ロシアが提示の「BRICS共通通貨」構想の非現実性
アルゼンチン、ブラジルに続き、今度はロシアです。タス通信によると、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は25日、今年8月に南アフリカで開催されるBRICSサミットで、「BRICS・ラテンアメリカ・カリブ海共通通貨」が話し合われるのだそうです。共通通貨と簡単に口に出すのは良いのですが、市場が未成熟な諸国が集まれば勝手にユーロができるというわけではありません。
トリレンマと先進国
当ウェブサイトでかなり以前から精力的に取り上げてきた話題のひとつが、「国際収支のトリレンマ」と呼ばれる「経済学の鉄則」です。これは、「①資本移動の自由」、「②金融政策の独立」、「③為替相場の安定」という3つの政策目標を同時に達成することは絶対にできない、とする、一種の「おきて」のようなものでしょう。
これについては、著者自身は「先進国型」、「香港型」、「発展途上国型」の3つの類型に分類できると考えています。
(1)先進国型
まず、「先進国型」とは、①自国の資本市場を外国に開放し、かつ、②金融政策の独立を追求するかわりに、③為替相場の安定を政策目標としては放棄する、というパターンです。日本、米国、英国などがその典型例でしょう。
自国の資本市場を外国に開放している国の場合、その国の通貨が外国にも広く受け入れられるようになる(かもしれない)、といったメリットが生じる反面、国際資本フローが不安定になりがちです。とくに中央銀行が利上げ、利下げなどを行うと、多くの場合、それだけで為替相場にも大きな影響が生じます。
ただ、日米英などの先進国の場合は、為替相場の変動については基本的に市場原理に委ねており(※ごくまれに為替介入を行うこともありますが、それは例外的なものです)、国際資本フローの自由と金融政策の独自性を大切にしているのです。
香港型、発展途上国型
(2)香港型
次に、著者自身が「香港型」と呼んでいるのは、①自国の資本市場を外国に開放し、かつ、③為替相場の安定(ペッグ制度など)を追求する代償として、②金融政策の独立を放棄する、というパターンです。
香港の場合は1米ドル=7.8香港ドルを中心とするカレンシーボード制を採用しており(厳密には1米ドル=7.75~7.85香港ドルの範囲での動きが容認されています)、為替相場をこの範囲にとどめるため、香港金融管理局(HKMA)の金融政策は、米FRBにほぼ連動しています。
こうした香港型の場合、資本移動の自由を容認しつつ、基軸通貨たる米ドルに対する為替変動もほぼ生じないことで為替相場が安定するというメリットもあるのですが、その反面、金融政策を通じた景気の調整という機能については、ほぼ失われてしまっています。
極端な話、香港が不景気であったとしても、米国が好景気で利上げせざるを得ない状況に追い込まれた場合には、「不景気なのに利上げしなければならない」、という事態も生じますし、香港でインフレが問題となっているときに米国が利下げをした場合は、「インフレ下で利下げしなければならない」こともあるのです。
(3)発展途上国型
ただ、上記(1)(2)は、いずれも「国際的な資本移動の自由」が保証されている場合に生じる現象であり、極端な話、資本移動に制限を加えたら、「②金融政策の独立」と「③為替相場の安定」を、同時に追求することができます。
その典型例は、中国でしょう。
中国の場合、外国人投資家が自由に中国本土の株式、債券などの金融商品を売買することは難しく、通貨・人民元自体は国際化が不十分な状態にあります。決済通貨としての重要性はある程度増えてきていますが、資本市場の対外開放という意味ではまったく進んでいません。
その結果、中国は金融政策の自由と為替相場の安定を同時に手に入れている、というわけです。
また、ウクライナ侵略戦争の結果、西側諸国から厳しい経済制裁を受けているロシアの場合も、金融政策の独立と為替相場の安定が(結果的には)達成できているのですが、その分、ロシアの通貨・ルーブルは国際的な決済市場から事実上締め出されてしまい、資本移動の自由が損なわれています。
共通通貨・ユーロの発足条件
(4)ユーロ型
なお、上記(2)香港型の「亜種」があるとしたら、それはユーロなどの「共通通貨」でしょう。ユーロ圏内では資本移動は自由ですし、また、通貨自体が同一である以上、「為替相場」というものは、絶対に動きません。しかし、結果的にユーロ圏内に関しては各国が独自の金融政策をとることができなくなります。
ユーロ圏ではフランス、ドイツ、イタリア、スペインなどのように、国が違っているにも関わらず同じ「ユーロ」という通貨を使用しており、また、国によって景気や失業率が異なっているにも関わらず、ユーロ圏内で一律の金融政策が適用されていることが大きな問題となっています。
やはり、ユーロ圏の大きな問題点は、通貨統合により金融政策だけ統一されたにも関わらず、ユーロ圏内での財政統合がなされていないという点にあります。
ただ、ユーロ圏はさまざまな問題を抱えながらも、何とか瓦解せずに続いています。
ユーロ圏の場合、そもそも参加している国がマーストリヒト条約に基づく財務収斂基準を充足していること、参加国が市場規律などを理解していることに加え、ユーロ圏に参加する国々が地理的に近く、経済規模も(多少のバラツキはありますが)だいたい同程度である、といった要因があるからでしょう。
共通通貨は自動的にユーロになるわけではない
さて、新たな共通通貨を創設するという動きは、世界中のあちらこちらで見られるものですが、「共通通貨」を作れば自動的にユーロになる、というものではありません。とくに発展途上国(上記3の国など)が集まったとしても、出来上がるのは国境をまたいだ壮大なゴミ通貨、というのが関の山ではないでしょうか。
こうしたなか、つい先日も、アルゼンチンとブラジルがお互いに共通通貨を創設するという方向で検討を進めるとした報道もありました(『アルゼンチンがブラジルと共通通貨創設に向け協議開始』等参照)。
何度も何度も外貨建債務をデフォルトしているアルゼンチン、かつてはハイパー・インフレにより通貨制度が半壊したこともあるブラジルなどが、好き好んで共通通貨を創設したとしても、そのような通貨制度自体がうまく運営されると考える方が楽観的過ぎる気がします。
くどいようですが、通貨に対する信認は、その発行国に対する信認とほぼ同一でもあります。
米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円、スイスフランなどが世界中で信頼されている理由としては、通貨自体の使い勝手の良さもさることながら、洗練された法制度や市場、民間金融機関の金融技術など、さまざまな要因が考えられますが、いずれも一朝一夕に出来上がるものではありません。
とりわけとある通貨の使い勝手を決めるには、「その通貨で株式や債券などを円滑に発行することはできるか」、「現物金融商品に付随する商品(デリバティブ、レポ取引など)は存在するか」といった要因も、非常に大切です。
おそらくブラジルとアルゼンチンの「共通通貨構想」も、「米ドルを介在させないで南米だけで取引を完結させる」、といった軽い考え方があるのかもしれませんが、残念ながら通貨というものは、「決済機能」だけではうまく機能しないのです。
今度はロシアがBRICS通貨構想
その一方で、ロシアのメディア『タス通信』(英語版)には、何やらもっと強烈な記事が掲載されているようです。
BRICS summit to discuss association’s currency — Lavrov
The topic of creating a BRICS currency will be discussed at the summit of the association in late August, Russian Foreign Minister Sergey Lavrov told reporters after talks with President of Angola Joao Lourenco.<<…続きを読む>>
―――2023/01/25 23:38付 タス通信英語版より
タス通信によると、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は訪問先のアンゴラで25日、記者団に対し「BRICS通貨の創設」が8月下旬のBRICSサミットで議論される予定であると明らかにしたのだそうです。
そのうえでラブロフ氏は「自尊心がある国」は「国際金融システムの支配者の顔色を伺う」のではなく、「外部からの命令とは無関係な、内部的に持続可能なメカニズム」を創出しなければならない、などと強調したのだとか。
頭が悪い人ほど妙に込み入った表現を使う傾向があるのは万国共通であり、それらの者は得てして「自分は頭が良い」と勘違いしているものですが、それ以上に強烈なのは、BRICS通貨という構想です。
ラブロフ氏は「BRICS諸国、ラテンアメリカ、カリブ海諸国共同体」の枠組みの内部通貨を作る「必要性が高まっている」としたうえで、8月下旬に南アフリカで開催されるBRICS首脳会議で、これについて「議論される」などとしたのだそうです。
正直、市場規律を理解していない未成熟な国が何ヵ国集まったところで「ユーロ」はできません。
ユーロの場合、同じ市場規律を理解している国同士が集まって出来上がった通貨であり、かつ、参加国は同じ財政赤字基準を持ち、市場統合がなされており、何より同じような程度の経済圏である、といった条件が必要です。
そのユーロ圏ですら国債デフォルトなどの混乱が生じているのですから、BRICSという地理的にも人口も経済規模もお互いまったくてんでバラバラな諸国が共通通貨を作ったとして、それが機能するはずなどありません。冗談にしてもキツ過ぎます。
そもそも中国とインドが市場統合するという時点で、かなりの無理があります。
いずれにせよ、アルゼンチンといい、ブラジルといい、ロシアといい、「共通通貨」と言い出す国は、たいていの場合は「経済的に大変苦境にある」という共通点でもあるのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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「自尊心のある国」は「苦し紛れにマイナー通貨を寄せ集めた共通通貨」に頼ろうとせず「自国通貨」でやっていこうと考えるのではないですかね。
金融・財政共に問題があるからこそ
新しいモノ(通貨)が欲しいのです。
新しい何か?を立ち上げたら気分一新する
場合もあるでしょ?
大体は話し合いだけでコケますが
うまくいけば株式の上場ゴールまで
行けそうと思いませんか?
アホな人達が証券会社の言い分だけ聞いて
IPO投資するみたいな。
似たようなものが、もう一つ
AIIBなるものが。
露助はん「多国間共通通貨」なら世界の金融システムから排除されないだろう、なんつー夢想に囚われとるんですかね?
言い出しっぺの参加想定国群眺める限り激甘見積り最大限成功しても公式に第二通貨以下で実態どのハードカレンシーより通用しない止まり、でないですかね
さすがに中国もインドもロシアと心中する気はないでしょう。
日本にも東アジア経済圏だの共通通貨だの言う人がいましたね。(今もいますが) 中国に阿ったことを言ったり、韓国で土下座したりすることが好きな人。
今もパタパタ飛んでますねえ。
古巣の韓流政党さんの
支持者のあいだだけでは
未だに彼らが呼んだ
ミスター民主党御大将さん
なんだとか。(笑)
BRICs+Kの国がRを除き
「じゃ米ドルに統一して地域通貨無しにしよ♪」
って言ったらロシア従うのか?
国内の商取引ですら,ルーブルより人民元が信用されるなんて
みっともない将来が訪れる可能性を,予め塞いでおこうという
深謀遠慮?(笑)