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キャリアで振り返る「前原誠司」

今度は「前原新党」だそうです。正式な党名は「教育無償化を実現する会」ですが、端的にこれに期待することはできるのでしょうか。少し厳しい言い方ですが、前原氏は6年前の衆院選で小池百合子・東京都知事が率いる「希望の党」への丸ごとの合流図ったものの小池氏に拒絶され、結果的に「民進党を崩壊させた張本人」「立憲民主党結党の陰の立役者」となったからです。

前原新党(正式名称「教育無償化を実現する会」)

政治に関心がある方ならすでにご存じの通り、前原誠司・衆議院議員が30日、国民民主党を離党し、新党「教育無償化を実現する会」を結党する方針を表明しました。

報道等をまとめると、新党の概要は、次の通りです。

「前原新党」の概要(敬称略)
  • 名称…「教育無償化を実現する会」
  • 代表…前原誠司
  • 幹部…嘉田由紀子(副代表)、徳永久志(幹事長)、斎藤アレックス(政調会長)、鈴木敦(国対委員長)
  • 主張…非自民・非共産の野党協力/教育無償化の実現

(【出所】各種報道等を参考に作成)

前原氏本人、参議院議員である嘉田由紀子氏を除けば、全員、衆院の比例議員です(徳永氏は立憲民主党所属時代に比例復活、ほかの2名は比例ブロック当選)。余談ですが、小選挙区主体の衆院選で、このままの状態で戦えるのでしょうか。

なお、新党に加わったのは5人ですが、国民民主党を離党したのは4人ですので、衆議院の会派「国民民主党・無所属クラブ」は10人から7人に、参議院の会派「国民民主党・新緑風会」は13人から12人に、それぞれ減ることになります。

政治は数が大切:そして個性的な動き方ができるかどうか

それはともかく、この「政党」、あるいは前原氏の動きを、どう見るべきでしょうか。

当ウェブサイトでは常々指摘してきている通り、正直、少数政党になればなるほど、政策を実現できる力は低下します。あくまでも一般論ですが、国会では「数こそが力」だからです。

たとえば、議員立法をするためには、そもそも法案を国会に提出しなければならず、そのためには衆議院ならば20人以上、参議院でも10人以上の賛同が必要です。もし予算を伴う場合は、そのハードルは衆議院なら50人以上、参議院でも20人以上に跳ね上がります。

今回の政党は衆議院が4人、参議院が1人ですから、議員立法どころの話ではありません。

また、前原氏自身が離党した国民民主党の玉木雄一郎代表のように、「自党の政策を一部呑んでくれれば補正予算案に賛成する」など、是々非々で政策論争や駆け引きができるのであれば、少数政党であってもそれなりに注目を集めることができる可能性はあります。

【参考】『少数政党なのに政策を盛り込ませる国民民主党の動き方

国民民主党は衆院で10議席(無所属クラブを含む)、参院で13議席(新緑風会を含む)という、いわゆる少数政党です。ただ、野党でありながらも政策を提案し、政府案に是々非々で賛否を示すという在り方は、少数政党としては正しい戦略といえます。こうしたなかで、玉木氏が長年提唱し続けて来たガソリン税のトリガー条項凍結解除で進展があったようです。現実路線なら自民党を選ばざるを得ない当ウェブサイトでは基本的に「現実路線」を重視しているつもりです。著者自身、日本が今よりももっと良い国になってほしいと思いますし、その...
少数政党なのに政策を盛り込ませる国民民主党の動き方 - 新宿会計士の政治経済評論

あるいは「NHKから国民を守る党」の浜田聡・参議院議員のように、少数政党に所属していたとしても、国会議員ならではの立場で、質問権などを駆使して国政調査を行い、それをSNSなどで直接、有権者にアピールできるのであれば、同じく有権者からの注目を浴びることはできるかもしれません。

しかし、こうした例外を除けば、一般に少数政党が有権者から注目され、選ばれ続けるためには、何らかの「ウリ」が必要です。

はたして前原新党にその「ウリ」はあるのでしょうか。

前原氏が結成した政党、前原氏のいう「非自民・非共産」の枠組みにまで、結実することはできるのでしょうか。

前原氏は31歳で衆議院議員に当選したのだが…

これについては正直、現時点であまり予断をもって決めつけるべきではないのかもしれません。

ただ、政治家としての「実務能力」という観点からは、著者自身としては、この「前原新党」には極めてネガティブです。

著者自身、政治家を評価する際には、その政治家の「志(こころざし)の高さ」だけでなく、「実務能力」を重視すべきだと考えている人間のひとりですが、前原氏の経歴を振り返ると、実務能力自体が疑われる事例が、いくらでも出て来るからです。

実務能力を図る手段のひとつは、その人がやって来たことという「客観的事実」を列挙することにあります。ちょっと長くなってしまいますが、これについてざっと振り返ってみましょう。

そもそも京都大学卒業の前原氏が国会議員に当選したのは1993年7月の衆院選のことです。1962年生まれの前原氏は若干31歳で国会議員となったのですが、これだけを見ると「良い大学を出て、若くして政治家になった」かに見えます。

しかし、その前原氏のキャリアは離党の連続、失政と自認の連続でした。

前原氏は当初、日本新党に参加し、そこから国政の場に初進出したわけですが、「非自民連立」の細川護熙内閣が政治資金問題で崩壊すると、日本新党をあっけなく離党。少し間を置いてから「新党さきがけ」に参加。1996年に民主党に合流しています。

「目指せ、日本のブレア」からの「永田メール」

そして、2005年の総選挙(いわゆる小泉郵政解散)で民主党が惨敗し、当時の岡田克也代表が引責辞任した際には、前原氏が民主党代表選に出馬し、菅直人氏を僅差で破って民主党代表に就任しました。

当時、前原氏はまだ43歳で、若きリーダーの誕生に朝日新聞は社説で『目指せ、日本のブレア』とエールを送りました(※「ブレア」とはトニー・ブレア元英首相のこと。ちなみにブレア氏は41歳で英国の首相に就任しています)。

ところが、2006年にはいわゆる「永田メール事件」が発生します。これは、当時の永田寿康・衆議院議員(2009年1月に他界)が捏造されたメールをもとに自民党を追及したという事件です。

当時の永田氏の主張によれば、2005年の衆院選で、実業家の堀江貴文氏が自民党の武部勤・自民党幹事長(当時)の次男に対し、選挙コンサルタント費用名目で3000万円の振り込みをを指示した、などとするものです。

この騒動で永田氏は発言を二転三転させたうえ、最終的にはメール自体が「誤りだった」と認めて議員辞職したのですが、これに巻き込まれる形で前原体制もたった半年で終わってしまいます。

正直、永田氏が持ち出したメールの「流れ弾」を喰らった格好ですが、肝心のメールの信憑性については、当時から疑われていたことを無視できません。当時、あの朝日新聞でさえ、『メール疑惑/民主党の信用が問われる』と題した社説で、メールの信憑性に疑義を呈していたからです。

このように考えていくと、代表辞任に追い込まれたのも、「永田メール」の信憑性を疑うことなく、民主党として全面的にそれに乗っかる決断をした前原氏の自業自得、という気がします。

民主党政権時代の「八ッ場ダム中止」「尖閣漁船事件」

前原氏の実務能力を疑う事例は、これだけではありません。

たとえば前原氏あ2009年の「政権交代」で鳩山由紀夫内閣に国土交通大臣として入閣したのですが、ここでぶち当たったのが「ダム建設問題」です。当時の民主党の政権公約に従い群馬県の八ッ場ダムなどの建設中止を表明するも、共同事業者である地元自治体等との調整を経なかったため、猛反発を喰らったのです。

ちなみにこの八ッ場ダムはその後、工事が再開され、自公連立政権時代に完成し、2019年の台風では大きな防災効果をもたらしています(『科学を否定する人たちが八ッ場ダム称賛を嫌がる?』等参照)。いわば、八ッ場ダム自体が民主党政権時代の「失政」の象徴のような存在、というわけです。

さらに、その鳩山内閣自体はあっけなく崩壊してしまうのですが、代わって発足した菅直人内閣で前原氏は「念願の」外相に就任。その「前原外相」時代の2010年9月には「尖閣漁船衝突事件」が発生しており、その対応の稚拙さは、日本外交史の汚点のひとつであることは間違いありません。

なお、一部メディアは逮捕された中国人船長の釈放に前原氏が関わった、などと報じているのですが、この点については著者自身として裏が取れているわけではありません。あくまでも「そういう報道があった」、という話です。

民進党を崩壊させた張本人

その前原氏の最大の功績(?)は、当時の最大野党だった民進党を、実質的に崩壊させたことでしょう。

民進党とは、民主党が2012年12月の衆議院議員総選挙で惨敗して下野したのち、2016年に他党と合流して結党された政党ですが、初代代表を岡田克也氏が、2代目代表を村田蓮舫氏が、それぞれ務めました(それにしても、同じようなメンツで党を切り盛りしている、という印象は拭えません)。

その村田蓮舫氏は「もりかけ問題」などで安倍晋三総理大臣らを舌鋒鋭く追及していたのですが、肝心の自身の二重国籍問題を誤魔化しきれなくなり、2017年7月には代表を仁すると決断。前原氏が村田氏の後任となる第3代目の民進党代表に選ばれました。

しかし、安倍晋三総理大臣が同年9月に衆議院を解散すると、前原氏は驚くべき決断を下します。

それは、「民進党として、衆議院議員候補を公認しない」、です。

これは、当時、小池百合子・東京都知事が結成したばかりの「希望の党」に合流することを意図したものだったとみられますが、小池氏は「排除の理論」を持ち出し、民進党の左派の合流を認めない意向を示したのです。

これにより「希望の党」に公認されなかった候補らが、枝野幸男氏が結党した立憲民主党に合流。民進党は衆議院が「希望の党」と立憲民主党に分裂し、その「希望の党」は衆院選で惨敗して野党第1党を立憲民主党に奪われてしまい、責任を取って前原氏は民進党代表を辞任しているのです。

いわば、前原氏こそ、民進党を崩壊させ、立憲民主党を発足させることになった、「陰の立役者」だった、というわけでしょう。

いったいなにがやりたいのでしょうか?

正直、こうした経緯を見るに、31歳で衆議院議員に当選し、今年61歳になる前原氏がこの30年間、政治家としてなにをなしてきたのか、疑問といわざるを得ません。

ちなみに今回の離党劇も、記者会見などを見ても「いまひとつピンとこない」という有権者は多いのではないでしょうか。

この点、「なぜこのタイミングだったのか」といわれれば、1月1日を基準日に支給される政党交付金が狙いではないか、という仮説も成り立つでしょう。この政党交付金は「国会議員5人以上を有する」などの要件を満たしていれば交付されますが、交付される資金を手土産に、日本維新の会にでも合流するつもりでしょうか。

いったい何がやりたいのか、なんだかよくわかりません。

また、離党された側の国民民主党にとってはたしかに短期的には打撃かもしれません。国民民主党は統一会派ベースで衆院で10議席から7議席へ、参院で13議席から12議席へ、それぞれ減少することになるからです。

ただ、見方を変えれば、前原グループがいなくなったことで、これから玉木代表にとっての自由度は増えた、という言い方もできるかもしれません。

しかも冒頭で指摘したとおり、離党した衆議院議員3人のうち、小選挙区で当選したのは前原氏のみであり、ほかの2人は比例ブロック当選です。

もし国民民主党が前回並みの比例票を獲得できるなら、離党した2人の代わりに別の候補を立てれば、今回の3議席のうち2議席は回収できる計算です。前原新党は門出から「泡沫政党」化が決定されたようなものかもしれません。

この点、ビジネスマンのひとりとしては、何らかの決断を下し、歩み始める人物に対しては、素直に応援したい気持ちもあります。たとえそれが間違っている決断に見えたとしても、本人の意思を尊重すべきだからです。

ただ、この「前原新党」に関していえば、実際に応援するかどうかは今後の動き方次第、といったところでしょう(というよりも、前原氏について当ウェブサイトで取り上げるのもこれっきり、という可能性もありますが…)。

いずれにせよ、前原氏にも、「あなたの決断は尊重しますので頑張ってください」というエールくらいは送りたいとは思います。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • 素朴な疑問ですけど、マスゴミは前原新党を何と略するのでしょうか。
    蛇足ですが、(今の国会議員のなかに他に前原氏がいるかは分かりませんが)別の前原氏が新党を立ち上げたら、それも前原新党になるのでしょうか。

    • 前原氏は自分で党を立ち上げたのですから、前原新党でよいのではないですか。前原氏は党首になりたかったのです。
      後は賛同する議員が5名いれば政党活動資金も入ってくるので、自民党に離党された議員を引き込むだけです。

      維新の会に入ってこないで本当に良かったです。

  • 「前原にはウリがあるのか?」
    ブラックユーモアですね。(笑)

    こんなに典型的にわかりやすく
    「ハニトラに捕まってる人」
    なんてのも政界にそう居ない気がします。

    なんで毎回当選するのか不思議ですね。
    ウリがあるから?
    ウリってなんなんだ?(笑)

  • 散々言われている事ではございますが、
    比例議員の離党は辞職して席を党に返すべきです。
    有権者を裏切った人物として絶対に許しません。

  • 単に党首になりたかっただけでしょうね、この人の場合は。

    いずれ消え去る政党にしても、メディアからの一定の取材は見込めますし、X等のつぶやきも党首の主張として使ってくれるでしょうから…

    まあ、アチコチ落ち着きのないコウモリのごとき人物は、国政を任せられないことだけは間違いないでしょう。

  • 党のロゴやら幟やら、見てくれだけはしっかり用意してるところにも過去のジプシーの実務経験が生きてると思いました。
    というか、そういうとこばっか気にしてるところが小池百合子と相性がいいところと思います。

    国民内では政策を最優先するか、数揃えを最優先するかで路線対立してましたけど、神学論争レベルで水と油だと思います。
    国民玉木氏は以前の立憲合流騒ぎで筋を通した挙げ句、総選挙に臨んでは「消滅の危機」すら予想されるほど党勢縮小しました。当時の本人の発信にも悲壮感を感じたものです。選挙結果は周知の通り。今さら政策か数かの路線で迷うことはないでしょう。

    このニュース見て思い浮かんだ言葉。
    「劣化版小沢一郎」

  • 前原一誠 「萩の乱」
    前原誠司 「国民民主党から議員を“剥ぎ”取る乱」

  • 八ッ場ダム、造っておいて良かったですね。石原慎太郎さんのお陰ですかね。
    熊本の脱ダムは、その後のほったらかし手つかず治水事業で多くの犠牲者の方を出してしまいましたけれども、ここの知事さんは責任も取らずに、県民が支持した結果?と言ったとか言わなかったとか。確かこの国は、人命は地球より重かったはずですが、コンクリートから人へで、如何程の国民の生命と財産を奪ってきたのでしょうか?その張本人が前原さんじゃなかったですかね?コロコロ政党を渡り歩いているところは、小沢一郎2号?今一郎?。将来が何となくわかりすぎて思わず微笑んでしまいました。

  • 民進党・民主党・立件共産党の構成員を経験した輩に共通することだと思いますが、こうしてとにかく目立つ動き方をする連中は、自分に人望があるとでも思っているんだろうか。
    実務能力だの何だの以前に人として欠陥がある人間ばかりで構成されてきたのがこれらの政党。
    たまに「中にはまともな人もいる」なんて言ったところで、そういった政党に所属し続けていることに甘んじている時点でダメなんじゃないかと思うが。

  • 前原氏は「政治資金規正法」に触れて、外相を辞任をしましたね。
    「”せいじ”資金だけは大丈夫だ」との、甘い自認があったからです。

    民主党政権の超法規的判断の数は、政権担当能力の低さを明示するものでした。

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