ガザの空中投下でまたも犠牲…例の新聞は見解出すべき

今年1月の能登半島地震に際し、「支援物資をパラシュート投下させよ」、「支援部隊をパラシュート降下させよ」、などと官房長官記者会見で主張した記者がいたようです。なぜ政府はこうした空中投下・空中降下を実施しなかったのでしょうか。結論的に言えば危険で効率が悪いからです。こうしたなか、ガザ地区でまたも支援物資に直撃されて犠牲者が出たとの報道もあるようですが、くだんの記者が所属する新聞は、本件でなにかコメントすべきではないのでしょうか?

パラシュート投下/パラシュート降下をせよとの主張

以前の『例の記者「孤立集落へパラシュート投下は可能と思う」』では、能登半島地震発生直後、とある新聞社の記者が林正芳官房長官に対し、「能登半島への支援物資をパラシュート投下しないのか」とする趣旨の質問をおこなったという話題を紹介しました。

また、『例の記者「なぜパラシュート部隊を派遣しなかった?」』でも紹介したとおり、この同じ記者は矢橋長官に対し、別の日に、「自衛隊員のパラシュート降下を実戦投入しなかったことで、救える命が救えなかったんじゃないですか」とも迫りました。

ヘリコプターなどを使い、空中から物資を投下したり、救援部隊を降下させたりする。

専門用語で「空中投下」や「空中降下」などと呼ばれている作戦ですが、なぜそれを実施しないのでしょうか。

危険で高コスト

端的にいえば、それは大変に危険な作業であり、かつ、コストもかかるからです。

たとえば、日本の航空自衛隊だとC2輸送機に加え、C1、C130輸送機なども「物料投下」に対応しているとされますが、パラシュートが設置されているとはいえ重量物を空中から投下する以上、安全を確保するために、地上には誰も立ち入らない広い空間があることが望ましいといえます。

これに加えて空中からの物資補給は陸上輸送と比べ数倍のコストがかかります。国連WFPプログラムの『人道的空中投下:希望の光』というウェブサイトの説明によると、空中投下はトラック輸送と比べ、7倍(!)ものコストがかかるうえ、1回あたりの輸送量にも限界があるのです。

こうした状況を踏まえ、この空中投下は「紛争、過酷な気象条件、インフラの不整備といった事情で、どうしても援助の手が届かない場所に食料を支援する際、ほかの効果的な選択肢がないときに限って実施される」ものであるとされ、あくまでも例外的な輸送手段であることを学ぶことがあります。

新聞記者という、社会にもかなりの影響を与え得る立場の方が、その場の思い付きのような内容を官房長官記者会見などの場で大々的に尋ねることが許されるという時点で、新聞業界というのも、なかなかに印象的だと思わざるを得ません。

ガザ地区で犠牲者相次ぐ

さて、それはともかくとして、この「名物記者」の方が「被災地にパラシュート投下せよ」と主張するのと相前後して、実際に空中投下の危険性を示す事故が相次ぐようになったのです。

パラシュート投下の危険性の実例』でも取り上げた、ガザ地区での支援物資投下の事例です。

つまり、ハマスが支配するガザ地区に対するパラシュートを使った支援物資の投擲が行われたところ、少なくともそのうちの1つにおいて、パラシュートが適切に開かず、結果的に子供2人を含む5人もの方が犠牲となり、11人が負傷する大惨事となったのです。

このように考えると、空中からの支援物資の投擲というのは、非常に例外的な状況下で飲み許容し得る方法だと考えておいて差し支えないでしょう。

こうしたなか、米メディアのCNNが21日に報じたところによると、こんな不幸もあったようです。

ガザ空中投下の支援物資、3歳児を直撃 「こんな物のために子どもが死んだ」

―――2024/10/21 10:32 JST付 CNN.jpより

CNNによるとガザ地区中部で、空中から投下された支援物資のコンテナに直撃され、3歳の男の子が命を落としたのだそうです

事実だとしたら、本当に悲しい話です。

本来ならば難民のための支援として配布されているはずの物資が、結果的に人々を傷つけているのだとしたら、本当にやり切れないと感じる人もきっと多いことでしょう。

ただ、この報道に際して、「パラシュート投下/パラシュート降下」を主張した記者の方、あるいはその人物が所属する新聞社として、何らかのコメントを出すべきではないでしょうか。

新聞記者が官房長官記者会見で主張した結果、とりわけ平地に乏しく地形も山がちな能登半島で(しかも被災時期が真冬という厳しい環境で)本当に空中投下などが行われて犠牲者が出たら、責任問題では済まされません。

新聞業界の問題点

いずれにせよ支援物資の空中投下がいかに危険であるかについてはいくら強調してもし過ぎではありませんし、「新聞記者」という立場の特権を利用して、官房長官の面前でそれを「やれ」といわんばかりの主張を展開すること自体、この日本社会における問題点が集約されていると指摘せざるを得ません。

専門性のなさ。

取材力のなさ。

責任力のなさ。

説得力のなさ。

間違ったことを述べてもせきにんを問われないどころか記者クラブから追放もされないというあたりに、現在の日本の新聞・テレビ業界の闇が詰まっている気がしてなりませんし、このような人たちが「裏金」、「裏金」と強調することで、日本国民の少なくない人たちの投票行動が歪められることは由々しき問題です。

結局のところ、いつも申し上げている次の3点を、読者の皆さまをはじめとする日本国民に伝えたいと思います。

納得できない報道をする新聞は、解約しましょう。

納得できない報道をするテレビは、消しましょう。

選挙では必ず投票しましょう。

地道なようですが、結局日本を良い方向に変えるには、ひとりでも多くの人がこの3点を実践するより方法がない、というのが、著者自身の長年のウェブ評論歴で出てきた結論だという点については、改めて強調したいと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 世相マンボウ_ より:

    痛ましい話に胸が痛みます。

    あらためて能登震災の際に
    政府が自衛隊が民間業者が総力を挙げての
    初動が始まっている忙しい時期に
    不見識なパラシュート投下を
    声高に口にしていた某記者は
    私も記憶に鮮明です。

    その記者方面の小数の人達がは
    騒いでいるだけで相手にされなかった
    からいいようなものの、それに続く、
    現地入りした迷惑系政治Youtuberさんたち
    には今更ながら呆れてしまいます。

    そんな悪目立ちしたい方面が騒いでる中
    陸路到達困難でも、海上からの早い上陸には
    驚きました。
    あとで知ったら震災発生後早い段階で、
    重機とホバークラフト積んで緊急出港し
    瀬戸内海から駆けつけたという
    自衛隊の日頃からの訓練での
    統制された頼もしさに感動しました。

  2. 伊江太 より:

    >能登半島への支援物資をパラシュート投下しないのか

    激甚災害地において、住民が食料、水に事欠く事態を、一刻も早く解消するのは、政府自治体に課される当然の責務ですが、それ、一食でも採れなかったら、一日でも雨水や湧き水に頼ることになれば、行政の瑕疵ってことになるんですか?

    >自衛隊員のパラシュート降下を実戦投入しなかったことで、救える命が救えなかったんじゃないですか

    激甚災害に見舞われた地域において、「可能な限り」ひとりでも多くの人命を救うよう努めるのは、政府自治体に課される当然の責務。だけどそれ、救援に向かう自衛隊員、救急・医療スタッフの安全をまず第一としてのはなしじゃないんですか?

    ろくに災害対応、救援業務の実際をも知らず、思いつきでゴミ記事を書き散らす記者、それをそのまま紙面に載せるデスク、そんな新聞が急速に信頼を失っていくのは、当然と言えるでしょうね。

    だがしかし、今回のガザにおいて空中投下とそれに伴って死者が出たって事例は、状況が全く異なるんだから、一緒くたにしてマスコミを叩く材料にするのは、どうかとも考えます。

    おそらくは群衆の中で、それぞれが我先に援助物資を手に入れたいと、殺到した結果起きた悲劇でしょうから、能登半島で救援物資のパラシュート投下をやったとしても、こんなことにはならないと思うんですが。

    1. 農民 より:

       記事では避難テントの近くに投下されてしまったような描写なので、そんなことあるだろうかとやや懐疑的になりますが……事実であれば、ノウハウがある組織が投下しても(誤認
      や強風で?)こういった悲劇が起こり得るということなので、どのみち能登ではナシな手法となりそうです。

       物料投下は、迅速な輸送のためではなく、支援者側の安全のため・支援者側が立ち入れない場所に仕方なく、行うものというのが常識だと思っていたので、少なくとも当該新聞社と記者は「こんな田舎の百姓より知識ねぇんだな」と判断することにしました。
       件の記者は本件に直接は関係無いのでスルーもアリですが、むしろこれを拾って「以前こんな主張をしていたが間違いだと気づいた、ジャーナリズムの重要性を学んだ」とでもつぶやいておけば、悪いもんで食t いや、改心したのかなと評価を上げることもあったでしょうに。

  3. 雪だんご より:

    新聞記者達だけでなく、Xの”インフルエンサー”も「空中投下しろ!」と
    騒いでいる人達は結構居ましたねえ。

    そういう人達は得てしてリプ制限して、エコーチェンバーの中から出てこない
    ケースも多いのが、なんともしみじみとした気分にしてくれます。

  4. 農民 より:

     支援物資の内容に文句をつけるのはどうかと思いますし、物料投下でしか支援者側が安全に支援を実行できない状況にこそ文句をつけるべき、という疑問は詮無きことですが。
     受益側が投下物資に対して”屈辱と恐怖を感じている”というのは初めて知るものでした。報道が”事実であれば”というのを常に意識せねばならないのが嫌な時代ですが。

     事実であるとして、報道とはこうやって事実と未知を伝え、明らかに偏った正解を押し付けるではなく問題を多くの人々が考える機になってくれるものであってほしいものです。

     会見場で演説とかいらないんで。映画化もいらねぇ。

  5. Sky より:

    ISO氏のことは放っといて、真面目な話しです。
    日本には有人回転翼機も数多く開発されていますが、無人機も開発過程にあります。
    川崎重工のこのモデル、
    https://www.khi.co.jp/groupvision2030/k-racer.html
    コンテナで格納保管できる小型機ですが運搬荷物質量は200kgということで、実用化できると良いですね。
    原動機はKawasakiバイク用として市場に先行投入されたものを元にしたとのことで、さすが幅広い裾野がある事業体。

  6. クロワッサン より:

    「なぜ盗撮やウソの投稿してまで…」激化するクルドヘイト、狙われる子どもたち 動かない警察、対抗手段は
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/361495

    >心の平穏のためにもSNSとは適度な距離を取った方が良さそうだ。(岸)

    「支援物資をパラシュート投下せよ」とか言ってた、東京新聞の記者なのに活動家みたいな某女性記者は、心の平穏の為に記者活動から適度?な距離を取っているのかも知れないですね。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告