替操作と為替介入の違いについては『【夕刊】為替介入について理解しない中央日報の不見識』もご参照ください)。

韓国経済新聞から該当する下りを引っ張ってみましょう。

ここに韓国政府が韓米自由貿易協定(FTA)改定交渉の過程で米国側が要求した「外為市場介入抑制」に合意したという説が出回り、自動車、鉄鋼、造船など為替相場に敏感な韓国

  主要企業は緊張している。韓米間の為替相場合意をめぐる真実攻防が広がる中でドル相場は急落している。韓国政府の外為市場介入が難しくなるという判断から今月に入りこれまで強固だった1ドル=1060ウォン台まで突破した。」(改行ミスも含めて原文ママ)

引用した文章には改行ミスがあり、「韓国」と「主要企業」の間で改行されてしまっていますが、この手のミスは韓国メディアにはよくあることなので、スルーしましょう。

確かに、為替相場では韓国ウォンの価値が米ドルに対して上昇しており、この記事が配信されたあとになり、さらにウォン高が進行。昨日(4月3日)には最高値で1ドル=1054.15ウォンを付けています。一般に自国通貨が米ドルに対して上昇すれば、輸出競争力が損なわれることになります。

ただ、経済学の理論上、別に自国通貨高は悪いことばかりではありません。たとえば、自国通貨が上昇すれば、韓国のように外国から大量におカネを借りている国では、自国通貨建ての債務負担が減少します。これは、企業業績にとっては決して悪いことではありません。

しかし、韓国の場合はもう1つ、まったく別次元の問題を抱えています。それが「為替ヘッジ問題」です。昨日の『韓国で猛威を振るった「KIKOオプション」』でも説明したとおり、韓国では2008年のリーマン・ショック前後に「レバレッジドKIKOオプション」と呼ばれる金融商品が社会問題化しました。

そして、昨日も紹介した中央日報の記事によれば、現在、輸入業者が「ドル高・ウォン安」方向にヘッジ・ポジションを組んでいて、実際の為替相場が逆方向に行ったため、国を挙げて為替差損に苦しんでいる状況なのだとか。

ここまで来ると、「経済の問題」というよりはむしろ、「一国の通貨・為替制度設計の問題」ではないかとすら思えるのですが、それにしても不思議な国です。

いずれにせよ、為替相場には、自国通貨(中国の場合は人民元、韓国の場合はウォン)が上昇すれば、輸出競争力が弱くなる代わりに債務負担が減り、自国通貨が下落すれば、輸出競争力が強くなる代わりに債務負担が上昇するという関係にあるということは抑えておくべきでしょう。

利上げと資金流出

為替相場より怖いのは資金流出リスク

ただ、中国や韓国の場合は、自国通貨がソフト・カレンシーであり、しかも、外貨でかなりのおカネを調達しているという構造にあります。こうなって来ると、実際のリスクは為替相場ではなく、資金流出リスクです。

この「資金流出リスク」の代表例とは、外貨で借りているおカネの借り換えができなくなることです。とくに、現在のように米FRBが年数回の利上げを見込んでいるような局面では、米ドルの投機資金が中国や韓国のような「ハイリスク国」から資金を引き揚げるという「リパトリエーション」のフローが生じやすいのです。

単に為替相場が変動するだけだと、輸出競争力や債務償還力が影響を受けるということですが、これに米国を初めとする主要ハード・カレンシー国で金融引締め(=利上げなど)の圧力が加われば、資金が逃げ出すリスクが現実のものになるのです。

韓国が一生懸命、主要国との通貨スワップ(BSA)を締結しようとしているのも、いざという時のための備えという側面が大きいといえるでしょう。ちなみに韓国の外貨準備については、下手すると7割~8割は水増しされていると私は考えています(『韓国の外貨準備の75%はウソ?』参照)。

なぜ米利上げが韓国の利上げにつながるのか?

通常の先進国であれば、ほかの国が利上げしたところで、自分の国は失業率や物価水準などを見ながら金融政策を決定すれば良いだけの話です。その典型例が日本であり、米国や欧州が利上げしたとしても、日本はまだデフレ脱却が済んでいないので、利上げを見送るという公算が高いからです。

しかし、韓国の場合は事情がまったく異なります。韓国経済新聞は、次のように主張します。

主要国が2008年の金融危機以降に市中に放出した流動性を回収し通貨政策正常化にスピードを出している点も韓国経済の不確実性を拡大している。米国は今年だけで3~4回の金利引き上げを予告している。昨年11月に6年5カ月ぶりに金利を上げた韓国銀行も追加の金利引き上げを検討している。合わせて市中金利も急速に上がる傾向だ。

この下り、日本人の常識からは理解できませんが、要するに、「米国が利上げしたら、韓国もそれに追随して利上げしなければ、韓国から資金が逃げ出してしまう」という意味です。

日本だと、普通の企業や銀行はドル建てでおカネを借りていませんし、低金利でもあるため、日本にはそもそも「投機資金」が流れ込んでいません。さらに、日本円自体がハード・カレンシーであり、日本の銀行や企業は、通貨スワップ(CCS)市場などで自由に外貨を借り入れることができます。

さらに、日本銀行(BOJ)は米FRB、英イングランド銀行(BOE)、カナダ銀行(BOC)、スイス国民銀行(SNB)、欧州中央銀行(ECB)の5中銀との間で、期間・金額無制限の為替スワップ(BLA)を締結しているため、日本の銀行は日銀経由で、外国中央銀行から直接、外貨を借り入れることができます。

しかし、韓国の場合、自国が利上げしなければ、韓国から投機資金が逃げ出してしまうため、自国の状況を見ながら自由に金融政策を決定するということができない状況にあるのです。問題はそれだけではありません。

金利が上がれば1400兆ウォンに達する家計負債負担は大きくなるほかない。民間消費に流れて行かなければならない資金が金融会社に負債を返すのに使われ内需が萎縮する懸念が大きい。輸出と内需が一度に萎縮すれば雇用と消費、投資が同時に縮こまる悪循環が続く。

韓国の場合、家計債務負担が非常に重く、利上げをすれば家計にダイレクトに悪影響が生じ、消費が委縮し、GDPが減ってしまいます。

日本の助けが必要?

韓国という国は小国の割に、OECDにも加盟する経済大国に成長しました。

もちろん、日本からせっせ、せっせと「技術移転を受けた」(あるいは「技術を盗み出した」)ことの影響も大きいのですが、それだけではありません。日本から原材料を買い、韓国国内で加工して、中国や欧米に輸出するという、見事な「日本型輸出産業」をベンチマークして成功したのです。

ただ、「良い所だけ輸入する」という韓国の悪い癖が、ここに来て、裏目に出ていることも事実でしょう。なぜなら、韓国は自国の金融産業の振興と通貨の国際化という努力を怠って来たからです。その結果、金融面では依然として日米に依存しており、日米が命綱を離せば、韓国経済は奈落の底にまっしぐらです。

こうしたなか、最近の韓国メディアは、「韓国の外貨不足額は1200億ドルにも達する」と言ってみたり(『韓国紙「韓国の外貨不足額は1200億ドル」』参照)、「日本との通貨スワップが必要だ」と言ってみたり(『日韓スワップ:スイスで韓銀総裁が日本に秋波』参照)しているようです。

ただ、昨日の議論の繰り返しですが、普段から全力を挙げて日本を侮辱しておきながら、危機になったら助けてくれというのも虫が良すぎる話です。また、獅子は千尋の谷にわが子を突き落すと言われていますが、日本が韓国と真の友好関係を築こうと思うなら、なおさら、ときとして突き放す姿勢が必要でしょう。

もっとも、突き放した結果、韓国経済が奈落の底に落ちてしまったとしても、韓国と私たちの国・日本は同じ国ではありません。あくまでも他国です。日本は韓国人に対する入国ビザ免除プログラムを見直すなど、「その日」に備えるべきでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. りょうちん より:

    >こうしたなか、最近の韓国メディアは、「韓国の外貨不足額は1200億ドルにも達する」と言ってみたり

    ネット界隈では、「3月末に400億ドルの償還があって危機」という話題が流れたのですがその結果がさっぱり流れませんね。
    無事にロールオーバーできたにせよ、それならそれでフォローされるべき何でしょうに。
    このあたりが、韓国ヲチャーの温いところです。

  2. めがねのおやじ より:

    <  今日も更新ありがとうございます。
    < なにやら隣国の悲鳴が聞こえてきそうで、あゝ慶事かなと存じます。ほんの数日前、「米韓貿易戦争」で『韓国は鉄鋼・アルミの課税対象国から外された、日本は該当国に落とされたマンセー』やら対北問題も『中韓会談で韓国運転席をゲット。北朝鮮、米国、中国を載せて、日本は蚊帳の外』などと、当事国として自由主義国の隣国を侮辱して嬉々として喜んでおりました。あれ?それがちょっと韓国経済新聞の論調がおかしいですね(笑)。
    < まず、トランプ大統領が『裏切り行為』とみた南北会談を、その結果を伝えに口頭だけで言った韓国に、甘い顔を見せるはずがない。やっぱり、FTA交渉で為替介入抑制案や、FTAの締結は米朝会談が済んでから、といわれキツイお灸を据えられた。しかしすでにウオン高が進んでおり、私は初めて知りましたが、韓国の輸入業者が『ドル高ウオン安』にヘッジポジションを組んでおり、実際には逆方向に進行し、為替差損に苦しんでいるとか。で、次の段階は外貨流出のリスク。なるほど中国や韓国などのハイリスク国から資金引き揚げか~。おめ。
    < 米国が利上げしたら、なぜ韓国も?という疑問も『投機資金が逃げてしまうため』。なるほど、韓国経済新聞は中央日報ともども、理解しがたい日本語で書かれている事が多いので、意訳していただき助かりました。要は超危機的状況にあると。ほんの最近まで『韓国の外貨は3,800億ドル以上で史上最高!』なんてトバシ記事がありましたが、新宿会計士様の見立てでは500~1200億ドル、そこへ持ってきて今は韓国メディアも「1200億ドル不足する」と言い出した。
    < 誠に数字だけは信用できない国ですね。日本からスワップ言ってくれるのを千秋の思いで待ってるんでしょう。決してないぞ、韓国。オタクラに貸す金は1円もない。奈落の底に落ちろッ。ま、どっちゃにしても北朝鮮がらみで奈落の底に落ちるだろうが。愉しみ~!
    < 失礼します。

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