「日本一周クルーズ船」も訪韓日本人の人数を水増し?

2023年1月から6月の期間、韓国を訪問した日本人は862,123人でした。これは同期間に日本を訪問した韓国人3,128,470人と比べて4分の1少々という水準であり、しかも男性よりも女性の方が圧倒的に多いという特徴があるのですが、その入国実態については、調べれば調べるほどに謎が深まります。こうしたなか、もうひとつ興味深いのが「カポタージュ制度」に基づくクルージング・ツアーの存在です。

日韓の相互往来は「韓国>日本」

以前の『ノージャパン忘却の韓国…「殴られた日本」は忘れない』を含め、当ウェブサイトでときどき取り上げる話題のひとつが、日韓双方の観光統計を用いた「日韓の相互往来」という論点です。

日本政府観光局(JNTO)が公表した速報データなどによると、2023年上半期(1月~6月)に日本を訪れた外国人の総数は10,711,979人でしたが、このうち約3割に相当する3,128,470人が韓国人でした。

その一方で、韓国観光公社が公表したデータなどに基づけば、同じく2023年上半期に韓国を訪れた外国人の総数は4,430,796人で、このうち約2割に相当する862,123人が日本人でした。

いわば、日韓がともに、「自国を訪れた外国人のトップ」を占めている、という計算です(図表1)。

図表1 日韓の相互往来の状況
区分日本韓国
入国した外国人総数【A】10,711,9794,430,796
Aのうちお互いの国民【B】3,128,470862,123
【B÷A】29.21%19.46%

(【出所】JNTO、韓国観光公社データをもとに著者作成)

ノージャパンはいずこへ?

もっとも、「日本を訪れた韓国人」と「韓国を訪れた日本人」の人数を比べてみると、前者が圧倒的に多いのが実情であり、その差はなんと約3.6倍(!)に達しています。日本の人口が韓国の約2.4倍であることを考慮に入れれば、人口あたりの往来は、韓国が日本の約8.6倍(!)にも達します。

数年前の「ノージャパン」運動、韓国の側では勝手に雲散霧消したようですが、このあたりは「殴られた側」である私たち日本国民が簡単に忘れるものでもないでしょう。

ただ、日本が「殴られた側」であることは間違いないにせよ、その「殴った拳」が日本経済にどれだけの打撃を与えたのかについては、冷静な検討が必要です。

「5万円海外旅行」シリーズ、韓国はギリギリ旅行可能』などでも引用したとおり、もともと、韓国人観光客の1人あたりの支出額は、訪日外国人のなかで目立って低く、訪日韓国人の人数が減ったとしても、それによるインバウンド観光業全体に与える「金額的インパクト」は決して多いものではありませんでした。

韓国人の1人あたりの支出額が低い理由はさまざまですが(たとえば宿泊日数が少ない、など)、ここで重要なのは、「1人あたりに換算したら支出額が目立って低い」という調査結果であり、「韓国人観光客が多い」からといって、「韓国人観光客が日本経済にとって大切な存在だ」という結論が導けるかどうか、でしょう。

日本人が韓国に出かけなくなった?

ところで、日韓相互往来について気になる論点は、それだけではありません。

訪韓日本人についても興味深く、2023年上半期を通じて韓国を訪れた日本人は100万人にも満たなかったのですが、ただ、これは「韓国が日本人にとって旅行先として魅力がないから」なのか、それともそれ以外に理由があるのかについては、軽々に決めつけるべきではありません。

とくに『韓国旅行は日本女性に大人気…「男性には不人気」!?』でも指摘したとおり、韓国に入国した日本人は、男性よりも女性の方が圧倒的に多いという状況にあります。少なくとも韓国は旅行先として、女性には大人気、ということかもしれません(裏を返せば韓国は日本人男性にとって不人気、ということでしょうか?)。

これに加えて日本人自身が海外に渡航しなくなったという要因は無視できません。たとえばインバウンド(入国外国人)とアウトバウンド(出国日本人)を比較すればわかるとおり、コロナ禍以降に関しては、インバウンドがアウトバウンドを大きく上回っている状況にあります(図表2)。

図表2 インバウンドvsアウトバウンド

(【出所】JNTO、法務省データをもとに著者作成)

日本人のアウトバウンドが急減した原因としては、航空運賃急騰、円安、海外物価高など、さまざまな可能性が考えられますが、その実際のところについては正直、よくわかりません。しかし、日本人が海外に出なくなったことと、結果的に韓国に渡航する日本人が減っていることには、おそらく密接な関係があると考えて良いでしょう。

日本一周のクルーズ船がわざわざ韓国に立ち寄る理由

さて、2023年上半期に韓国に入国した862,123人という人たちは、いったいいかなる目的で韓国に渡航したのか、少し気になるところではあります。

ただ、これに関して少しヒントとなり得る記事を、『乗りものニュース』というウェブサイトが配信しています。

日本一周クルーズ船が「なぜか韓国に寄る」理由 寄らなきゃ違法!? 背景に”日本の海運を守る”制度

―――2023/08/09 09:42付 Yahoo!ニュースより【乗りものニュース配信】

リンク先記事のテーマは「カボタージュ」という、耳慣れない用語に関して解説するものです(ちなみに「カポタージュ」とは「国内の海運市場へ外国勢がむやみやたらに参入するのを禁止する仕組み」のことだそうです)。

このカポタージュ制度そのものが日本経済にとって正しいものであるかどうかはとりあえず脇に置くとして、ここで注目したいのは、制度の概要です。

記事によるとカポタージュは「外国船は指定した国内の港(開港地)以外は入港できない」、「外国船は国内でのヒト・モノの輸送ができない」の2本柱で構成されており、とくに外国船舶に対しては、「内航海運」(日本国内の港湾間で旅客や貨物を運搬すること)が基本的に禁止されているというのです。

具体的には、こんな具合です。

例えば中国船籍のコンテナ船が、上海から荷物を満載して神戸、名古屋、横浜と順番に回って積み荷を降ろし、逆に新規のコンテナを各港で積んで全て上海に運ぶというふうに、『積む』『下ろす』の片方が全て海外ならばOKです」。

コンテナを半分だけ積んだ中国船が上海から神戸に着いて、積んでいたコンテナを全部下ろし、新規のコンテナを満載し、これを横浜まで輸送する、というのはNGです」。

統計から見えてこない韓国旅行の実態

ではなぜこれが韓国とかかわってくるのでしょうか。

そのヒントが、外国クルーズ船です。

「豪華な外国クルーズ船で行く10日間日本一周」、といったツアーの旅程をよく確認すると、「日本一周」なのに、「なぜか韓国の釜山や台湾の基隆など、外国にわざわざ立ち寄る」という例が多数あるのだそうですが、これがカポタージュと関連しているのだとか。

というのも、「外国船による日本一周クルーズの場合、一旦外国に寄港しないと、実態は横浜~横浜間でヒトを運ぶ行為となってしまう」、というのです。つまり税制の関係で外国に船籍を置くクルーズ船が日本を一周する場合、わざと外国に寄港することで、こうしたカポタージュ規制を回避している、ということです。

このあたり、国内旅行のつもりでツアーに参加したら、なぜかパスポートの持参を求められ、ツアー参加者が韓国入国者にカウントされる、といった事例がどの程度あるのか、気になるところでもあります。

その意味では、『韓国は「コバンザメ観光開発」に活路を見出すのも一手』でも取り上げた「トランジット・ツアー」も含め、韓国観光には「統計から見えてこない実態」が隠れている可能性は高そうです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    最近クルーズに行ってきました。コースは横浜―松山―日南―那覇―済州島―鹿児島―和歌山―横浜です。パスポートは乗船時に主催者に預けます。戻ってきたパスポートをみると済州島の直前の寄港地那覇の出国スタンプが押してあり、済州島の直後の寄港地鹿児島の入国スタンプが押してありました。
    ベリッシマというイタリアの巨大なクルーズ船で日本人乗客3500人、スタッフ1700人、合計5200人が乗っています。各寄港地でおそらく9割以上の人が下船して数時間の散策を楽しみます。済州島では長くても5-6時間の滞在でしょう。こんなのでも入国は入国ですから訪韓客としてカウントすることに文句はいいませんが人数の割には経済効果は小さいのではないかと思います。
    クルーズと言うとすぐに「リッチ」「富裕層」などという紋切型が返ってきますが、乗客を眺めているとそういうのとは程遠いという感想です。平均年齢は推定75歳、80台の夫婦が大半ですが、ときどきいる付き添いの50台の娘が平均年齢を下げているといった感じ。
    巡回バス(各寄港地で無料の巡回バスを提供してくれる)の私の後ろの席の人は戦時中の学童疎開の話で盛り上がっていたのでおそらく80台後半と思われます。
    SNSでは行ってきた人、これから行く人などの集うサイトがあるのですが、やみつきになる人がいるらしく1年に何回も乗る人がいて人気です。なぜこんなに(高齢者に)人気なのか?
    やっぱりコスパでしょう。9泊10日全食事つき、飲み物はアルコールを含めて旅行代金以含まれていて、エンタメ(私の乗った船では何と山本リンダ、にしきのあきらのショーがあった。もちろん満席)もついて、部屋のタイプにもよりますが32万円ぐらい。海外旅行より安く、疲れる飛行機に乗らず、海外旅行のように歩かなくて済む。そのへんが人気の理由かもしれません。
    最近知ったのですが、クルーズにはカテゴリーがあるらしく:ラグジャリー、プレミアム、カジュアルだそうです。私の乗ったベリッシマはカジュアルのカテゴリーです。
    富裕層が乗るのはラグジャリーかプレミアム(どっちが高いかは知らない)なのでしょう。

    1. さより より:

      10日で32万円とすれば、一日あたり3万2千円です。それで、3500人も乗船とは凄く儲かりそうです。日本企業もクルーズ船を造って、この事業をやればいいのにと思います。企業の内部留保が溜まりに溜まっているのだから、安全投資事業だと思います。
      どこかの大企業の経営者も、このサイトを毎日読んでいれば、新しい事業のヒントを沢山掴む事ができるのに、ね。少なくとも
      毎日、「日経よく読む」よりは、新規事業のヒントは得られるはずです。
      何しろ、人生経験・ビジネス経験が豊富で暇持て余している、知的なジイサン達が有り余る知性と知力を使って全力でコメント書いているんですから。

  2. 匿名 より:

    日本関連だとダイヤモンド・プリンセスがイギリス船籍なので、外国への寄港が必要ですね。
    飛鳥IIは日本船籍なので、国内のみでクルーズ可能です。

    横浜港で見たのはダイヤモンド・プリンセスだったかなぁ。
    「大規模マンションが船に乗って動いている!!」という感じでした。

  3. さより より:

    タクシーも、そんな制度があったように思います。当然の制度です。明治の日本は常識で考えて当然の制度を作っていました。今の日本は、愚かな意味の分からない平等意識を持った左翼連中が騒ぐので、悪平等な仕組みしか作れなくなっています。その最たるものが、幼稚園の運動会の何メートル競争かの、皆んな手を繋いで一緒にゴールする、だって?
    悪平等の最たるものが、グローバリズム、
    です。

  4. ねこ大好き より:

    乗り物ニュース見ました。よく分かりました。クルーズ船は生活路線ではないので、除外でも良いのかなとは思いますが、法に例外は良くないし、クルーズのついでに外国に行っても別に損は無いので、そんなもんかと思いました。
    しかし折角寄るなら台湾が良いですね。訪問外国人の実績にカウントされるなら、尚更台湾が良いです。韓国に寄るなら、真夜中(熟睡中)に入港し、早朝(起床前)に出港して欲しい。

  5. より:

    現在はどうだかわかりませんが、その昔、韓国はトランジットで立ち寄っただけの人まで入国観光客数としてカウントしていた(らしい)なんて話がありました。実際、地方在住の人にとっては、わざわざ成田まで来るよりも、仁川経由で海外に行った方が便利だし安上がりだったため、そのようなルートを取る人も少なくなかったようです。おそらく、地方空港発の格安海外ツアーでは、そのようなルート設定が結構あったのではないかと思います(*)。で、その場合、仁川乗り継ぎと言っても、おそらく入国すらしていません。ならば、そのようなトランジット客を入国者としてカウントするのは、不当な水増しと言えるでしょう。

    それを考えれば、クルーズ船が運航の都合上立ち寄っただけにしても、とりあえず乗客は入国はしてるんでしょうから、まだ可愛げがあるとも言えます。

    (*) 個人的には、どれほど安かろうが、KEやOZを使うのは御免ですが……

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