減税が焦点となるなか改めて見ておきたい資金循環構造
財政再建派よ、バランスシートを見よ
国債がデフォルトするためには、一般に①国内投資家が国債を買ってくれなくなること、②海外投資家が国債を買ってくれなくなること、そして③中央銀行が国債を買ってくれなくなること、という3つの要件を同時に満たすことが必要です。ところが、この一番最初の①の部分で、そもそも日本は国債デフォルトの要件を満たしていない、という点については、拙著の刊行から4年が経過するなかで改めて指摘しておきたいと思います。
2024/11/22 08:00追記
サムネイルが抜けていました。
目次
国債デフォルトの3要件
ずいぶんと以前に上梓した『数字で見る「強い」日本経済』では、「数字で見ると」、日本経済は大変に大きなポテンシャルを秘めていることを強調するとともに、世の中の(自称)経済学者、(自称)財政学者らが頑なに無視する、「じつは日本は財政危機ではない」という点を強調したつもりです。
こうしたなかで、ひとつの「体系」が、国債デフォルトの3要件です。
「国債がデフォルト(債務不履行)を起こすためには、基本的に、①自国内の投資家が国債を買ってくれなくなる、②外国・海外の投資家が国債を買ってくれなくなる、そして③中央銀行が国債を買ってくれない、という3つの条件が成就しなければならない」―――。
これが、当ウェブサイトで指摘してきている、「国債デフォルトの3要件」です。
国債デフォルトの3要件
- ①国内投資家が国債を買ってくれなくなる
- ②海外投資家が国債を買ってくれなくなる
- ③中央銀行が国債を買ってくれなくなる
©新宿会計士の政治経済評論
当たり前の話ですが、国債がデフォルトする、あるいは「財政破綻」するためには、これらの3つの要件をすべて満たす必要があります。そして、これら3つの要件のすべてを満たしそうな国は、今すぐにでも財政再建が必要、というわけです。
資金循環構造を再確認してみましょう
では、現在の日本は、財政再建を必要としているのでしょうか。
結論から申し上げておくならば、そもそも論として、日本は「3要件」のうち、最初の①の条件すら満たしていない、とするのが、著者自身の見解です。そして、日本が①の要件を満たしていないことについては、経済の最も基礎的な統計のひとつである資金循環統計を見れば明らかでしょう。
著者自身、2020年に拙著を上梓して以来、当ウェブサイトを通じて随時、日本経済の実情に関する数値のアップデートを繰り返しているのですが、現時点で更新済みの資金循環構造(2024年6月末時点のもの)については次の図表1で確認することができます。
図表1 日本の資金循環構造(2024年6月末時点、残高、速報値)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
この図表の見方は、こうです。
家計資産が2212兆円!
右上にある家計部門が2212兆円という金融資産を抱えており、うち1127兆円が現金預金として金融機関などに、545兆円が保険・年金基金・定期保険として保険会社や年金基金に流れ込んでいます(また、これら以外にも株式・投信といったリスク性資産も429兆円あります)。
また、家計以外にも非金融法人企業(図表でいうと左下)も現金預金を367兆円持っており、これらの資金が預金取扱機関に流れ込んでいるほか、金融機関同士の預け合い(※たとえば信用金庫から信金中央金庫への系統預金など)もあるため、預金取扱機関の負債には預金が1734兆円あります。
一方で、預金取扱機関はこの1734兆円を運用しなければならないのですが、貸出は964兆円、債務証券(国債など)は285兆円しかなく、運用先が全然足りません。
仕方なし(?)に日銀に520兆円の預け金を持っているわけですが(これは日銀から見たら負債です)、日銀は金融機関などから集めた資金で国債などをドカッと購入している(その金額はじつに565兆円です)、というわけです。
国債の9割弱は国内で消化されている!
これら以外にも、保険・年金基金が国債などの債務証券を274兆円ほど保有していますので、結果として日本国内の投資家が保有している国債(※財投債と国庫短期証券を含む)の総額は1057兆円で、ほかに海外勢が154兆円を保有している、というのが現状です(図表2)。
図表2 主体別国債保有残高(2024年6月末時点)
保有主体 | 金額 | 構成割合 |
中央銀行 | 568兆円 | 46.93% |
預金取扱機関 | 134兆円 | 11.05% |
保険・年金基金 | 222兆円 | 18.33% |
社会保障基金 | 63兆円 | 5.22% |
国内その他 | 69兆円 | 5.73% |
国内投資家・小計 | 1057兆円 | 87.27% |
海外 | 154兆円 | 12.73% |
合計 | 1211兆円 | 100.00% |
(【出所】日銀資金循環統計データをもとに作成。ただし「金額」は国債、財投債、国庫短期証券の合計額)
つまり、「国の借金」が1200兆円だ、1300兆円だ、などといわれていますが(そもそも「国の借金」の定義がよくわからないので、その金額には幅があります)、少なくとも「国債」に関しては、1211兆円のうちの9割近くが国内の投資家で保有されている、というわけです。
これが、「国の借金がたくさんあって財政危機だ」、とされる日本の実情です。
対外証券投資は855兆円!
ただ、問題は、それだけではありません。
じつは、日本国内では金融資産の金額の方が多過ぎ、金融負債の金額が少な過ぎるため、資金余剰を吸収し切れていないのです。
というよりも、日本国内全体で投融資先が足りず、これらについては「仕方なしに(?)」本邦の機関投資家(財務省外為特会、預金取扱機関、保険・年金基金、社会保障基金、証券投資信託など)が外国の有価証券(対外証券投資)に資金を投じているのです(図表3)。
図表3 主体別外国証券保有残高(2024年6月末時点)
保有主体 | 金額 | 構成割合 |
中央政府 | 154兆円 | 18.06% |
預金取扱機関 | 152兆円 | 17.83% |
保険・年金基金 | 160兆円 | 18.72% |
社会保障基金 | 168兆円 | 19.69% |
証券投資信託 | 168兆円 | 19.70% |
国内・その他 | 51兆円 | 5.99% |
合計 | 855兆円 | 100.00% |
(【出所】日銀資金循環統計データをもとに作成)
日本全体で855兆円という巨額の外国有価証券残高―――。
考え様によっては、日本国内に適切な投資先があれば、各投資家はこんな巨額の対外投資を行う必要などありません。
潜在的には、日本政府が国債をあと855兆円増発しても、機関投資家がすべての外国有価証券を売り払えば、問題なく国債の国内での消化が可能だ、ということでもあります。
当然、国債の大増発ともなれば、一部の(経済理論を知らない)外国の投資家に動揺が走り、「日本売り」、つまり円売り圧力が発生しますが、本邦投資家にとっては円安は外国有価証券を売却して資金を国内に戻すという意味で良いチャンスでもあります。
すなわちこれらの機関投資家が855兆円という巨額な外国有価証券を売却し、円転して日本国内に戻そうと思えば、それは莫大な円高圧力として働くため、結果的には為替には中立だ、という見方もできるのです(※というのは冗談で、現実には円高圧力の方が遥かに強いです。念のため)。
対外純債権は増える一方…
ちなみに外国人投資家も日本国内の株式、国債などを保有しているため、日本国内と海外の資金の収支に関していえば、図表1の右下に記載したとおり、「海外部門」が539兆円の赤字(債務超過状態)となっていることが確認できます。
これは、「外国の投資家による日本国内への投資額」が、「日本国内の投資家による外国への投資額」を539兆円下回っている、ということを意味しており、平たく言えば、日本から見れば「対外的な純資産ないし純債権」がそれだけ積み上がっている、ということです。
そして、その金額は年々、増える一方でもあります(図表4)。
図表4 海外部門の「資産・負債差額」の推移
(【出所】資金循環統計データをもとに作成)
もちろん、これには折からの円安という状況も追い風となっている格好ですが、それにしても対外資産の額、巨額です。
しかも、以上までの議論は、基本的には国債デフォルト3要件のうち、①の部分のみについて論じているものに過ぎません。②、③については別途さらに議論があるのですが、これについては稿が長くなってしまうため、とりあえず後日に譲りたいと思います。
よく世間では、「MMT派(?)」などと呼ばれる人たちが、「自国通貨建ての国債だと絶対にデフォルトしない」、などと述べている根拠となっているのが、国債デフォルト3要件のうちの③の議論ですが、これについては正直、怪しいものです。
著者自身はいわゆる「MMT派(?)」ではありませんが、それは上記③の論点が「国債デフォルト3要件」の最後のバックストップだと考えており、正直、ここまでの論点を持ち出す必要性がないからです。
どうして貸借で物事を把握しないのか
ただ、わが国の場合は「国債が自国通貨建て」云々の議論を持ち出すまでもなく、国内の資金供給だけで十分に国債の引受が可能であり、また、本稿の議論で国債を数百兆円増発する余力が現在の日本経済にあることは十分に証明できるのではないかと思う次第です。
いずれにせよ、世間では減税が実現するかどうかに高い関心が集まっているようですが、少なくとも「財源は大丈夫か?」とする主張が、根拠を欠いたものであることについては、あらためて指摘しておきたいと思います。
どうでも良いのですが、どうして財務省の皆さんや政治家の皆さん、あるいは新聞社・テレビ局の皆さんは、資金循環統計を読まないのでしょうか?
著者自身が公認会計士だからという事情もあってか、財政状態は常にバランスシート(左側と右側、あるいは資産と負債をセット)で見る癖がついているわけですが、財務省系の論者の皆さまが「国の借金(?)」の絶対額だけで財政状態を議論しているのが、どうにも不思議でならないのです。
いずれにせよ、現在の日本が、少なくとも資金循環的に見て、財政再建をまったく必要としていない、という点については、改めて何度でも強調しておきたいと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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「今すぐ危険ということはないというのは理解できるが、その先は?」という不安にどう答えるかだろう。
私の考えは長期金利が上がり始めてるので「もうそろそろ考え始めた方がいいのでは」といったところか。
去年の国の利払い費が10兆円、政策経費が86兆円。これを税収その他77兆円、差額を国債追加発行19兆円で賄っている。低金利で発行した国債の利払いが10兆円、残高に対して0.7~0.8%くらいの利子を払っているという事になる。現在の長期金利は1%だが、過去に低金利で発行した国債の利払いには影響がないから、今後国債利子があがっても現在の10兆円の利払い費が急に増えるわけではないが、このままではいずれ利子を払うために国債を発行する状況になるかもしれない。
主体別国債保有残高の中央政府568兆円は日銀の保有分だろう。日銀が565兆円も国債を保有できるのは日銀当座預金があるからで、これは金融機関が預けているカネ。金融機関のカネは家計の預金。要するに家計のカネが回りまわって日銀保有の国債にいってるということではないか。
主体別外国証券保有残高で中央政府の154兆円というのは外貨準備で持ってる債券(主に米国債)か。
Z「資金循環統計ナンゾに触れ出したら省益を追求できなくなるジャマイカ!」
知らんけど
〉財務省系の論者の皆さまが「国の借金(?)」の絶対額だけで財政状態を議論しているのが、どうにも不思議でならないのです。
皆さまご承知のように、情報提供者は、自身の目的を達成する為には、情報を受け取る相手を「誤解」させるのに最も適切な情報操作を行っていることは一般周知されつつあります。
このケースでは、綻びが隠せなくなったマスコミ・メディアは当然として「お国の機関である財務省ですら同類」、情報操作している存在であることが徐々に周知されつつある、という段階なのでしょう。
今後国民大多数を都合よく「誤解」させるのが難しくなってきた時に備えて財務省は「次の手」も既に考えていることでしょう。
ま、とにかく、この考えが業界全体の基本のようですから。
〉実のところ、マスメディア関係者の間では圧倒的な非対称性を前提とした習慣が、長年継承されてきた。それは「嘘にならなければいい」というものだ。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00562/031500037/