独立系メディアが国際情勢をわかりやすく解説する時代

週末の「ワグネルの乱」を別の側面から見ると、NHKを含めた日本のテレビ局などが土曜日、特段の「特番」などを組むこともせず、結果的に日本の視聴者に対し、有益な情報をほとんど流さなかったという点において、日本のメディアが「使い物にならない存在である」ことを露呈するきっかけになったと言えるかもしれません。こうしたなか、ワグネルの乱そのものを3つのポイントから解説した、大変わかりやすい記事が、独立系ウェブ評論サイト『SAKISIRU』に掲載されていました。

使い物にならない日本のメディア

週末にロシアで発生した「ワグネルの乱」を巡り、個人的に最も強く印象に残ったのは、日本のメディアがいかに「役に立たない存在」であるか、です。

事態が急展開するなか、NHKを含めた日本の多くのテレビ局は特段の「特番」も組まなかったことであり、テレビが本来ならば「速報性」を売りにしているはずなのに、とくに土曜日の時点において、日本の視聴者に対し、有益な情報をほとんど流さなかったと聞きます。

正直、テレビを見ているよりもツイッターを見ていた方が、遥かに有益だったのではないでしょうか。ツイッター上ではほぼリアルタイムで、ロイター、タス通信などの外信や、一部の独立系のジャーナリスト、評論家などが発信し続ける新情報・分析を確認することができたからです。

その意味では、間違いなく時代は変化しているのです。

奥山真司氏が『SAKISIRU』に寄稿した論考

さて、その一方で、昨日の『「ワグネルの乱」は収束?垣間見えるロシアの厭戦気分』でも取り上げたとおり、結局、この「ワグネルの乱」はあっけなく収束しました。ワグネル側が進撃を止め、ロシア当局はエフゲニー・プリゴージン氏への刑事訴追を取り下げ、プリゴージン氏がベラルーシに出国する――などで、手打ちとなったのです。

これに対してはさまざまな人がさまざまな分析を出しているのですが、個人的に非常に興味深く読めたのが、国際地政学研究所・上席研究員で地政学・戦略学者の奥山真司氏がウェブ評論サイト『SAKISIRU』に掲載した、こんな記事です。

急展開のロシア「プリゴジンの乱」「ワグネルの反乱」とは何だったのか/戦略学の視点、3つの考察ポイント

―――2023年06月25日 20:00付 SAKISIRUより

奥山氏はこの混乱を巡って、「あまりの急展開に情報が錯綜している」と指摘しつつも、これを3つの考察ポイント――「▼ワグネルの乱はクーデターではないものの、▼プーチン政権にとっては大打撃となった、▼しかしプリゴジンの側にも戦略がなかった」――という点から解説するものです。

(※なお、人名表記を巡って、当ウェブサイトで「プリゴージン」と表記しているものを、奥山氏の論考では「プリゴジン」と表記しているなど、多少の揺れはありますが、ご容赦ください。)

このうち、「これはクーデターではない」、という点については、これはこれで勉強になるのですが、本稿では詳細の紹介を割愛したいと思います。3点目とも重なる論点だからです(もし興味があれば、具体的な内容はリンク先記事で直接にご確認ください)。

プーチン政権は「3本柱」喪失し「脳死状態」

次に、今回の「ワグネルの乱」が、ウラジミル・プーチン政権にとっても打撃である、という点についてはどうでしょうか。

奥山氏は、英国のプーチン研究の専門家であるマーク・ガレオッティ氏の論考を引用する形で、プーチン体制には「▼プーチン個人のカリスマ性、▼安保機関の掌握、▼豊富な資金力」という3つの柱で支えられている、という特徴があると指摘します。

ただ、ウクライナ戦争開始直前の2022年2月までであれば、プーチンはこの3つのすべてを持っていたのですが、「今回の戦争でそれらが失われ、プーチン政権は第一次大戦に参戦したロシア帝国のような『脳死』の状態になっている、というのがガレオッティ氏の指摘なのだとか。

今回、急速に事態が動いたうえ、プーチン氏がモスクワから脱出したと報道されてしまったこともあり、奥山氏はこれについて、こう指摘します。

果たしてプーチンが『強い意志』をリーダーとして示すことができるのか疑問だ」。

事態がどのように収束するにせよ、プーチン個人として今後の政権運営はよほどの締付けを行わない限り打撃から立ち直れないように思える」。

つまり、今回のワグネルの乱は、ウクライナ戦争で3つの柱のすべてを失い、脳死状態になっているプーチン政権にとって、より強権的な動きを見せるきっかけになりかねない、ということでしょうか。

プリゴージン氏にも戦略なし

ただ、奥山氏はそれと同時に、プリゴージン氏の側にもこれといった戦略が見えなかったと指摘します。

なぜか。

それは、奥山氏の論考の冒頭にある、こんなサマリーがその証拠でしょう。

ロシアの正規軍の代わりにウクライナとの前線で戦っていた傭兵会社であるワグネル社を率いるエフゲニー・プリゴジンが、ロシア政府に使い捨てにされたことに腹を立て、6月23日に武装蜂起を宣言して、ロシア軍のウクライナへの侵攻における拠点である南部ロストフ州にある南部軍管区司令部の施設を支配し、同時にモスクワへ向けて進軍を開始した」。

実際、奥山氏によると、プリゴージン氏の非難の矛先は当初、ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長、セルゲイ・ショイグ国防長官に向けられており、プーチン大統領を直接に非難することは避けていたのだそうです。

ところが2日目になって録画で声明をようやく発表したプーチン大統領に『裏切った』と非難されたことにより、完全に敵視されてしまったプリゴジンはプーチン(政権)を倒すことしかオプションがなくなっていた」。

つまり、腹いせに反乱を起こしたものの、プリゴージン氏の念頭には「プーチン政権打倒」はなく、しかしプーチン大統領本人から「裏切り」と非難されたことで、このままでいけばプリゴージン氏自身、プーチン政権を倒すしかオプションがなくなってしまった、ということでしょう。

ただ、プーチン政権をやっつけ、自身がプーチン大統領の代わりにロシアの政権を取ったところで、プリゴージン氏としても困ってしまうでしょう。だからこそ、プリゴージン氏が「落としどころ」を受け入れたのだ、と考えると、たしかに納得がいきます。

独立系メディアが増えることを歓迎したい

もちろん、これは地政学、戦略学に詳しい専門家であるとはいえ、奥山氏という個人が出したに過ぎない見解であり、日本政府などの公式見解ではありません。

掲載されたメディアも、大新聞ではなく、『SAKISIRU』という独立系のウェブメディアです。とりわけ編集長でもある新田哲史氏を巡っては、ネット上で「優れた記事を執筆する」などの評価を見かけることもありますが、それでも『SAKISIRU』は大手メディアではありません。

この見解が正しいかどうかを巡っては、できれば読者の皆様がリンク先記事を直接お読みいただき、直接にご判断になるのが良いと思います。

ただ、個人的にはこの奥山氏の説明はストンと腑に落ちるものであり、非常にわかりやすいと思ったことは事実です。なにより、大手メディアでもない独立系のメディアに、こうした優れた論考が掲載されるようになったということ自体、日本国内の論壇も充実してきたという証拠でしょう。

その意味では、オールドメディアの社会的役割はますます低下している反面、その間隙を埋めるべく、優れた独立系メディアが続々と出現しているのだとしたら、日本の未来は必ずしも悲観すべきことではなく、むしろ大変に心強く、楽観視できる材料ではないでしょうか。

※なお、一部メディアなどによると、その後、プリゴージン氏がロストフを去って以降、消息不明、との情報もあるなど、本件は引き続き情報が錯綜しているようです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    ベラルーシ行きとされる航空機が行方不明になり謎の墜落をする(墜落したというウワサ)が流れて、バフムト攻略完了で傭兵ビジネスに見切りをつけたプリゴジンは見事にリタイア(引退)に成功するという後日談が流れそうです。

  2. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    テレビ局:「テレビの番組は、決まった時間に決まった内容の番組を視聴する、視聴習慣のある視聴者に支えられているのだから、突発的な事態には対応できない。番組内容を変更するには、それなりの時間がかかる。それは独立系メディアで見てくれ」
    なるほど、最強の番組は「水戸黄門」なのですね。

    1. 匿名 より:

      テレビ朝日 「うちは2015年から平日の朝4時に『暴れん坊将軍』を放送しています。」

      テレビ朝日 | 番組表
      https://www.tv-asahi.co.jp/bangumi/
      月~金 4:00〜4:55 「おはよう! 時代劇 暴れん坊将軍 9」

      1. 引きこもり中年 より:

        >テレビ朝日 「うちは2015年から平日の朝4時に『暴れん坊将軍』を放送しています。」
        平日の朝4時は、普通の人はまだ寝ていますから、例え他国に宇宙人が攻めてきても、テレ朝は「暴れん坊将軍」を放送するのでしょうか。

  3. PON より:

    ほんと新宿会計士様のおっしゃる通りです。
    日本のマスメディア、とりわけTV局の報道の遅さ、偏りにはあきれるばかりですね。
    総務省管轄の免許事業ということで何らかの影響を受けているのでしょうが、中で働く社員の皆様はどう考えているのでしょうか?

    このサイトの方がよっぽど情報が早く、かつ多様な意見も多いので、数千倍見る価値があります。

  4. nekodama より:

    本件、あまり展開が早すぎて情報処理が追い付かなかった感があります。
    多くのメディアがそうだったのではないでしょうか。

    本稿で紹介いただいた奥山氏の論説は確かに面白かったのですが、「プリゴジン氏に戦略がなかった」というのは少々疑問です。ネットでは「御所巻だった」という表現も見られましたが、プーチン氏が本当に直接交渉に応じるビジョンだけで動いていたとは思えないんですよね。
    当然、ロシア国内を兵器を持ってパレードすれば、プーチン氏に敵視される可能性はあったわけですし、今回のケース不問に付すという衝撃の結末を迎えています。

    結末はプリゴジン氏にあまりに利がありません。ベラルーシ亡命というのも不可解です。ロシア国内で戦闘行動に発展しなかったという話も腑に落ちない。

    詳細は後に明らかになるとは思いますが、現時点では判断するには材料が少なすぎます。事前に、プリゴジン氏とプーチン氏とで話がついていたといわれても驚きません。その程度に不可解な点が多いと思います。

    1. 引きこもり中年 より:

      nekodama さま
      >「プリゴジン氏に戦略がなかった」というのは少々疑問です。
      プリゴジン氏にはプリゴジン氏なりの戦略があったと思います。(その戦略が楽観的すぎたのか、想定外の事態が続いたのかもしれませんが)その戦略の目的が達成できたのかは別ではないでしょうか。そして、他人は結果を見て「戦略がなかった」と言っているのではないでしょうか)

  5. 元雑用係 より:

    去年のウクライナ侵攻が始まってから、ソ連崩壊からロシアを大国として立て直したプーチンが、大国としてのロシアの歴史にトドメを刺す最後の大統領になったりして、なんてことを冗談半分で書いてみてましたが。
    いやいや、その後のロシアは無様としか言い様がない。

    真偽不明ながら、ワグネルへの協力者への粛清が始まったとの情報が流れていました。ワグネル構成員に手を出すのはしばらく後だとしても、協力者の粛清はすぐにでもできると。

    1. 元雑用係 より:

      粛清の情報はフェイクのようでした。
      真偽不明が多すぎてURL貼れないこの数日。

  6. 農民 より:

     経済・外交に関してはすっかり素人以下のメディア様が、悪い意味で拙速な報道に走っても困りものなので、「速報性を見せてみろ」とは到底思えないのがナントモですね。逆に、1,2週後に内容の濃い特番でもやったら見直します。
     とはいえ他の分野ではデタラメ速報を平気でかますので、やはり違和感ありますが。

    1. 匿名 より:

      でも反日のためならデタラメ速報を積極的にやるじゃないですか・・・

  7. 匿名 より:

    既存大手メディアはこの叛乱についての報道に力を入れている気配がないですね
    沈没船観光の潜水艦が行方不明になったときのほうがトーンが高かったような気さえします。不思議なものです

  8. 7shi より:

    一応、NHKは自社のニュースサイトで、今回の事件の記事をトップに固定して、随時更新していましたよ。地震や台風の時と同じ対応です。ただ、地震や台風ならテレビ放送も特番に切り替わるのに、今回の事件では、テレビ放送は地上波もBSも全くの通常どおりだったみたいですね。

    そもそもテレビがデジタル放送になってからは、サブチャンネルを使った2番組同時放送が可能になったので、通常番組を休止する必要はなくて、特番か通常番組のどちらかをサブチャンネルで流せばいいだけなのに、地上波でそれをやっているのは見たことがないですね。

    民放の場合は、視聴者が分散すると視聴率が下がってしまうので、2番組同時放送をやりたくないのもわかるけど、視聴率は関係ないNHKも、地上波では一度もやったことがないんじゃないかと思います。(東京のローカル局・TOKYO MXだけは、深夜アニメの2番組同時放送をやってますがw)

    ちなみに民放のキー局は、地上波・BS・CS・ネット配信などの媒体によって、明らかに論調を使い分けています。BSフジの 「プライムニュース」 には、地上波のフジテレビの番組には絶対に呼ばれないような保守派の論客も出演しているし、テレビ朝日が出資・番組制作をしているAbema TVには、テレビ朝日の番組には絶対に呼ばれないような 「ネットのインフルエンサー」 も出演しています。(ひろゆきに 「辺野古座り込み」 の現実をバラされて左翼が発狂した事件は、そもそもAbema TVの企画で、ひろゆきが辺野古を訪れたのが発端でした。)

    もしかすると、‭NHKがテレビを特別編成にしなかったのは 「今どきテレビを見ているような層には、知らせる必要がない」 と判断し、さらには、こうして 「重大ニュースはウェブで」 という事実を積み上げていくことで、ネットから受信料を徴収する理由にするつもりなのかも・・・。

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