スイスの為替スワップ引出額が過去ピークの半分超える
為替スワップに基づくスイスによるドル資金の引出額が60億ドルを超えました。日本、英国、ECB、カナダのいずれも現時点で米国からほとんど資金を調達していないなかで、スイスの調達額が膨らんでいるのはさすがに目立ちます。スイスはコロナ禍の2020年4月には借入額が114億ドルに達したことがありますが、今回の水準はそれ以降のレベルでもあります。
常設型為替スワップ
スイス国民銀行の米FRBからの為替スワップに基づくドル資金の引出額が膨らんでいるようです。
「中央銀行相互間の為替スワップのネットワーク」とは、各国の中央銀行がお互いの国・地域の市中金融機関に対し、緊急時に流動性(おもに短期資金)を提供することを約束した協定のことであり、その最も有名なものが、米・欧・日・英・加・瑞6ヵ国・地域の常設型スワップでしょう。
このスワップは、とくに期限を定めず、お互いの要請に基づいて通貨を提供するというものですが、このなかでも最も頻繁に使用されているものが、米ドルの為替スワップでしょう。とくにコロナ禍が発生し、深刻化した2020年3月期以降、各国・地域の中央銀行がドル資金の引き出しを積極化しました。
日本の場合
たとえば日本の場合、2020年5月27日時点でFRBからの借入額が2258.39億ドルに達していたこともありますが(※これは当時世界で最大)、その後はスワップの引出額も減り、現時点ではほとんど借り入れていません(図表1)。
図表1 日本のドル引出額
(【出所】ニューヨーク連銀ウェブサイト “Central Bank Liquidity Swap Operations” データをもとに著者作成)
ECB・BOE・BOCの場合
また、欧州(ECB)は2020年6月10日時点で引出額が1449.81億ドルに達するなど、日本に次いで引出額が多かったのですが、現時点では残高はほとんどありません(図表3)。
図表3 ECBのドル引出額
(【出所】ニューヨーク連銀ウェブサイト “Central Bank Liquidity Swap Operations” データをもとに著者作成)
さらに英国の場合も、日本や欧州ほどではないにせよ、コロナ禍初期の2020年4月20日には377億ドルを引き出していましたが、同様に現時点では残高はほとんどありません(図表3)。
図表3 英国のドル引出額
(【出所】ニューヨーク連銀ウェブサイト “Central Bank Liquidity Swap Operations” データをもとに著者作成)
なお、カナダ(BOC)についてはこれまで引き出した実績があまり多くないため、グラフについては割愛します。
スイスの引出額が目立つ
こうしたなか、スイスの引出額が膨らんでいます。
スイスは2020年4月20日に借入額が114億ドルで最大に達したものの、その後は引出額がいったん沈静化しました。しかし、2020年12月から21年1月にかけ、借入額が100億ドルを超えたことがあり、そして最近は10月13日以降、借入額が62.70億ドルに膨らんでいるのです(図表4)。
図表4 スイスのドル引出額
(【出所】ニューヨーク連銀ウェブサイト “Central Bank Liquidity Swap Operations” データをもとに著者作成)
スイスのドル資金引出額が増えている要因はいったい何でしょうか。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)が配信した記事によれば、クレディ・スイス(CS)が最近、SNS上で財務健全性に関する噂に翻弄されている、などと指摘しています。
クレディ・スイスの資本不足はどれほど深刻なのか
―――2022/10/06 08:30付 swissinfo.chより【FT配信】
とくにCSのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドも急騰しているのですが、FTによれば、CSは今夏、投資銀行業務の縮小と15億フランのコスト削減を発表して以来、「資本不足」を巡るアナリストや市場関係者からの疑問が絶えないのだとか。
実際、いくつかの金融機関のアナリストらによれば、CSの資本不足額を巡っては40億フランとする説や、60億フランとする説などが提起されているのだそうです。
今回のスイスの為替スワップ調達額急上昇とCSの経営状態を巡るうわさに何らかの関係があるのかについてはさだかではありませんが、「スイス」という「意外な場所」から何らかの危機が噴出するのかどうかについては、注目に値する論点のひとつなのかもしれません。
オマケ:米国もスワップを引き出している
本稿の末尾にちょっとした「オマケ」です。
米国と5ヵ国・地域の常設型為替スワップの話題を取り上げると、ときどき、「米国にとってそのスワップのメリットはあるのか」、などとする質問を受けることがありますが、これについては「はい」と答えておきたいと思います。
じつは、米国から見ても、為替スワップの引出額はゼロではないからです。
ニューヨーク連銀のウェブサイトによれば、データ検索が可能な2014年10月以降に限定すると、ECBからユーロを引き出した取引を含め、過去に36回の外貨引出実績があります。FRBはこの5つの通貨をすべて引き出しています。
ただし、データに不備があるのか、「引出額」がほとんど「51,000」になってしまっています。さすがにこれはデータのエラーではないでしょうか。
ユーロ、英ポンド、加ドル、スイスフランで「51,000」といわれても、日本円に換算して500~1000万円程度に過ぎず、そのような額をFRBが引き出すものなのか、大変に謎です。さらに日本円で「51,000」といわれれば、福澤諭吉氏5名と野口英世氏1名ということであり、私たち一般人のサイフにも入っていそうな金額です。FRBがこの金額を借り入れるとも思えません。
いずれにせよ、金額面ではデータにかなりの疑問はあるにせよ、米国がこれら5つの通貨を引き出した実績があるという事実については、通貨論を展開する際に念頭に置いておいて良い論点のひとつでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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FRBの引き出し額…
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各中央銀行間の暗号符牒!?
図表1~4のように。スワップの実行額だけでなく、それに伴う金利まで併せて見せてもらうと、そのときどきにスワップが利用された意味がよく分かりますね。
日、欧、英がスワップを利用したときは、金利が最小となった時期。ドル建ての資本取引にスワップの利用が有利とみてのことで、実際民間銀行が盛んに米国連銀からドルを調達しても、その金利は変動していません。そして、金利が上昇してくれば、調達を止める。非常に合理的に行動しているってことでしょう。
それに比べると、最近のスイスのスワップ利用はずいぶん様子が違うようです。金利が高くとも、どうしても当座ドルを必要としている、というか、その実行額に併せて、金利が急上昇しているのが実情でしょう。米国連銀がそれだけのリスクを勘案してるって意味だと思います。
今仮に日本が協定に基づくスワップに手を出したとするなら、その金利は2.5%強。要するに米国内の公定歩合と同じというのは、ちょっと面白いですね。スイスは無論のこと、欧州、英国に対する金利(現在実際には利用されていませんが)よりさらに低い。
昨日の【読者専用記事】に、日経新聞に掲載された『32年ぶり円安、147円台後半 日本経済の構造的弱さ映す』という論説に対して、「こいつらビジネス経済紙を名乗りながら、なに馬鹿なこと言ってんだ」的な悪口を書きましたが、この金利の違いなんかは、米連銀が今の日本経済をどう見ているか、少なくとも英欧よりはマシと見ている証拠にはなると思います。
ところで、スイスの場合は、スイスフランという一国内で流通している通貨の問題なのですが、欧州はというと、これからどういうことになるのか気になります。タンカーを使って輸入している石油の場合は、調達先が変わるだけの問題で済むでしょうが、パイプラインで引っ張ってきたロシア産に頼っていた天然ガスについては、そうはいかないでしょう。日本のように十分な数のLNGタンカーは保有していないはずですから。
米国、中東辺りから調達するしかないのでしょうが、長期契約の割安価格ではなく、当然ドル建て。これにLNGタンカーの用船料なんかが上乗せされれば、冬場の需要増大を乗り切るためには巨額のドルの手当が必要になりそうな気がします。
ユーロ共通通貨を採用しながら、経済運営は各国別という不合理なEUの有り様は、ことあるごとにその問題を指摘されてきたところですが、イタリア、ギリシアなどの経済が弱い国が、欧州中央銀行が米国連銀と結んでいる金額無制限の為替スワップの権利を行使することは果たして可能なんでしょうか。また、最強国ドイツにしたところで、実際にこのスワップを利用するとなったら、スイスのケースと同様、金利は3.5%どころじゃない、引き出し額に併せて跳ね上がっていきそうな気がしますが、どうなるんでしょう。
ロシアの資産隠し疑惑のあるクレディスイスに,アメリカのFRBが助け船を出している,というのは,アメリカが連鎖的な金融危機を心配しているかもしれません。もし,破綻した場合,影響が世界各国にどの程度影響するか,未知数です。日本にも影響があるのは確実でしょうが。
スイスは為替介入した時のドルがうなってると思ったけど、もう無くなっちゃったの?
スイスは1ユーロ=1.20フランの通貨防衛をしていましたので、為替介入したときの外貨はドルではなくユーロではないでしょうか。想像ですが。