円安メリットが大きく出てきました。「国の借金」論というカルト宗教を布教しているザイム真理教の総本山には申し訳ないのですが、「国の資産」(?)は過去最大となったのです。日銀が発表した資金循環統計を見ると、海外部門の金融資産・負債差額(つまり日本全体から見た純債権)は470兆円の大台の乗せました。「国の借金」を問題視する人は多いようですが、こうした巨額の「国の資産」について頑なに言及を避けているのは謎というほかありません。
目次
2023年6月末の金融資産の状況
端的にいえば、円安の恩恵が大々的に生じているというのが現時点の日本経済の姿でしょう。国の資産は過去最高、というわけです。
日銀は20日、「資金循環統計」と呼ばれる統計データの最新版(速報値)を公表しました。今回公表されたのは、2023年6月末時点のものです。
これについて、金融資産・負債の残高を一覧にしたものが、次の図表1です。
図表1 2023年6月末・金融資産・負債の状況
©新宿会計士の政治経済評論
「国の借金」ならぬ「国の資産」は、過去最多といえるのかもしれません。
家計資産は総額2115兆円で過去最多
この図表は、次のように見ていくと、よくわかります
まず、家計部門が総額2115兆円分の金融資産を保有していて、そのうちの半額以上に相当する1117兆円は現金・預金であり、ほかに保険・年金基金等に対する受給権が538兆円ですが、ほかにも株高の影響か、株式・投信等に対する残高(※時価)が368兆円にまで膨らんでいる格好です。
ちなみに家計金融資産の割合は昔から現金・預金が50%少々、保険・年金基金等が25%前後、残りが株式その他の資産、という構造で変わっていないのですが、図表2でわかるとおり、家計が保有している金融資産のなかで株式等の残高は過去最高水準にあります。
図表2 家計・金融資産
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに著者作成)
預金取扱機関は貸出金が930兆円にまで増えた
そして、金融商品の世界では、「誰かにとっての金融資産は、ほかの誰かにとっての金融負債」です。
家計がこれだけの資産を持っているということは、ほかの誰かが家計に対し、同額の負債を負っている、ということであり、とくに銀行等の「預金取扱機関」は、負債サイドに1735兆円という巨額の預金債務を負っています(これらは家計だけでなく企業などからの預金も含まれます)。
金融機関としては、預かった預金を何らかの形で運用しなければならないのですが、この資産総額の推移を示したものが、図表3です。
図表3 預金取扱機関・金融資産
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに著者作成)
金融機関の金融資産総額は現時点で2500兆円近くにまで膨らんでおり、最も少ない時期に600兆円台だった貸出金残高については2022年6月に900兆円を超え、現時点で933兆円にまで膨らんでいますが、それでも運用難という状況に変わりはありません(※しかも日銀当預については頭打ちとなっています)。
日本銀行の国債ドカ買いはどうなる?
いずれにせよ、家計資産が増え続け、これらの資産の多くが預金取扱機関に預金などの形で流入している以上、これらの金融機関にとっては増え続ける資産を何らかの形で運用せざるを得ないのですが、その貴重な運用資産である国債を、日銀がドカッと買い込んでいる状況は続いています。
こうしたなかで、多くの人が勘違いしているのが、「国の借金が1000兆円を超えていて大変だ」、という論点です。これについては「国民1人あたり1000万円にもなる」、「いずれ増税して返さなければならない」、などとしたり顔で述べるインチキ経済学者も数多くいます。
しかし、国債・財投債・国庫短期証券の総額は2023年6月末時点において時価ベースで1240兆円に過ぎず、しかも600兆円ほどを日銀が占有している状況です(図表4)。
図表4 国債・財投債+国庫短期証券・保有者別残高(資産側)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに著者作成)
なんだか困ったことです。
この点、もしも日本銀行が国債を売れば、国債市場が値崩れする、と主張する人もいますが、これも銀行ALMの実情を理解していない金融の素人の発想でしょう。日本銀行のバランスシート上、国債の購入原資の多くは金融機関などから預け入れられた日銀当預だからです。
つまり、日銀が国債保有残高を減らせば、日銀当預の額も同時に減少しますし、これは預金取扱機関にとっては日銀当預に拘束されていた資金が解放されることを意味します。当然、それらの資金は手っ取り早く、国債市場に流れ込んでくることでしょう。
したがって、日本全体の資金循環バランスからは現在の日本政府の財政状況は、「財政危機」どころか、そこからは遥かに遠い場所にいるのであり、むしろ国債の発行残高が足りていないという状況にある、と結論付けざるを得ないのです。
海外部門では470兆円という過去最大の純債権
ちなみに日本国内で資金が有り余っている証拠は、ほかにもあります。
図表1の右下に示した「海外」部門を見ていただくとわかりますが、金融資産(つまり海外勢が日本国内に投資している金額)は1009兆円であるのに対し、金融負債(つまり日本国内の主体が海外に投資している金額)は1479兆円、その差額は過去最大の470兆円にも達しています。
逆にいえば、日本は世界に対し、470兆円の純債権国である、ということです。
よく国債のことを「国の借金」というありもしない用語で呼んで、日本があたかも財政危機であるかのごとくウソを述べる者たちがいますが、「国の借金」をマネして、この470兆円を「国の資産」などと呼んでみても良いかもしれません。
また、日本政府が保有している外貨準備高は181兆円と、ちょうど1年前に巨額の為替介入を行ったにもかかわらず、円安の影響で大きく増えていることがわかりますが、それだけではありません。対外証券投資については763兆円と過去最多であり(図表5)、円安の動向次第ではこれがさらに膨らむ可能性もあります。
図表5 対外証券投資
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに著者作成)
この巨額の対外証券投資も「国の資産」のようなものといえるでしょう。
さらに、円安のせいでしょうか、株価も大きく上昇しており、日本全体で上場株式の時価総額は800兆円を超えていることが確認できます(図表6)。
図表6 上場株式
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに著者作成)
まさに、対外証券投資も株式も、「国の資産」はどんどんと増えている状況です。
「国の借金論」という誤ったカルト宗教をベースに増税原理主義を省是とする財務省のことは、最近では「ザイム真理教」とも呼ばれているそうですが、現在の資金循環統計から見える日本経済の真の姿は、このザイム真理教の総本山にとっては、いかにも都合が悪いのです。
円安メリット
ついでに円安メリットについても言及しておきましょう。『円建て資産の円換算額は円高でも円安でも変わりません』あたりでも触れたとおり、円高と円安にはそれぞれメリット、デメリットがあるのですが(図表7)、日本は円安でデメリットよりもメリットの方が多く生じる国です。
図表7 円高と円安のメリットとデメリット
区分 | 円高 | 円安 |
輸出競争力 | ×輸出競争力は下がる | 〇輸出競争力は上がる |
輸入購買力 | 〇輸入購買力は上がる | ×輸入購買力は下がる |
国産品需要 | ×輸入品に押され需要減 | 〇輸入代替効果で需要増 |
製造拠点 | ×海外で作った方が有利になる | 〇国内で作った方が有利になる |
海外旅行 | 〇海外旅行に行きやすくなる | ×海外旅行に行き辛くなる |
国内旅行 | ×海外旅行に押され需要減 | 〇海外旅行の代替で需要増 |
訪日観光客 | ×外国人は来づらくなる | 〇外国人が来やすくなる |
外貨建資産 | ×為替評価損が生じる | 〇為替評価益が生じる |
外貨建負債 | 〇為替評価益が生じる | ×為替評価損が生じる |
©『新宿会計士の政治経済評論』/出所を示したうえでの引用・転載は自由
現在の円安局面はこのうちの「資産効果」を通じ、日本経済に大きな恩恵をもたらしている可能性が濃厚でもあります。
いずれにせよ、『円安なら「悪い円安」だが円高なら「悪い円高」=日経』などでも述べたとおり、新聞は円安になったときには「悪い円安」、円高に振れたときには「悪い円高」などと報じるという「前科」もありますので、このあたりは注意が必要な論点であることは間違いないでしょう。
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日経の記者、名前は忘れたが「悪い円安の名付け親」と紹介されてドヤ顔してた。
小生、会計には素人なのですが、
>この470兆円を「国の資産」などと呼んでみても・・・
については、「国の純資産」の方がよいのではないでしょうか?
小生が的外れであるなら、余計なコメントをお詫び申し上げます。
資産は幾らあっても、何も産み出すものではない。貯金通帳を眺めて喜んでいるようなもの。新たな富を産み出すのは投資。このサイトで、対内投資が話題になる事がないのは何故なのか?国を富ますのは、対内投資。
日本の経済指標が借金もなく健全だとするなら財務省以下政治家がキチンとした説明をし、税金を下げればいいのだ。国際機関の一票欲しさにODAをはじめ無駄な出費が多いのだ。無駄な出費をしたいが為に税金を湯水の様に浪費する。海外の領事館や大使館も贅沢をする役人や政治家の巣窟と化しているのは、有名な話だ。税金の私物化はここに極まれり、、である。政治家が利権に固執するから官僚に弱みを握られるのだ。だから利権を打破できない。国民が諦める様ではいけない。だけど政治家や官僚にも志があり、実務能力がある人材がいることを願いたい。
ちなみに、皆さんに朗報があるのですが、現在の為替レートで、トヨタの時価総額が韓国の誇りたるサムスンの時価総額を上回りました。
サムスンは優先株が50兆ウォンほどあるので、それを含めたらまだ足らずですが、10年前ではこれは考えられないことです。
ザイム心理教の連中を見かけたら、思う存分叩いてあげてください。笑
サムスン電子 416兆938億ウォン
トヨタ自動車 421兆6064億ウォン
トヨタの全個体電池の発表以降、株価爆上がりで私もホクホクです。笑
資産と負債を圧縮できないものでしょうか。ザイム省がただの欲張りの吝嗇家みたいに見えます。
素人でトンチンカンな事を言いますが、資産と負債を相殺して、国の資産と税金を極限まで下げて、身軽になれば良いと思う。天下り先なのか特殊法人を山程作って、特別会計やら投融資やら国家予算とは別の財布を作ってやりたい放題。
食べても食べても満腹にならない餓鬼のようてす。とんでもない悪鬼に日本は支配されている。
「国の借金がこんなにも!……国の資産?今そんな話はしていません」
「円安はダメ!円高もダメ!……丁度いい数値?質問は受け付けていません」
こういう主張は信用しちゃダメですね。ある意味分かりやすい。
テレビでは相変わらず池上彰氏が、国の借金が1200兆円ほどあって、国民一人当たりの借金が1000万円ほどになってしまって大変だと煽っています。
この方財務省の広報担当なのでしょうかね?
日経新聞は、安い日本だとか円の実力がどんどん下がっているだとか相変わらず懸命に危機感を演出する事に忙しいです。
自然科学は毎日着実に進歩しているのでしょうけど、日本にはまだまだ後進国を感じさせるところが多く残っているようです。
ヨーロッパやアメリカも褒められたものではありませんが。
あまり財務省のことを悪く言ってると、なぜか保守論客扱いされてる経済評論家らしい人に「財務省陰謀論者」なるレッテルを貼られて叩かれますよ。
なんたってあの高橋洋一氏すらその人にかかれば財務省陰謀論者らしいので。