ネットワークでない鉄道は無意味
鉄道交通はネットワーク形成で絶大な力を発揮します。年初から取り上げている、東京や神戸の臨海地下鉄構想もそうですし、結果的に「スタンドアロン」状態となりつつあるインドネシア高速鉄道もそうです。歴史にIFはないのですが、もしも2015年時点のインドネシア大統領が賢明な人物だったならば、もしかするとインドネシア高速鉄道は日本方式で複々線で建設されていた可能性はあります。
目次
臨海鉄道とネットワーク構想…東京の事例
鉄道というものは、ネットワークを形成することで絶大な力を発揮します。
その良い意味での事例として挙げておきたいものがあるとすれば、「東西の臨海地下鉄」です。
このうち「東の臨海地下鉄」は、東京都が進めている「臨海地下鉄構想」です。これはまったく新規で整備する区間が最大でも10㎞弱であるにもかかわらず、首都圏の交通の利便性をさらに高める可能性があるという意味で、注目に値する路線です。
すでに存在するつくばエクスプレス(TX)から東京臨海高速鉄道臨海線、さらにJR東日本が建設を進めている羽田空港アクセス線に繋がれば、東京、ひいては首都圏全体の鉄道ネットワーク網がさらに拡充することが期待されます。
この点、先日の『東京地下鉄構想…「利便増進」利用なら秋葉原延伸は?』でも報告したとおり、現時点ではTX・秋葉原駅から東京駅までの区間についての事業化のめどはまだ立っていないようなのですが、それでも東京駅から臨海部への鉄道でのアクセス手段ができるだけでも、かなり違います。
臨海鉄道とネットワーク構想…神戸の事例
その一方で「西の臨海地下鉄」は、神戸市営地下鉄山手線(やまてせん)の神戸空港への延伸構想です。
こちらについては「構想」などと言いながら、まだ地元などから要望が出ているだけという状況であり、神戸市役所としてはあまり前向きではないほか、相互直通運転には技術的にいくつかの困難が伴うようですが、それでももし実現すれば、神戸に留まらず、西日本全体に大きな恩恵が及ぶ可能性もあります。
そもそも神戸空港は1日あたり発着回数が拡大されるなか、今後は国際空港化も予定されており、空港需要は増大していますが、神戸の中心部である三宮周辺への公共共通手段は新交通システム「ポートライナー」に事実上限られており、しかもポートライナーは輸送量が逼迫し、パンク寸前とされます。
こうしたなかで、「のぞみ」が全便停車する新神戸駅、神戸を経由するほとんどの鉄道路線が集中する三宮地区、フェリーなどの旅客ターミナル、そして神戸空港がタテに1本の路線でつながれば、その恩恵は計り知れません。しかも整備する距離数は、直線距離にして6~7㎞程度です。
この東京、神戸という2つの事例に留まらず、日本には「ほんの少し路線を伸ばすだけで、利便性がさらに向上する」という区間がいくつか存在しますが(当ウェブサイトで取り上げただけでも「函館新幹線構想」など)、本当にもったいないことです。
やはり、マスコミや特定野党の「コンクリートから人へ」などのうたい文句、あるいは財務省の緊縮財政主義の弊害は、現在の日本にとって、大変に大きいのではないかと思う次第です。
無駄な投資の実例?スタンドアロン型インドネシア高速鉄道
ただ、こんな話題を取り上げていくと、やはりこれとは対照的に、鉄道論の立場からは「かなり無駄な投資だったのではないか」と懸念されるものがあることも事実でしょう。
その典型例が、先日の『開業したインドネシア高速鉄道にスタンドアロンリスク』などでも詳述した、中国の協力で完成したインドネシア高速鉄道でしょう。要するに、ジャカルタ・バンドン(のそれぞれの郊外)を結ぶだけの、利便性が高いとは決して言い難い状況のままで、高速鉄道建設が終わってしまう可能性があるのです。
ちなみに「スタンドアロン」は当ウェブサイトの造語で、鉄道がネットワークを形成できず、孤立してしまうことを意味します。現実問題としてこの鉄道は距離数にしてせいぜい150㎞弱で、しかも両都市の都心部ではなく、不便な郊外を結んでいるだけです。
それに、インドネシア高速鉄道は中国の規格で作られているものです(たとえば「右側通行」だったりもします)ので、日本がその延伸に関与することは不可能です。
そもそも論として、中国の高速鉄道自体、日本の新幹線技術などを下敷きにしていることはよく知られていますが、それでも現地メディア等の報道では、日本政府としては「高速鉄道を異なる国のシステムで延伸すること」には否定的であるようです(これはある意味で当然のことではありますが)。
したがって、もしもインドネシア政府が高速鉄道網をジャワ島全体に張り巡らせるつもりがあるなら、①この高速鉄道を中国に延伸してもらうか、②自力で頑張って延伸するか、それとも③日本に頼んでまったく新たな新規路線を作ってもらうか――、などしか考えられません。
ジャワ島は本来、高速鉄道網建設に適している
なお、インドネシアを巡っては、現在、首都をジャワ島のジャカルタからボルネオ島東南部に移転させるという構想が進んでいるそうですので、ジャワ島全体に高速鉄道を張り巡らせるのが賢明なのかどうかはよくわかりません。
ただ、あくまでも一般論からすれば、ジャワ島は鉄道を整備するのに非常に適した場所です。
そもそもジャワ島は面積で見れば13万2186㎢で、インドネシア全体(191万0931㎢)に対して7%程度に過ぎませんが、ここにインドネシア全体の人口(2億7375万人)の約半分に相当する1億3700万人が暮らしています。
しかも、ジャワ島ではインドネシア最大の都市であるジャカルタと2番目の都市であるスラバヤを結ぶ直線上に、同国3番目の都市であるバンドンをはじめ、さまざまな都市、古都などが並んでいるという構造です。
ジャワ島自体、火山が多く地震も頻発するという意味では自然災害のリスクも大変高いのですが、本来ならば同じ地震・火山国である日本の経験に基づき、こうした高速鉄道を整備するのに適した国だったことは間違いありません。
とりわけインドネシアのように生産年齢人口比率が高い国の場合だと、高速鉄道のごときインフラ投資は、将来において、絶大な効果をもたらす可能性が非常に高いといえます。
どうせなら複々線で作っておけばよかったかもしれない
こうしたなかで、私たちが暮らす日本における最大の発明品のひとつが東海道新幹線であることは論をまたないと思いますが(著者私見)、この東海道新幹線が現在、1時間に17本(うち「のぞみ」が12本)という驚異的なダイヤで運行されている、という事実には、いろいろと驚く限りです。
ただ、日本人の「神業」的なダイヤ構築・運行能力がなければ、そもそも東海道新幹線の運行自体が困難でしょう。このように考えると、東海道新幹線は最初から複々線で開業しておくべきだったのではないか、という気がしてなりません。
現在、JR東海が建設を進めている(そして静岡県の川勝平太知事の妨害により工事が遅延している)リニア新幹線は、鉄道網的に見れば「第二東海道新幹線」という性格があることは間違いないでしょう。
ただ、リニアと新幹線の輸送力の違いなどを考慮するならば、「第二東海道新幹線」は既存の25m型の新幹線車両を使用して建設するのが正解だったのではないか、と思えてなりませんが、やはり今からこの手の高規格鉄道をもう1本通すのは至難の業でもあります(絶対不可能、というわけではありませんが…)。
こうした点を踏まえ、もしも2015年の時点で、インドネシアに賢明な大統領が誕生していたとしたら、たとえばジャカルタからバンドンまでを最初から複々線で建設し、バンドンから以東のスラバヤまでの区間はジャワ島の北部を通る「北線」と南部を通る「南線」を敷設する、といった考えもあったのではないでしょうか。
なお、新幹線の件に関しては、北陸新幹線が将来、大阪まで延伸されれば、それが結果的に「第二東海道新幹線」となる、という可能性はあります。とくに将来、大震災でなど東海道新幹線の静岡区間が長期間不通となったとしても、北陸ルートが生きていれば、東京・大阪間の高速鉄道ラインが維持されることになります。
鉄道交通網とは、その意味で、単に二地点感を結ぶだけではない複雑さがあるのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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鉄道乗客にとって、目的地の近場の駅まで行くために鉄道を使うのであって、駅まで短時間でも、そこから目的地までの移動に時間がかかるようなら無意味、ということでしょうか。(もちろん、鉄道の待ち時間も考慮にいれた話です)
中国の高速鉄道の駅は空港です。郊外立地でセキュリティも運転本数も空港そのもので、日本、欧州とは考え方が異なります。したがって、短距離では意味がないので、インドネシアも延長しないと今までに費用が無駄になりますので、どうするのでしょうか。
なお、中国の高速鉄道は、車輪部分の遊びが小さいので、直線は得意でスピードも出ますが、カーブは不得意です。したがって、都心に乗り入れるためには、膨大な費用をかけて家屋を立ち退かせるしかなく、それが出来なければ、郊外立地ということになります。中国も費用はかけたくないので郊外立地を選択したものと考えられます。
ほんと中国の高速鉄道駅は空港ですね。駅は無駄に巨大で天井が高くてX線の手荷物検査まであります。
技術的には匿名様のご指摘の通りですが文化的な面を指摘しておきます。そもそも中国には長らく都市鉄道はなく、人民は何百キロも離れた町に行く時に鉄道を利用していました。そもそも鉄道は毎日乗る乗り物ではなかったのです。そういう人たちにとって高速鉄道は飛行機のようなものなのでしょう。
一方、日本は駅で便利に乗り換えたり、駅近のビルには地下道で行けたり非常に便利になるよう様々な考慮や近隣のビルなどとの調整の上に設計がなされていて日本人にはその体験があります。しかし、人民にはそういう便利な生活体験がありません。だから、そうした中国人が設計すると便利なものなどできないのです。中国の駅は実に不便で、地下鉄の駅では乗り換えのためにすごく歩かされたり、近隣のビルには地上に出てから行かないといけない。駅にも店はほとんどありません。高速鉄道駅も街から平気で10キロ〜20キロ離れた何もない辺鄙なところに平気で作ります。
インドネシアの高速鉄道は中国人が作ることになった時点で不便なものになるのは目に見えていました。
ジョコ大統領は中国に騙されたのです。中国は、インドネシア政府の財政支出・債務保証なし、しかも2期目の大統領選挙前の2019年に開業させると約束したわけですが、開業は4年遅れ、工事費は60億ドルから20億ドル増額、しかもインドネシア政府が役所350億円の財政支出まですることになりました。金額的には日本案と中国案は大きく違わなかったわけですが、財政支出・債務保証なし、工期の短さで安易に中国を選んで騙されたわけです。
>ジョコ大統領は中国に騙されたのです。
もっと辛辣な言い方をすると「中国と結託して日本をだまし討ったジョコ大統領は中国の実務レベルの無能さと覇権政策レベルの狡猾さにしてやられた」になるのかも知れません。
>>中国の駅は空港
これ全く同感です。
駅の作りが空港そっくり。
プラットホームが2階で、3階から降りて乗車して、降車すると1階に出る。
別のホームで乗り換えるためには一旦改札を出て3階に上がって切符とパスポートのチェックや手荷物検査からやり直さなければならない。
初めて乗った時は「どうやって隣のホームに行けばいいんだろ?」と他の乗客が改札を出た後の無人になった1階を彷徨いました。
乗り継ぎを検索すると同じ駅なのに40分後ぐらいの乗り換え列車しか出て来ないので何故なのかと不思議でしたが、行ってみたら理由が分かりました。
電車の良さは別のホームに行けばすぐ乗り換えられることなのに、中国の高速鉄道を作った人はその最重要ポイントが分かってません。
そもそも駅が空港より遠いし、30分以上前に駅に着いてないと乗れないのでは、電車のメリットは値段が多少安いことぐらいしかありません。
ハードはともかくソフトがダメ、センス悪いです。
>北陸新幹線が将来、大阪まで延伸されれば
北陸は、大阪、名古屋からは当面の間(20年以上?)、微妙に不便なところになりますね。
しかも、敦賀駅は構造上、対面乗り換えにはできなかったようです。
東京一極集中が進むだけのような気がする。
https://news.yahoo.co.jp/articles/390a14dfc4cacca617060e73a2d8d873e6609011
https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2023/10/097334.shtm
・大阪から福井に行こうと思えば、料金は1150円高くなり、時間的には、アクセスにもよりますが3分早く着くだけ
https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2023/10/097334.shtml
まあ、他国にアイデア求めている段階で結果に変わりはないでしょう。たとえ日本が手掛けようとダメだったと思う。中国みたいにモノがあればOKってレベルじゃないだろうけど、それでも現地のニーズに対してオーバースペックになってしまう懸念はある。
自分で企画して、他国からは技術を正しく買ってくる、ファイナンスも自分で考える。
そもそも高速鉄道必要?それより道路網整備でしょうって思う
北陸新幹線がこの春敦賀まで開通しますが、それに伴い在来線特急の『サンダーバード』や、『しらさぎ』が敦賀止まりとなり金沢に行くには敦賀から新幹線へ乗り換えないといけません。私はよく名古屋から特急しらさぎで金沢に行くのですが、敦賀乗り換えになると、乗り換えが面倒だわ、運賃は高くなるわ、時間は対して短縮されないわ、なんちゅうことしてくれたん?と思っています。おそらく大阪、京都からサンダーバードで金沢方面に行かれる方も同じ感想では?と思います。で、おまけに北陸新幹線の大阪までの延伸は2046年ごろのようですね。なにをチンタラしているんでしょうね。リニア中央新幹線も静岡県民さんのおかげて意固地の知事が国益も考えずに反対のための反対に勤しんでおられて目処が全然たちませんし、おまけに宗教団体の使い走りの国土交通大臣は中国様に忖度か?しりませんが、この問題をほったらかしですしね。本当に日本と言う国は何をするにしろ、困ったものです。