アルゼンチンは日本にとって間違いなく「他人事」です
「アルゼンチンの状況は、日本にとっても他人事ではない」。「足元でアルゼンチンの通貨・ペソはさらに下落している。どうも今以上の混乱が待っているように見えてならないのだが、今後の日本を考える上でも、アルゼンチンから目が離せない」。こんな文章が、大手ウェブ評論サイトに掲載されているようです。日本が世界最大の債権国であり、日本円という通貨が世界でも信頼されているという事実を無視している時点で、何とも味わい深い文章です。
「円≒ペソ・リラ」
最近は「日本のアルゼンチン化」がひとつのトレンドとなりつつあるのかもしれません。
たとえば以前の『「円はアルゼンチン、トルコと同類」=欧州銀レポート』などでも紹介したとおり、某国の金融機関は顧客向けレポートで、「日本円はアルゼンチンペソやトルコリラと同類だ」、などとするレポートを公表したそうです。
(ちなみにその金融機関は2008年のグローバル金融危機以降、ときどき経営危機が取り沙汰される会社で、最近だとAT1の利払い停止騒動などが発生したことでも知られています。)
このあたり、国際決済銀行(BIS)の為替データに収録されている通貨だけで見ると、たしかに年初来の騰落率は、日本円が上位4番目に入っています(図表1)。
図表1 年初来の騰落率(BIS収録通貨のみ)
通貨 | 1ドルあたり | 騰落率 |
1位:アルゼンチンペソ | 177.1283→360.5250 | 103.54% |
2位:トルコリラ | 18.7183→28.8906 | 54.34% |
3位:ロシアルーブル | 70.3375→88.6102 | 25.98% |
4位:日本円 | 131.8770→146.7335 | 11.27% |
5位:南アフリカランド | 16.9685→18.7364 | 10.42% |
6位:ノルウェークローネ | 9.8573→10.7453 | 9.01% |
7位:マレーシアリンギット | 4.4050→4.6575 | 5.73% |
8位:イスラエルシェケル | 3.5209→3.7176 | 5.59% |
9位:韓国ウォン | 1260.1631→1304.6559 | 3.53% |
10位:人民元 | 6.8987→7.1384 | 3.47% |
(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) データをもとに著者作成)
つまり、「米ドルに対する通貨安」という意味においては、日本円もアルゼンチンペソ、トルコリラ、ロシアルーブルと「同類」(?)といえなくもないのでしょう。
政策金利、見てみました?
ただし、アルゼンチン、トルコ、ロシアの3ヵ国と日本が置かれている状況は、まったく異なります。
日本はようやくデフレからの脱却の兆しが見えているものの、依然として低金利政策、というよりも主要国ではあまり例がない「マイナス金利」政策を続けています。
図表2は日本、米国、トルコ、ロシア、アルゼンチンの5ヵ国の政策金利を比較したものですが、日本だけ、政策金利が低位安定していることがわかります(ちなみにBISデータだとアルゼンチン133%、トルコ40%、ロシア15%、米国5.25~5.5%に対し、日本だけがマイナス0.1%です)。
図表2 政策金利比較(過去20年分)
(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, Policy rates (daily, vertical time axis) をもとに作成)
アルゼンチン、トルコ、ロシアの3ヵ国は金利が米国よりも遥かに高いにもかかわらず、通貨が暴落しています。これに対し、日本は主要先進国中、唯一マイナス金利政策を維持しているなど、米国と比べ金利が非常に低いことで、だいたい円安の説明が付きます。
なにより外貨不足で対外債務のデフォルトが頻発し、経済が崩壊状態のアルゼンチン。
高インフレ下で利下げを行うという「自爆」により外貨流出が発生し、通貨安と止まらないインフレに悩むトルコ。
ウクライナ戦争が泥沼化し、西側諸国からの制裁も長期化しているロシア。
これらの諸国の通貨安と円安を同列に置くことが比較としては雑過ぎます。
アルゼンチンで自国通貨廃止論者が大統領に当選
さて、こうしたなか、アルゼンチンでは最近、中央銀行の廃止や自国通貨の米ドル化などを主張することで有名な、ハビエル・ミレイ氏が大統領選を制するという珍事がありました(『アルゼンチンで「ペソ廃止と経済ドル化」実現するのか』参照)。
これに関連し、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』に土曜日、なんとも不思議な記事が掲載されていました。
日本も他人事ではない…通貨はドルに、中央銀行は廃止?“アルゼンチンのトランプ”ミレイ大統領誕生に見る「先進国脱落」のシナリオ
―――2023.12.09付 現代ビジネスより
ここで注目したいのは、記事の末尾にある、こんな文章です。
「ミレイ氏の大統領当選のニュースに人々が慌ててドル換金を加速させたこともあって、足元でペソはさらに下落している。どうも今以上の混乱が待っているように見えてならないのだが、今後の日本を考える上でも、アルゼンチンから目が離せない」。
記事を執筆したのは「経済ジャーナリスト」の方で、「今後の日本を考えるうえでもアルゼンチンから目が離せない」、などとありますが、そのわりに日本とアルゼンチンのファンダメンタルズ面の比較も、政策金利の比較も出てきません。
アルゼンチンは日本にとって「他人事」
国際通貨基金(IMF)の統計などで見て、むしろ外貨準備における円の組入れが増えているという事実も出てきませんし、それどころかSWIFT統計の話も出てきません。
なにより日本が世界最大の債権国であるという事実、ドル建ての債務がGDP比較で無視し得るほど小さいを無視している時点で、何とも言い難い味わいがあります。
いずれにせよ、日本のメディアは経済を知らないことで有名ですが、この手の「日本=アルゼンチン」論は今後もしばらく日本のメディアを賑わし続けるのではないかと思いますので、謹んで、こう申し上げておきます。
「アルゼンチンは日本にとって、他人事です」、と。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
対象国がK国ならば、まぁそうだろうなぁ、と思いました。
誰に向かって書いた記事か判断しかねますが、釣りのエサでも良いということなのでしょう。
こういう記事を書いて、この寄稿者、よくメシが食えるなぁ、と感心します。日本のメディアって寛大というか阿保というか、終ってるというか。
そのように考える能力のある人間がどんどん新聞や雑誌を読まなくなりますから、購読者のレベルに合わせて記事の内容も更に低レベルになっていくという流れなんじゃないですかね。
執筆者のお名前が「フィッシャー」さんですしね。
確かに!
でも釣る人のほうではなく釣られる魚のほうかな?
>今年の政府支出は昨年の2倍以上に膨らんだ。一方、歳入は横ばいなので、
インフレで政府支出が2倍になるのはわかるがアルゼンチンも付加価値税(日本の消費税と同じ)を採用していて税率21%。
なぜ税収が横ばいなのだ?
アルゼンチンの苦境など誰でも知ってること。
誰でも知ってることを書いてカネもらってるのかな。
これだけご立派な経歴をお持ちでも「ドル建てで見た日本人の給与もOECDの中で下から数えた方が早く、世界と比べた日本人は貧しくなった。」って書いちゃうんですねぇ……ちょっと私の周囲では円を稼いでドルで晩御飯の買い物をしている人を見かけないもので、何だかよくわかりませんが。どこか都会には大勢いらっしゃるんでしょうね?
この手の執筆者の文章は何度も目にしましたが(主にこちらの紹介によってですが)、必ずと言って良いくらい、執筆者自身で矛盾、答えを書いてしまっているものが目立ちすぎです。
アルゼンチンの状況を日本人向けに例えるのに、曰く「日本でお店に行って、円でのお支払いはお断りです、と言われるようなものだ。」もちろんアルゼンチンと日本は違うなどと卑怯な予防線を張って曰く「日本は世界最大の債権国だ。」わかっとるやん。
これじゃ「何か後ろ暗い他意や要請でもあってあえておかしな文章を書かされている」と陰謀を考えてもしまいます。
「何か後ろ暗い他意や要請でもあってあえておかしな文章を書かされている」が
本当に正解かも知れませんね。
「どんな馬鹿な内容の記事でも命令通りに書く能力を重視されている」のか、
「金の為に言われた通りの記事を書きつつも保身の予防線は張っている」のか……
私はアルゼンチンで起こったことを他人事としてはいけないと考えています。
先進国→後進国に堕ちた原因は無能な政治家が政権を握ったためです。
日本の野党は科学的思考や論理的思考ができない議員が幅を効かせています。
安全保障、電力共有etc
そうした政党が政権を握ればアルゼンチンを笑えない事になるでしょう。
必要なことは現実的に政権を担当できる野党を作ることです。
>必要なことは現実的に政権を担当できる野党を作ることです。
面白い夢ですね。
日本の政治家がいくら足を引っ張っても、日本の実業団は何とか日本を守っていきますよ。
大丈夫ですよ日本は。
>日本の実業団は何とか日本を守っていきますよ。
あの経団連が?
11月27日付の日本経済新聞の社説にも、「アルゼンチンの混乱が心配だ」という社説が掲載されていました。日系人も多く資源も豊富なので、同国経済の迷走が深まらぬよう支援したいとの事ですが、隣の半島の国と同じくドル建てスワップでも提供するのでしょうか?
12月10日に就任するミレイ新大統領は親中路線から親米路線に転換するそうですので、韓国の現大統領と似ていますが。
余りこんな国には関わらないほうが良いと思いますが。
「経済が衰退したから通貨安になった」というのを「通貨安になったら経済が衰退する」などと、因果関係を逆にして得々と語られても、「はあ?」となるだけで、筆者の識見の程度が疑われるだけです。多分、「ニッポンの現状に警鐘を鳴らす」ことだけが目的なのでしょう。それだけで、いっぱしの知識人ぶれますからね。
アルゼンチンの場合、なにしろ大農業国ですので、少々経済が混乱しようがどうしようが、国民が飢えるということはまずありません。国政の第一優先が国民を飢えさせないことであるとすれば、アルゼンチンはそれこそ国力を総動員する戦争でもやらない限り、その点をあまり心配しなくても良いという好条件(?)にあります。その分、政策論争も抽象化する傾向があったりするのかもしれません。知らんけど。
他国の「失敗」に学ぶのは大切ですが、環境や条件が違い過ぎると、参考にすらならないということなんでしょう、きっと。
>アルゼンチンの場合、なにしろ大農業国ですので、少々経済が混乱しようがどうしようが、国民が飢えるということはまずありません。
その点、日本は食料自給率が38%で、その中でほぼ100%なお米も農業従事者の平均年齢が70歳だから、農業を支える農業従事者が今後激減してお米も自給出来なくなるかも、というお話しが。
お米が無ければお団子を食べれば良いじゃない、みたいな台詞を言う上級国民が出て来るかもですね。
>日本は食料自給率が38%
まだこんなからくりに騙されているのですか?
まあ、生産額ベースでも70%程度なのでどのみち足りなくて補わなければならないのは確かですが。
38%がカラクリによる数字としても、農業従事者の高齢化による離農でお米の生産量が減少していく問題は変わらないと考えるのですけどね。
>まだこんなからくりに騙されているのですか?
いいなあ~、こういう書き方!
『日本は世界5位の農業大国』