AT1ショックで韓国市場「予想外の変数」も=韓国紙
著者自身、クレディ・スイスのAT1償却がマーケットに与えるインパクトは限定的と見ています。というのも、AT1償却は制度設計的にも当然想定されていたものでもあるからです。ただ、国によっては思わぬ動揺がもたらされているようです。韓国メディア『中央日報』によると、韓国の金融圏ではAT1ショックで「世界の金融市場が不安でいつでも予想外の変数が生じるおそれ」が生じているのだとか。
AT1の償却
以前の『クレディ・スイス「AT1償却」は制度設計上当然の話』でも議論したとおり、銀行等金融機関が発行するいわゆる「AT1」(Additional Tier 1 Capital)証券を巡って、金融市場では何かと混乱が生じているようです。
ただ、著者にいわせれば、「何をいまさら大騒ぎしているのか」、という印象しかありません。
AT1やT2、あるいはTLACといった金融商品は、発行体である金融機関が自己資本不足や経営破綻の危険に直面したときに、「損失吸収条項」が発動し、最悪の場合、無価値になるように設計されています。
バーゼル銀行監督委員会(BCBS)が2010年に「バーゼルⅢテキスト」を公表した時点で、「AT1やT2には損失吸収力がある」という点は、周知の事実だったのではないかと思うのですが、実際にAT1が無価値になった際に市場参加者が大慌てしているのを見ると、なんだか奇妙でもあります。
金融不安が韓国資本市場のまた別の火種に
もっとも、現実にはAT1の損失吸収条項が発動されてしまったことで、思わぬ影響が生じる可能性が出てきたようです。日本のように金融システムがしっかりしている国だとあまり議論にならないのですが、「金融システムがしっかりしていない国」に、金融危機が飛び火するのではないかとの観測報道があるのです。
韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、「AT1債への懸念が韓国資本市場のまた別の火種になっている」のだそうです。
クレディスイス危機が触発したAT1債不信…韓国でも火種に、カギは非銀行圏
―――2023.03.30 11:00付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国の主要都市銀行は29日、AT1をすべて早期償還したうえで追加発行しないと発表したそうです。まず来月にウリィ銀行が5000億ウォン、新韓金融グループが1350億ウォンを償還し、10月にはハナ銀行が1800億ウォン、11月にはハナ金融グループが2960億ウォンを償還するのだとか。
当然のことですが、自己資本調達手段を償還したうえで借り換え(ロール)をしないとなれば、資本不足という懸念も生じかねません。とくに自己資本比率は「自己資本÷リスク・アセット」で計算されるため、自己資本が減れば、リスク・アセットを減らす必要が出て来るからです。
生損保中心に新たな資本不安も?
中央日報によれば、韓国の主要市中銀行の自己資本に占めるAT1の比率は10%未満と低いのだそうですので、さしあたって銀行の自己資本不足という不安が生じる懸念はさほど強くない、ということではりますが、問題は「銀行より資本力が弱い金融機関」です。
「韓国企業評価によると今年コールオプションの満期を迎える保険会社のAT1債と劣後債の量は約4兆ウォンに達する。このうち半分ほどの2兆1132億ウォンが4-6月期に満期を迎える。ひとまず来月ハンファ生命で10億ドル、メリッツ火災で1000億ウォンが満期を迎える」。
中央日報によると、ハンファ生命を除き、いずれも金額が多くないため、ひとまず保険業界では「早期償還には問題ない」との観測があるようです。ただ、「世界の金融市場が不安でいつでも予想外の変数が生じるおそれ」があるなかで、中央日報はこう述べます。
「特にKDB産業銀行が売却を推進しているKDB生命の場合、大株主の資金支援が難しく早期償還が失敗すれば市場不安を引き起こす可能性もある」。
韓国といえば1997年のアジア通貨危機、2008年のグローバル金融危機、2020年のコロナ禍で、それぞれ猛烈な外貨流出が発生した国でもありますし、97年の際には実際に国際通貨基金(IMF)の支援を受けることを余儀なくされました。
しかも、韓国の通貨・ウォンを巡っては、外為市場改革プロジェクトなども進んではいるものの、国際的に見れば依然として「ソフト・カレンシー」であり続けています(『建国来70年ぶり外為改革、失敗なら通貨危機も=韓国』等参照)。
当然、「韓国発の金融不安」、あるいは「外国発の金融不安に韓国が巻き込まれること」への恐怖は、日本の比ではないでしょう。
コールのスキップ以来の騒動の再来も?
そういえば、韓国といえば保険会社が資本証券のコールのスキップをしようとしたところ、あまりにも市場への悪影響が強すぎ、コールのスキップを見送った、という「事件」もありました(『当局介入か?韓国保険会社、コールのスキップ見送りへ』等参照)。
韓国銀行が公表する各種市場データなどを確認したところ、現時点において韓国ウォン相場は安定しており、また、韓国で金利が急騰しているなどの事実は確認できませんが、それでも水面下ではAT1ショックが韓国の資本市場の心理に不安を与えていることは間違いなさそうです。
このように考えると、コールのスキップ騒動以来の騒動が再来する可能性があるのかどうかは気になるところですし、その意味では、やはり韓国政府は今後、外貨不安に備えて「危機に際して惜しげもなく外貨を融通してくれる友人」を探す必要に迫られるのかもしれません。
私たち日本人の立場としては、韓国が無事、そのような友人を見つけることをお祈りするのが良いのではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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ウチ(日本)にはカンケーネーから、何処か惜しげもなく外貨を融通してくれる奇特な友人を探してくれ。クックックッ。
あの国なら、AT1債とかやばそうなのを中央銀行に大量にかかえててもおかしくはない。そして含み益が出てる時は反映して、損失がでてるときは隠すとかまでやりそう。
>AT1債とかやばそうなのを中央銀行に大量にかかえててもおかしくはない。
そしてそれが韓国の「外貨準備総計」に含まれていたら目も当てられない惨状になりますね。
これってさらっと凄いこと書いてないか?
AT1債の発行環境が悪化したので借り換えせず全額償還って。
もちろん資金繰り的に可能なの?って話もあるし、金融機関の自己資本規制に抵触しないように貸し出しを絞らなきゃいけないって結構な大事よ。
中央日報の記事は難しく書いてわかりにくくしてるけど、一気に信用収縮が起こりかねない事態。
自己レス
なるほど、これ全銘柄コールスキップということか。償還できるところは償還(借り換え債なし)償還出来なきゃコールスキップ
AT1が無価値になるということが理解され、コールのスキップは死を意味する。
必ず償還、再度の発行は困難。結果、増資できなければ「うちは低資本です」と言うようなもの。
外国の動きに弱いですね、韓国。毎日のように、海外の動きに怯えているみたいな。
そういえば、民族系銀行のウリ銀行以外は、外資が半分近く入っているのが韓国の銀行ですが、どうなんでしょうね、この状態。
主様へのリクエスト
日銀考査やら金融庁検査につき、ストレステストを絡めながらご解説をお願いします。
護送船団行政から金融自由化となったはずですが、相当に行政指導があるように見えます。
(結果的に健全なのでしょう。ただし、ミズホシステムは不信のかたまりです。)