外国人観光客、人数に加え「1人当り消費額」を目標に

外国人観光客について、1人あたり消費額を伸ばそうという動きが出てきたようです。「人数ありき」ではなく、「1人あたり支出額」、「地域振興とセットにした良質な観光資源の掘り起こし」など、著者自身が『月刊正論』で3年前に主張したことが、結果論として、少しだけ実現したのかもしれません。

特定国に偏るリスク

かなり前の話になりますが、著者自身は以前、産経新聞社『月刊正論』2020年5月号に、観光客の「人数」を政策上の目標値として設定することについては反対だとする立場から小論を寄稿したことがあります(『【宣伝】正論2020年5月号に論考が掲載されました』等参照)。

その理由は、得てして役所というものは、数字目標を設定すると、それが「独り歩き」する傾向があるからです。

著者自身の最大の懸念は、数字目標を達成することを優先するあまり、日本にとって「特定の国」からの入国者を増やし過ぎることにあります。

たとえば、コロナ禍が発生する直前の2019年における訪日外国人総数は3188万人でしたが、このうちちょうど30%に相当する959万人が中国人でした。

中国人観光客は日本に積極的にカネを落としてくれることが知られており、たとえばコロナ禍直前の2019年通期の観光庁『訪日外国人の消費動向』P4によると、1人あたり旅行支出額は212,810円でした。単純計算で、中国人観光客は日本に2兆円ほどのおカネを落としてくれた計算です。

観光の政治利用

ただ、それと同時に中国は経済を政治利用する国でもあるため、もし中国人観光客がコロナ前の水準に戻ったあかつきには、日中関係が「悪化」した際に中国が対日関係の切り札としてこれを政治的に悪用する可能性があることにも注意は必要でしょう。

実際、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国配備に反発するかたちで、中国は2017年に「限韓令」を発し、中国人の訪韓者数が激減した、という「事件」もありました。これと同じことが日中関係についても発生しないとは限りません。

また、2019年7月に日本が韓国に対する輸出管理適正化措置を講じると発表した際には、韓国では猛烈な「ノージャパン」運動が発生。2018年に754万人だった訪日韓国人は、19年には558万人にまで落ち込みました。

このときには、対馬などの特定地域を除くと、日本経済に対し、大した打撃が生じたわけではありません。韓国人観光客はもともと主要国の中で日本に落とすカネが最も少ないからであり(先ほどのレポートだと76,138円)、「観光客数激減」の報道のインパクト比べれば、金額的打撃は大きくなかったのです。

また、コロナ禍の発生で「2020年4000万人」目標自体が消し飛んだことにくわえ、最近、なぜか韓国でノージャパン運動自体が雲散霧消してしまったこともあり、この「ノージャパン」ショックは忘れ去られているかの印象もあります。

実際、『昨年12月の日韓往来は訪日韓国人が訪韓日本人の5倍』などでも指摘したとおり、2022年12月における訪日韓国人は、たった1ヵ月で45.6万人に達し、これは同時期に韓国を訪問した日本人(85,693人)のじつに5倍だったことがわかっています。

しかし、「日本に入国する外国人が特定国に極端に偏っている」という状況で、「訪日客を増やす」ことを目標にしてしまうと、近隣国からの入国基準を緩和するという安易な行動に流れかねません。訪日外国人数はあくまでも「めやす」としては有益かもしれませんが、「絶対的な目標」であってはならないのです。

インバウンドのそもそもの目的に合致する「1人あたり消費額」

著者自身、そもそもインバウンド観光の効果を、「外国人観光客におカネを落としてもらうこと」に加え、「より多くの外国人に日本に来ていただき、日本を体験し、そして日本の良き理解者、日本のファンになっていただく」ことにあると考えています。

このような視点に立てば、インバウンドは「人数ありき」ではなく、地域振興とセットにした良質な観光資源の掘り起こしと開発、1人当たり旅行支出の最大化、特定国に偏らないインバウンド需要の掘り起こし、そして何より外国人旅行客を「お客様」としておもてなしし、満足度を高めることなどを政策目標に据えるといえるでしょう。

こうしたなかで、時事通信が9日、ちょっと興味深い話題を報じました。

訪日客消費、1人20万円に 25年まで、新計画案に目標 観光庁

―――2023/02/09 12:48付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】

時事通信によると、観光庁は9日、交通政策審議会の分科会に「2025年までに訪日外国人1人あたり消費額を20万円にする」という、新たな目標を設定したのだそうです。この額はコロナ禍前の158,531円と比べて約4万円ほどの上昇であり、約25%引き上げる、という計算です。

正直、昨今のインフレの進行を踏まえると、べつに何もしなくても3年後に1人あたり消費額は上昇しそうな気がしますが、この点はとりあえず脇に置くとして、「人数ありき」の目標から脱したことについては素直に評価して良いと思います。

「1人あたりの消費額」を増やすためには、韓国など「単価が低い相手国」からの入国者の割合を減らし、豪州(24.8万円)、英国(24.1万円)、フランス(23.7万円)、スペイン(22.1万円)のように、遠方ながらも「単価が高い国」からの観光客誘致を目指さざるを得なくなります。

このように考えていくと、3年前の拙稿で報告した、「地域振興とセットにした良質な観光資源の掘り起こしと開発」などを進めていくという視点が、さらに必要になるかもしれません。

いずれにせよ、観光庁がどうやって「1人あたり消費額」の上昇を図るつもりなのかについては、同庁が公表するであろう目標を眺めて判断してみたいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. Masuo より:

    飲食店でテロを繰り返す動画が話題でしたが、私はそれなりのサービスを受けたいのであれば、それなりの単価の店に行くべき、と言うのが持論です。(回転すしを卑下するわけではありません)
    客単価の高いレストランやホテルには、それなりに常識を持ち合わせた「良客」がついているように思います。

    翻って日本も、国全体をディスカウントして、誰でもいいから来てもらうのではなく、単価を上げる努力をして、それなりの「良客」に来てもらった方が、お互いに気分よく過ごせるのではないかと思います。

    観光庁の取り組みは、素直に評価したいと思います。

  2. 名無しちゃん より:

    外国人観光客、人数に加え「1人当り消費額」を目標に

    それだけでも不十分でベトナムだとフィリピンみたいに親族の家に長期間滞在するけど消費はあまりしない層が良客に入らないように、1日当たりの消費額も考慮するべきでしょう。
    韓国人ってあまり金を使わないケチな国民ですけど、土日がらみ1泊2日や2泊3日が多いから不利だと思います。

    週末だけ来日してすぐに帰国してくれるのは結構ありがたいと思います。 偽装就労とかは少なくなるわけで。

  3. いちファン より:

    これ少なからずこのブログの影響あったのでは?と僕は信じてます。

  4. わんわん より:

    う〜ん
    とくに目新しさは感じませんね

    2017年の「観光立国推進基本計画」において
    平成32年目標
    2. 4000万人 3. 8兆円 計算すれば一人あたり20万円です

     メディアの報道のしかたや受けとめる方のリテラシーの問題かと思います

    参考 観光庁
    https://www.mlit.go.jp/kankocho/kankorikkoku/kihonkeikaku.html

  5. 伊江太 より:

    >「外国人観光客におカネを落としてもらうこと」に加え、「より多くの外国人に日本に来ていただき、日本を体験し、そして日本の良き理解者、日本のファンになっていただく」

    とくに後段の視点は大切だと思うのですが、そもそも数ある国々の中から渡航先にとくに日本を選び、ある程度の期間滞在して、その間に少なからぬ金額を費やすだけの余裕がある人と言ったら、元から日本の風土、文化に関心を持ち、直接体験したいがために来日するって人が多いんじゃないでしょうか。

    そしてその関心の対象と言ったら、日本にあるものを当然のように受け取っているわれわれには想像が付かないほどに多種多様。高野山で修行体験をしたい外国人が結構多いなんてはなしを聞くと、一体どうやってその憧れを育んだのかと思いますし、一度、東北の温泉地で、混浴の露天風呂にイタリア人とカナダ人2組のカップルが、仲良く肩を並べて浸かってる、なんてのを見たことがあるんですが、そういう異文化体験的な情報は、SNSの普及もあって結構海外でも拡がってるんでしょうね。バックカントリースキーでパウダースノーを満喫なんてのは、むしろ外国人がブームに火を付けたようなもの。自然発生的に現われたものがいつのまにやら巨大イベント化した渋谷のハローウィンなど、自分も参加してみたいという海外に住む人は結構多いようです。

    どれも日本。そして行政が観光客誘致のために育てたなんてものは、ひとつもありません。そして、日本にやってきた外国人が、彼ら自身の目で見た発見、魅力を、本国に住む人達にまた伝えていく。

    >「地域振興とセットにした良質な観光資源の掘り起こしと開発」

    官公庁は余計なことは、しない方が良いと思いますね。役人の頭で考えたところで、ロクなアイデアが出てくるとは思えません。日本に本物の関心、親近感、憧れをもってやって来る外国人は、そんな作りものを求めているのではないと思います。「これが日本」などと変なものを押しつけたら、却って失望を買うのがオチのような気がします。

    やるべきは、外国人が真に求める利便性の向上、そして不満が多いと気付いた点を、観光業界と協力して改善を図る。それで良いんじゃないでしょうか。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      “龍の眼” とかそうらしいっすね
      外国人観光客発信でホテルまで出来た(…外資系だとか聞きますが)とか、年間数日年によっては観れない自然の景色でも観光資源として十二分に活用されうる例になるのかな

  6. すみません、匿名です より:

    高級自動車メーカーみたいに、台数重視ではなく利益重視ですね。
    観光業はコロナ明けは人手不足ですし、将来は少子化で貴重なリソースを「1人当り消費額」の低すぎる国に使うことは、現場が疲弊するし顧客満足度が低くなります。
    訪日数は少なくても「1人当り消費額」の高い国を重視すれば、働いる人も嬉しいし顧客満足度も高くなり、日本ファン・リピーターが増えると思います。
    訪日客数重視では「1人当り消費額」の低い国を呼び寄せ下手をすると、観光庁が不法就労斡旋に取り組んでいると、周辺の国に誤解を与えます。入国審査を厳格して制限したほうがいいのでは。

  7. 匿名 より:

    >数字目標を設定すると、それが「独り歩き」する

    東京都の若年女性支援事業もこれですね。

  8. 簿記3級 より:

    1人当たりの消費額の低い○国への当てつけかー!
    と思いましたが、多様な値段の観光サービスを用意することはお客様満足度を高まる上で大切ですね。

    外国人が何に魅力を感じるかは時に予測出来ませんが○○ブームが思わぬところで起こるのは地域の再発見に繋がります。

    伏見の町で小雨降るなか、小走りで走ると幕末の志士の風を感じれます。
    同じ様に義賊として日本の神社、仏閣に忍び入り略奪された国宝を奪い返すそんな朝鮮忍者🥷のブームも来ないとは限りません。

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