新聞業界の未来も選挙動向も「数字と理論」で予測可能

面白い時代になったものです。その気になれば、だれでも気軽に、かつ、深く、社会情勢について議論することができ、それを世に問うことができるようになったからです。そして、「この時代、新聞の需要は高まっている」といった現実を無視した分析や、「次の選挙では自民党は大敗を喫すべきである」といった結論ありきの考察は、有害であっても役に立つことは絶対にありません。「数字と理論に基づく分析」の有用性を、新聞業界と国内政治の2つを例にとって、改めて確認してみましょう。

アンドロメダ銀河がもうすぐ衝突!

天文学に興味がある方からすれば、「遠く離れたアンドロメダ銀河が我々地球人の住む銀河系と衝突・合体する」、という話題を耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。

天文学者らは、アンドロメダ銀河は現時点においては地球から約250万光年離れているものの、両銀河は現在、猛烈な速度で接近し続けており、このままだと約40億年後には衝突し、融合すると主張しています(ちなみに40億年は、天文学では「もうすぐ」というレベルでしょう)。

鹿も困ったことに、現時点で我々人類としては、両銀河の衝突を回避させるような手段を持っていません。

それどころか、今から約40億年後といえば、日本の消費税率が何%になっているかはわかりませんが、少なくともそれより前の段階で、太陽が膨張して地球上の生命が焼き尽くされているという可能性も取りざたされています。

ではなぜ、「両銀河が衝突する」などということがわかるのでしょうか。

その理由は簡単で、これらは膨大な「観測結果」と「天文理論」を組み合わせた結果、導き出された結論なのです。

じつは、銀河同士が衝突している姿は、ハッブル宇宙望遠鏡を含め、さまざまな望遠鏡で捉えられています。こうした事例に加え、アンドロメダ銀河の動きの観測結果からは、我々が暮らす銀河とアンドロメダ銀河がやがて衝突して合体するであろうこと、その際に発生する現象などを予測することができます。

また、問題は、その両銀河の衝突という歴史的な天文ショーを見る前に、果たして私たち人類は膨張する太陽の灼熱地獄から逃れられるか、という論点ですが、これについては私たち人類が、いかに効率的に宇宙に進出し得るか、という論点とも密接に関わってくるでしょう。

地球と宇宙ステーションを結ぶ「軌道エレベーター」でも出来上がれば、その宇宙ステーションあたりを拠点に、人類はまずは太陽系全域に活動範囲を拡大することができるのかもしれません。しかし、そもそも軌道エレベーター自体、現時点で人類が持っている技術で完成させられるものか、やはり疑問でもあります。

このあたり、もし天文学や宇宙開発などに興味があるのならば、株式会社大林組のウェブサイト『季刊大林』に掲載された『宇宙エレベーター建設構想』などのウェブページを眺めているだけでも、知的好奇心が刺激され、本当に楽しいと思うのではないでしょうか。

事実と意見を分けましょう!

知的好奇心の刺激は事実と意見の峻別から

当ウェブサイトは2016年7月にオープンし、今年で7年目を迎えます。

「読んでくださる方々の知的好奇心を刺激する」を目的に、政治・経済を中心として、日々、さまざまな話題を選んだうえで、「山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士」の独断と偏見に基づく駄文を連ねているだけのサイトですが、おかげさまで(なぜか)下手な地方紙を上回るほどはアクセスされているようです。

ただ、考えてみれば、大変不思議なことです。

新聞やテレビなどを通じて名前が売れている有名人が執筆しているわけでもないくせに、執筆者の素性もわからない、ましてやそこに書かれている内容が正しいかどうかもよくわからない、こんな怪しいサイトに、よくぞ毎月100万ページビュー(PV)前後というアクセスが継続的に集まるものです。

これに関して敢えて自己分析をしておくならば、当ウェブサイトを執筆するうえで「怪しい自称会計士」が留意しているのは、「客観的事実と主観的意見を明確に分けること」――。

これに尽きると思います。

客観的事実とは「誰が報じても同じになる情報」

これまで何回も説明してきたとおり、客観的事実と主観的意見は、似て非なるものです。そして、基本的に両者を混同してはなりません。そもそも客観的事実とは「どこの誰がどう報じてもほぼ同じ内容になる情報」であり、主観的意見とは「報じる人/論じる人によって、結論が真逆になる可能性がある情報」だからです。

  • 客観的事実…どこの誰がどう報じてもほぼ同じ内容になる情報
  • 主観的意見…報じる人/論じる人によって結論が真逆になるかもしれない情報

たとえば、こんな情報があったとします。

(A)「2021年10月に実施された衆議院議員総選挙では、自民党が465議席中259議席を獲得した(議席占有率は55.70%)。内訳は小選挙区が289議席中187議席で占有率は64.71%、比例代表が176議席中72議席で占有率は40.91%だった」。

この文章(A)に出て来る要素は、すべて「客観的事実」です。誰がどう報じても、ほぼ同じ内容になるからです。

もちろん、「2021年10月」を「令和3年10月」と表現する人もいるかもしれませんし、「~した」、「~だった」を「~しました」、「~でした」などと丁寧語で表現する人もいるかもしれません。あるいは自民党が追加公認した候補者を「自民党獲得議席」に足し込む人もいるかもしれませんが、それらは本質的な違いではありません。

主観的意見を客観的事実と混ぜ込んだ失敗事例

では、こんな文章はどうでしょうか。

(B)「この衆院選で自民党は大幅に議席を減らす見通しとなった。不人気の菅義偉前首相から岸田文雄首相に『党の顔』を代えることで、逆風を和らげる戦略は不発。有権者は『自民1強』にノーを突き付けた格好だ」。

「大幅に議席を減らす見通し」、とあります。

たしかに公示前勢力が276議席でしたので、改選後261議席(※先ほどの259議席に追加公認を含めた議席数)は勢力としては15議席の減少ですが、これを「大幅に」、と表現することが適切なのかどうかは議論が分かれるところでしょう。

また、菅義偉総理大臣が「不人気」だったという決めつけもさることながら、「岸田文雄・現首相に『党の顔』を変えることで逆風を和らげる戦略」が「不発に終わった」、「有権者が『自民1強』にノーを突き付けた」などのくだりは、正直、この記事を書いた人物の主観の塊のようなものです。

じつは、この文章(B)、時事通信が総選挙の投開票日の夜11時46分に発信したツイートの内容です。

詳しくは『「自民1強に終止符」と報じシレッと修正した時事通信』でも報告したとおり、時事通信はこのツイートやリンク先の記事を巡って、ネット上でかなりの冷笑を浴びたのです(※ただし、当該記事のリンクは古いためか、すでに削除済みのようです)。

日本のマスメディアの問題点

時事通信がこんな記事を発信した理由は、おそらく、事前の世論調査の結果、「自民党が大敗し、立憲民主党が圧勝するだろう」との予測を立て、その予測に従って記事を書いたからではないかと思われます(※あくまでも個人的な私見です)。

時事通信は全国の地方紙などに記事を配信しているメディアでもあるため、記事の締切時刻との兼ね合いから、選挙結果の全容が判明しない段階で記事を配信しなければならないという事情もあることは事実でしょう。

しかし、さすがにこの記事は、少々お粗末です。

先ほど指摘したとおり、「客観的事実」と「主観的意見」はまったくの別物です。

時事通信のこの記事は、正直、「客観的事実」の部分の確認をおざなりにして、「主観的意見」を一方的に発信したがために出てきたようなものでしょうが、これについては時事通信が普段から「客観的事実」と「主観的意見」を明確に峻別する仕事をしていれば、十分に回避できた「事件」でもあります。

そして、時事通信のこの記事は、日本のマスメディア業界が抱えるさまざまな問題点の、おそらくは「氷山の一角」に過ぎません。インターネットが発達したおかげでしょうか、新聞、テレビ、通信社などのマスコミ関係者の不祥事に関する話題は、大なり小なり、毎日のように出て来るようになったからです。

そして、これらの不祥事は、「客観的事実と主観的意見を明確に分けることができているか」という論点とも、微妙に関連しているのでしょう。

「逃げるんですか」事件

こうしたなかで、ここ数週間の話題のなかでもとくに強烈だったのは、朝日新聞出身の記者がG7広島サミットの議長国記者会見という場で、記者会見を終えて去ろうとした岸田首相に、「逃げるんですか」と叫んだ、という「事件」でしょう(『首相記者会見で「逃げるんですか」発言記者に批判殺到』等参照)。

これについてはツイッターなどでちょっとした「炎上」状態となっていたため、問題の記者の方の実名やその人物のその後の言い訳めいたツイートなども含め、かなり詳しくご存じの方も多いことでしょう。

いちおう公正さのために、ご本人の言い分を紹介しておくならば、「事前に決まっている社だけ指名し、事前に通告されている質問内容に対し、岸田首相がメモに目を落として読み上げる」という「茶番としか言いようのない『記者会見もどき』『やらせ会見』」に一石を投じたかったからだ、ということだそうです。

そのうえでこの記者の方は、岸田首相の「核軍縮ビジョン」について聞きたい、という強い要望を持っていたというのです。というのも、岸田首相が掲げる「核軍縮ビジョン」は、「核大国の核保有の論理がそのまままぎれ込む、実質は『核兵器を認める』声明になっている」という問題意識をお持ちだったからだそうです。

こうした点を踏まえたうえで、それでも改めて問題のやり取りを振り返っておくと、やはり「非常識」との批判は免れません。

そもそも当日、G7議長国を務めていた岸田首相が分刻みのスケジュールで動いていたことは間違いなく、しかも複数の情報源によれば、首相官邸と記者会の間で、「会見時間は30分」、「記者の質問は4人まで」、といった申し合わせがなされていたそうです。

そして、毎日新聞の『「逃げるんですか」の声に、首相が記者会見再開 G7サミット』という記事によると、問題の「逃げるんですか」発言がなされた時点で、岸田首相はすでに4人の記者からの質問に答え、会見は予定時間を10分超過していたそうです。

「相手には予定がある」、「予定された時間を超過することは非常識だ」という点については、新聞記者以前に、まともな社会人であれば誰しも理解しているはずです。

それにもかかわらず、「予定時間を超過した状態」で「予定された4人との質疑を終えた」時点で「逃げるんですか」という言葉とともに追加での質問をぶつけ、回答を要求している時点で、社会人の多くがどう感じるかは明らかでしょう。

なにより、「核軍縮ビジョン」が「核大国の核保有の論理がそのまままぎれ込む、実質は『核兵器を認める』声明になっている」というこの記者の方の考え方は、非常に主観的な意見そのものです。

もちろん、日本は言論の自由が保障されている国ですし、だれがどんな意見・思想を持つのも自由です。また、こうした主観的な考え方を首相に直接ぶつけてみるというのも、記者の方の特権でしょう。

ただ、サミット議長国会見という、非常に時間が限られた場で、事前の取り決めを守らずに、「逃げるんですか」、は、さすがに多くの人に違和感を覚えさせたようです。

そして、新聞、テレビを含めたオールドメディア業界が、私たち一般人の常識からいかにズレているかについてのエピソードには事欠かないのですが、それと同時にこれらの話題が表に出て来るようになったというのも、大変に大きな社会的変革だと思わざるを得ません。

数字を使った分析の具体例

「新聞部数」と「選挙分析」、共通点は「数字」

さて、このように考えていくと、「客観的事実と主観的意見を明確に分ける」という論点、非常に根が深いことがわかります。

インターネットが出現する以前といえば、私たち一般国民全体に、日常的に情報発信し得る立場にあるのは、事実上、新聞社や通信社、テレビ局などの関係者に限られていました。

だからこそ、オールドメディア業界関係者はこれまで、自分たちを「第四の権力」の持ち主だと錯覚していたのかもしれません。その結果、「客観的事実」と「主観的意見」をとくに峻別することなく、「自分の意見こそが絶対的に正しい」などと思い込んで、それを紙面や公共の電波に乗せて飛ばしていたのではないでしょうか。

そして、当ウェブサイトで「客観的事実」と「主観的意見」を明確に分けながら議論するように心がけてきたことで、まったく無名の怪しい自称会計士が運営するウェブサイトが、それなりのPVを獲得している、という現実なのではないかと思います。

ところで、本稿ではこれに関連し、もう少し深い部分で重要な事項を取り上げておきたいと思います。

週末の『紙媒体が解約されてもウェブ版に移行しない日本の新聞』と『前回総選挙で「ギリギリだった」のは立憲民主党も同じ』という2つの記事は、一見するとまったく異なる話題です。前者は「多くの新聞は十数年以内に消滅する」とする予測、後者は「衆院選の結果を決めるのは小選挙区だ」とする議論だからです。

ただ、この2つの記事には、じつは共通点があることにお気づきでしょうか。

それは、「数字」です。

新聞部数の減少は避けられない

これは、いったいどうこういことでしょうか。

たとえば前者の記事では、一般社団法人日本新聞協会が公表している新聞発行部数などのデータを使い、「新聞部数の減少がここ5年で加速している」とする統計的事実に「紙の新聞を解約した人がウェブ版を契約していないのではないか」という仮説を組み合わせ、日本の新聞の実情について考察するものです。

これについては自身で読み返していて、グラフの記載が少しわかり辛かったので、「朝刊部数」「夕刊部数」「合計部数」に分けたうえで、5年刻みの減少部数とその年平均値を付記したうえで、改めてグラフ化しておきましょう(図表1

図表1-1 朝刊部数と減少速度

図表1-2 夕刊部数と減少速度

図表1-3 合計部数と減少速度

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』を参考に著者作成。ただし、「朝刊部数」は「セット部数+朝刊単独部数」を、「夕刊部数」は「セット部数+夕刊単独部数」を、「合計部数」は「朝刊部数+夕刊部数」を、それぞれ意味する)

これによると、この5年で朝刊部数については1086万部、夕刊部数については419万部、合計部数については1505万部、それぞれ失われた計算です。失われた部数の年平均値を求めると、朝刊は217万部、夕刊は84万部、合計301万部です。

このペースで減少が進めば、2022年10月1日から起算し、夕刊は7.68年、朝刊は13.98年で、それぞれ部数がゼロになる計算です。

そして、「一般に企業は損益分岐点売上を割り込むより前の時点で生産活動を停止する」とする会計学・企業財務分析論の考え方に照らせば、夕刊は7.68年と言わず、おそくとも5年以内には、それに少し遅れて朝刊についても10年以内には、それぞれ廃刊ラッシュが訪れるはずです。

ちなみに当ウェブサイトにおけるものと同じ数値を使っていただければ、基本的に誰がやっても同じ結論が出るはずです。そして、こうした「数字から予想される未来」と「理論」を組み合わせれば、前提条件が正しければ、未来についてはだいたい正確に予想できるのです。

ここに主観が入り込む余地はありません。

「新聞の社会的役割は高まっている」という勝手な主張

ちなみに当ウェブサイトの場合は「2022年10月1日から起算して過去5年分の平均値が今後も続くならば」、という仮定を置いていますが、これをもう少し精緻にやるならば、たとえば「2020年のデータはコロナ禍のため誇張されているはずであり、これを除外する」、といった仮定を置くことは構わないと思います。

ただし、こうした仮定を置いたとしても、「部数がゼロになるまでの年数」が少し伸びるだけであって、「新聞部数が再び急増し始め、新聞業界がゾンビのごとく復活する」、という結論は出てきません。

というよりも、「我々が暮らす銀河系とアンドロメダ銀河が40年後に衝突する」との天文学者らの予測と、「日本の新聞は10億年以内に絶滅する」との会計学者の予測は、「数字と観測結果と理論の組み合わせ」という意味では、じつはまったく同じなのです。

これが科学的アプローチそのものでしょう。

このように考えていくと、じつは会計学を含めた社会科学というものは、天文学を含めた自然科学と、非常に近いアプローチをとることができるはずなのです(ひとりの会計士としては、会計学が天文学ほどに人類の進歩の役に立っているとは到底思えませんが)。

ましてや、「新聞に対する社会的役割はますます高まっている」、「新聞業界は日本にとって必要だから、新聞の部数の減少もそろそろ止まり、反転すべきだ」、といった主観的な価値観を混ぜ込んだ分析(というか妄想)は、役に立たないだけでなく、有害ですらあります。

ちなみに読売新聞の次の記事によると、「新聞社の場合、複数の関係者や資料にあたって真偽を確認し、専門家の意見も紹介するなど、多角的な取材に基づく報道を心がけている」としつつ、「コロナ禍のように人々が不安に陥りやすい状況では、その重要性は一層高まっている」、と主張しています。

新聞週間 確かな情報届ける使命と責任

―――2021/10/13 05:00付 読売新聞オンラインより

日本の新聞が「多角的な取材」をしているとも思えませんし、コロナ禍に関していえば、新聞はむしろ、「ワクチン接種が遅れている」だの、「菅総理はコロナ対策をなにもしていない」だのと人々の不安を煽った主体だったのではないか、といった疑問が頭をよぎります。

いずれにせよ、「新聞の重要性はいっそう高まっている」といった言説を見ると、かつての大東亜戦争で、大本営が数字や科学的アプローチをことごとく無視し、自分たちにとって都合が良い希望的観測に基づく戦況予測を立てたという失敗例を思い出すのではないでしょうか。

選挙シミュレーション

さて、「数字」があれば、「科学的アプローチ」は、じつはほかにもさまざまな分野に応用が可能です。

2021年10月の総選挙も、「各政党の立候補者数」、「各政党が小選挙区、比例代表のそれぞれで獲得した票数」、「小選挙区・比例代表並立制における当選ルール」などの「数字」と「理論」を当てはめれば、ちょっと数字をいじるだけで、簡単にシミュレーションが可能です。

ここで、思考実験としては、こんなことを考えます。

ある小選挙区において、政党Aと政党Bが同時に公認候補を立てていたとする。そのとき、現実に政党A候補が獲得した票のうちのX票が、政党Bの候補者に付け変わったとしたら、各党の獲得議席はどう変化したか」。

つまり、「A→BにX票動く」、というパターンです。

これについて、ケース①は「自民党→立憲民主党」、ケース②は「自民党→日本維新の会」、ケース③は「立憲民主党→日本維新の会」で、Xは5,000票というパターンと20,000票というパターンに分けてシミュレーションを実施したものが、金曜日の『数字で見る衆院選:「維新の大躍進がまだ難しい理由」』です。

また、このケース①~③に、ケース④として「立憲民主党→自民党」、ケース⑤として「立憲民主党→日本維新の会」を付け加えたものが、日曜日の『前回総選挙で「ギリギリだった」のは立憲民主党も同じ』です。本稿ではついでにケース⑥として「日本維新の会→立憲民主党」、というパターンも追加します。

本稿で考察する6つのケース
  • ケース①自→立
  • ケース②自→維
  • ケース③立→維
  • ケース④立→自
  • ケース⑤維→自
  • ケース⑥維→立
Xの条件
  • X=*5,000票
  • X=20,000票

自民も立憲も薄氷:ほんの5,000票で結果が動く

その結果をまとめると、図表2のとおりです。

図表2 ケース①~⑥の実験結果
ケースX=5,000票X=20,000票
ケース①自→立自187→155(▲32議席)
立*57→*88(+31議席)
維*16→*17(+*1議席)
自187→102(▲85議席)
立*57→143(+86議席)
維*16→*15(▲*1議席)
ケース②自→維自187→181(▲*6議席)
立*57→*61(+*4議席)
維*16→*18(+*2議席)
自187→163(▲24議席)
立*57→*71(+14議席)
維*16→*26(+10議席)
ケース③立→維自187→190(+*3議席)
立*57→*53(▲*4議席)
維*16→*17(+*1議席)
自187→196(+*9議席)
立*57→*45(▲12議席)
維*16→*19(+*3議席)
ケース④立→自自187→213(+26議席)
立*57→*31(▲26議席)
維*16→*15(▲*1議席)
自187→242(+55議席)
立*57→**5(▲52議席)
維*16→*14(▲*2議席)
ケース⑤維→自自187→192(+*5議席)
立*57→*53(▲*4議席)
維*16→*15(▲*1議席)
自187→210(+23議席)
立*57→*45(▲12議席)
維*16→**6(▲10議席)
ケース⑥維→立自187→184(▲*3議席)
立*57→*61(+*4議席)
維*16→*15(▲*1議席)
自187→173(▲14議席)
立*57→*75(+18議席)
維*16→*13(▲*3議席)

(【出所】著者作成)

いかがでしょうか。

非常に興味深いのはケース①とケース④でしょう。

このうちケース①、すなわち自民党候補者から一律に5,000票ずつ立憲民主党候補者に流れたとしたら、自民党は小選挙区で32議席を失い、立憲民主党は31議席積み増すことになります。これだけだと第1党の逆転は生じず、したがって政権交代が生じることはありませんが、それでも自民党にとってはかなりの打撃です。

そして、Xを5,000票ではなく20,000票と置いた場合、自民党が喪失するのは85議席に拡大し、立憲民主党は86議席積み増すことで、両党の小選挙区の獲得議席数が逆転しますし、比例代表と合わせても両党の議席数は逆転します(政権交代まで発生するかどうかは微妙ですが)。

これに対しケース③、すなわち逆に自民党候補者が立憲民主党候補者から一律に票を奪うことに成功すれば、たった5,000票でも立憲民主党の小選挙区における獲得議席数は26議席も減り、その分、自民党が26議席積み増して圧勝します。

この場合、比例代表と合わせた自民党の獲得議席は285議席となり、安倍総理の時代以来の大躍進です。もしXが20,000票ならば自民党は55議席積み増し、比例と合わせ、単独で改憲発議が可能な311議席を上回る314議席を得てしまいます。

その一方で、日本維新の会が関わるケース②、④、⑤、⑥においては、選挙結果に有意な変化は生じません。

そもそも2021年の総選挙では、日本維新の会が小選挙区で擁立した候補者は94人と、自民党(277人)、立憲民主党(214人)のそれを大きく下回ったからです。

数字の裏付けこそが重要

ちなみにこの実証実験、計算間違いさえしていなければ、誰がやっても基本的には同じ結果が出ますし、ここに「主観的意見」が入り込む余地はありません。

これなども、「立憲民主党は素晴らしい政党だから、本当は自民党候補者と比べ、各選挙区で20,000票上回っていなければならなかったはずだ」、という「価値判断」に基づく主張をしても意味はありませんが、たとえば自民党の側が「最悪のケース」を予見する際のシミュレーションとしては有益です。

いずれにせよ、数値と理論に基づく客観的な考察は、物事の基本形です。

それなのに、世の中面白いもので、岸田政権のことを批判すると、なぜか「キシダガー」などと主張する人も出てきますし、岸田政権の良いところを評価すると、「こないだは岸田政権を批判したはずなのに、支離滅裂だ」などと批判する人もわいてきます。

岸田首相であろうが、安倍総理であろうが、菅義偉総理であろうが、麻生太郎総理であろうが、鳩山由紀夫元首相であろうが、良いことは良い、悪いことは悪いと是々非々で判断するのは当たり前の話であり、そのことのいったい何が悪いのか、理解に苦しむところです。

なかには「次の選挙では自民党は大敗すべきだ」、とする考え方の人が、「自民党が敗北するようなシナリオを立てるべきだ」とする趣旨のことを書きこんでくることもありますが、これらはいずれも科学的アプローチとはいえません。

このあたり、「自民党は次の選挙で圧勝すべきだ」、「自民党は次の選挙で大敗すべきだ」、など、どんな主義・主張を持つのも自由ですが、その前提条件として、「前回の選挙の状況がどうなっていたのか」という「数字」の議論を踏まえておくことは大切でしょう。

このように考えていくと、客観的事実(なかでもとくに「数字」)に加えて「理論」が大変に重要であり、あとはこれに続く解釈で付加価値を付けていく時代が到来しているように思えてなりません。

ちなみに本稿で用いた「新聞部数の推移」や「前回総選挙における各政党候補者の獲得票数」といった数値は、(少々癖はあるものの、)基本的には誰にでも無料で取得できる情報ばかりであり、これらの情報を取得するうえで、報道機関の助けを借りる必要はありません。

つまり、新聞記者などでなくても、誰でもその気があれば、「事実と理論」に基づいて社会事象を気軽かつ深く分析でき、かつ、それを世に問うことができるという時代が到来しているのです。

面白い時代になったと思わざるを得ないのですが、いかがでしょうか?

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    「オープンデータ化」という動きがあります。これからは行政(国および自治体)が生データを積極公開するというのです。新たな研究分野もしくはビジネスチャンスになると期待されています。

  2. 元雑用係 より:

    前回総選挙後に秀逸な分析を出されていた菅原琢氏の最近の分析はないかと漁っていましたが、最近はあまりネット露出がすくなくて。
    昨年イーロンマスクが大鉈を振るう前に、ツイッターのエコーチェンバー効果を見逃したマスコミ分析の失敗を指摘する記事を出していました。対象は2013年の参院選です。

    プレジデント・菅原琢氏 2022/6/28
    「ツイッターのおかげで共産党は躍進できた」そんなマスコミの選挙データ分析はなぜ失敗するのか
    https://president.jp/articles/-/58489

    相関と因果を間違えるミスは、記者自身の素養の問題と、新聞特有の「わかりやすさ」への呪縛によるものではないかと分析しています。

    他にも記事では数値から因果関係を抽出方法の具体例や、データとの付き合い方接し方の考え方なども書かれていて面白かったです。
    後半、結構オールドメディアに対して辛辣ですよ。(笑)

    1. はにわファクトリー より:

      「箱推し」の造語に笑いました。大阪維新がまるでそうですから。

      自分がわからないものは読者もわからないはずという謎の驕りを新聞記者から感じることが

      これは高校生の時に自分の頭で考えて得た結論でした。すなわち、報道の品質は取材者・執筆者の知性教養によって上限が決まっている。当たり前な帰結ですが実際役にたっています。

      知人に勧められた書籍のひとつに
       「つくりながら学ぶ! Pythonによる因果分析: 因果推論・因果探索の実践入門」
      というものがあります。当方はまだ手を付けていません。相関と因果が見わけがつかないようでは新聞記者失格と思います。

      1. 元雑用係 より:

        相関と因果を間違う「ミス」と書きましたが、ミスではないと思っています。(笑)
        若い頃にはプログラミングを結構やったもんですが、論理的思考を鍛えるには向いている教材かもしれないと思います。
        関係ないことを思い出しましたが、当時の新聞のPC等新しい技術への理解は、今と変わらず酷いもんでした。

        1. 匿名 より:

          >>>当時の新聞のPC等新しい技術への理解は、

          基礎的な素養を付けなくては、本質的な理解は出来ないはずです。
          多分、情報の切り貼りで書いていたのでしょう。ITの基礎的な素養のある人がライターにはならないでしょう。もっと収入が取れる仕事をやるでしょう。当時、ハサミと糊で本を書くと言ってた人もいました。有名人はゴーストライターにこれをやられるとホント困りますね。

      2. しおん より:

        「箱推し」って新しい造語ではなくて、20年くらい前からありました。アイドルグループで個人的なファンではなく、グループそのものが好きなファンの事をそう呼んでいます。

        〇〇ちゃんのファン→〇〇ちゃん推し、という表現が先にありその延長で「箱推し」という言葉が生まれました。なお、ほかにも「DD=誰でも大好き」というのがあります。

      3. 匿名 より:

        はにわファクトリーさん、凄い!!!

        >>>「箱推し」の造語に笑いました。大阪維新がまるでそうですから。

        維新、よくぞ言って下さいました。今まで、この現象、どう表現したらいいかとモヤモヤしてました。
        所で、選挙で吹く風も一時的な「箱推し」と言えませんか?

  3. やまいぬ より:

     「人間がどれほど『地球にやさしくない』ことをしようが、その人間が滅びてしまえば100万年もあれば元に戻る。」という説を眼にして換算してみたところ、地球の100万年は人間で言う数日程度でしかないようです。たいしたものではありません。
     
    とはいえ

    >ちなみに40億年は、天文学では「もうすぐ」というレベルでしょう

    数十億年は人間にとっての数十年だからそれも違うかなと。

  4. Masuo より:

    本題に関係ないですが、冒頭の
    > 鹿も困ったことに
    を読んで、頭に?が3つくらい浮かんで、
    次に「馬」の文字を探して5回くらい読み返しましたw

    なぜ、銀河が衝突すると鹿が困るのだろうかと・・・
    会計士様のユーモアだろうと考えてましたが、ふと気付きました。
    「しかも」でした。。。(気付くの遅すぎました)

    駄文失礼しました。

    1. 匿名 より:

      こういうとに気が付かれるのは凄いです。
      漢字を見ずに、カナでそのまま読み進んでいました。
      これ、自分で誤変換に気が付か無いのは、良くあるとして、読んでいてそれに気が付かいのは、問題だなぁ、と思いました。
      気を付けなくては。

  5. 匿名 より:

    本文記事や、他の方のコメント、又、元雑用係さんが紹介して頂いたリンク先記事を読んで、改めて気が付いた事は、「数字と理論」を使う(駆使する)事の前提は、「考えることが好きかどうか」であろうという事です。
    考える事が好きな人は、簡単に関係(因果相関)ありという結論を出す事が好きでは無いです。心から「納得」という感覚が得られないと落ち着かないのです。
    その過程で「数字と理論」というツールも使います。「納得」という感覚と「数字と理論」は、相性がいいです。
    リンク先の記事の、当選-得票数-RT数、の関係も、考える習性のある人は、一目で他に沢山の因子要素があるはずと考えるはずです。つまり、当選には、自分の得票数以外の因子要素がある、と。他の候補が自分より得票数が多ければ当選しないのですから。そして、他の候補が自分より得票数が多くなる因子要素も多々あり得ます。
    次に、得票数とRT数の関係も、得票数には、因子要素が沢山あるのですから、俄かに(相関)関係ありとは「考えたくない」のが、考える事が好きな人の習性ですね。
    元々、「考える事」と相性が無い人が文系に行く傾向のある日本では、そして、記者という職業に文系が就く割合が多いのであれば、彼らは、「数字と理論」とは馴染みの少ない人達でしょう。
    俄かに、普段殆ど馴染みの無いものを使うと使い方を間違える、という事ですね。
    文系でも、考える事が基本になっているのが、法学と商学と哲学ではないかと思いますが、ただ、これらは、あるレベルまでは、記憶で済ます事が出来ます。しかし、係争を扱う時は、記憶だけの勉強をして来た人は太刀打ち出来ないでしょうから、しっかりと自分なりの論理を考える思考訓練をして置くのが必要な学問です。
    尚、強調して置かなければならない事は、自分なりの論理とは、相手が成程と納得する論理である事です。 
    ネットで良くある自分の勝手な論理ではないですね。
    つまり、ちゃんとした学識の上にある論理です。やはり、自分の頭を擦り切れる程に考え抜いた経験があるかないか、ですね。

  6. 匿名 より:

    以前から、このサイト、月間100万PVもあるのに、コメント数とコメント者数が少ないように感じてます。
    その、理由/相関/因果、はあるのか無いのか、或いは元々、こういうものなのか。

    1. しおん より:

      私が思うに、コメント者数が少ないのは、他のサイトのような「かき混ぜるためのコメント」がほとんどないことだと思います。

      1、管理人さんが他人を攻撃するようなコメントや根拠のないコメント、スパムコメントをきちんと削除して、まともなコメントのみが残っている。

      2、閲覧者がコメントをするとき、サイトの趣旨に沿っているか、他の人が読んでも不快にならないか、論理的におかしくはないか、ソースは間違いないか、等々を自己判断して「くだらないコメントは投稿しない」となり、たとえ反対意見でもまともな書き込みをする人が多くなる(類は友を呼ぶ)。

      4、その結果、いわゆる「かき混ぜるための投稿」は激減して、投稿数は少なくなる。

      たとえるなら、ゴミが落ちていない公園には、誰もゴミを捨てない現象と同じでしょう。管理人さんの不断の努力の結果だと思います。

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