崩壊元年の様相呈するテレビ業界

連日報じられているフジテレビからのCM差止ラッシュについては、事態収束のシナリオを予測するのが難しいという状況なのですが、ここに来て一部報道によると、同局を巡ってはさらに非常識な疑惑も持ち上がったようです。ただ、これらが事実だとしたら、たしかにフジテレビには大きな問題があるわけですが、他局にも問題がなかったわけではありません。ここで総務省とテレビ業界の癒着と腐敗の構造にも注目しなければなりませんし、今回の騒動も、反社会的な業界を排除しようとする私たちの社会の地殻変動の力学で理解すべきではないでしょうか。

CM差止はスポンサーもSNSでの不買運動等を懸念か

連日報じられている通り、また、当ウェブサイトでも連日取り上げている通り、フジテレビは現在、スポンサーによるCM差止ラッシュに直面しています。

状況に照らし、男性タレントの女性スキャンダルに端を発した疑惑に対する社長の説明が不十分だったことが引き金になったことは間違いなさそうですが、それにしても異例な展開です。特定の番組から特定のスポンサーが手を引いたのではなく、放送局全体からいっせいにスポンサーが手を引いているフシがあるからです。

CM放送を差し止めた企業の一覧、あるいは自社提供番組の放送見合わせなどの対応の一覧は本稿末尾に掲載していますが、著者自身が確認できた事例だと60社を超えていますが、一部の報道等によれば75社を超えたともされています。

ではなぜ、いっせいにスポンサーが同局から手を引くような事態が生じているのでしょうか。

これも端的にいえば、近年のスポンサー各社におけるコンプライアンス意識の高まりに加え、急速に社会的影響力を増すSNSの存在を警戒しての動きではないかと考えられます。

CM差止は17日の社長会見が契機だった可能性が高い

そもそも一部週刊誌が報じた「性上納」などの問題が事実だとしたら、一般社会通念以前の問題として、人倫に照らし、到底許されない話です。

しかも、(一部報道によれば外国人機関投資家の要望で開催されたとされる)17日のフジテレビ社長の会見は、映像撮影禁止、中継禁止で、限られたメディアの記者のみの参加を認め、雑誌、ウェブ媒体、フリーランスの記者らの参加が認められず、社長も「回答を控える」との発言に終始したとのことです。

こうした状況で、SNSではフジテレビに対する失望、非難だけでなく、こうした非難がスポンサー企業にも向かうという動きが生じかねない状況でした。

結局、日本生命保険相互会社やトヨタ自動車株式会社などの大手を皮切りに、堰を切ったように多くのスポンサー企業がいっせいにCMの出稿を差し止める動きとなったのですが、これもスポンサー企業側が、SNSを通じた不買運動などを強く警戒したのではないか、と考えるのが自然でしょう。

こうなってくると、この問題に対する関心は、「事態はいつまで続くのか」、「どのようなかたちで収束するのか」、といった点に向かわざるを得ません。

ただ、正直、事態収拾のめどをつけるのは、現時点ではなかなか難しいところです。

これまでになかった事態だからです。

これまでであればテレビ局の不祥事(※疑惑を含む)を契機としてスポンサーがいっせいに手を引くということは考え辛かったのですが、今回の事態はフジテレビの社長が改めて会見を開き、謝罪すれば済む、といった単純なものでもなさそうです。

「社長が辞任して何とかなる問題」でもなくなりつつある?

個人的には、「ニッポン株式会社」にありがちな落としどころとして、何らかの調査報告書を公表したうえで社長、あるいは現経営陣が辞任するなどすれば、そのことをケジメとしてスポンサー側も矛を収め、騒動が収束する、といったシナリオはあり得ると考えていました。

ところが、ここに来て、火に油を注ぐかのような話題が出てきました。

ウェブ評論サイト『デイリー新潮』が22日、事実だとしたらなんとも衝撃的な話題を報じたのです。

「A氏に多目的トイレに連れ込まれ、キスされた社員も」 フジテレビ元女性社員が告発 「中居さんのマネージャーが近づいてきたことも」

―――2025年01月22日付 デイリー新潮より

記事のタイトル自体、普段であれば当ウェブサイトの品位を保つ観点から、センシティブな行為に及ぶ部分や疑惑の人物の人名などについては伏せ字にしたいところですが、今回は話題が話題だけに、敢えてそのまま掲載させていただきました。

ですが、記事の具体的な内容についてはあまりにも生々しいため、引用というかたちで当ウェブサイトに掲載することは控えます。

(※ちなみに余談ですが、「多目的トイレ」というキーワードが報じられたのは、今回が初めてではありません。2020年にも、とある芸能人が不倫の場として「多目的トイレ」を使用したとする記事が話題となったことがありました。どうでも良い話かもしれませんが…。)

いずれにせよ、とにかく社長辞任くらいで済む問題でもなくなってしまったかの感があります。記事に記載された内容があまりにも非常識かつ反社会的だからです(あくまでも「記事で書かれた内容が事実だとすれば」、という話ですが)。

これでこの問題がSNSでさらに「炎上」することは間違いありません。

果たしてフジテレビ「だけ」の問題なのか?

ただし、ここでふと冷静になって考えてみたいのですが、これはフジテレビだけの問題なのでしょうか?

もちろん、フジテレビの今回の一連の疑惑、「事実だとすれば」非常に深刻なものであることは間違いありません。「枕営業」「性上納」などの行為は(※あくまでも「事実だとすれば」ですが)それ自体が反社会的な行為であり、そのようなことを行う組織は、この社会から存在を否定されても仕方がないからです。

しかし、そもそも論として、テレビ業界には局により蹴りではあるにせよ、だいたいどの局にも、一般事業会社であれば絶対に許されないような不祥事を過去に発生させているのではないでしょうか。

テレビ朝日の「椿事件」であったり、TBSの「オウム真理教ビデオ事件」であったり、日テレの「セクシー田中さん問題」や「24時間テレビ募金着服事件」であったり、さらにはNHKの文化遺産破壊事件(熊野古道百済寺本堂など)のように、例を挙げていけばキリがありません。

今回のフジテレビの「事件」はたしかに問題として深刻ですが(※くどいようですが、それはあくまでも「一連の疑惑が事実だったら」、という話です)、フジテレビが問題ならば他のテレビ局だって過去に発生した事件に照らし、五十歩百歩ではないか、という議論は成り立ちます。

テレビ局にほとんど行政処分を下さなかった総務官僚の罪

そうなってくると、諸悪の根源という意味では、テレビ業界をもう少し俯瞰しておく必要があります。とりわけ放送局に対しこれまで停波などの処分をほとんど下してこなかった総務官僚の責任について指摘しておくべきでしょう。

フジの外資規制違反を「口頭厳重注意」で済ます総務省』でも取り上げましたが、かつてフジテレビにおいて2012年9月末から14年3月末の期間、放送法上の外資規制(いわゆる20%ルール)違反が発生した際に、総務省担当者が2014年12月に「口頭で」厳重注意した、という事件がありました。

本来であれば、大臣または政務官に説明し、政治判断を仰ぐべきところですが、どうも総務官僚らがそれを行った形跡はないのです。

とりわけ東北新社が2021年、放送法上の認定を取り消されるという処分を受けていることと比べると、処分が明らかに甘すぎますし、むしろこの「総務省担当者による口頭での注意」自体が違法な行政処分である、という可能性が濃厚です。

総務省からテレビ局への「天下り」という癒着・腐敗利権構造

ではなぜ、ここまで甘い処分で済ませて来たのか―――。

そのヒントのひとつが、天下りです。『週刊文春』の20日付の記事によれば、総務官僚経験者がフジテレビの取締役などに「天下り」している事実がある、というのです。

〈中居正広9000万円トラブル〉フジテレビ“ガバナンス崩壊”の裏で「総務省キャリア官僚」が続々天下り! 「7万円接待」女性初の首相秘書官を直撃すると…

―――2025/01/20 06:12付 Yahoo!ニュースより【文春オンライン配信】

これが事実だとすれば、総務官僚は自身の天下り先であるテレビ局に対し極めて甘く、違法行為に対してろくに行政処分を下していない、という実態が浮かび上がってきます。

総務省・総務官僚が自身の天下り先や業界の利権を守るために、大手テレビ局に対しては絶対に行政処分を下さなかった結果、大手テレビ局では違法行為(放送法違反など)や反社会的行為が横行・蔓延していて、今回の不祥事もその氷山の一角なのである―――。

そんな仮説が出て来るゆえんです。

そして、この構図、当ウェブサイトでは『【総論】腐敗トライアングル崩壊はメディアから始まる』などを含め、繰り返し説明してきた「腐敗トライアングル」そのものです。

腐敗トライアングルの基本構造
  • 「野党議員やメディアの問題を官僚機構は処分しない」。

  • 「官僚機構や野党議員の問題をメディアは報道しない」。
  • 「官僚機構やメディアの問題を野党議員は追及しない」。

©新宿会計士の政治経済評論(https://shinjukuacc.com/)

具体的には、テレビ局は監督官庁である総務省から官僚の天下りなどを受け入れることで、電波を格安で利用する権利を保証してもらうとともに、さまざまな法令違反、反社会的行為についても「お目こぼし」を受け、絶対に処分されない状況を作ったのでしょう。

その結果、「どうせなにをやっても絶対に処罰されない」、とばかりに倫理観がぶっ飛んでしまい、それがテレビ業界(と官僚機構)の不祥事の数々に繋がっていて、テレビ業界による社会を舐めきった態度が形成されてしまったのではないでしょうか。

テレビ局(あるいは新聞も含めたオールドメディア)による「質の低い報道」と「高すぎる費用」という構図も、その腐敗利権の一部を形成しています。

彼らに大きな誤算があったのだとしたら、まさかSNSを含めたネットの社会的影響力がここまで急速に高まり、オールドメディアを社会的影響力という観点で、遅くとも昨年(2024年)までに、完全に抜き去ってしまったのです(『「税の取られ過ぎ」に気付いた国民がSNSを手にした』等参照)。

その意味では、CM出稿企業の離脱という動きは、オールドメディアと官僚機構という「国民から選ばれていないくせに大きな権力を不当に握っている者たち」を社会から排除しようとする大きな地殻変動の一部に位置付けるのが正確な理解ではないでしょうか。

その意味で、2024年が「SNS元年」だとしたら、2025年は「テレビ利権崩壊元年」といえるのかもしれません。

スポンサーの対応一覧

本稿末尾に、昨日夜時点までで著者が調べたスポンサー企業の対応一覧を掲載しておきます。どうぞご参照ください(対応等に追加した方が良い事例などがあれば、本稿の読者コメント欄あるいは著者自身のXアカウント@shinjukuaccのリプ欄などにてご教示いただけますと幸いです)。

CM差止企業一覧

金融・保険
  • 株式会社三井住友銀行
  • 松井証券株式会社
  • 日本生命保険相互会社
  • 第一生命保険株式会社
  • 住友生命保険相互会社
  • 明治安田生命保険相互会社
  • アフラック生命保険株式会社
  • ソニー損害保険株式会社
  • ウェルスナビ株式会社
  • アコム株式会社
不動産大手
  • 三菱地所株式会社
  • 三井不動産株式会社
  • 住友不動産株式会社
輸送用機器
  • トヨタ自動車株式会社
  • 本田技研工業株式会社
  • 日産自動車株式会社
  • 三菱自動車工業株式会社
  • ダイハツ工業株式会社
  • スズキ株式会社
  • マツダ株式会社
  • 株式会社SUBARU
エネルギー
  • コスモエネルギーホールディングス株式会社
  • 株式会社INPEX
  • 東京電力ホールディングス株式会社
外食・小売
  • 日本マクドナルド株式会社
  • 株式会社セブン&アイ・ホールディングス
  • イオン株式会社
  • 株式会社ローソン
飲料・食品
  • 明治ホールディングス株式会社
  • 日清ホールディングス株式会社
  • サッポロビール株式会社
  • サントリーホールディングス株式会社
  • アサヒビール株式会社
  • キリンホールディングス株式会社
  • 株式会社ヤクルト本社
  • 日本コカ・コーラ株式会社
  • 日本たばこ産業株式会社
  • Uber Eats Japan合同会社
製薬・雑貨
  • ライオン株式会社
  • ユニ・チャーム株式会社
  • 花王株式会社
  • 株式会社資生堂
  • アリナミン製薬株式会社
  • 第一三共ヘルスケア株式会社
  • 大正製薬株式会社
通信その他
  • 東日本電信電話株式会社
  • KDDI株式会社
  • ソフトバンク株式会社
  • 楽天グループ株式会社
  • 株式会社メルカリ
  • 株式会社ダスキン
  • 株式会社リクルート
  • 東日本旅客鉄道株式会社
  • 大東建託株式会社
  • 株式会社クボタ
  • 三菱電機株式会社
  • 任天堂株式会社
  • 株式会社オリエンタルランド
  • 日本郵政株式会社
  • 興和株式会社
  • 日本中央競馬会

その他の対応

  • キッコーマン株式会社(一社提供番組の放送見合わせ)
  • 塩野義製薬株式会社(一社提供番組のタイトル社名削除検討)

(【出所】各社発表または各種報道等をもとに作成)

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    他のテレビ局ビクビクしてるんじゃないかな。
    フジテレビだけということないでしょ。
    業界の暗部かもしれないね。

    それにしてもフジテレビって酒池肉林だね。

    1. はにわファクトリー より:

      広告というお金の流れが変わってしまい、やりたい放題していた連中がいきなり干される可能性が強まって来ました。その一方で海外から流入する資金を当てにする比重は大きくなっていくのだろうと予測します。

  2. 引きこもり中年 より:

    週刊誌でフジテレビ問題、さらには総務省との関係を報じられている以上、週刊誌ネタで国会で騒ぐ立憲は、この問題を国会で取り上げないのでしょうか。

    1. 引きこもり中年 より:

      すみません。もし立憲が国会でフジテレビ問題をとりあげたら、フジテレビは別のことで、全力で立憲を叩くということを、忘れていました。

  3. sqsq より:

    そもそもプラスの効果(企業イメージの向上、販促)を狙ってカネを払っているコマーシャルが企業イメージにマイナスならやめるよね。

    成り行き次第ではチャンネル1つ減るね。フジは自業自得だけど地方の系列局はどうなるんだろう。例えば関西テレビ(大阪)東海テレビ(名古屋)の従業員数563人、351人。
    従業員数の少なさに目が行くと思うけど、これは大部分フジの番組を流して広告料の一部をもらうビジネスモデルだから。

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