対ロシア与信リスクは仏伊墺の3ヵ国に集中=与信統計

対露融資で損失を発生させる可能性が高いのは、フランス、イタリア、オーストリアである――。これは、以前の『国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係』などでも指摘した予想ですが、当ウェブサイトの予想が正しかった証拠が、また出て来ました。時事通信の『欧州銀に巨額損失リスク ロシア向け投融資、回収困難』とする記事によれば、まさにフランス、イタリア、オーストリアの銀行の対露融資が問題になっているのだそうです。

BIS統計で見る国際与信

以前の『国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係』でも取り上げましたが、統計データ上、西側金融機関の対露エクスポージャーの金額自体、「最終リスクベース」で見て1000億ドルを少し超えるくらいです。

具体的には、国際決済銀行(BIS)が公表する国際与信統計(CBS)のデータを委細に検討していくと、「最終リスクベース」で見て、西側諸国などのロシアに対する与信額は2021年9月末時点において1047億ドルでした(図表1)。

図表 2021年9月末時点におけるロシアに対する債権国(最終リスクベース)
金額割合
1位:フランス236億ドル22.57%
2位:イタリア232億ドル22.14%
3位:オーストリア171億ドル16.31%
4位:米国145億ドル13.84%
5位:日本92億ドル8.80%
6位:ドイツ52億ドル4.92%
7位:オランダ47億ドル4.51%
8位:英国31億ドル2.93%
9位:韓国14億ドル1.35%
10位:フィンランド9億ドル0.89%
その他18億ドル1.73%
合計1047億ドル100.00%

(【出所】the Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics Full Dataより著者作成)

ロシアによる「非友好国からの債権」踏み倒し宣言

対露与信は上位10ヵ国だけで全体の98%以上を占めていますが、その上位10ヵ国は、いずれも「非友好国」リストに掲載された国ばかりです。

ここで、『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも取り上げたとおり、「非友好国リスト」は、ロシア政府が「外貨建ての債務の元利払いをルーブルで支払っても良いこととする」、という大統領令を一方的に公表した相手国のことです。

具体的には、ロシア政府が公表した「非友好国」リストを公表し、このリストに含まれた国・地域からの外貨建ての債務のうち、毎月1000万ルーブル(かそれに相当する外貨)を超える支払手続については、外貨ではなくルーブルを使用することを容認する、などとする措置です。

したがって、「非友好国からの債務踏み倒し宣言」により、少なくとも金融機関の対ロシア向け与信のうち、最悪の場合、全体の98%が凍結されるかもしれない、という話でもあります。

この点、「最終リスクベース」で見てみると、ロシアに対する国際与信の60%はフランス、イタリア、オーストリアの3ヵ国で占められている格好ですが、ただ、それと同時に、国際与信全体(2021年9月末時点で31兆1122億ドル)に占めるロシアの割合は0.3%に過ぎません。

このように考えていくと、ロシアが西側金融機関からの借金を全額踏み倒したとしても、フランス、イタリア、オーストリアの3ヵ国を除けば、正直、国際的な金融システムに対する影響は極めて少ないと考えて良い、というのが先日の議論の暫定的な結論、というわけです。

時事通信「欧州銀に巨額損失リスク」

こうしたなか、これに関連し、時事通信に今朝、こんな記事が出ていました。

欧州銀に巨額損失リスク ロシア向け投融資、回収困難

―――2022年03月14日07時06分付 時事通信より

時事通信によると、「欧州の金融機関が巨額の損失を被るリスクが高まっている」として、具体的にはソシエテ・ジェネラル(仏)が2021年末時点で186億ユーロ、ウニクレディト(伊)が78億ユーロ、ライファイゼン・バンク・インターナショナル(墺)が233億ユーロ、などとなっているのだとか。

この金額、先ほどの図表に示した金額(フランスが236億ドル、イタリアが232億ドル、オーストリアが171億ドル)というものとはピタリとは一致しませんが、「対露融資ではフランス、イタリア、オーストリア3ヵ国の与信が非常に大きい」とする統計的事実と、だいたい整合しています。

もっとも、時事通信によると、ドイツ最大手のドイツ銀行の場合、ロシアとウクライナ向けの与信は14億ユーロと「全体の0.3%に留まる」、などとしているなど、「欧州全体で対露融資で巨額の損失が生じている」とは言い難いのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

     凍結したロシアの外貨準備で精算するわけにはいかないですよね~。

    1. 元ジェネラリスト より:

      それだと凍結じゃなくて召し上げになっちゃいますね。w
      元に戻せなくなります。

      1. 赤ずきん より:

        元に戻す必要があるのでしょうか?。本来国連からも除名でしょう。ロシアも鎖国のつもりでしょうし。

        1. 元ジェネラリスト より:

          今の時点で手札を使い尽くす必要はないと判断しているのだと思います。次の状態がどんな状態なのか想像もつきませんが、今の戦闘状態が永遠に続くわけでもありません。

          例えば、プーチン政権が倒れそうになれば、それを餌にロシア国内にメッセージを出せます。「プーチンさえいなくなれば、もとに戻すかもよ」とか。
          何がどうなるかは全く見えないですが、選択肢は残しておくのが合理的だと思います。

  2. 愛読者 より:

    直接的な与信以外に,ロシア株などを経由した投資被害もあります。現在,ロシア株は評価基準額を算定できないもとが増えていて,ご指摘頂いた金額よりは被害が大きいでしょう。

  3. 月長石 より:

    米国からのロシア向け半導体輸出禁止に対抗して
    ロシア側は真空管の輸出を禁止したそうです。

    https://twitter.com/gear_otaku/status/1502816319552458760

    実は家にも一台electro-harmonix社の真空管ヘッドホンアンプがあるのですが.......
    GE製で相当品が手に入るはずなのでしばらくは様子見です。
    まさかのオーディオファンへのとばっちり。

  4. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    日本が中国を育てたように
    フランス、イタリア、ドイツもロシアを意図的に育てて、新冷戦になるように布石を打った面があるかも

  5. 匿名 より:

    ドイツやイギリスがCDSいっぱい持ってそう

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告