韓国大統領の訪米を前に中国主席が韓国「抱き込み」か

「日韓関係改善の機運が高まっている」などと報じられることが増えていますが、その際に忘れてはならない論点があるとしたら、「日韓関係は何のために改善しなければならないか」、です。もちろん、日米韓3ヵ国の安保協力が喫緊の課題だからだ、というのが模範解答でしょうが、その前提として、韓国が信頼に値する国であるかどうかについても考察しておく必要があります。こうしたなか、尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領訪米を前に、習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席が「韓国の抱き込み」に出たとする報道も出てきました。

日韓関係「改善」に向けた機運が「高まっている」…!?

最近のメディアの報道を眺めていると、「日韓関係の改善に向けた機運が高まっている」、などとする記述にぶち当たることが多々あります。その理由はもちろん、韓国政府が自称元徴用工問題を巡る「解決策」を、今年3月に公表したことにあります。

しかも、これを受けて日本の岸田文雄首相は即日、次のように発言しています。

本日、韓国政府は、旧朝鮮半島労働者問題に関する措置を発表いたしました。今回の韓国政府の措置は、日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価しております」。

韓国政府の「解決策」と日本政府による「評価」発言が相まって、長年凍結されていた日韓関係が一気に氷解に向かう、といった評価が出てきている格好です。

「解決」もなにも、2015年12月に日韓両政府が取り交わした慰安婦合意を韓国側が一方的に反故にしてしまった問題が解決していないなかで、同じような財団方式で「問題解決」が図れると考えるのはあまりにも浅はかであり、愚劣です。

なお、ここでいう「愚劣」は、こんなディールを「評価」してしまった岸田首相だけでなく、しばしばウソをつくことでも知られる外務省、その外務省出身者である松川るい参議院議員を含めた一部の政治家らに対しても、同様に当てはまる表現です。

なにより、慰安婦合意は当時の外相だった岸田首相自身が「当事者」ですので、これを反故にされたことについて、ちゃんと解決しない限りは自称元徴用工ディールを評価すべきではありませんでした。こうした状況を踏まえても、やはり「愚劣」と言わざるを得ません。

緊迫する安保情勢…関係改善は「急務」

もっとも、日本政府側も日韓関係「改善」に動いた理由があるとしたら、それは東アジアを取り巻く安保情勢が緊迫化していることが挙げられます。関係改善は急務、というwかえです。

たとえば、北朝鮮は連日のようにミサイルを発射していますし、台湾海峡では蔡英文(さい・えいぶん)総統が米国でケビン・マッカーシー下院議長と会談したことへの牽制として、中国が台湾封鎖を念頭に置いた軍事演習を実施したりしています。

案外遠くない未来に、台湾有事が発生する可能性は高まっており、そうなると高い確率で半島有事も同時に発生するかもしれません。こうしたなかで、日本は韓国を「抱き込み」、中国、ロシア、北朝鮮などと対峙する必要があるのだ、といった判断が出てきたとしても、ある意味では自然な流れでしょう。

なかには日韓首脳会談から米韓首脳会談実施までの流れを受け、「ワシントンは大歓迎ムード」、「徴用工解決で米国から厚い信頼」、「クアッドにも正式加盟か」、などと先走った「分析」(?)もあるようです。

韓国の尹錫悦大統領訪米を前に、早くもワシントンは大歓迎ムード/徴用工問題解決で米国から厚い信頼、クアッドにも正式加盟か

―――2023.4.13付 JBプレスより

そもそも韓国は信頼に値するのか?

もっとも、当ウェブサイトで普段から指摘しているとおり、こうした判断ないし分析は、インテリジェンスを根本から欠いたものであると言わざるを得ません。

正直、台湾有事に際し、韓国が日米とともに中国に立ち向かってくれるという保証などありませんし、むしろ半島有事の際には、日本や米国の「足を引っ張る」であろうことが、目に見えているからです。

こうしたなか、米国内の「大歓迎ムード」を嘲笑するかのように、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には今朝、興味深い話題が出ていました。

習氏、執権後初めて韓国企業を訪問…「韓国抱き込み」分析

―――2023.04.14 06:47付 中央日報日本語版より

中央日報によると中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が12日、広州のLGディスプレイの向上を電撃訪問したのだそうです。これについて中央日報は習近平氏の韓国企業の現地工場訪問は「2012年執権以降初めて」としたうえで、こう述べます。

韓国との関係改善に向けた意志を明らかにしたという評価とあわせて、米中覇権競争の間で揺れている韓国を中国側に抱き込もうとする試みではないかとの解釈もある」。

ちなみに「複数の消息筋」は、習近平氏が中韓間の友情を強調する話をした、などとも伝えているそうです。

しかも、これに対し韓国外交部当局者は同日、記者団に対し、「韓中経済協力の必要性が高まり、韓中関係が改善される傾向などを反映した」としたうえで「肯定的」と評価したのだとか。

現在、半導体を筆頭に、日米などがさまざまな戦略物資の対中輸出管理を強化しようとする流れに踏み切るなかで、こうした韓国政府当局者の反応は、それだけで韓国が日米両国にとって「同盟国としては信頼に値しない相手国」であることを示唆しているといえます。

あいまい戦略で利益を得る韓国の手法

また、中央日報には大学教授のこんな分析も紹介されていますが、ここに韓国側の「ホンネ」が垣間見えます。

中国が刺々しい米国・日本・欧州連合(EU)とは違い関係改善の余地があり、中間子的立場で両側の関係改善に一定の役割が果たせる韓国を選択したとものとみられる」。

意訳すれば、西側諸国の中国包囲網において、「最も弱い部分」が韓国であるという点を、中国自身がよく認識している、ということでしょう。しかも、「中間子的立場で双方の関係改善に一定の役割が果たせる」という発言も、韓国自身がそうした「どっちつかず」の立場から利益を得ようとしているフシがあることを象徴しています。

正直、韓国が「専制国家側」につくのか、「自由・民主主義陣営」につくのかについては、韓国の判断であり、私たち日本人がどうのこうのいえる話ではありません。好きにすれば良い話です。

しかし、韓国が信頼に値する国なのかどうか、いま一度、立ち止まって考える必要があることは間違いありません。

普段から指摘しているとおり、たしかに朝鮮半島は物理的に距離が近く、地政学的にこの地域が日本の敵対国になってしまうことは日本の安全保障にとっての脅威ですが、だからといって、日本が諸懸案で韓国に「譲歩」したら、この地域が日本の敵対国にはならない、という保証はありません。

韓国観察者である鈴置高史氏の論考でも指摘されていたとおり、正直、韓国への譲歩自体が「無意味」なのです(『韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する』等参照)。

実際、今月下旬の尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏の訪米では、ジョー・バイデン米大統領が韓国の「抱き込み」と「懐柔」に徹するのだと思いますが、それで米韓関係改善が演じられたとしても、結局は韓国が「米中あいまい戦略」を捨てるとも思えません。

こうした見立てが正しいかどうかについては、さほど遠くない未来に判明することでしょう。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (というより、自分でも外れて欲しいので)
    中国としては、アメリカと(韓国だけではありませんが)その同盟国の間に、米機密文書流出事件で楔をいれようとするのではないでしょうか。
    蛇足ですが、バイデン大統領が、(米機密文書流出での)同盟国との信頼回復のために何をするのかが気になります。
    駄文にて失礼いたしました。

  2. 匿名 より:

    マクロンも抱き込まれたよね

  3. はるちゃん より:

    習近平主席のLGディスプレイ訪問は、多分韓国に対する圧力でしょうね。
    アメリカの言いなりになると人質の命は無いぞという事だと思います。
    多分、米韓首脳会談前に中国に対して、付き合い上リップサービスくらいは仕方ないので大目に見てくれとお願いすると思います。
    中国は無慈悲に却下するでしょうけど。
    会談後の共同声明が楽しみですね。

  4. しおん より:

    騙された人が、そのあと取る行動は2種類あると思います。

    一つ目は、騙されたことを素直に反省し、原因をあぶりだし次は騙されないようにする人です。

    このような人は、人生経験を積むにしたがって賢くなり騙されることは無くなっていくと思います。

    二つ目は、騙された事を無かった事にするために騙された事案を含めて解決できる案に飛びつくことです。

    このような人は、自分が騙された事を認めるのが嫌で、同じような詐欺に何度も引っかかる原因になっています。

    きっしーは、二つ目のタイプではないかと推測します。慰安婦合意で騙されたことで、逆に何とかして「韓国との関係改善」をまとめ上げて、「自分は韓国に騙されてはいない」としたいのではないかと思います。

    慰安婦合意を事実上破棄されているのに、そのことについては何も言及しない事が心情の表れとなっています。

  5. はにわファクトリー より:

    したたかでないといけない。
    そのように発言したと伝え聞きます。したたかでないひとこそ、そう口にすると分からないのでしょうか。

  6. 農民 より:

     一方、台湾発でこんなブームが。

    https://news.yahoo.co.jp/articles/fe6140e6836b51f2b7094af8bdcc1bf374961fc6

     曖昧でいけると思っている呑気な連中と大違いです。と思っていたところ上記記事(ソースは時事)と同様の記事を中央日報が呑気にあげています……マジで危機感無いのか。

  7. 普通の日本人 より:

    大統領が訪問しても一人飯で立場を分からせた中国に対し「曖昧戦略が」通じると思う韓国人
    ほんとうにおめでたい。
    世界医一優秀な韓国人ならではの分析ですねえ。
    私は韓国に生まれなくて良かった。本当に良かった。

  8. H より:

    ユン・ソンニョル大統領の国賓訪米がもうすぐ。
    どんな踏み絵を踏まされるのか楽しみですな。  会計士様のキレある好奇心あふれる評論楽しみです。バイデン米大統領との首脳会談の時間、晩餐会のメニュー、米上下両院合同議会での演説等、こちらのコメント盛り上がると良いですね。

  9. 匿名 より:

    習近平にはどうして読み仮名をスップクムピョンとは付けないのですか?
    会計士サマもやっぱり親中からは逃れられないのでしょうか?

  10. クロワッサン より:

    抱き込みというか、小鬼を踏み付けて懲らしめている鍾馗の絵面が、中国と韓国の関係にピッタリなんじゃないかと。

    鐘馗が習近平で、小鬼が文在寅とか尹錫悦で。

  11. 匿名 より:

    安保的にはダメなんだろうけど、
    身内に敵のスパイをのさばらせておくよりは
    とっとと中国の属国になって態度をはっきりさせて欲しいです。

    そうしたら中国もKの法則が発動して壊滅してくれるかも。

  12. 世相マンボウ_ より:

    それにしても、
    米国とは
    >>「ワシントンは大歓迎ムード」
    >>「クアッドにも正式加盟か」(?!)
    中国とは、習近平工場視察と
    米中からモテモテで
    「国格が上がったニダ」(?)と、
    米中の「背いたらお仕置きするぞ」
    との脅しの前にあることをまるで忘れて
    はしゃぐ韓国さんの姿は滑稽です。 (^^)

    まあ、
    日本の戦国大名の国の狭間や
    東アジアの国の間の辺境未開の地の
    山賊追い剥ぎさんたちも
    大国間のせめぎあいのなかで
    ちょっとヨイショされて喜んでる
    ようなものとの感を受けます。
    実際、有史以来ほぼ中国の大国の属国だった
    翻弄される歴史の中で半島の小王さんたちは
    彼らの生きる術と技を磨いて来られた
    のだろうなあと感心します。

    米国にとってしょもなく
    厚かましくて手を焼く韓国が
    理不尽な要求を一つ取り下げる代わりに
    日本叩いてほしいニダとの交渉を
    オバマのときのように呑んでしまうことが
    厄介だとは懸念されます。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

匿名 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告