夏の参院選で連立与党「改選後過半数割れ」するライン

ちょっと気になって、過去の選挙データを見ていたら、少なくとも2005年以降の13回の大型国政選挙(衆院総選挙、参院通常選挙)で見ると、自民党が比例代表で最も低い得票率にとどまったのは2010年の参院選であることが判明しました。正直、自民党が今夏の参院選で2007年並みの敗北を喫するかどうかは気になりますが、もし比例の得票率が2010年並みに留まれば、やはり改選後に参院でも連立与党が過半数割れする事態も生じるかもしれません。

参院選で苦戦?それとも自民党内政局?

今夏の参院選で自民党はどうなってしまうのか―――。

端的にいえば、かなりの苦戦が間違いないといえます。

昨日の『野党第1党なのに「石破首相続投」を願う奇妙なホンネ』では、最新の報道記事をもとに、「最大野党」であるはずの立憲民主党が、本音ではどうも内閣不信任案の提出を望んでいないらしい、という話題を取り上げました。

あわせて自民党内でも「反石破派」(?)と目されている西村康稔・元経産省や萩生田光一・元自民党政調会長らの党員資格停止処分が満了したことで、これから自民党内で「石破おろし」の政局に発展するかどうかには注目したい、といった趣旨のことを申し上げました。

その意味では、与野党を含めた今後の政局の動きには要注意です。

過去の参院選、数字で振り返ってみた

ただ、政局だ、政治だといった話題は、当ウェブサイトにとっては若干の苦手要因でもあります。

当ウェブサイトは「数字」を好んで取り上げてきたからであり、今回もやや数字に着目した議論を展開したいと思ったからです。

こうしたなかで本稿で注目しておきたいのが、過去の参院選における自民党の獲得議席に関するデータです。

過去の参院選における自民党の獲得議席
  • 2007年…37議席(選挙区23+比例代表14)
  • 2010年…51議席(選挙区39+比例代表12)
  • 2013年…65議席(選挙区47+比例代表18)
  • 2016年…55議席(選挙区36+比例代表19)
  • 2019年…57議席(選挙区38+比例代表19)
  • 2022年…63議席(選挙区45+比例代表18)

(【出所】総務省データをもとに作成)

(※ちなみに参院の定数は242議席から248議席に増えたことに伴い、2019年以降は改選議席数もそれまでの121議席から124議席に3議席増えていますが、大勢の分析に大きな影響はないため、とくに数値の調整は行っていません。)

これで見ると、著者自身がデータを持っている過去6回の参院選に関して、自民党の獲得議席が最小だったのは2007年の37議席、最多だったのは2013年の65議席と、倍近い差が生じているのですが、少なくとも2010年以降の5回に限定していえば、自民党は50議席を超える議席を獲得し続けています。

つまり、2007年の37議席というのが自民党としては例外的なものであり、また、安倍晋三総理大臣が率いた2回目の参院選である2013年と、安倍総理が暗殺された直後の2022年に関しては60議席を超えているのですが、それ以外の選挙では、自民党はだいたい50議席台で安定しています。

逆にいえば、自民党は50議席を割り込めば「大敗を喫した」、60議席台に乗せれば「大勝した」といえるのではないでしょうか。

民主党政権時代に自民は参院選をどう戦ったか

ただ、ここでもうひとつ注目しておきたいのが、比例代表での獲得議席数です。

さきほど、「自民党は2007年の通常選で獲得議席が37議席という大敗を喫した」と述べたのですが(逆にいえばそれ以外の選挙は50議席台から60議席台だった、ということですが)、意外なことに、比例代表では14議席を獲得しています。

比例での獲得議席数が最も少なかったのは、谷垣禎一総裁(当時)が率いた2010年の参院選の12議席です(※谷垣自民は選挙区では39議席を獲得しています)。そして、安倍総理以降の自民党は比例代表で安定して18~19議席を獲得し続けているのです。

2010年といえば民主党の菅直人政権時代であり、前年に発足した鳩山由紀夫政権が沖縄県普天間飛行場の辺野古移設などを巡って迷走を繰り返した挙句、バラク・オバマ米大統領(当時)に「トラスト・ミー(TORASUTO MEE)」などと叫ぶなどルーピー呼ばわりされた直後のことでもあります。

そうした状況に照らせば、自民党は比例代表でもっと多くの票を得ていても不思議ではない気がするのですが、現実にはそうなっていなかったのです。

比例代表での得票状況と得票率

そこで、もうひとつ気になって、今度は衆院選も含め、著者自身が手元にデータを持っている2005年以降の国政選挙データをもとに、自民党の比例代表での得票数と得票率を列挙しておくと、こんな具合です。

過去13回の国政選挙・比例代表の自民党得票状況
  • 2005年…25,887,798票(38.18%)
  • 2007年…16,544,761票(28.08%)
  • 2009年…18,810,217票(26.73%)
  • 2010年…14,071,671票(24.07%)
  • 2012年…16,624,457票(27.62%)
  • 2013年…18,460,335票(34.68%)
  • 2014年…17,658,916票(33.11%)
  • 2016年…20,114,788票(35.91%)
  • 2017年…18,555,717票(33.28%)
  • 2019年…17,712,373票(35.37%)
  • 2021年…19,914,883票(34.66%)
  • 2022年…18,256,245票(34.43%)
  • 2024年…14,582,690票(26.73%)

(【出所】総務省データをもとに作成)

衆院選と参院選両方のデータが混じっていますが、「比例代表」での得票状況のみを抜粋しているため、自民党の支持状況を見るうえでは非常に手っ取り早いものでもあります。

安倍政権時代、自民の得票率は30%を超えていた!

これで見ても、やはり2010年の自民党の比例得票率は24.07%で、ここに列挙した13回の選挙のなかでも最低です。ということは、2010年の自民党は2007年のときと比べ議席を伸ばしたものの、それはおもに選挙区で躍進した(あるいは選挙区でライバルの民主党が苦戦した)だけの話だったのではないでしょうか。

また、安倍総理が再登板するきっかけとなった2012年の衆院選では、自民党は294議席を獲得し、圧勝しましたが、比例代表では27.62%と、自民党が下野する原因となった2009年の26.73%とさして変わらないことにも留意が必要かもしれません。

そして、この「26.73%」は、昨年秋、石破茂・現首相が満を持して解散総選挙に臨んだ結果、自民党が惨敗したときと、じつはまったく同じです。

2009年の総選挙で麻生太郎総理大臣率いる自民党は下野し、2024年の総選挙で石破茂・現首相率いる自民党が下野しなかった理由は、単純にその時点の最大野党(民主党、立憲民主党)が強かったか、弱かったかという違いに過ぎません。

また、自民党は比例代表で、安倍総理が就任して以降の2013年参院選で34.68%の得票率をたたき出したのを皮切りに、2022年参院選まで7回連続して、大型国政選挙における比例代表の得票率が30%を超えていました。

比例代表で10議席に留まる惨敗も!?

昨年衆院選の時点で30%を割り込んだなかで、今夏の参院選・比例代表で自民党がどれだけ得票を減らすかは気になるところです。

ただ、これについてもやはり、昨秋以降、自民党が顕著に有権者の支持を回復する材料がないどころか、むしろ「年収の壁」議論等で国民を愚弄したことを踏まえると、相当厳しいものとなる―――、すなわち比例代表の得票数が2010年のそれを割り込む可能性があることには注意が必要です。

参院は衆院と異なり、比例代表は全国区の「非拘束名簿方式」を用いているため、得票数と議席数が比例する関係にあり、その目安はざっくり、「110万票で1人当選」、というレベルです。

したがって、仮に今夏の参院選で自民党の比例の得票数が、2010年の1400万票前後、あるいはそれを割り込むレベルにとどまったならば、比例代表での獲得議席が10議席前後、という事態に陥る可能性もあるのです。

もちろん、衆院選であれ、参院選であれ、党勢を決める最も重要な要素は選挙区であり、衆参問わず、自民党(や立憲民主党)は現状、全国の多くの選挙区でしっかりと根を張っていることから、さすがに選挙区の獲得議席が2007年並みの23議席前後にまで落ちるとは、現時点では考えづらいところです。

ただし、従来2人当選してきた選挙区(たとえば東京都)では、2人を当選させることができない、といった事例も生じるかもしれませんし、2019年の38議席と比べると、3~12議席程度の後退は覚悟しておくべきかもしれません。

選挙後の過半数割れも…今後に要注意!

そうなると、選挙区で26~35議席、比例代表で9~11議席、合計35~46議席、と、2007年に次ぐ惨敗となる可能性があることには注意が必要です。

この場合、何が恐ろしいかといえば、参院側でも自民党(と公明党の連立与党)が過半数を割ってしまう可能性が現実のものとなることです。

参院ウェブサイトによると令和7年4月3日時点の議席は統一会派ベースで自民党が113議席(うち非改選61議席)、公明党が27議席(うち非改選が13議席)で合計140議席と過半数(125議席)を上回っています。

しかし、もし自民党の獲得議席が35議席に留まれば、非改選61議席と合計しても96議席、そして近年、党勢の退潮が目立つ公明党が前回並みの14議席を獲得できたとしても合計123議席、公明党の獲得議席が10議席程度に留まれば119議席と、いずれも過半数を割り込んでしまいます。

そして、参院ではいったん選ばれた議員の任期は6年間保証されていますので、2007年から2013年の自民党がそうだったように、自民党を主体とする政権が続く場合、石破首相が仮に辞任してマトモな政治家が総理に就任したとしても、重要法案などの審議が停滞することにもなりかねません。

正直、かなり危機的な状況、ということでもあります。

もちろん、自民党が改選後で、公明党と合わせても過半数を割り込むというシナリオは、自民党のライバル政党がいったいどれだけ信頼に足る候補者を擁立できるか、あるいはどこまで支持を伸ばせるか、というシナリオと表裏一体でもあります。

とりわけ「減税」を掲げて支持を伸ばす国民民主党が、32の一人区を含め、選挙区でどれだけ候補を擁立できるかは気になるところですが、ただ、さすがにこの短期間で50議席も60議席も獲得するのを目指すには無理があります。

国民民主党は獲得できたとしても15~30議席(比例で9~14議席、選挙区で6~16議席程度)が限界でしょう(15議席獲得したとしても大躍進であることは間違いありませんが)。

そうなると、「受け皿」としては立憲民主党が伸びてしまうことにもつながりかねません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

そういえば最近、立憲民主党のとある政治家がXに、「減税をします」とする趣旨の「エイプリルフールネタ」を投稿して「炎上」しているようですが、これについては自民党にだって、宮沢洋一税調会長という、似たようなことをやって国民を愚弄した人物がいました。

宮沢洋一氏は宮澤喜一元首相に続き、「自民党を下野させた張本人」として、後世に記憶されることになるのでしょうか?

その意味でも、選挙には注目する価値がありそうです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 丸の内会計士 より:

    トランプ関税で日本の政策は、大規模減税一択になったと思います。自民党も減税を言わざるを得ない状況になり有権者からは、また振れたねということで更に厳しい選挙になりそうです。

    1. 匿名 より:

      Zと爺民党を甘く見過ぎです。
      トランプ関税の影響を受ける企業を支えるために補助金出すので財源確保のために増税します。この国難を乗り切るために国民全員で負担しましょう。
      が奴らの考え方です。

  2. Sky より:

    自民党は無為に時間を浪費し、このまま参院選に臨むのでしょうか?
    本ブログの言うように6年って凄くキツイと思うのですが。
    もう与党続けるの諦めたのか。

    と、見限ったはずの反町さん亡きBSフジプライムニュース。
    何気なく見たら、鈴置さん、眞田さんが出ている!
    ついでに髭隊長も。

  3. DEEPBLUE より:

    石破政権で参院選を迎えるなら、惨敗して責任を取って貰いたい物です。

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