数千円の「インバウン丼」が話題

ネット上で「インバウン丼(いんばうんどん)」なる用語が、ちょっとした話題です。これは、2月1日にオープン予定の商業施設のフードコートのメニューと称し、7,000円近いマグロ丼の写真がXにポストされていたものです。もちろん、マグロ丼も良いものになると数千円というケースもありますので、このポストが事実だとしても、不当に高い値段であるとは必ずしも言い切れません。もっとも、インフレが進展していけば、多くの場合、賃金水準の上昇を伴ってきます。

外国人観光客は過去最多水準で推移

観光分野の「脱中国化」進む日本』などでも取り上げたとおり、日本政府観光局(JNTO)の発表に基づけば、2023年12月における訪日外国人は、速報値ベースで273万4000人と、12月としては過去最高を記録。2023年を通じた訪日外国人も2506万6145人で過去4番目を記録しました。

なぜここまで外国人観光客が増えているのかについては、よくわかりません。

いちおう、それらしい説明があるとしたら、「円安」、「諸外国と比べて安い物価」、といったところだとは思われるものの、観光客の増加は、それだけが要因とも思えません。

こうしたなかで、先日から少し気になっている話題が、全国各地で耳にする、「リピーターの増加」です。

たとえば、JNTOウェブサイトに2020年10月8日付で掲載された『【シンガポール市場】訪日リピーターの興味関心を日本各地へ(JNTO海外事務所インタビュー)』という記事によると、シンガポールでは訪日リピーター率や個人旅行比率が非常に高いのだそうです。

また、最近だと影響力のあるユーチューバーらが、日本人ですら訪れた人が多くないような、美しい日本の名所を巡る動画などをアップロードしていますし、なかには日本を訪れて、日本のコンビニのさまざまな食材を試すなどの動画もあります。

インバウンド誘致政策が安倍晋三内閣下で強力に推進された影響もあってか、やはり欧米人のなかにも、「日本をもっと楽しみたい」、「日本旅行をリピートしたい」という需要が出て来ているのは、おそらくは間違いないのでしょう。

運送業法の改正が必要では?

ただし、外国人観光客急増に伴う「弊害」についても、そろそろ考える必要もありそうです。

観光客が増え過ぎた結果、京都などの一部地域では路線バスをはじめとした日常生活における市民の足にも影響が出ているとの話も耳にします。たとえばJ-CASTニュースの昨年12月4日付の次の記事によると、京都市バスは大型荷物を車内に持ち込まないよう呼びかけるステッカーを窓に貼り出しているのだそうです。

「大型荷物の持ち込みご遠慮」京都市バス、窓ステッカーで呼びかけ インバウンド回復もトラブル懸念…市が対策本腰

―――2023.12.04 20:55付 J-CASTニュースより

J-CASTニュースによると、京都市では「手ぶら観光」と称し、たとえば京都駅で業者が手荷物を預かり、宿泊先に荷物を届けるなどの事業への取り組みに、昨年8月頃から力を入れているのだそうです。

ただ、記事から判断する限り、これなども利用するかどうかは観光客本人の裁量に委ねられているという側面が強そうです。やはり、運送法の規定を改正し、路線バス運行者の裁量で、スーツケースや巨大バックパックなどの大きな荷物には持ち込み料金を加算することを認めるなどの対応も必要なのかもしれません。

「インバウン丼」?数千円のマグロ丼

ところで、Xを眺めていると、こんなポストがありました。

1月30日付のポストですが、内容から判断するに、東京・豊洲に2月1日に開業予定の新たな商業施設のフードコートの様子だと思われます。ポストには4枚の写真が掲載され、このうち4枚目にはマグロ丼などが6,000円台で提供されているのが確認できます。

ネットではこれに対し、「インバウン丼(いんばうんどん)」などと反応する人もいるようです。

この点、このXポストに掲載されている情報の正確性については、当ウェブサイトとしては「裏取り」は出来ていません。当該商業施設の公式ウェブサイトをひとととり調べたのですが、残念ながら公式サイト上はこの値段が確認できなかったためです。

ただし、このポストを信頼するなら、この価格設定も、たしかに「インバウンド客を意識した価格設定」、などといえるかもしれません。

マグロ丼は店によっては1,000円台か、場所によってはそれ以下の値段で提供されている事例もあるようですので、さすがに「7,000円近くのマグロ丼」というものは、私たちのごとき庶民が気軽に食べるには、ちょっとハードルが高いからです。

もっとも、アマゾンのウェブサイトなどで調査してみると、本格的な本マグロともなれば、ケースによっては数千円で提供されているものもあるようですが…。

ちなみに当該商業施設の事業主は、この施設をべつに「インバウンド専用」などと位置付けているわけではありませんが、あくまでも一般論でいえば、物価水準が高い国からやって来た外国人観光客にとっては、マグロ丼に7,000円近いカネを払うことにさほどの違和感は覚えないのではないでしょうか。

そして、購買力のある外国人観光客が増えてくれば、良いものは外国人向けに提供されるようになるのかもしれません。

インフレ初期に賃金水準が追い付かないのは当たり前

なお、当たり前のことですが、これについては特段、悲観すべき話ではありません。

景気回復期には一般に物価が先行して上昇し、賃金上昇はこれに遅れてしまう傾向があります(実際、景気動向指数においても、賃金水準は「遅行指数」のひとつに位置付けられます)。

もちろん、賃金水準が延びないままで物価上昇(インフレ)などが発生してしまえば、人々の生活が苦しくなってしまいます(ちょうど現在の日本のように)。

しかし、一般にインフレ局面では労働力が逼迫するため、低賃金という状況は長続きしません。労働力を確保するために、事業者としては賃金水準を引き上げざるを得なくなるからです。

本来ならば、ここらで(とくに法人税、所得税、消費税の)減税や社会保険料の減免などが政策としては有効なのですが、このあたりは別の論点ですので、可能ならばいずれ近いうちに当ウェブサイトにて取り上げたいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. さより より:

    外国人観光客向け商品やサービスは、どこの国にもあるのではないでしょうか?そして、一般的に高いし、現地の人達が普段食べないものや受けないサービスがあるのではないか?と思います。
    米国で、そこに生活している人達の普通のものが食べてみたいと思い、ダウンタウンへ出かけて食堂みたいな所に入り、ステーキを食べましたが、草履みたいに硬くて閉口しました。
    旅先では、観光客向け、現地の普通の人の生活の体験、どちらが良いのかな?とは、その時から迷っています。

  2. 匿名 より:

    東京の鮨屋だと今はもうおまかせで五万からという店も増えている。それでも外国人がどんどん来ているから儲かって仕方ないそうてす。マックの値上げに大騒ぎしているような日本人よりも金払いの良い外国人をターゲットにしたほうがいいのは道理ではある。儲けられるところはどんどん儲けてもらえばいいと思いますよ。

  3. まんさく より:

    インフレになっても給料が上がらないと、専業主婦はパートに出かける様になりますし、年金生活者も週二くらいは働こうかと考えはじめますし、働いたら負けとか言ってた学生さんもアルバイトをはじめるし、政府も、外国人労働者を増やそうと言う話になります。結果、日本人の賃金は上がらなかったと言うのがこれまでの流れです。

    最近、人手不足が問題と言う話がでてますが、賃金が低い業界の人が不足しているだけで、賃金上げたら人は集まります。問題は人手不足ではなく、高い賃金を払えるだけの高付加価値ビジネスを作れない事です。高付加価値ビジネスが育たないのは、高付加価値ビジネスに金を出せるだけの中流が居なくなったからです。

    日本の企業が蛸足ビジネスを卒業しない限り、今の状況は続くでしょう。

    1. はにわファクトリー より:

      まんさく さま

      一点の不足も過誤もない見事な要約です。
      言論指を振り回して人の指弾に熱をあげる日本経済新聞社編集部や訳知り顔の労働行政担当者たちには決して持てない視点です。

  4. 雪だんご より:

    どれ位のグレードのマグロなんだろう?写真じゃ全く分からない。

    1. わんわん より:

       マグロといっても

      ブランドマグロ
      大間まぐろや三陸塩竈ひがしもの、海桜まぐろなどか?
      ブランドマグロでないか?

      マグロの種類
      https://furunavi.jp/discovery/knowledge_food/202106-tuna/
      部位による違いもある

      国産(日本国内水揚げ)か?・輸入物か?

      生か?冷凍物か?
      冷凍物なら冷凍・解凍技術もかかわる

      養殖物か?天然物か?

      写真だけではプロでも判断は難しいと思う

  5. クロワッサン より:

    >しかし、一般にインフレ局面では労働力が逼迫するため、低賃金という状況は長続きしません。労働力を確保するために、事業者としては賃金水準を引き上げざるを得なくなるからです。

    ひとり当たりの賃金水準が上がったとしても、会社全体の人件費を抑える為に事業者は一単位当たりの投入人員数を抑えそうです。

    おそらく、チェーンストア系だと特に。

    例えば、一単位が1日当たりの総労働時間で管理されていれば、平日はピークタイム五人オフピークタイム三人で回していたのを、ピークタイム四人オフピークタイム二人で回す、みたいな。

    結果、給料は上がったけれど仕事はそれ以上にキツくなり、心や身体を壊し、治療費を考えると前の方が労働環境は良かった、となるケースも。

    昨今の日本は、十人でこなしてた仕事を九人や八人でこなす際に、業務の効率化より人件費の抑制を先行させてきた状態だと考えます。

    なので、賃金水準を引き上げた事業者の現場では、総人件費を抑える為のサビ残やサビ休出が増えそうですね。

    それと、「正社員ひとりの給料でパート従業員がふたり雇えて、ふたりのパート従業員の仕事がひとりの正社員に相当するかと言うと、1ひとり半くらいになるから、正社員を減らしてパート従業員を増やせば利益につながる」ってのをとある経営者が言ってたと記憶してます。

    自分の給料が上がり一緒に働く人も増えて仕事も暮らしも楽になった、ってなる人は、多分「極めて稀」なんじゃないかなと。

    1. クロワッサン より:

      社是で「地域社会に貢献する」みたいなのを掲げている会社でも、社員は「地域社会のひとり」ではなく「地域社会に貢献する労働力」に過ぎないから、結局のところ搾取と使い捨ての対象でしかなく。

  6. CRUSH より:

    「一物一価」
    は、日本人だけのローカルな商習慣(つか共同幻想)かと。

    閉店間際の「赤札」
    賞味期限間際の「おつとめ品」
    決算月直前の「バーゲンセール」
    いつもの常連さんにだけ「お友達価格」
    実態としては日本でも、末端価格はバリアブル。

    類例1)
    定価千円のチョコ。(それをそのまま買う人もいる)
    ドラッグストアで700円。
    赤札で490円。
    まとめて10個で3千円。

    類例2)
    かつての名著、本多勝一のベドウィンルポによれば、イスラム世界での倫理は
    「金持ちからはボッタくれ」
    「貧乏人には与えろ」
    払える分だけ払わせるのが適正な対価なのだ!とのこと。

    こんな感じで
    「インバウン丼=千円のチョコ」
    みたいな?

    「一見さんだけを相手にする」
    と決意したビジネスモデルなんですが、まぁエエんじゃないですかね。
    僕ならそんな店には行きませんが、少なくとも、消費者がボヤくことじゃありませんわ。

    ちなみに京都など著名な観光地だと、地元密着の美味しい店は昔から、建前会員制にしてWEB拡散禁止など、リピーターに特化したスタイルですよ。
    こういうの、GDPに出てきません。(笑)

    1. クロワッサン より:

      なるほど、韓国人は国内の観光地に行くとぼったくられるから日本に行くと聞きますが、イスラム圏のぼったくりは韓国が起源なのか、逆なのか。

      1. CRUSH より:

        冗談にまじめに返すのも気が引けますが、
        「ぼったくり」
        イスラム圏と韓国とでは完全別モノかと。

        イスラム圏での「一物多価」には原始共産的な匂いがします。
        みんなで平等に幸せになるための工夫。

        韓国でのそれは、ネズミ講の臭いがします。
        自分だけが勝ち抜けするための方便。

        日本では、それぞれ好きなようにすればいいと思いますけどね。
        横並びが好きだから
        「どうしたらイイのか教えて」
        という風潮もありますが、そんなもん自分で考えろ!としか。

        江戸時代には金本位銀本位銅本位の3重変動相場を、庶民は生き抜いてきた実績があるのですから、実績的にやれないはずはないと思いますけどね。

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