日本の金融機関、中韓台港に対する与信をさらに減らす
日本の金融機関の国際与信状況に関する最新版のデータが出てきました。これによると日本の対外与信総額(最終リスクベース)は2023年9月末時点で前四半期比56億ドル減って4兆6346億ドルとなりましたが、それでも1ドル≒149円で換算すれば691兆6399億円というとてつもない金額です。また、日本の国際与信は最近、中国、台湾、韓国、香港に対し、ドル建てで見た与信額や比重を減らしていることがくっきりしてきました。
BISのCBS
当ウェブサイトで注目している統計データはいくつかあるのですが、そのひとつが、国際決済銀行(BIS)が四半期に1度のタイミングで集計・公表している『国際与信統計』です。英語の “Consolidated Banking Statistics” を略して、「CBS」と称することもあります。
この統計、BISなどによると最大31ヵ国・地域からの国境をまたいだ与信状況が集計されているとのことですが、現実のデータを見ると、31ヵ国・地域のうち、最近、データが公表されていない国・地域もあるため、必ずしも万全な統計とはいえません。
これに加えて経済発展著しいとされる中国やインドなどがデータを出していないため、本当の意味での世界全体の資金の流れを把握するには必ずしも十分とは言い難いところがあります。
ただ、世界共通の尺度で、「どの国からどの国におカネが流れているのか」を把握することができるという意味では非常に便利であり、また、事実上、世界の資金フローの多くを占めているのが日米英などの先進国である(図表1)ことを踏まえると、この国際与信統計の有用性が落ちるものではありません。
図表1 全世界向け与信・上位10ヵ国(最終リスクベース、2023年6月末時点)
ランク(債権国側) | 金額 | 構成割合 |
1位:日本 | 4兆6459億ドル | 14.71% |
2位:米国 | 4兆4368億ドル | 14.04% |
3位:英国 | 4兆3992億ドル | 13.92% |
4位:フランス | 3兆4671億ドル | 10.97% |
5位:カナダ | 2兆6283億ドル | 8.32% |
6位:スペイン | 2兆1603億ドル | 6.84% |
7位:ドイツ | 1兆8009億ドル | 5.70% |
8位:オランダ | 1兆5313億ドル | 4.85% |
9位:スイス | 9956億ドル | 3.15% |
10位:イタリア | 9846億ドル | 3.12% |
その他 | 4兆5424億ドル | 14.38% |
報告国合計 | 31兆5924億ドル | 100.00% |
(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics)
ちなみに現在手に入る最新データによると、2023年6月末時点(※最終リスクベース、以下同じ)で世界最大の債権国は日本で、その金額はなんと4兆6459億ドル(!)。1ドル=145円だと仮定すれば、674兆円と、日本の年間GDPを大きく超えます。
「日本は国の借金がGDPの2倍以上だ」、「だからこそ日本は財政破綻の危機に瀕している」、などと主張する人は多いのですが、そのような人に限って、日本が世界最大規模の債権国であるという統計的事実を無視しているというのも興味深いところですね。
国際統計に先立って公開される日本集計分
さて、この国際与信統計、BISが各国分を集計し、公表するまでに、最大で4~6ヵ月のタイムラグを伴います。
たとえば、現在、BISが公表している最新の統計は2023年10月27日に公表されたものですが、このデータは2023年6月末時点のものですので、公表されるまでに約4ヵ月の時間を要している格好です。
ただ、日本の場合はBISの統計公表に先立って、日本銀行が集計した分が公表されます。
こうしたなか、日銀は22日、日本の金融機関の対外与信データを公開しました。
さっそく、これを国別に確認してみましょう(図表2)。
図表2 日本の金融機関の対外与信相手国一覧(上位20件、2023年9月末時点)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
これによると日本の対外与信は前四半期比56億ドル減って4兆6346億ドルでした。国際与信が減ったのは、BISの外為データ上、2023年6月末時点と比べて9月末で少し円安が進んだなどの影響もあったからかもしれません。
トップは米国で2兆0887億ドルで全体の45%ほどを占めており、2位がケイマン諸島で6104億ドル、以下、英国、フランス、豪州、ドイツ、ルクセンブルクなどが続き、タイが第7位に入っていることがわかります。
アジア最大の経済大国であるはずの中国よりも、タイに対する与信の方が多いというのは興味深いところですが、その最大の要因はおそらく、三菱東京UFJ銀行(※当時)が2013年にタイのアユタヤ銀行を買収したことの影響でしょう。
円換算したら
ちなみに、図表2に示した金額を、BISが公表する2023年9月29日時点の外国為替相場(1ドル=149.235416円)で換算したものが、図表3です。与信総額は691兆6399億円(!)で、GDPを軽く凌駕します。
図表3 日本の金融機関の対外与信相手国一覧(上位20件、2023年9月末時点、円換算額)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータおよび The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) データをもとに作成)
こちらで見ると、円建てに換算すれば多くの国で日本からの与信が増えていることがわかりますが、国際与信統計では詳細な与信通貨が収録されていないため、与信額の増減の要因が為替レートによるものなのか、それ以外の要因なのかについては、この統計だけでは必ずしも明らかではない可能性には留意が必要です。
中国、台湾、韓国、香港向けドル建て与信は減少
さて、こうしたなかで、個人的に最近、関心があるのは、アジアのなかでもどの国に対して与信が伸びていて、どの国から与信を回収しているのか、という観点です。
ここでは中国、台湾、韓国、香港の4ヵ国・地域に対する与信(※ドル換算額)を、シンガポールに対する与信と比較しておきましょう(図表4)。
図表4-1 対中与信
図表4-2 対台与信
図表4-3 対韓与信
図表4-4 対港与信
図表4-5 対星与信
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
いかがでしょうか。
これらのグラフから判断する限り、日本の金融機関は、中国、台湾、韓国、香港という4つの国・地域からの与信を減らしていることは間違いありません。とりわけ、シンガポール向けの与信がほぼ横ばいで維持されているなかで、香港向け与信が減っているのは、興味深いところです。
一般にアジアにおいて、「オフショアセンター」という意味では、香港とシンガポールは似たような立ち位置にありますが、香港向け与信は2020年3月の771億ドルをピークに減り続けており、23年9月時点の499億ドルという水準は、ピーク時と比べて64.73%、すなわち3分の2以下です。
同様に、台湾向けの与信は272億ドルで、2022年3月の428億ドルに対して63.67%に減っていますし、韓国向けは449億ドルで2017年12月の617億ドルの72.84%水準に、中国向けは775億ドルで2021年12月の1060億ドルに対して73.12%に、それぞれ減少しているのです。
これについては米ドル建てでなく、日本円建てで計算すれば、また微妙に異なる結果が出るのですが、ただ、中・長期的な傾向として、日本の金融機関が近隣4ヵ国・地域から与信を引き揚げていることは間違いないといえるでしょう。
ちなみにいま話題のロシアに関しては、2023年9月末時点で59億ドルと、ピーク時(2013年9月)の208億ドルと比べて28.35%、すなわち4分の1強にまで減っています。
このあたり、日本の金融機関のアセット・アロケーション力は非常に高いのではないか、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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こう言う点からのエコノミック・アニマル呼ばわりは喜ばしい…のかな?
対外債権が日本円で674兆円ですか。
政府予算が出てきたとTVのニュースで言っていますが110兆円だそうですね。
ここで気になる点が二つ出てきました。
一つ目はG7の他国の国家予算はGDPの何パーセントに相当する額か?
二つ目は対外債務を国内で投資するとして全てを国債が受ける場合国家予算のすべてを6年間受けることができるのに誰も言わない。貯蓄から投資に推奨しているのに変ですね。
一つ目は国によって違いが出ますが、先進国か発展途上国かによって割合が変わるはずですよね。税収のコントロールでGDPを伸ばすか、国債の発行数でGDPを伸ばすかてところですかね。
二つ目は乱暴なたとえなのでなかなか言いずらいとは思いますがそのくらいの見方をする評論家が居ても良いと思いますね。経済評論家が評論するのでないので無理なのかもしれないですが、経済評論家でないからいえると思います。
先日の官庁は科学的でないにつながるのですが、ネット社会なので調べられるといいですね。
自分はすぐには無理なんですが・・・。