公式データで読む「都議選の得票と議席の意外な関係」

先月・6月22日に投開票が行われた東京都議選についての詳細な開票データが、東京都選挙管理委員会のウェブサイトにおいて公表されていました。これについて興味深いのは、選挙区調整を実施していない「再生の道」が国民民主党を上回る票を獲得しながら1議席も得られなかったこと、立憲民主党が議席を上積みしながらも、じつは得票を10万近く減らしていることかもしれません。

選挙期間中のウェブ評論

人気投票の公表は禁止されています!

現在は20日に投開票が行われる参議院議員通常選挙の選挙活動が行われているのですが、予想通り、いくつかのメディアが「情勢調査」と称したものを公表しているようです。ただ、くどいようですが、こうした調査自体は公選法が禁止する「人気投票」に該当する可能性が極めて濃厚です。

公職選挙法第138条の3(人気投票の禁止)

何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない。

つまり、各社が「序盤の情勢分析」、「中盤の情勢分析」、「終盤の情勢分析」などと称し、各政党の獲得議席予想を公表すること自体が、この公選法第138条の3が禁止している「人気投票」に該当する可能性が非常に高いのです。

支離滅裂でズレたコメント

もっとも、こうした選挙情勢の公表を理由として、メディアが摘発された、といった実例はほとんど存じ上げません。メディアが違法である疑いが濃厚な行為を行いつつ、警察、検察、総務省などの官僚組織がそれらをほぼまったくと言ってよいほど取り締まらないこと自体、この国の官僚・メディアが腐敗していることの証左でしょう。

ただし、これに関し、『マスコミにSNSをフェイクと批判する資格はあるのか』についたコメントの中に、こんなものがありました。

公職選挙法第138条の3では条文にもある通り、人気投票の経過又は結果を『公表してはならない』と禁止事項が規定してあります。/人気投票そのものは禁止してないので『調査自体は公選法が禁止する人気投票に該当する可能性が濃厚』との主張は誤りです」。

この主張自体、誤りです。マスメディアは「人気投票に限りなく近いもの」を実施したうえで「公表」しているわけですから、このコメント自体、当ウェブサイトで重ねて指摘している「公選法第138条の3違反」という指摘に対する反論にまったくなっていません。

ちなみにこのコメント主は、こう続けます。

『選挙情勢の公表を理由として、メディアが摘発され』ないことを『この国の腐敗の一端を示している』とも主張されてますが、情勢調査の生データを扱ってはいません。情勢調査で得たデータに各社独自の分析を交えて報道とすることにより、公職選挙法との折り合いをつけてます。/国が腐敗してるから摘発されないとの主張は、ずれていると言わざるをえません」。

…。

「生データを加工したらOK」というのも、なかなかに強烈な屁理屈です。「ズレているといわざるを得ない」のはこのコメント主の側でしょう。

都議選のレビュー

「すでに終わった選挙」の分析ならば問題ないはず

当ウェブサイトで官僚やメディアを批判すると、ごくまれに、毎回、IPアドレスを偽装しながら、この手の意味不明な用語コメントをつけてくるユーザーがいるのですが、まさか現役の官僚ないしはメディア関係者だったりするのでしょうか?

コメントの頭の悪さから判断して、まさか官僚ではあるまいと信じたいところですが、真相は闇の中です(笑)

いずれにせよ、たとえメディアが人気投票を公表していたとしても、当ウェブサイトとしては法令で禁止される行為に該当する可能性が高い話題を取り上げることは控えたいと思いますし、また、政治活動とウェブ評論活動は厳密に分けておきたいと思う次第です。

ただ、それと同時に、「現在進行中の選挙」ではなく、「すでに終わった選挙」を話題に取り上げる分にはまったく問題がないと考えています。

その一例が、先月行われた東京都議会議員選挙です。

すでに『都議会選挙で見えた組織票の限界』でも「速報」的に取り上げたのですが、東京都選管のウェブサイトを確認したところ、候補者別の得票数などのデータが公表されていたため、改めて公式データを使って東京都議選についてまとめてみたいと思います。

都議選の当選者数

まずは、当選者数です(図表1)。

図表1 東京都議選の当選者数(2021年vs2025年)
党派20212025増減
都民ファーストの会31310
自由民主党3218-14
無所属41511
公明党2319-4
日本共産党1914-5
立憲民主党14173
再生の道000
国民民主党099
参政党033
日本維新の会10-1
東京・生活者ネットワーク110
れいわ新選組000
日本保守党000
自治労と自治労連から国民を守る党000
その他000
合計1251272

(【出所】東京都選挙管理委員会ウェブサイトデータを集計)

なお、2021年選挙で当選者数が125人と定数(127人)に2人足りない理由は、小平市で2議席分が無投票で当選確定したからです。無投票当選者は自民党と立憲民主党が1議席ずつであり、図表中の当選者数はこの無投票が含まれていません。

この点について踏まえたうえで、実際に中身を見ていきましょう。

自公共惨敗、無所属・国民・参政が躍進

やはり印象的なのは、2021年と比べ、小池百合子・東京都知事の「与党」である都民ファーストの会が前回と同様に31議席を獲得し、最大会派となったことです(ちなみに無所属での当選者にも、2021年選挙では都民ファーストで当選した人物が2人含まれています)。

その一方で国政与党で選挙前は最大会派だった自民党の獲得議席が前回と比べ14議席も減っていますが、この自民党の議席数については少し注意が必要です。前回は小平市で1人、無投票で当選しているため、この時点で前回と比べた当選者数は「14議席減」ではなく「15議席減」です。

また、今回の都議選で無所属で当選した15人のうちの3人は、前回は自民党公認で当選しており、うち2人が選挙後に自民党から追加公認を受けたと報じられているため、現実には「13議席減」です。ということは、無所属も「11議席増」ではなく「9議席増」、ということです。

ただ、それ以上に興味深いのは、議席を減少させたのが自民党だけでなく日本共産党、公明党といった「組織票」を持っているとされる政党であり、内訳は共産党が5議席減、公明党が4議席減、そして国政では野党第2会派である日本維新の会は、都議会では議席を失ってしまいました。

では、躍進したのはどの政党だったのでしょうか。

国政では「最大野党」である立憲民主党は、東京都議会では存在感が小さかったのですが、今回は3議席増やし、前回比5議席減らした日本共産党に代わり、都議会でも「最大野党」に浮上しています。

ただし、小平市の無投票当選者を勘案すると、実質的には「2議席増」に過ぎず、やはり存在感が大きいのは9議席増だった無所属に加え、ゼロ議席から一気に9議席を獲得した国民民主党、同じくゼロ議席から一気に3議席を獲得した参政党などではないでしょうか。

投票率が前回と比べたった5%ほど動いたに過ぎないのに、自民党、公明党、日本共産党という「組織票政党」が大きく議席を減らし、国民民主党、参政党、無所属といった新興政党・無党派などが躍進する原動力となった可能性があります。

得票数はどうだったのか…「再生の道」の戦略ミス

そのうえで、もうひとつ重要なデータが、得票数です(図表2)。

図表2 東京都議選の得票(2021年vs2025年)
党派20212025増減
都民ファーストの会1,034,7781,043,5648,786
自由民主党1,192,797830,887-361,910
無所属235,889761,360525,471
公明党630,810530,217-100,593
日本共産党630,159489,084-141,075
立憲民主党573,087476,580-96,507
再生の道0407,025407,025
国民民主党31,101367,334336,233
参政党0117,389117,389
日本維新の会165,85180,545-85,306
東京・生活者ネットワーク61,07164,6673,596
れいわ新選組37,29946,7439,444
日本保守党022,71022,710
自治労と自治労連から国民を守る党018,66218,662
その他50,81629,377-21,439
合計4,643,6575,286,144642,487

(【出所】東京都選挙管理委員会ウェブサイトデータを集計)

ここで興味深いのが、都民ファーストが前回並みに安定して票を得ているのに対し、自民党が約36万票減らしたこと、無所属が約53万票増やしたことかもしれません。

これに加え、公明党、日本共産党がそれぞれ10万票以上ずつ得票を減らしており、これに対し昨年の東京都知事選にも出馬して2位に入った石丸伸二氏が率いる「再生の道」が約41万票と、躍進した国民民主党の約37万票を上回る票を獲得したことも印象的です。

「再生の道」はこれだけの票を獲得しておきながら、ただの1人も当選者を出せなかった格好ですが、(後講釈ではありますが)選挙区調整を行うなどし、あるいは候補者を絞るなどすれば、もしかしたら数人の当選者を出していたかもしれません。

実際、「再生の道」は候補者数が42人で、自民党(非公認を含め48人、非公認を除けば42人)に並ぶ候補者を立てたのですが、たとえば3人の候補を立てた杉並区のように、同じ政党で票を食い合う事例があったようです。

立憲民主党はじつは得票を減らしていた!

ただ、今回の都議選の結果を見ていてもっと興味深いのは、立憲民主党の事例でしょう。

図表2でも見たとおり、同党は3議席増やしていますが(※ただし実質的な増分は2議席)、得票数についてはむしろ前回と比べ、96,507票も減らしているのです。

この「議席は増えたが得票が減った」というのは、昨年秋の衆院選とまったく同じ構造です。

立憲民主党はそもそも同一選挙区で複数の候補を立てないように候補を分散させ、候補者数も2021年の27人から今回は20人に絞って17人を当選させているため、得票を減らしているにも関わらず結果的に当選者を増やすなど、選挙戦略としては非常に賢明です。

ちなみに「候補を絞る」というのは、自民党も同じようなことをやっているのですが、得票数を減らしているにも関わらず当選者を増やしたという意味では、やはり立憲民主党に「軍配」が上がった格好だといえなくもありません。

参院選は?

なお、この都議選の結果をもって、現在選挙運動が行われている参議院議員通常選挙の結果を正確に予想することは難しいのに加え、本稿の趣旨も「現在行われている選挙の結果を予測する」というものではありませんので、この点についてはくれぐれもご了承ください。

また、とあるメディアが実施した人気投票に関しては、当ウェブサイトにて現時点で取り上げることは控えますが、もし余力があれば、現時点で執筆したうえで「予定稿」として、2025年7月20日20時00分、つまり選挙が終わった瞬間に公表してみても良いとは思っている次第です。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 元雑用係 より:

    昨日から田舎の親類宅におり健康的な早寝早起き生活です。昼間は部屋のテレビで強制的にNHKを視聴させられています。(笑)

    都議選は中選挙区なので、党の得票数は候補者数に比例する面がありますね。党公認候補者一人あたりの得票で比べたら再生の道はそれほど延びていなかったと思います。

    (違法性の疑いがある)朝日の終盤情勢調査。既に皆さんご存知でしょうが、序盤調査と比べて選挙期間中に自民がさらに支持を下げていました。自民は都議選の時よりもさらに劣勢となったということなのでしょう。
    自民総裁の何かと物議を醸す発言もありましたけど、常日頃から政治に関心が高い人々と違って、有権者の多くは選挙期間が始まってから情報収集を始めるようですから、それらの人々が2週間かけてネットの蓄積情報に触れた結果なのかもしれないですね。

    「自民が負けそうだ」なんて情勢調査が出るとバランスを取ろうとする人々の反動で結果が逆に出たりしますが今回はどうでしょうね。自民支持層による自民忌避の流れがあるので、あまり反動はないのではないかな。

  2. CRUSH より:

    都知事選を題材に、今の世相を野次馬がボケーっと眺めてる感想ですが、

    aa.自民党から支持者が逃げ出す。
     さすがにもう火の付いた泥船であの船長はダメだ。
     公明は立ち枯れ?

    bb.逃げ方に程度差あり。
     保守は、参政か保守へ。
     中道は、国民へ。
     受け皿として、立件と維新は猫マタギ。

    cc.リベラルでも支持者が逃げ出す。
     手ぬるい。老人ばかり。口先だけじゃん。
     立憲と共産から、若い層がれいわへ。

    dd.ここまではゼロサムの椅子取りゲーム。
     唯一、再生だけが無関心層をゲームに呼び込んでいる。
     (乱暴ですが増加5ポイントは再生の40万票相当)

    安野の新党など、とにかく選択肢が増えている事が、従来の55年体制からの大きな差異ですね。
    与党批判は、これまでは野党第一党の得票に直結していましたが、もはやちがう。
    なのにまだやってるオールドな人たち。

    「悪夢の政権交代」
    は、たぶんもう来ないので、安心して
    「推しを育成する」
    スタンスで投票しても大丈夫な気がします。

  3. Sky より:

    興味深い解析ありがとうございます。なるほど、と思いました。

    オマケに2点コメントです。
    1つ目
    公共放送NHK。
    パナソニックの北米で建設する電池工場のニュースでテスラの売上がイマイチである理由で、イーロン・マスクのDOGEが不買運動によるものとか言ってました。DOGEにNHKが名指しされたことを根に持っていて暗い奴らだなぁと。また散々SNS下げキャンペーンを打っておきながら、参院選での各党のSNS活動を取り上げてたりして、高齢視聴者は???と思ったことでしょう。
    2つ目。
    >情勢調査で得たデータに各社独自の分析を交えて報道とすることにより、公職選挙法との折り合いをつけてます。
    この「各社独自の分析を交えて報道」って奴。
    要するに日本の報道の平常運転。事象そのままを報道する事が出来ないのが日本の報道機関ですが、その行為をこんな風に正当化するとは!?
    ビックリしました。 流石です。普通に社会人生活している私には到底到達できない境地にいるのだなぁと思いました。

    1. はにわファクトリー より:

      選民意識がそうさせる

    2. KN より:

      >独自の分析を交えて報道とすることにより、公職選挙法との折り合いをつけてます

      監督官庁の総務省が警告すらしない屁理屈が、まさかこれということはないよね。
      浜田聡議員あたりがお問い合わせをしていただきたい。

  4. 匿名 より:

    Grokに参政党のロシア工作について聞いてみたら、「証拠がない」と言っていました。

    >Grokがアメリカ国防総省に採用され、その企業であるイーロン氏のxAI社が明らかに軍事産業企業として台頭する中で、氏の野望はどこに?

    https://genkimaru1.livedoor.blog/archives/2342069.html

    Grokはこういう背景を持ってます。
    こうなるとSNS工作は、日本政府がやっているのではないかという、疑念が出てきます。
    「日本人ファースト」と無駄な省庁の削除の機運を破壊したいのでしょう。

    今後日本政府や記者クラブマスコミが、SNSで事件を起こして、言論弾圧を開始しようとしたら、X(Twitter)が話題の時は、工作があったのか?Grokに聞いてみるといいと思います。

    X(Twitter)とGrokは連動しているので、自分の体に工作しかけられたものです。
    ログとか残ってれば解るでしょう。

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