「世界最古の金属活字本」と「対馬仏像」の意外な関係

日本の観音寺から韓国人窃盗団が盗み出し、韓国に持ち込んだ「観世音菩薩坐像」を巡る韓国国内の反応の異常さには驚きますが、ただ、それと同時に、その異常さは韓国に跳ね返っています。今から数年前、フランス国立図書館が差押免除の仕組みのなさを理由に、文化財の韓国への貸与を拒絶したからです。こうしたなか、韓国メディアにはその文化財が50年ぶりにフランスで公開されるとする報道も出ていました。

異常判決+三権分立が機能しない国

日本の対馬・観音寺から韓国人窃盗団によって2012年に盗み出され、いまだに日本に返還されていない観世音菩薩坐像を巡り、韓国の裁判所がかつて出してきた異常な判決とその効果については、先日の『韓国紙「盗品を日本に返すのは心情的に容認できない」』でも紹介したとおりです。

これについて、韓国の裁判所や韓国メディアなどの言い分を眺めていると、何かと理解できないことばかりで驚きます。

韓国の「浮石寺」が確たる物証もなしに、当該仏像が「数百年前、倭寇により略奪されたものだ」などと主張したこともさることながら、2017年1月の韓国の地裁はこの「浮石寺」側の主張を認め、韓国政府に仏像の「浮石寺」への引渡を命じたのです。

なかなかに意味不明です。

この一審判決については今月の二審判決で取り消され、一部では「政権が変われば判決もマトモになる」などと前向きに評価した政治家がいた(『松川るい氏のツイートに見る「日韓関係改善論」の詭弁』等参照)ことは事実です。

その理屈はおかしい

ただし、これについてはそもそもの一審判決自体がおかしいものであり、しかも「政権が変われば判決もマトモになる」などと述べるのもおかしな話です。

一部では文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代の韓国の日本に対する対応が異常であり、これが尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権に変わってからまともになりつつある証拠だ、などとする分析もあるのですが、そもそも一審判決が出た2017年1月といえば、まだ文在寅政権時代ではなかったことを忘れてはなりません。

それに、「政権が変わったから判決がマトモになったことを評価しろ」、などと言われても困ります。

一般に韓国を含めた多くの国は「三権分立」の建前がありますが、そもそも「政権が変わり、判決がマトモになった」などと述べた瞬間、それを口にした人は、韓国において三権分立がマトモに機能していないということを、暗に認めたようなものだからです。

三権分立の建前を持ちながら、その三権分立がマトモに機能していない国との関係を「改善」するということ自体、明らかにおかしな話でしょう。

いずれにせよ、「たかだか仏像の問題」などと述べている人は、認識が甘すぎます。この問題自体、「韓国がちゃんとした法治国家であることができるかどうか」が問わる試金石だからです。

文化財の貸与を受けられない国・韓国

さて、先日も取り上げたとおり、この仏像窃盗問題は、韓国に対し、思わぬ副次的効果をもたらしました。韓国が外国から文化財を借りることが難しくなったのです。その際に照会したのが、韓国メディア『東亜日報』が2018年2月5日付で配信した、こんな記事です。

【単独】「直指」130年ぶりの帰郷、国会の立法不備により挫折した【※韓国語】

―――2018-02-05 09:31付 東亜日報より

記事タイトルにある「直指」とは、「世界で最も古い金属活字写本」とされ、現在はフランスに保管されている「直指心体要節」のことです。そして、記事によれば、この「直指」の韓国への貸し出しが、韓国国内の「差押免除法」の不備を理由にフランスから拒絶されたというのです。

改正案の核心は一時的差押免除条項、すなわち海外にある韓国文化財を国内に持ち込み展示する場合に、韓国政府が差し押さえや没収を禁止するという規定であり、外国政府に『安定的返還』を担保するための条項だ」。

フランス側は2017年、韓国の裁判所が下した対馬仏像引渡判決を取り上げ、『差し押さえ免除法』の立法を要求した」。

つまり、韓国は日本の対馬仏像の事例を見て、自国で保管している文化財を韓国に貸し出せば、それが没収されて「自称元の所有者」が引き渡しを求めるリスクが相当に高いと判断した、ということです。

では、これについて二審判決が下されたあと、なにか変化が生じたのでしょうか。

推測ですが、現状でフランスが「直指」を韓国に貸し出すことはないでしょう。記事から判断する限り、フランスがこれを韓国に貸し出さないと決定した理由は、実際に日本の文化財が事実上、差し押さえられた状況が続いているのに加え、こうした状況を防ぐための「差押免除法」が存在しないからです。

「韓国で」、ではなく「フランス本国で」一般公開

こうしたなかで、「直指」を巡って、こんな「続報」がありました。

“世界最古の金属活字本”韓国文化財『直指心体要節』、仏で50年ぶりに公開

―――2023.02.16 10:53付 中央日報日本語版より

韓国メディア『中央日報』(日本語版)が16日付で報じた記事によれば、フランス国立図書館のウェブサイトは16日付で、この「直指」が今年4月12日から16日までの期間、約50年ぶりに一般公開されると発表したのだそうです。

記事によるとこの「直指」は「韓国の印刷術の優秀性を示す文化遺産」で、1886年に締結された仏韓修好通商条約に基づき初代公使として韓国に赴任したコラン・ド・プランシーが1880年代末から90年代初めにかけて韓国国内で収集(※購入)したものだそうです。

もしもこれが2017年に韓国に貸与されていたならば、もっと早く一般公開されていたに違いありません。

これについて中央日報の記事では「直指」と「対馬仏像」の関係についてはまったく触れられていません。都合が悪いことにはダンマリというのは韓国メディアの特徴なのかもしれませんが、それにしても自国の判決の異常さについての認識が決定的に足りていないというのも興味深いと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. はるちゃん より:

    >三権分立の建前を持ちながら、その三権分立がマトモに機能していない国との関係を「改善」するということ自体、明らかにおかしな話でしょう。

    これは、松川議員に論理的思考力が欠如しているか、あるいはおかしな話であることを分かっていながら、事なかれ外交が大好きな(あるいはそれしか出来ない)外務省を代弁しているのかどちらかでしょうね。

    私は、韓国では三権分立などあり得ないと思っています。
    なので、この判決は自称徴用工問題で日本からの譲歩を引き出すため、韓国政府が仕組んだ罠だと思っています。
    しかし、岸田宏池会政権には、論理的思考力が欠如した方が多いように見受けます。
    まんまと引っかからなければ良いのですが。

  2. 甲茶が飲みたい より:

    「政権が変われば判決もマトモになる」 は佐藤参院議員のツイートを見てた限りでは
    「政権が変われば判決も変わる、今回はマトモになった」 という意味合いに見えました。
    今後もマトモなままであるとは言えませんし言っていませんけどね。

    根っこにあるのは韓国は政権が変わると全てが変わるという不信感でしょう。
    それを現職国会議員が直接言ってしまうと叩かれるので、こういう表現になったのかなと妄想してみます。

  3. 匿名 より:

    韓国はこれでよし
    おかしなままでずっといろ
    まともになったら周りがおかしくなる

  4. どみそ より:

    フランス式嫌がらせで 「「直指」を韓国には貸し出せないが 日本の地方博物館には貸し出してもいいよ」
    と やってくれると 楽しい。

    1. YT より:

      それをやると、日本の杜撰な警備体制によって盗難にあい、数年後、韓国で発見されて、そのまま韓国に没収されます。日本国内に韓国と通謀する勢力がいる限り、日本も信用されません。

  5. 美術好きのおばさん より:

    「直指」本の奥書に「白雲和尚抄録佛祖直指心體要節 巻下」とあり、一行空けて三文字分下から「宣光七年丁巳七月 日清洲牧外興徳寺鋳字印施」と記されている。

    宣光は中国の北元の元号(1371〜1379)で、七年は1377年にあたる。この奥書により、「直指」本は1377年に鋳造された字を印刷して制作された文書と解釈され、世界最古の金属活字印刷物と言われてきた。

    しかし、この奥書がはたして「直指」本制作当時のモノなのか?これがいつ書かれたのか、奥書の正当性を証明するものがない。本の末頁をよく見ると、墨の濃淡が異なる文字が散見され、後世に補修が加えられているようだ。また、二つの「無」の字を見比べると、下の四つの点の位置が微妙にズレている。同じ漢字を複数個作って用いたとは、到底考えられない。個人的には、どうも世界最古と俄かに信じられない。50年ぶりの出展だそうで、いろいろ観察・検証したい人も多いことだろう。

    なお、日本からの盗難品を国宝に指定したケースもある。
     1994年7月23日、壱岐島安国寺の宝物殿より493帖の高麗版大般若経が盗まれた。その翌年1995年に、しみや汚れ、巻末の署名などが酷似したもの3帖が韓国で「発見」され、韓国の国宝284号に指定された。日本の外務省が1998年に韓国政府に対して調査を依頼したが、個人所有であるとして返還が認められなかったという。
    (菅野朋子「壱岐・安国寺の寺宝は「韓国の国宝」になっていた。」『週刊新潮』2005/10/13)

    国宝に指定された時のお披露目展示を観た人によると、経典の末尾に墨の色も鮮やかな文字が記されていたという。その人は、壱岐島安国寺の盗難品では無いと強調する為に書き加えたのだろうと推測している。墨の違いをジロジロ観られた為でもなかろうが、それ以来韓国はこの国宝を倉庫に仕舞い込んだままだそうな。

    1. 伊江太 より:

      美術好きのおばさん様

      >壱岐・安国寺の寺宝は「韓国の国宝」になっていた

      このはなし、初めて知りました。

      Wikiで調べると、壱岐・安国寺は足利尊氏、直義兄弟の発願で全国に建てられた安国寺のひとつで、室町時代から伝わる貴重な文物を蔵する由緒ある古刹とあり、件の高麗版大般若経は国の重要文化財に指定されていたものだそうですが、それにしても、このクラスの歴史的文物を日本でいちいち国宝に指定していたら、それこそ国中が国宝で溢れかえってしまう。

      一衣帯水の間にあり、二千年以上もの間交流をもちながら、この圧倒的な彼我の歴史的文化遺産の蓄積の差。これが韓国人の剥奪感=恨の根底にあるように思います。

      世界最高の民族などと自惚れつつ、それに見合うだけの誇るべき歴史の実体が存在しないのであれば、それは一番優れたものを常に外敵に奪われ続けたという、フィクションに逃げ込むしかない。そして、さらに進んで、それを奪い返すことこそ正義という、宿痾とも言うべき倒錯した民族感情を育てていく。

      孔子朝鮮人説だの、ソメイヨシノ済州島起源説だのといった、韓国人にしか思いつけないような珍説が、次から次へと出てくるのも、そういう精神構造のなせる業とでもしなければ、まあ、理解できないですね。

      政権交代どころか、どこかの国の属国となり、あるいは侵略され亡国の憂き目に遭うようなことがあっても、カノ民族がカノ地に住む限り、これは変わらないような気がしますね(笑)。

  6. クロワッサン より:

    さて、フランスまで行って盗もうとしたり、毀損されて価値が下がれば韓国に返すだろうとしたりする不届き者が出てきますかね?

    あと、「フランスが韓国への嫌がらせをした!」と火病る者も出てきそう。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

クロワッサン へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告