選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」
岸田文雄首相は結局、昨日の記者会見では解散総選挙を明言しなかったようです。ただ、それでも現時点における情勢に照らすと、早期解散総選挙の可能性は決して低くありません。なぜなら、そうすることが自民党にとって、非常に合理的な選択肢だからです。これについて、ここ数日、当ウェブサイトで繰り返してきた選挙情勢分析に関連し、本稿ではまた少し違った視点で、「カギとなる自民党・立憲民主党の99人のボーダー議員」について検討してみたいと思います。
比例代表の票読みは大変に簡単
昨日の『総選挙のもうひとつの注目点は「共産党の比例の票数」』を含め、これまでに当ウェブサイトで何度となく論じて来たのが、「今すぐ解散・総選挙となった場合、実際のところ、各政党はどれだけの議席を獲得し得るのか」、です。
これについて、比例代表の票読みは、比較的簡単です。得票と議席がほぼリンクしているからです。
2021年衆院選・比例代表の各党の得票・獲得議席数
- 自民…得票19,914,883票→議席72議席
- 立民…得票11,492,095票→議席39議席
- 公明…得票*7,114,282票→議席23議席
- 維新…得票*8,050,830票→議席25議席
- 共産…得票*4,166,076票→議席*9議席
- 国民…得票*2,593,396票→議席*5議席
- れ新…得票*2,215,648票→議席*3議席
2021年衆院選・比例代表の各党の得票率・議席率
- 自民…得票34.66%→議席40.91%
- 立民…得票20.00%→議席22.16%
- 公明…得票12.38%→議席13.07%
- 維新…得票14.01%→議席14.20%
- 共産…得票*7.25%→議席*5.11%
- 国民…得票*4.51%→議席*2.84%
- れ新…得票*3.86%→議席*1.70%
比例代表は小選挙区からの「復活当選」などの論点もありますが、しかし、得票率と議席占有率に大きな違いがないことから、だいたい政党支持率と議席獲得率が(完全にではないにせよ)ある程度はリンクしているものと考えておいて良さそうです。
読めない小選挙区
しかし、小選挙区の場合はこういうわけにはいきません。
自民党は約2763万票を獲得し、これにより得た議席は187議席でしたが、立憲民主党は自民党より1000万票ほど少なかったとはいえ1722万票を獲得したにも関わらず、獲得した議席は57議席にとどまりました。
また、公明党はわずか87万票そこそこで9議席を獲得しているのに対し、日本共産党はその3倍近い264万票を獲得していながら、勢力はたった1議席にとどまりました。
2021年衆院選・小選挙区の各党の得票・獲得議席数
- 自民…得票27,626,235票→議席187議席
- 立民…得票17,215,621票→議席*57議席
- 公明…得票**872,931票→議席**9議席
- 維新…得票*4,802,793票→議席*16議席
- 共産…得票*2,639,631票→議席**1議席
- 国民…得票*1,246,812票→議席**6議席
- 社民…得票**313,193票→議席**1議席
2021年衆院選・小選挙区の各党の得票率・議席率
- 自民…得票48.08%→議席64.71%
- 立民…得票29.96%→議席19.72%
- 公明…得票*1.52%→議席*3.11%
- 維新…得票*8.36%→議席*5.54%
- 共産…得票*4.59%→議席*0.35%
- 国民…得票*2.17%→議席*2.08%
- 社民…得票*0.55%→議席*0.35%
これが、小選挙区の怖いところです。得票率と議席率に、大変大きな乖離が生じているからです。逆にいえば、自民党がちょっと票を減らすだけで、各所で大敗を喫することが予想される、ということでもあります。
もう少し詳しく調べてみた「当落線上」
ただし、その「ちょっと」のラインがどこにあるのかに関しては、微妙です。
たとえば、小選挙区で当選した候補者のうち、2位候補者との得票差が2万票未満だったのは、自民党で187人中58人でしたが、これをさらに分解すると、2位との得票差が1万票を割り込んでいるケースが34人おり、酷いケースだと得票差が1千票未満、という事例も4つありました(図表1)。
図表2 自民党小選挙区当選者の2位との得票差(2021年データ)
区分 | 当選者数 | 構成比 |
1千票未満 | 4 | 2.14% |
1千票以上5千票未満 | 13 | 6.95% |
5千票以上1万票未満 | 17 | 9.09% |
1万票以上2万票未満 | 24 | 12.83% |
2万票以上 | 129 | 68.98% |
合計 | 187 | 100.00% |
つまり、これらの議員が次回総選挙における「当落選上」にいる格好です。
前回と比べ、次回の衆院選では区割り変更がなされるほか、最大野党である立憲民主党にそれなりの逆風も吹いていることが予想されるものの、やはり自民党は50~60議席程度、不安定な候補者がいることは間違いありません。
ボーダー議員率はむしろ立憲民主党の方が高い
ただし、同じシミュレーションを、最大野党である立憲民主党についても実施しておくと、興味深いことがわかります。「2位との得票差が2万票未満」の候補者数は当選者57人中41人と、割合で見ると自民党と比べて圧倒的に高いのです(図表2)。
図表2 立憲民主党小選挙区当選者の2位との得票差(2021年データ)
区分 | 当選者数 | 構成比 |
1千票未満 | 4 | 7.02% |
1千票以上5千票未満 | 10 | 17.54% |
5千票以上1万票未満 | 12 | 21.05% |
1万票以上2万票未満 | 15 | 26.32% |
2万票以上 | 16 | 28.07% |
合計 | 57 | 100.00% |
とくに「得票差1千票未満」の当選者が自民党と同数の4人もおり、当選者自体が57人と少ないことを踏まえれば、むしろ前回、「薄氷の勝利」だった候補者の割合は、立憲民主党の方がはるかに多かったのです。
そして興味深いことに、「薄氷の勝利」を納めた候補者は、自民党と立憲民主党に集中しています。図表1と図表2の合計はちょうど99人ですが、自民党、立憲民主党以外の議員について「得票差2万票未満のボーダー議員」の数を数えてみたら、全部でもせいぜい16人です(図表3)
図表3 小選挙区当選者の2位との得票差(2021年データ)
区分 | 自民 | 立憲 | その他 |
1千票未満 | 4 | 4 | 0 |
1千票以上5千票未満 | 13 | 10 | 維新1 |
5千票以上1万票未満 | 17 | 12 | 国民1 共産1 無所属1 |
1万票以上2万票未満 | 24 | 15 | 公明2 維新3 社民1 無所属6 |
2万票以上 | 129 | 16 | 29 |
合計 | 187 | 57 | 45 |
とくに前回総選挙で得票差が5千票未満だった候補者に限定すると、自民、立民あわせて31人でしたが、それ以外だと日本維新の会の候補者が1人いるのみであり、5千票以上・1万票未満で3人、1万票以上・2万票未満で12人、合計で16人に過ぎません。
このことは、すでに自民・立民以外の政党から立候補し、小選挙区で勝ち残っているような候補者は、どの政党に所属していたとしても、じつは選挙には非常に強い、ということを示唆しています。
日本国民にとって良いかどうかは別として
いずれにせよ、現実問題として、仮に日本維新の会あたりが全選挙区で候補を立てることに成功したとすれば、当選者の地位を奪う格好のターゲットとなり得るのは、自民、立民両党の「2万票未満」の99人のボーダー議員(自58、立41)、なかでも1万票を割り込んでいる60選挙区(自34、立26選挙区)でしょう。
それに、自民党は多少、議席を減らす可能性はあるにせよ、それ以上に立憲民主党が議席を減らし、また、「維新タナボタ効果」も期待できます。だからこそ、自民党としては立憲民主党に逆風が吹き、日本維新の会の体制がまだ整っていない今のタイミングで解散総選挙を仕掛けることが、大変に合理的な戦略なのです。
結局のところ、岸田首相が6月の会期末にかけて、解散総選挙を決断するのかどうかはよくわかりませんが、あくまでも単なる「テクニック」論に基づくならば、解散総選挙の可能性はそれなりに高いと考えるのが自然な発想ではないかと思う次第です。
(※もちろん、そのことが日本国民にとって良いことかどうかは別問題ですが…。)
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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いつも興味深い更新、ありがとうございます。
やはり小選挙区制当選者の多くは、圧倒的な支持が有り、どんな区割りになろうと選挙に強いという事だと理解しました。で、ボーダー当選議員ですが自民党の(2位との差)5千票未満当選者は17人、立憲民主党は14人、日本維新の会が1人。
コレ、総当選者数から言って、明らかに立憲民主党が多すぎです。ココを維新は狙っているのかな?2位と2万票以上の大物を倒すのは難しいが、1,000票や5,000票ならなんとか奪えそう!と思うでしょう。
そこに若手でスッキリした見栄えの良い方を立てると、老人候補は例え大臣経験者でも霞みます(笑)。今までは関西からしかほとんど当選してませんが、大議席数を持つ首都圏で議席の20%取れたら大きいですネ。
自民党は多少、議席を減らす可能性はあるにせよ、それ以上に立憲民主党が議席を減らす。維新は「自民党は嫌だが立憲民主党はもっと嫌」という中道保守系から票を取れそうです。しかし、中道保守系は、なかなか舵取りが難しい。自民党に将来吸収されるか、小党派で無くなってしまう可能性もあります。