たった数パーセントで結果が大きく動く小選挙区の怖さ

カギを握る「B÷A」

「小選挙区を制する者が、衆議院議員総選挙を制する」。過去の選挙データを読むと、大変示唆に富んだ統計的事実が浮かび上がってきます。それは、小選挙区の獲得議席数と得票率に大きな乖離があるという事実です。それだけ死票が多い、という意味でもあります。2012年以降に関していえば、自民党はこれまで死票が少ない政党でしたが、その死票が徐々に増えているのは大変気がかりでもあります。ある瞬間、自民党は小選挙区で再び地滑り的敗北を喫する可能性があるからです。その実例が、2009年の総選挙でしょう。

総選挙の傾向と対策

解散総選挙、ありやなしや?

もうすぐ、解散総選挙があるのかどうか――。

正直、こればっかりは、よくわかりません。

一説によると永田町ではG7広島サミットの大成功を受け、とくに自民党の議員の間では解散総選挙待望論も強まっているとの話は耳にしますが、その反面、一部の選挙区では「10増10減」に伴う公明党との候補者調整が進んでいないとの報道もあります。

また、岸田首相自身が早期解散総選挙を否定した(首相官邸HP『G7広島サミット 議長国記者会見』参照)ことや、週末の東京都足立区議選で自民党は19人を擁立したにもかかわらず、現職5人を含めた7人が落選し、公明党を下回ったことなども、早期解散否定論の論拠となっているようです。

もっとも、巷間でうわさされている「早期解散はない」とする主張の論拠は、いずれも決定打に欠けるものばかりであり、やはり現時点においては、6月に解散し、7月に総選挙、といったシナリオの可能性も十分にあると考えられるのです。

小選挙区で圧倒的な差がつく

もっとも、万が一、解散・総選挙となったときに、自民党が政権を維持することはできるのかどうか、立憲民主党はどうなるのか、などについて、客観的な数字をもとに考察しておくことは重要です。

もちろん、選挙区は個別事情も強いため、仮に日本全体で特定の政党に対し追い風が吹いていても、特定の選挙区で勝てないという可能性もありますし、逆に日本全体で特定の政党に対し逆風が吹いていたとしても、ある選挙区では難なく勝利する、ということも考えられるのです。

そして、衆議院の場合は「小選挙区・比例代表並立制」と呼ばれる仕組みを採用しており、とくに小選挙区においては当選者が1人だけである点には注意が必要です。このため、死票が出やすく、ある政党がほかの政党に対し、ほんの少ししか得票が上回っていないのに、議席数では圧倒的な差がつく傾向があるのです。

総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』、『参議院議員通常選挙 速報結果』などのデータをもとに、具体例で見ていきましょう。

過去データ分析

2009年の政権交代選挙で気付く「奇妙なこと」

まず、自民党が惨敗し、民主党(当時)が地滑り的な圧勝を収めて政権交代が実現したのが、2009年8月30日の衆議院議員総選挙です。当時、自民党の獲得議席数は119議席であったのに対し、民主党はその3倍近い308議席を獲得しました。

ただ、ここで小選挙区と比例代表の内訳を見ると、奇妙なことに気付きます。

自民党は小選挙区で64議席、比例代表で55議席だったのに対し、民主党は小選挙区が221議席、比例代表が87議席で、比例代表での獲得議席数の格差は約1.6倍だったに対し、小選挙区での獲得議席数の格差は3.45倍(!)にも達しました。

しかし、自民党と民主党の小選挙区における得票差は、3.45倍に達していたわけではありません。自民党候補者が獲得した票の総数は27,301,982票だったのに対し、民主党候補者が獲得した票の総数は33,475,335票で、両者の差はたった6,173,353票で、倍率も1.23倍に過ぎませんでした(図表1)。

図表1 小選挙区における自民党と民主党の得票差(2009年)
 自民党(A)民主党(B)B÷A
小選挙区の議席数(X)64議席221議席3.45倍
小選挙区の得票数(Y)27,301,982票33,475,335票1.23倍
Y÷X426,593票151,472票0.36倍

小選挙区の得票差はたった1.23倍なのに議席では3.45倍

得票数でたった1.23倍しか差がついていないのに、獲得議席では3.45倍もの差が付いた――。

非常に乱暴にいえば、「自民党候補は小選挙区で当選するために426,593票が必要だった(それだけ死票が多かった)のに対し、民主党候補はたった151,472票で当選することができた(死票が少なかった)」、という言い方もできます(図表1のY÷Xがそれです)。

これは、大変に重要な事実です。

よく2009年の総選挙では、有権者がこぞって民主党に投票し、その結果、自民党が大敗したとする記憶が私たちに植え付けられていますが、現実に民主党に投票したのは33,475,335人で、これは小選挙区で投票した総数の47.43%です。

それなのに、約64%と全体の3分の2近くの議席を獲得した(※当時の衆議院の定数は480議席)というのは、それだけ死票が多く出る仕組みであるという証拠でもあるのです。

2012年には自民党と民主党の立場が入れ替わった

ちなみにこれは、当時の民主党が何らかの「不正」をした、という意味ではありません。小選挙区比例代表並立制という選挙の仕組み上、ここまで極端な差がついてしまうのは、ある意味では当然のことでもあるのです。

実際、自民党が圧勝した2012年以降の選挙についても、小選挙区に関して図表1と同じ分析を行ってみると、そのことがよくわかります。自民党と民主党の立場が入れ替わっただけだからです。

たとえば2012年のケースでいえば、民主党の獲得議席は57議席(うち小選挙区27議席)にとどまる一方、自民党は294議席を獲得しましたが、そのうち小選挙区での獲得議席が237議席にも達しており、自民党と民主党の倍率(A÷B)は、なんと8.78倍です(図表2)。

図表2 小選挙区における自民党と民主党の得票差(2012年)
 自民党(A)民主党(B)A÷B
小選挙区の議席数(X)237議席27議席8.78倍
小選挙区の得票数(Y)25,643,309票13,598,774票1.89倍
Y÷X108,200票503,658票0.21倍

しかし、小選挙区における得票数は、自民党が25,643,309票、民主党が13,598,774票で、両者の倍率は1.89倍に過ぎません。小選挙区で当選するのに必要な票数は、民主党候補者が503,658票であったのに対し、自民党候補者はわずか108,200票とその約0.2倍で済んだ計算です。

しかも、図表1と図表2を見比べるとわかるとおり、2012年の総選挙で自民党が小選挙区で得た票数は、自民党が大敗したはずの2009年時点と比べて、むしろ減っているのです。それでも自民党が圧勝したということは、2009年の総選挙では、ふだん選挙で投票しないような人たちがこぞって投票した証拠でしょう。

より踏み込むならば、小選挙区を制する者が、衆議院議員総選挙を制するのだ、という言い方ができます。なぜなら、とにかくその選挙区で1位になりさえすれば、他の候補がどれだけ票を得ていたとしても、それらの票を「死票」にしてしまうことができるからです。

過去5回の総選挙で「B÷A」を求めてみた

こうした視点から、2009年から2021年までの各選挙において、あらためて主要政党に関する小選挙区での獲得議席(A)と得票数(B)と得票率、および議席当たりの得票数(B÷A)を並べてみましょう(図表3、ただし2009年については先ほども触れたので解説は割愛します)。

図表3-1 小選挙区の状況(2009年)
議席(A)得票数(B)と得票率B÷A
民主党221議席33,475,335票(47.43%)151,472
自由民主党64議席27,301,982票(38.68%)426,593

2012年については、自民党と民主党に関しては先ほど触れたとおりですが、日本維新の会も民主党と同じくらい、「死票」が多かったことがわかります。ただし、公明党に関しては死票が大変に少ないという特徴があります。

図表3-2 小選挙区の状況(2012年)
議席(A)得票数(B)と得票率B÷A
自由民主党237議席25,643,309票(43.01%)108,200
民主党27議席13,598,774票(22.81%)503,658
日本維新の会14議席6,942,354票(11.64%)495,882
公明党9議席885,881票(1.49%)98,431

こうした傾向は、2014年も続きます。「B÷A」の数値に注目していただくとわかりますが、自民党と公明党はこの値が非常に低く、それだけ死票が少ないということを示唆していますが、これに対し民主党や日本維新の会は死票が多く出ていることがわかります。

図表3-3 小選挙区の状況(2014年)
議席(A)得票数(B)と得票率B÷A
自由民主党222議席25,461,449票(48.10%)114,691
民主党38議席11,916,849票(22.51%)313,601
日本維新の会11議席4,319,646票(8.16%)392,695
公明党9議席765,390票(1.45%)85,043

興味深いのは2017年でしょう。このときは小池百合子・東京都知事が率いる「希望の党」が11,437,602票をかき集めたにも関わらず、獲得したのはたった18議席にとどまり、「B÷A」の値はなんと635,422と、大変に死票が多かったことがわかります。その分、自民党は大いに助かった、ということです。

図表3-4 小選挙区の状況(2017年)
議席(A)得票数(B)と得票率B÷A
自由民主党215議席26,500,777票(47.82%)123,259
立憲民主党17議席4,726,326票(8.53%)278,019
希望の党18議席11,437,602票(20.64%)635,422
公明党8議席832,453票(1.50%)104,057
日本維新の会3議席1,765,053票(3.18%)588,351

各党ともに死票が少なくなってきた

直近の2021年に関していえば、国民民主党などから合流した議員が多かったためでしょうか、立憲民主党は小選挙区で17,215,621票、つまり全体の約3割を集め、小選挙区では57議席を確保しました(※だだしそれでも公示前勢力は下回っています)。

また、効率の良さを示す「B÷A」に関しては、公明党が相変わらず低い数値を誇っていますが、立憲民主党や日本維新の会の値も、2017年と比べて下がっており、これに加えて国民民主党も自民党に続いて低い値となっています。

図表3-4 小選挙区の状況(2021年)
議席(A)得票数(B)と得票率B÷A
自由民主党187議席27,626,235票(48.08%)147,734
立憲民主党57議席17,215,621票(29.96%)302,028
公明党9議席872,931票(1.52%)96,992
日本維新の会16議席4,802,793票(8.36%)300,175
国民民主党6議席1,246,812票(2.17%)207,802

このことは、各党ともに、効率の良い戦い方を徐々にマスターしてきているという証拠ではないでしょうか。

ちなみに、図表4は自民党のみを抜き出して列挙したものですが、やはり「B÷A」の値が徐々に上昇しているのは気になるところです。

図表4 自民党の小選挙区における戦績
議席(A)得票数(B)と得票率B÷A
2009年64議席27,301,982(38.68%)426,593
2012年237議席25,643,309(43.01%)108,200
2014年222議席25,461,449(48.10%)114,691
2017年215議席26,500,777(47.82%)123,259
2021年187議席27,626,235(48.08%)147,734

言い換えれば、小選挙区における得票数についてはじわじわと上昇しているにもかかわらず、獲得議席数自体は徐々に減ってきているのです。

ある瞬間、突然「大きく動く」

小選挙区の怖いところは、あるとき突然、議席数が100単位で動く可能性がある、ということであり、このことは「自民党が未来永劫安泰である」という保証がない、という話でもあります。

この点、日本維新の会が現在、全国各地で候補者の擁立を急いでいるようですが、日本維新の会が自民党よりも素晴らしい政党なのかどうかはとりあえず脇に置くとして、小選挙区の特徴を踏まえるならば、ある瞬間から突然獲得議席数が増え始める、という事態が発生し得ることは間違いありません。

得票率がたった数パーセント動くだけで、結果が大きく動くからです。

小選挙区の動向を本当に正確に読むことにはかなりの努力を必要としますが、傾向として、「ちょっとした得票率の変化」が地殻大変動を生み出す原動力となるという点については、恐ろしい限りといえるでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. yo より:

    中選挙区制から小選挙区制へ変わった理由が、変化を求めるためですから今更でしょう。
    国民が自らの判断で出血も止血も出来るのだと、理解できる制度変更だと好意的に判断しています。
    昔、おたかさんが官僚が優秀だから、社会党が与党になっても大丈夫と言ってましたが、暫くして民主党が教えてくれました。
    現実は・・・

  2. はにわファクトリー より:

    自民党大阪支部のだらしなさ。
    票のわけ合い=当選工作にうつつを抜かして、議席割り当てを狙っていました。
    これを談合行為と言わずしてなんでしょうか。選挙民への背信でありませんか。選択肢を提示せよ。これが票を投じる側の基本意思であるにも関わらず、密室談合で議席という自己利益を確定させようというのです。あれで自由と民主主義を騙ります。二度と戻って来るなよ、そう考えてる選挙民少なくないでしょう。

  3. 引きこもり中年 より:

    素朴な疑問ですけど、小選挙区制では、若者の1票で政局を大きく動かすこともあり得る、ということでしょうか。

  4. . より:

    一日前の、別の類似ツリーで、とある方からいくつも質問をいただいているが、既に長くなって返信ボタンもないことで、こちらに引っ越す。

    とある方は、いくつか誤読をしているが、個々には指摘しない。ただ、「選挙AI」の性質を誤解したままだと、以後の進行のさまたげになるので再度説明したい。これは「選挙結果予測システム」ではない。いわば「候補者の行動サポート」に類するものである。「候補者は官僚、地方議会人、アイドル、経営者、体育系その他、誰でもいい」と前述したが、このような雑多なキャリアの人々がたいした騒動も問題も起こしていないことに気づいた人がいるだろうか。

    とある方は「AIの精度」、「民主党政権が誕生したのはなぜか」にも関心を寄せていた。この二点には密接な関係があるので、簡単に述べてみる。自公政権が崩壊したのは、第一次安部内閣、福田、麻生内閣が「酷かった」故。どのように酷かったのか、も分析されている。対象として、2年前に始まった世界金融危機、北京オリンピックから、金銭スキャンダル、閣僚の失言連発にまで及んでいるが、主権者たる国民が何に強く反応するのか、が可視化できるようになったのは民主党政権が出来た後だったと記憶している。

    民主党政権が酷かったのは事実で、おおくの言論で「アホ」よばわりされているが、その多くは当時の党首・鳩山氏の個人的な外形にまどわされているに過ぎない。あれは革命だったのだが、わが国国民が望むのは改良であって、革命ではない。さらに、革命政権であるならば、軍部と官僚システム、この両方、せめて片方だけでもしっかりと掌握すべきなのだが、愚かしいことに双方と敵対した。これでは早晩つぶされてしまう。このように不勉強な人たちだったのだが、政権をとる前には一定の支持を得続けていた、そのことも研究対象になっている。

    1. 匿名 より:

      .様

       ここで書かれていることは、AIの分析という大仰なことを言わなくても、一般情報として、毎日いろんな情報に接している人間であれば、容易に知っていることだ思われます。

      はっきり、理解したことは、選挙分析においては、自民党の作ったAIは役に立たないということです。更に、AI分析が一番役に立たない分野が、選挙の分野であるということも分かりました。これが、今回の「.さん」のコメントから分かりましたことです。

      民心の移ろい易さの分析は、AIには到底無理だと分かりました。
      何と言っても、選挙前日の何かの事件の発生やスキャンダルの発生でも選挙結果は変わるのですから、AIに神様並みの予知能力が無ければ、とても予測が出来ないことです。

      別の所で、大阪・神奈川の地方の地方選挙の結果なんか、国政選挙には影響しないのだと仰り、東京が大事なんだと言われていましたが、自民党にとって、国政選挙において東京が一番、勝てない所ではありませんか?
      今、維新は、関東地方議会選挙でも着々と議席を固めています。

  5. 引っ掛かったオタク@ダッセンダ より:

    「死に票を減らす」タメの”比例代表並立制”だとか謳われよった気がしますが、それなら比例に割当てられとる定数分は小選挙区落選者を惜敗率でランキングして上位から員数分復活当選させりゃあ良いのではないかと思ったりもしとりま
    一票の格差は小選挙区の区割りを選挙の度に調整すればイイし、なんなら選挙区と比例の定数配分自体見直しゃイイかと
    議員定数減らす(増やす?)ときは比例復活の数を変えるだけでイイし
    議員歳費も国民所得にもっと連動させりゃイイ、国税庁は平均所得出せるんだし、都道府県毎に最低賃金違うんだから国会議員の歳費も選挙区毎に個別設定してもイイかもしれん、どーせ秘書給与やら文通費やら経費は別枠支給になっとんやし

  6. 農民 より:

     純粋な公平選挙システムが存在したとしたら、相当に高コストで時間のかかるものでしょうし、今度は弱者の切り捨てや権力固定化が問題になり、かつそれらはそうなってしまうと問題視されなくなる性質のものなので……厳密な民意の反映と、政権の逆転可能性や流動性といったものはトレードオフに近い関係性に感じます。

     「民主主義は最悪の政治形態と言われている。過去の他の政治形態の除けば。」というのは世界大戦の発生や独裁虐殺といった政治的汚点を指しているのかもしれませんが、制度そのものを見てもそうなのでしょう。しかし自民のカスvs共産の毒の二択を迫られたり、せっかく落とした立憲のカスがゾンビ化したりという日常は、案外幸せなのかもしれません。少なくとも日本においては、政権を奪取した民主党が極短期で政権を召し上げられる事も可能だと実証し(それでも2度とやらせたくないってなる民主党系ってすごいな)、普段の活動自体は国民の自由に委ねられて多数が人類水準の中では良い暮らしをしていますから。
     問題改善は徐々にするにしろ、これを妨げるような制度の発生は防ぎたいところです。安易なポリコレは軽々しく生活を侵害していますし。

  7. . より:

     運営者の意に沿った(わかりきったことかも知れぬが)ことを少し書いてみる。明治時代に初めて選挙というものが行われた時は、有権者は国民の1%程度で、選挙区は小選挙区・複数選出選挙区などが混在する雑多なものだった。
     戦後、小選挙区制を科学的に・かつ具体的に構想したのは、当時の政権党有力者だった田中角栄と言っていい。田中氏の目標は「三割の得票で七割の議席を」というもので、七割の意味するものが憲法改正発議であることは明らか。

     で現状は、運営者が提示する数値資料にあるように、田中氏の構想が具現化しているといっていい。
     であれば、政権党の過度の失策が続くと、劇的な政権交代が起きる可能性があるのだが、それは政権「党」が替わるだけで「政策」が替わる可能性は、ごく低い。
     議会というものは、端的にいってしまえば予算の分捕り合いである。帝国憲法の時代には、議会には予算の最終決定権がなかったから、議会がいかに紛糾しようと、政府は「前年度と同趣旨」の予算編成ができた。新しいことはできませんがね。

     昨今、地方議会が衰退し、一部では候補者の定員割れが生じそうになっていて、あわてて立候補してもらい、どうにか無風選挙の外形をとりつくろっている。その主因は、地方自治体の予算貧窮化にあって、俗にいえば「審議するネタがない、我田引水する余地がない」ことにある。
     国会も似たような基本構造があって、議会が活性化するのは補正予算審議だけ、といったら言い過ぎだろうか。

     ご存じの方がいらっしゃれば教えていただきたいのだが、いま、日本の大学の政治経済学科で「江戸幕府の失敗の本質」的な講義があるのだろうか? この点について、「江戸幕府は、政権確立過程で軍部の縮小に失敗した」という仮説を温めている。つまり、旗本直参(一説には8万人といわれる)を減らさずに、官僚予備軍として給与し続けた。それでも戦国が終わった平和の配当で、江戸時代の最初の100年で人口が2.2倍に伸びたが、以後100数十年は永い停滞期になる。日本史の授業では「三大改革」などと称して教えているが、実のところ、幕府歳出の大半は給与に消えるから、名君・名老中がいかに登場しようと、貨幣品質の上下、贅沢の良否くらいしか打つ手がない。それでも、それなりに政権運営ができていたから、田沼のように、新しく勃興した連中と組んで新たな財源を確保しようとする、ある意味で意欲的な人物がばっさりやられてしまう風土になってしまったと言えるかも知れない。

     なぜこんなことを述べるかというと、平成の30年+令和と、江戸幕府後半100数十年に似た点がそこかしこに見受けられるように思う故。

    1. . より:

       話を続ける。昨今、維新の会への期待感が、少しづつ高まっている感がある。また、旧民主党系の人々の中にも、反省というか一定の学習をした集団があって、政府に対して是々非々の姿勢をみせていることは、悪くはない。

       前スレで江戸幕府について触れたので、ここでは明治政府について少しだけ述べておく。幕末・維新期は、わが国の歴史の中で戦国期に続く人気があって、多くの文芸作品では「尊王攘夷」派と「佐幕開国」派が争うさまがおもしろおかしく描かれるケースが多いのだが、史実をひもとけば、ペリー来航以前の幕府は「佐幕攘夷」であり、明治政府が行ったのは「尊王開国」である。
       いいかえれば、「佐幕」や「攘夷」を消していくのが明治政府初期の政策だったのだが、民意の奥底には攘夷思想が根強くのこり、これが「アジア主義」あるいは「右翼」の源流となって、やがては「英米主導の国際主義を排す」というような為政者発言につながっていく。

       明治政府のハイライトが日露戦争だが、この戦争を通じて最も小コストで大きな利益を得たのがイギリスで、そのことを事前に敏感に察知していたのがアメリカである。時の大統領セオドア・ルーズベルト(以下SR)は、日本政府には知らせずに、フランス、ドイツの大使を個別に呼んで、「おまえらが中立を守らないと、アメリカは日本側にたって参戦するぞ」と脅している。で、アメリカは、この牽制行動や講和会議(ポーツマスはSRの別荘から近かった)で多大な貢献をしたつもりだから、戦後に日本が桂ハリマン協定を破棄すると「日本は生意気だ」と激昂する。

       つまり、SRは英日米の三国同盟を樹立して、中国市場制覇を企画したのだけれども、日本政府にはそのことを理解する洞察力がなかったし、アメリカへの警戒心をもつイギリスが、あれこれとネガティブなアドバイスをした可能性も高い。

       で、明治の「幻の英日米同盟」が霧消してから100年余を経て、イギリスはとっくの昔に帝国を失い、日本はつかの間の繁栄を定着させることに失敗し、アメリカは中国の台頭に直面する状況となって、今がある。
       故に、政権「党」交替がおきるとしても、観念的な政党ではありえないから、わが国政府が取り得る政策の幅はそれほど広くない状況が続き、このことは「革命を望まず、改善を望む」国民多数の意向に擦り合う。

       幸いなことに、わが国における軍部は比較的良い状態に管理されているし、経済的な疲弊も、質素、詫びさび、などに共感する国民性もあって、しばらくの間は耐えられる、と思う。であれば、政府への過度の依存がいかに国民の首を絞めるのかを理解して、政府の仕事を減らすことに注力し、昭和時代のような勤勉さを回復して納税にいそしむことが願わしいと思う次第。

      1. 匿名 より:

        .様

         「.さん」はお気付きになっておられないかもしれませんが、「.さん」の書いておられることは、「.さん」の意見ではなく、ある程度の勉強をしている人であれば、皆知っていることなのです。
         しかし、自分の知識が、自分の意見だと思っておられるので、幾ら「.さん」独自の意見、お考えを示してくださいと言っても、ご自分の考えが出て来ないようにお見受けします。
        尚、これは、このサイトで禁止されている人格攻撃ではなく、「.さん」の書かれた内容に関しての感想並びに意見ですので、お間違えの無いようにお願いいたします。

  8. 元日本共産党員名無し より:

    小選挙区制は民意との乖離が大きいですね。そしてある日突然極端から極端に動く。
    これだけは日共が従来指摘して居た小選挙区制を併存しない比例代表一本にするのが一番民意を反映し易い。そして個人名を書く方式では無く党名を記入させる拘束名簿式が良いでしょう。
    但し、このやり方の難点は少数党乱立になり易い事と、人気や知名度があれば一人一党で終身議員に成れてしまう事です。そこから更には少数党取り込みの多数派工作がドロドロの政局政治に陥るかも知れず、今の公明党の様に【何が何でも兎に角野党】と言う長いものに巻かれて得をしようと言う「政党」の跋扈まであり得る。辛抱強く「あなたの好きな人と託す政治家と混同してはいけません」と言い続けるしかない。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      まーしかし”小選挙区比例代表並立制”導入の動機のなかに「(従前よりも)政権交代容易ならしむ」があったやうに思いますに、一定の目的達成はあったんやろな、と
      「政権を担える二大政党」はまだ見えてませんが

    2. 匿名 より:

      比例代表制は投票率を高めることが大切だと思って居ます。
      これで共産民主公明など組織票に頼ざるを得ない政党は吹き飛ぶでしょう。
      小選挙区でも組織票の影響力が落ちるのになあ。
      と思って居る私です。

    3. 匿名 より:

      >>>小選挙区制は民意との乖離が大きいですね。そしてある日突然極端から極端に動く。

       当方の考えは、「一番、民意に沿う制度だ」ということです。
      以前の中選挙区制、比例代表制は、民意を反映しない、「なあなあ制度」です。

      極端には動きません。極端に動く様に「見える」のは、自然の摂理を理解していないからです。
      自然の摂理とは、「カタストロフィーの理論」です。或いは、少し前に流行った「百一匹目の猿」という考え方です。

      ここで、根本的な事は、「閾値」ということを理解できるかということです。

      自然界(勿論人間界も)の表に現れる現象は、比例関係の如く徐々に表れるのではなく、
      ある「閾値」を超えたときに、突然現れるものがあるということです。

      これは、病気でも言えることです。
      或いは、或る人物の失脚物語でも言えることです。

      突然の政権交代に見えることも、民衆の不満が溜まっていたのが、ある「閾値」を超えて発言した結果です。

  9. 匿名 より:

    自民党が公明党と連立を組む、立憲民主党の中に日本共産党との共闘(野党統一候補の擁立)を主張する勢力がいる所以。

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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
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