「減税によって恒久財源が必要になる」→なりません!

「国民民主党の減税案の問題は、巨額な税収減となることだ。政府の試算によると、7.6兆円程度の大幅税収減となる。国民民主党は所得税の恒久減税を主張しており、そのためには、毎年、この規模の税収減を賄う恒久財源が必要になる。」なりません。この文章を書いた人は、そもそも経済波及効果という、高校生でも知っている単語を知らないのでしょうか?ちょっとお粗末すぎます。

国の借金論という「おもちゃ」

「国の借金」論を唱える者は、当ウェブサイトにとって、おちょくる相手としてはちょうど良いおもちゃです。

この「国の借金」論、『「国の借金」論配信の大手テレビ局に読者からツッコミ』あたりでも取り上げたとおり、財務省、あるいは財務省の「系列局」(?)、「系列紙」(?)が好んでばら撒いている、「国の借金」(?)の総額が多すぎるのが問題だとするカルト宗教のようなものです。

そもそもの用語自体が誤っている点(本来は「国の借金」ではなく「中央政府の債務」と呼称すべき)もさることながら、その絶対額を問題視することもおかしければ、それを「国民1人あたり」で割るのもおかしな話でもあります。

その理屈が罷り通るのであれば、「トヨタ自動車は連結ベースで約36.6兆円の有利子負債を抱えているから、連結集団(子会社、孫会社まで含む)の従業員は1人あたり約1億円の借金を抱えているのと同じだ」、といった主張と、言っていることは大して変わりません。

あるいは、「借金の額が問題だ」というのならば、日本の3つのメガバンクのように、貸借対照表の負債の部に計上された金額が200~300兆円近くに達しているケースなども大いに問題だと指摘しなければおかしいでしょう。

貸借対照表の負債の部に計上された金額(2024年3月期)
  • 238兆8308億80百万円(みずほ銀行)
  • 290兆1043億73百万円(三菱UFJ銀行)
  • 241兆6805億68百万円(三井住友銀行)

(【出所】一般社団法人全国銀行協会『全国銀行財務諸表分析』2023年度個別決算データより)

債務圧縮手段は増税や緊縮財政だけではない!

当たり前ですが、中央政府の債務を国民1人あたりで割ってもあまり意味がありませんし、また、GDPの規模と比べても何か意味がある指標が出てくるものでもありません。政府債務というものは、べつに「現役世代からの税収で返さなければならない」ものとは限らないのです。

この点、現在の日本が「政府債務を圧縮しなければならない」状況にあるとは考えられませんが、百歩譲って政府債務のGDP比率を圧縮したいのであれば、たとえば次のような方法があります。

  • ①増税により歳入を増やす
  • ②緊縮で政府支出を減らす
  • ③政府の資産を売却する
  • ④特殊法人を民営化する
  • ⑤特殊法人を廃止し残余財産を国庫返納させる
  • ⑥経済成長を促し名目GDPを拡大させる

なぜか知らないのですが、日本では主要なマスメディアが唱える「国の借金の圧縮方法」は上記①、②の議論ばかりであり、③~⑤の議論を聞くことはほとんどありません(個人的にはNHKを筆頭に、不要な特殊法人をどんどん廃止し残余財産を国交返納させる⑤の方法を推奨したいと思いますが…)。

また、⑥の方法は、アベノミクスそのものです。

安倍晋三総理大臣がやろうとしたことは経済成長を伴ったインフレであり、現実に日銀の緩和政策のおかげもあってか(それともウクライナ戦争のせいか)、インフレが徐々に進行し始めています(諸外国と比べるとまだまだインフレ率は穏やかですが)。

財務省系(?)のお粗末すぎる主張

結局のところ、財務省が最も恐れているのは、減税を実現することにより経済成長が活性化されれば、財務省が旧大蔵省時代から30年以上にわたって唱え続けて来た「国の借金」論が間違いだったことがバレて財務省不要論が一気に高まることではないかと思うのですが、こうした見立てはあながち間違いといえないでしょう。

だからこそ、最近ではマスコミの報道や御用学者(?)らを使い、「所得減税」を牽制し始めています。あるいは、財務省系なのかは知りませんが、財務省の意向を忖度(そんたく)したお粗末な主張も出て来ています。

こうした中でちょっとお粗末な記事があるとしたら、これかもしれません。

国民民主党・経済政策の財源問題①:減税は財政赤字を削減させる?

―――2024/11/05 06:02付 Yahoo!ニュースより【野村総合研究所配信】

記事の全文がツッコミどころだらけなのですが、そのなかでもとくに強烈な部分を抽出すると、こんな具合です。

『103万円の壁』対策は重要であるが、国民民主党の案は、すべての所得者に適用される減税措置であることが問題を生んでいる。それは、所得水準が高く、高い税率が適用される高額所得層により大きな減税の恩恵が及ぶことだ。これは所得格差を拡大させてしまう

…。

あれでしょうか?

「高額所得者には減税の恩恵を及ぼすな」、というのが野村総研としての公式見解なのでしょうか?

国民民主党の主張はおそらく、「基礎控除が時代に合致していないからそれを調整しましょう」、ということであり、高所得者、低所得者ともに「取られ過ぎ」状態となっている所得税を国民に返しましょう、という議論です。

それを、「高所得者は取られ過ぎの状態を維持せよ」とは、ちょっとあんまりではないでしょうか?

「減税を補う恒久財源が必要となる」→なりません!

ただ、強烈なのはここだけではありません。

第2の問題は、巨額な税収減となることだ。<中略>政府の試算によると、7.6兆円程度の大幅税収減となる。国民民主党は所得税の恒久減税を主張しており、そのためには、毎年、この規模の税収減を賄う恒久財源が必要になる。それはほぼ不可能だろう」。

なりません。

「税収減に対応する恒久財源を創設しましょう」、ではなく、「そもそも取り過ぎている税金を返しましょう」、という議論だからです。

それに、減税がなされて国民の可処分所得が増えれば、結果的に手取りが増えて経済が活性化されるわけです。もしこの記事の著者の方が当ウェブサイトをお読みになられていれば、マクロ経済学の教科書で「経済波及効果」ないし「乗数効果」という単語を探し、100回ほど繰り返し熟読なさることを強くお勧めします。

(ちなみに「経済波及効果」は著者自身の知り合いの高校生ですら知っています。)

正直、ちょっとお粗末すぎます。

いずれにせよ、このインターネット時代に、この手のプロパガンダが通用すると思われてはなりませんし、また、通用させてはなりません。

本当は他にもいろいろとツッコミたい話題はたくさんあるのですが(たとえば一部テレビ局は公共の伝播を使って財務省の言い分を垂れ流したりしています)、結局、物事の本質は「新聞、テレビに専門知識がなさすぎること」に尽きるのではないでしょうか。

いずれにせよ、新聞、テレビを中心とするマスコミではなく、ネットが人々の情報入手手段の中心を占めるようになっていくのも、必然的な時代の流れではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    例えば個人の所得減税で消費を拡大すれば、代わりに消費税は増収になるし、企業は潤って法人税もプラスになるけど、そこに触れる記事はほとんど見ない。

  2. クロワッサン より:

    国民が預貯金として持っているお金なら国債を発行して政府のお金にして社会で回せば国民の懐は傷まず、

    国民が働いて得る所得なら減税して国民に使わせれば国民は可処分所得が増えて暮らしが楽になり。

    政府がマイナス課税をしていないのだから、国民の暮らしが第一にして貰いたいもんですね。

    借金はしたくない、自分の金を増やして使いまくりたい、と考えるから、国債は出したくないし、税金はもっともっと増やしたいし、となり。

  3. CRUSH より:

    いわゆるラッファー曲線ですね。

    経済学部の、原論の、一回生の五月に出てくるレベルのイロハのイの字です。

    こんなもん当たり前におさえた上で、
    「我々は今、曲線のこの位置にいる」
    「故に税率を上げる/下げるべき」
    というロジック展開するものなのに、端から説明せずに足りなくなります!とか、呆れますねえ。

    例えばカローラの値段を200万円から190万円に下げたら、売上が5%下がります!
    とか言ってるのと同じで低能すぎる。
    値下げで販売台数が増えるから、そんな単純な関数ではありませんよね。

    レベルが低すぎる。
    せめて一回生の教科書くらいは踏まえて記事にしてほしいなあ。

    1. 新宿会計士 より:

      「そうや!ええこと思いついた!!売上を上げたければカローラの値段を200万円から400万円にすればええねん!すぐに売上が倍になるで!!」

  4. 農民 より:

     [税収減=減税]では?
     今回の財務省のご説明だと、税金は増える一方でしか成立せず減税はありえないということになりますが。教えてエラい人。

  5. 引っ掛かったオタク より:

    以下罵詈雑言注意!
    「寝言は云うとき寝とるから寝言やで。目ェ覚まして天下に公言しとったらオノレのアホ宣伝しとるだけや」
    あーザイム真理教信者がアホ晒しよんかの~
    知らんけど

    …なんてナ

  6. 元雑用係 より:

    元日銀審議委員の木内大先生ですね。
    中国経済の解説は秀逸だけども日本経済の解説は頓珍漢、そんな評価をしばしば耳にします。

    税収の母体となる経済規模を大きくするための投資のようなもんなので、投資効率を問うならまだわからんでもないですが、減った分を別で取れとかピントずれでしょう。

    カローラの喩えはわかりやすくていいですね。

  7. 匿名 より:

    この大先生は、昨日の左系のBSの報道番組にでていましたね。キャスターから左系の新聞社の論説委員もでていましたけど財源、財源のことばかりで、別にあんたの金貸してくださいと言ってるわけではないのに。緊縮財政で赤字を減らすより、経済規模を大きくして税収を上げた方が赤字を減らせると思うんだけどね。
    別のコメンテーターが将来につけを回してわいけないと殺し文句みたいに言ってましたがそれを言うなら、我々の年金を減らしや医療負担を上げるからって言って欲しいね。

  8. 匿名 より:

    TV朝の垂れ流しは私も見ました。
    あれはすごかったですね。
    財務省が書いた原稿を、記者がそれをみながら棒読みするという前代未聞の報道。

    NRIは高額所得者に対する減税の恩恵があるから不公平が生じる、これが問題だと主張していますが、高額所得者よりも遥かに収入の少ない方々が圧倒的に多い訳です。
    所得格差も何もすでに差は生じていますが、一部の高額所得者に対して不公平感を抱かせることに意味を持たせようとしている。
    不公平を論じるのは結構ですが、しかし、木を見て森を見ずの議論を繰り返すばかり。
    日本の経済活性化に寄与するのは高額所得者よりも遥かに収入の少ない方々ではないかと考えますが、不公平を全面に押し出して抵抗を続ける。本心は減税まかりならんといったところでしょうか。
    youtubeにアップされているTBSの報道番組では、高額所得者の年収モデルは2300万円としていました。食べることに一切困らない集団が、食べることに困る方々を目の前にして、不公平感を声高に叫びながら食べることに困る方々を蔑ろにしている。
    こんな構図でしょうか。

    上記
    ①、②に就いては財務真理教の教義ですから、それを破る訳にはまいりません。
    ③については、財務官僚が怖くて、そんなことは出来ません。
    ④、⑤は天下り先が無くなってしまいますから、マスコミ集団が異を唱えて妨害する訳にはまいりません。
    ⑥は今回のようにマスコミの政局「ネタ」になるならば、かなりの高確率で飛びつきますが、
    以外は放置、といったところではないでしょうか。

  9. jackie より:

    現状でも基礎控除は年収2500万円で完全に取り上げられるシステムなので、同様のシステムを扶養にも組み込めば高所得者の減税はゼロにできます

    そもそも所得税の最高税率は1980年くらいの75%から37%に半減しているので、それを上げても良いのでは?

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