ソウルで高級物件を建設しても東京のように売れるのか

誰が買っている?東京の高額物件

東京の不動産価格高騰が報じられるなか、ひとつ疑問が浮かぶとすれば、それは「誰が買っているのか」、「誰が借りているのか」、というものです。これについてデータで示せるわけではありませんが、個人的な印象では、東京が外資系などの金融機関が拠点を構える「金融都市」としての側面を持っていることが影響しているように思えてなりません。

東京でマンション等の価格が高騰中

東京を中心に、現在のわが国では、(地域によるにせよ)総じて不動産価格が上昇傾向にあるようです。

先日の『「新築マンション価格上昇」ペースは急激=東京都心部』や『東京区部で新築マンション1億超え時代の「子育て論」』では、株式会社不動産経済研究所のレポートをもとに、東京都心部などで新築マンションの価格上昇が激しく、2023年はついに平均価格が1億円を超えた、とする話題を取り上げました。

これに続いて『首都圏や東京の中古マンションの価格は継続的に上昇中』でも取り上げたとおり、公益財団法人東日本不動産流通機構のデータを使い、同じく中古のマンションの販売価格について調べたところ、さすがに「1億円台」ではないにせよ、東京都区部では中古物件も値上がりが激しい、ということがわかりました。

ただし、『賃料が上がらない東京のマンション価格はバブルなのか』でも取り上げたとおり、上昇しているのは「不動産価格」であり、「賃料」についてはさほど上昇している気配はありません。

このことから、現在の日本の不動産市場で発生しているのは、①不動産価格が高騰し過ぎていること(=不動産バブル)なのか、それとも②賃料水準が実態に見合わないほどに低いままの状態で放置されていることなのか、のいずれかという可能性が高そうです。

個人的には、不動産賃料が伸びない理由は、不動産賃料には「硬直性」があり、とりわけわが国では借主の権利が保障されている、といった事情が大きいようにも思えます。

東京都心部など一部地域での不動産価格上昇はたしかに急ですが、全国的に労働力不足が指摘されていること、あるいは建築資材価格が上昇していること――などを踏まえれば、現在の不動産価格が「バブルだ」とも、一概には言い切れません。

外資系金融モデル年収は1683万円

さて、こうしたなかで不思議に思うのは、「値段が上がったとして、その不動産をいったい誰が買っているのか」、です。

一部では「外国人資産家(たとえば中国人)が、とくに東京都心部などの不動産を買い漁っている」、などと指摘されることもありますが、これについては残念ながら、データで確認することは困難です。「外国国籍保持者による不動産取引高」などに関する、官庁などによる統一的な統計データは見当たらないからです。

ただ、意外と知られていない話題があるとしたら、日本では金融業(とくに外資系)の給与水準が非常に高い、という統計ではないでしょうか。

いちおう、公開されているベースで述べておくならば、『マイナビ転職』というウェブサイトの『2023年版 業種別 モデル年収平均ランキング』というページによれば、「モデル年収」は「外資系金融」で1683万円、「生命保険・損害保険」で846万円、「環境関連設備」で791万円――などと記載されています。

『マイナビ転職』の記事でいう「外資系金融」の定義はよくわかりませんが、一般に「外資系金融」は、外国の大規模金融機関・保険会社等の東京支店や日本法人、あるいはそれらのブランド名を冠したアセット・マ免じメント会社であったりすることが多いようです。

また、『マイナビ転職』では「外資系金融」というジャンルしか掲載されていませんが、業界の賃料水準に照らし、本邦の金融機関やその子会社・関連会社などにおいても、良い人材に対してはそれなりの給与を支払っているはずですので、結果的に金融業では(業種・職種にもよりますが)それなりの待遇が一般的でしょう。

(※ただし、当ウェブサイトでは「金融業に行けば高給がもらえる」などと保証するものではありませんのでご了承ください。)

いずれにせよ、東京ではそれなりのクラスの高級コンドミニアム物件が供給されても、それらが消化されるだけの需要があることは間違いありませんし、「東京は『金融都市』としての性質を持っていることと関係しているに違いない」、という仮説(というか確信)を著者自身は抱いているのです。

(※もっとも、このあたりについてはきれいに整理されたデータが見当たらず、「もう少し体系立てて整理ができないか」、「もうすこしきちんとしたデータはないか」、などと探っている最中でもあります。)

ソウルが東京のような国際競争力を備えるには?

さて、こうしたなかで違和感を覚える記事があるとしたら、これかもしれません。

【時論】ソウル竜山が東京のように国際競争力を備えるには(1)

―――2024/02/29 13:04付 Yahoo!ニュースより【中央日報日本語版より】

【時論】ソウル竜山が東京のように国際競争力を備えるには(2)

―――2024/02/29 13:04付 Yahoo!ニュースより【中央日報日本語版より】

韓国紙『中央日報』(日本語版)が29日に配信した記事ですが、大型都市開発構想が走っているソウルの竜山(りゅうざん)地区を巡って、東京の六本木ヒルズや麻布台ヒルズのような事例と比較して、「東京のような国際競争力を備えるには」、と論じるものです。

(※もし内容が気になる方がいらっしゃれば、当ウェブサイトでは引用しませんので、リンク先記事を直接お読みください。)

ただ、この手の「ソウルが東京並みの地位を目指す」などと称する記事を読んでいて浮かぶ疑問点があるとしたら、それは、「そもそもソウルにそのような需要はあるのか」、という点でしょう。

正直、韓国にはG-SIBs(国際的な金融システム上重要な金融機関)として金融安定理事会(FSB)から指定されている社が1社もありません(※ちなみに日本の場合は3メガバンクがG-SIBsに指定されています)。

少なくとも韓国ウォン自体が国際的な金融市場でほとんど存在感を発揮していないなどの事情を踏まえれば、ソウルに東京や香港のごとき国際金融拠点としてのポテンシャルを兼ね備えているのでしょうか。

もちろん、半導体市場などで存在感を示すサムスンなどの企業もあるのですが、韓国はグローバル企業の層が総じて薄く、高級フラットなどを供給したとして、それを借りたり、買ったりするだけの資金力があるサラリーマンが、韓国にどの程度いらっしゃるのかはわかりません。

こうした点を踏まえれば、韓国で不動産物件開発がどうなるのか、個人的には見てみたい気もする次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    客観的なエビデンスのない言い分で申し訳ないですが、中国の富裕層が日本の不動産を買い漁っていると聞いたことがあります。中国都市部の不動産バブルのせいで日本の不動産が安く見えるから、と聞きました。

  2. sqsq より:

    長く外資に勤めていた。(現在は引退)1990年代まではアメリカ本国では大卒でも管理職(マネージャー以上)がいたが2000年以降はMBAなしで管理職になるのは難しいのではないか。MBAというとすぐに「あんなものもっていても役に立たない」という人がいるが、じゃあ日本の大学で習ったことは役にたっているのかと聞きたい。
    管理職になるために仕事をやめて2年間大学院に通いその間の収入を放棄するという機会損失を被ってまでMBAをとる理由はそれだけその後の収入がいいという事だろう。アメリカの上場企業で管理職以上になるともらえる「ストックオプション」も非常に魅力的だ。アメリカではストックオプションのないような会社には勤めないという風潮があるそうだ。ストックオプション制度を簡単に説明すると、今100ドルで取引されている自社の株を100ドルで5000株買う権利を与えられたと仮定する。100ドルの株を100ドルで買う権利などありがたくない。なぜなら市場で同じ値段で買えるから。この権利は3年間行使できない。3年後の株価が100ドル未満ならこの権利は「紙くず」だ。市場で90ドルの株を100ドルで買うバカはいない。ところが120ドルになっていたらどうなるか。権利行使して即売れば差額の20ドルx5000株=10万ドル儲けが出る。
    権利行使にかかる100ドルx5000=50万ドルなんてもってないよと言う人がいるかもしれない。心配いらない。証券会社が買い/売りの同時売買をやってくれる。しかも今はネットでできる。この制度、元は幹部社員だけだったが現在はマネージャークラスも恩恵にあずかれる会社が多いのではないか。このストックオプションが毎年付与されるのは楽しみだろう。
    アメリカの経営者の高年俸が批判されることが多いが、実はその年俸にはストックオプションの付与分(上の例で言えば100ドルx5000株=50万ドル)を含んだ金額のことがあるので注意が必要だ。リーマンブラザーズ崩壊時のトップは1993年から2007年の間に5億ドル(約526億円)の給与を受け取ったとして批判に晒されたが現金は6,000万ドルしか受け取っていない」と回答している。(言われている報酬の12%だ)
    会社四季報の米国版が発行されているが、そこにはトップの「現金報酬」というのが出ている。
    ざっとみると年俸100万ドル~500万ドルに収まっているような気がする。現金報酬だけ見ると日本より高いことは間違いないが目をむくほどでもない。
    アメリカの会社の日本法人の幹部社員もこのストックオプション制度の対象者という会社も珍しくない。この制度のおかげで住宅ローンを一括返済した人の話を聞いたことがある。元部下から聞いた話では翌年の住民税の特別徴収が大きくなりすぎ、翌年の給与の額を超えてしまい毎月会社から給与をもらうのではなく払っている人がいたそうだ。
    このストックオプションの利益は税金がかかることは間違いないが、日本では一時所得なのか給与所得なのかでもめて裁判になり最高裁まで行き最終的に給与所得となった。
    もともと優秀な人材を集める手段だったのだが株価次第でとてつもない利益が出てFIRE(早期退職)につながったりする。

    1. 峠のクロ より:

      確か、ホリエモンがネットで言っていた。毎月の給与を少なくし、ストックオプションをそれなりにもらう。このストックオプションを担保に借金をし、これを生活費に充てる。退職後に税率の有利な場所、方法でストックオプションを現金化する。上手に実行できれば、大幅に節税になるとか。日本国内では現実的なのかは判らない。

  3. はにわファクトリー より:

    外資系金融と言ってもその実体には何通りもあり
    ・投資銀行
    ・証券
    ・銀行
    ・損保
    ・生保
    この順でグレードが違ってきて、その傾斜も急峻であると聞いています。欧州人材が40代で日当千ユーロ換算だったという証言も得ています。職種で違っているはずですが、聞いたところでは IT がこうだったそうです。2020 年の某社、末端価格でなくて社内経理上の数値です。今では事情も違っているのでしょうが。

  4. まんさく より:

    中国人の富裕層が買っていると言う話はあちこちで語られてますよね。中国国内の不動産は利用権だけで、自分の所有物にならないから、海外の不動産を買っていると言われてます。

    最近は、中国国内の不動産投資が上手くいかないから日本に投資とか、国内に資産を置いておくと危険だから海外に移動してるとか言われてますよね。彼らは自分で住むか貸すにしても、価値が目減りしないなら賃料は気にしないでしょう。

    中国人が買い漁っている不動産を借りるのは日本人ですが、景気がいい日本人は限られてますから賃料上げたら空き家になるでしょう。

  5. sqsq より:

    >この手の「ソウルが東京並みの地位を目指す」などと称する記事を読んでいて浮かぶ疑問点があるとしたら、それは、「そもそもソウルにそのような需要はあるのか」、という点でしょう。

    立派なビルを建てる資金はあるだろう。技術もあるだろう。そのようなビルに入居したいという希望もあるだろうがそれに見合う家賃が払えるビジネスがあるのか。
    ビルを建設するのはコストに見合った家賃が見込めるからだ。立派なビルはコストも高く家賃も高い。あの国に高い家賃を払ってもペイするビジネスが多くあるとは思えない。

    日本にやってきて新宿副都心や丸の内の高層ビル街を見てうらやましいと思ってるのだろうが、それを言うと「親日派」になるので言えない。そこでこういう記事が出るのだ。

  6. 世相マンボウ* より:

    日本の東京の地価高騰は
    誰が買っているのか?は興味深いです。

    一方で、じゃあ「ソウルでは」?なんかには
    まった興味もわかずむしろ不快です。
    それはもしソウルのほうが高かったとしても(笑)
    同じ町内で、パクリや詐欺まがいで羽振りが良くて
    ポルシェやベンツ乗ってる家族が比較して
    羨ましいわけがなくご近所づきあい
    ごめんこうむるのと同じ気持ちです。

    他国文化やありようは
    本来とても興味深いものなのですが
    ほかに興味深いアジアの国があるなかで
    よりによって有史以来ほぼ中国の属国で、
    李子時代を中心に文化でモラルで国力で
    アジアのボトム国であった韓国さんなんかには
    興味がわかないのはそれは致し方がない
    ことなのです。

  7. 日本人です より:

    先日マンションを購入した人から聞いた話。
    ガスコンロを電気にしたいと言ったら完成してから自分でリフォームするようにと言われた。
    とのこと。
    ガスコンロは中国人に人気とか
    中国人目当てのマンションなのだろうか。
    違う意味で心配になった。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告