最新版:巨額の家計・年金資産と対外純資産抱える日本
最新版資金循環統計:家計資産は2141兆円、対外純資産は484兆円、社会保障基金純資産は331兆円
資金循環統計の最新データが出てきました。相変わらず家計部門は2141兆円という巨額の金融資産を抱えているのですが、それ以上に興味深いのは海外部門の純債務(つまり日本から見た純資産)が484兆円と過去最高を更新したこと、そして社会保障基金が巨額の運用益をあげていることではないでしょうか。
目次
資金循環統計とは?
日銀は21日、2023年12月末基準の『資金循環統計』(※速報値)を公表しました。
この『資金循環統計』とは、国内の金融機関や企業・家計(個人)・政府、海外といった部門別に、金融資産・負債の状況を、現金・預金、貸出金、債券、株式、対外証券投資、対外直接投資などの金融商品別に記録した統計表のことです。
ちなみに金融資産と金融負債は表裏一体の関係にあり、「誰かにとっての金融資産」は、「ほかの誰かにとっての金融負債」です。したがって、各項目(たとえば「現金預金」、「貸出」、「上場株式」、「債務証券」など)については、理論上、資産側の合計額と負債側の合計額がピタリと一致します(※)。
(※ただし、実体経済を相手にしているため、現実には多少の誤差も生じるようです。)
そして、「閉鎖経済」(外国と資金などのやりとりをいっさい行っていない経済)の場合、国内の各経済主体の資金の貸し借りは事後的にピタリと一致する、ということであり、また、「開放経済」の場合、国内の各経済主体間に生じた資金の貸し借りにズレは、プラスマイナス逆で、海外部門の差額として出てきます。
これが、資金循環統計を読む上での「基本知識」です。
最新版・日本の資金循環構造
さて、この資金循環統計の最新データをもとに、「家計」「金融仲介機能(預金取扱機関・保険年金基金・中央銀行)」「中央政府」「社会保障基金」「非金融法人企業」の国内各経済主体、および海外の金融資産・負債の状況を一覧にしたものが、次の図表1です。
図表1 日本の資金循環構造(2023年12月末時点)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
これまた、ずいぶんとわかりやすい図表ができてしまいました。
そもそも論ですが、資金循環統計に出て来る各項目は、その定義上、「誰かにとっての金融資産は、ほかの誰かにとっての金融負債」です。
たとえば、マスコミさんが大好きな「国の借金(?)」という概念(正確には「中央政府の金融負債」)については、2023年12月末で1239兆円という金額が計上されています(おもな内訳は国庫短期証券が141兆円、国債が988兆円で、両者合計は1129兆円)。
しかし、中央政府がおカネを借りているということは、裏では「必ず」、中央政府におカネを貸している人がいる、ということです。
国債の85%は国内で引き受けられている
ではいったい、誰がいくら、中央政府におカネを貸しているのでしょうか。
図表1を丹念に読み込んでいってもわかりますが、ここではわかりやすく、「資産として国債を持っている主体」のみを列挙してみましょう(図表2)。
図表2 主体別国債保有残高(2023年12月末時点)
保有主体 | 金額 | 構成割合 |
中央銀行 | 584兆円 | 47.07% |
預金取扱機関 | 130兆円 | 10.45% |
保険・年金基金 | 241兆円 | 19.45% |
社会保障基金 | 50兆円 | 4.04% |
海外 | 181兆円 | 14.59% |
合計 | 1240兆円 | 100.00% |
(【出所】日銀資金循環統計データをもとに作成。ただし「金額」は国債、財投債、国庫短期証券の合計額)
この図表2の合計欄は1240兆円となっていて、先ほどの図表1の説明で述べた「国の借金のうちの国債・国庫短期証券の合計額」1129兆円とは金額が一致していませんが、その理由は、国債には、資金循環統計上の金融機関の一部である「財政融資資金」が発行している93兆円分の財投債が含まれるからです。
それはともかくとして、トータルで1240兆円の国債等のうち、ざっと85%は国内の経済主体が保有しています。日銀が47%を保有し、残りを預金取扱機関(=銀行、信金、信組、農協、労金など)や保険・年金基金、社会保障基金で分け合い、海外勢が全体の15%を何とか確保している、という構図です。
日銀による国債保有は「財政ファイナンス」ではない:巨額の家計資産
また、中央銀行である日銀が国債をドカッと保有しているという状況は、「一種の財政ファイナンスではないか」、などと批判されるのですが、これも厳密にいえば、適切な表現ではありません。
日銀はたしかに584兆円分の国債を保有しているのですが、この584兆円の国債を購入するための資金を、市中の金融機関から借り入れているからです。
中央銀行の負債勘定には「日銀預け金」が544兆円計上されていますが、このうち505兆円は「預金取扱機関」(つまり銀行等の金融機関)から調達した部分であり、言い換えれば、間接的には民間の金融機関が国債を保有しているようなものだ、という言い方もできます。
そして、民間の金融機関や保険・年金基金におカネを貸しているのは、企業(非金融法人企業)であったり、家計(私たち個人)であったりします。
とりわけ日本の家計については、トータルで多額の金融資産を抱えていることがわかります(図表3)。
図表3 家計金融資産・負債の状況(2023年12月末時点)
項目 | 金額 | 構成割合 |
現金・預金 | 1127兆円 | 52.65% |
保険・年金・定型保証 | 537兆円 | 25.10% |
株式等・投資信託受益証券 | 382兆円 | 17.84% |
合計 | 2141兆円 | 100.00% |
負債合計 | 388兆円 | |
金融資産・負債差額 | 1754兆円 |
(【出所】日銀資金循環統計データをもとに作成)
これによると家計が保有する金融資産は2023年12月末基準でじつに2141兆円(!)に達しており、そのうち過半の1127兆円が現金預金で、これに保険・年金・定型保証の537兆円、株式等・投資信託の382兆円が続く、という構図です。
また、家計の負債(借金)は388兆円ですが、(表には出ていないものの)このうち民間住宅貸付は208兆円、公的住宅貸付は22兆円であり、要するに、家計債務の大部分は、金融機関などから借り入れている住宅関連ローンなどで占められている状況です。
つまり、どこかの某外国と違い、日本の家計負債全体に占める消費性ローンの割合は総じて低く、負債の額を圧倒的に上回る資産を保有していて、これが日本の強みの源泉でもあるのです。
「国の借金」論者に欠如する専門知識
ちなみに「国の借金が1200兆円もある」、などとのたまう人たちが、「家計の資産が2000兆円以上もある」という事実を軒並み無視しているというのも興味深いところです。
現在の日本では、国家財政の赤字は国内の経済主体によってファイナンスされており、その源泉のひとつである国民の金融資産の額は、「国の借金」とやらの額の2倍前後にも達しているという事実を踏まえると、専門家としては、「日本の財政が危機的状況だ」とする主張は虚偽であると断じざるを得ません。
というよりも、「国の借金論」を唱えている人たちの多くは、経済学、会計学、金融などの専門知識・素養を持たない人たちか、もしくはそのような知識・素養を持ちながらも、「何らかの目的」(たとえば「自分たちの利権拡大」など)を持ち、そうした虚偽の主張を広めているという可能性が濃厚です。
海外部門の黒字は過去最大!
それはともかくとして、今回の資金循環統計で特筆すべき点がいくつかあるとしたら、そのひとつは、「海外部門」でしょう。
当ウェブサイトにもときどきご質問をいただくのですが、資金循環統計上、海外部門は資産・負債が逆に出ます。
今回の統計では、海外部門には「金融資産・負債差額」が資産側に484兆円出ていますが、これは、「海外から見て、自分たちが持つ資産の額が、負債の額を484兆円下回っている」という意味です。言い換えれば、「日本から見て、自分たちが持つ資産の額が、負債の額を484兆円上回っている」、ということです。
データが存在する1997年12月以降の数値で見て、この「資産・負債差額のマイナス484兆円」という金額はマイナス幅としては過去最大です。つまり、それだけ日本国全体が外国に対して所有している金融資産の額が増えている、という可能性を示唆しているわけです。
(厳密にいえば、「差額のマイナスが過去最大になる」ということは、日本の対外資産が増える場合だけでなく、海外勢が日本国内に持つ資産の額が減る場合もあるため、そこまで話は単純ではないのですが、この点については本稿では割愛します。)
この「海外」部門の「金融資産・負債差額」をグラフ化しておくと、図表4のとおり、トレンドとしては増え続けていることがよくわかります。
図表4 海外/金融資産・負債差額
(【出所】資金循環統計データをもとに作成)
これにはもちろん、円安の恩恵もあるのかもしれませんが、長引く不況のためか、国内で貸出が伸びないなかで、日本の金融機関や企業が海外に活路を求め、対外投資を積極的に行ってきた、といった事情もあるのかもしれません。
その意味で、この「海外部門の金融資産・負債差額」がマイナスに転じるという局面が訪れるとしたら、もしかするとそれは、「日本国内が投資対象として魅力的になり、資金が日本国内に向かい始めているとき」なのかもしれません。
社会保障基金の純資産の増加
また、資金循環統計を眺めていて、もうひとつ気付くのは、社会保障基金――年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を含めた公的年金や健保組合等――が保有している純資産の増加です(図表5)。
図表5 社会保障基金/金融資産・負債差額
(【出所】資金循環統計データをもとに作成)
社会保障基金の純資産は民主党政権時代の2010年6月期以降、恒常的に200兆円を割り込んでいましたが、第二次安倍政権が発足した直後の2013年3月時点で200兆円台を回復。2017年前後には250兆円台を行き来する展開となり、2023年3月に史上初めて300兆円の大台に達したのです。
このあたり、最近はXなどでも「株高は株式を買っている一部のカネ持ちにしか恩恵が行きわたらない」、などと主張する人を見かけますが、公的年金などで巨額の運用益が生じれば、間接的には年金受給者全員に恩恵が及びます。
利回りが良ければ将来的に同じ掛け金で受け取れる年金が増える可能性もありますし、また、同じ年金受給額を受け取るのに必要な掛け金が減るという可能性だってあるわけだからです。
この点、「株高が日本経済に悪影響を与えている」とする主張(いわゆる「悪い株高論」)や、あるいは「円安が日本経済に悪影響を与えている」とする主張(いわゆる「悪い円安」論)などを目にすることは多いのですが、こうした主張をする人たちは多いのですが、こうした人たちには統計が見えていないのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
>最近はXなどでも「株高は株式を買っている一部のカネ持ちにしか恩恵が行きわたらない」、などと主張する人を見かけますが
宝くじのコマーシャルで「買わない人は当たらない」というのがあったが。
家計の状況を考えるとき、収入に加えて、既にもっている資産の額、ローンなどの負債があればそれを差し引いた上で、将来の状況をも考慮しながら出を図る。これが真っ当なやり方でしょう。一生掛けても使い切れないほどの資産をもちながら、出を惜しんでなおゼニをかき集めることに執着するなら、それは「守銭奴」。逆にろくに預貯金もないのに、収入に見合わぬ支出を続けるなら、いくら着飾り外面ばかり良く見せたところで、それは単なる「浪費家」。
国全体の経済にしても、規模と勘定に入れる費目の多様さが家計とは圧倒的な差があると言っても、基本的な考え方としては変わるところはないと思うんですが、日頃からサイト主さんが展開しているようなはなし、マスコミ、ネット評論などに登場する「経済専門家」連で口にする人って、なぜか極めて少数なんですよね。
大方は一時的なフローばかりに拘泥し、それも特定の費目を採り上げて、ヤレ赤字だ借金だと、大騒ぎしてみせるのが、己が社会的使命の如くに心得てる。「守銭奴経済論」とでも言えば良いんですかね(笑)、これぞ「日本経済”感”の七不思議」のひとつ。
もうひとつ、これは「世界経済の七不思議}?
日本の高度成長期と言えば、一応1955年~1973年までの19年間ということになってます。この時期を象徴するイベント、1964東京オリンピックに合わせて突貫工事でおこなわれた交通インフラの整備、東海道新幹線と首都圏高速道路1号線の建設が、世界銀行の融資に頼ったことは有名で、この時期まだ日本では旺盛な資金需要を賄えるだけの経済力はありませんでした。
そうした海外資金も使って成し遂げられた日本経済の底上げの効果は、借金を返済して十分お釣りが来るほどではあったのですが、それでも1990年代のバブル崩壊に伴って多数の銀行の破綻が起きた時期には、海外からの資金調達にジャパンプレミアムとよばれた上乗せ金利が課されたほどに、日本金融の実力は、まだまだ世界のトップ水準には遠かったのでしょう。
それが今では、これもこのサイトでしばしば採り上げられる話題ですが、日本の金融は世界最大の資金供与国にまで成長してきています。かつての「貿易立国」は今や昔、海外資源頼みの状況は相変わらずながら、経済構造は完全に内需中心に置き換わり、多少の貿易赤字は海外からえられる利子配当で十分にファイナンスされます。それもどうやら今後も増えていく一方に見えます。性懲りもなく出てくる「日本経済没落論」。現状が如何に脆弱な基盤の上にあるかを、十分な論拠をもとに納得がいくように示して見せるならともかく、大抵は「どの口でそれを言う」レベルの愚論に過ぎないと思います。
ところで、日本の近隣に存在する某国。この国では1960年代後半~1970年代と日本からはやや遅れて、この国のとある川の名を冠してよばれる「奇跡的」経済成長を為し遂げたとされます。原資の出所は日本。「経済協力」のはずが、多くが無償供与という、勝手に「賠償金」と受け止められる余地を残した、えらくこの国に有利なものだった点は異なりますが、国内での資金調達が不足する状況下で経済成長を実現したのは、日本でも同じことです。
その後、製造業を中心とする国内産業が育ち、輸出による膨大な貿易黒字を稼ぎ出して、経済成長を遂げていった点も日本と重なるのですが、人口規模からすれば肩を並べるなんて自賛するところまで来た今、日本と比較してみると、はて?
輸出主導で経済成長の端緒を開くにしても、それが進む過程で次第に内需主導経済に移行するのは、日本からすれば自然の成り行き。それがこの国ではいつまで経っても外需依存経済のまま。世界規模の金融機関は育たず、大型の貿易案件となれば、日本の銀行の信用状で裏書きしてもらう必要がある。国際的金融リスクが高まると、ただちに国内の経済不安が高まるのはお約束。そもそも、国内の資金需要と言ったって、政府、企業、家計揃っての膨大な債務、それを遣り繰りする自転車操業まがいのニーズが相当部分を占めるとなれば、日本の状況などとは比較にもならぬ。
これでコケずにやって行けるとなれば、それだけでも経済学上の「トリヴィア」くらいの考究の価値はありそうですが、同じくらいの期間、同じように資源を海外に依存しつつ、国内産業の強化を図ることで、経済を発展させてきた、日本とこの国。その間に動いたカネが、どこにどういう形で流れれば、こんな極端な差を生むのか? これこそ経済学上の「奇跡」とよばずして、何と形容しようか、そこまで言っては、ちょいと大袈裟かな?(笑)。
「日本とこの国。その間に動いたカネが、どこにどういう形で流れれば、こんな極端な差を生むのか?」 ・・・日本がこの国に似てきているのが心配。
手を組む相手は中華民国台湾これで決まり。
最終目標は経済産業一体化、まずは半導体から初めて、金融証券体制の融通と共通化を進めましょう。ああ 2030 年代が楽しみだ。
ロシアの財政状況でもしもウソのないデータが入手されるなら今この日本の財政状況と比較してどうなって居るかすごく知りたくなりました。本物の財政危機、ホンモノの国の破綻がどう迫って居るか見てみたい。
>利回りが良ければ将来的に同じ掛け金で受け取れる年金が増える可能性もありますし、また、同じ年金受給額を受け取るのに必要な掛け金が減るという可能性だってあるわけだからです。
それがいつ、どんな規模で実現されるかですよね。
ガソリンの暫定税率がまだまだ維持される事を考えると、残念ながらいつまでも「可能性」で終わりそうです