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    Categories: 外交

韓国大統領をG7に呼ぶ意味を巡る鈴置論考の注意喚起

今回の鈴置論考に「関係者」は顔を真っ赤にして激怒か

「日本が韓国に譲歩する」式の「自称元徴用工問題解決策」を画策しているであろう者たちが読むと、顔を真っ赤にして怒りそうな記事が出てきました。韓国観察者である鈴置高史氏が、「『韓国大統領をG7サミットに招待しないと、米国に怒られる』と言い出す人が出そう」だと警告したのです。そして、私たち日本国民が知っておかねばならないのは、日本がちょっとやそっと韓国に「譲歩」したところで、韓国を動かすことはできない、ということでしょう。

岸田首相や岸田政権は怪しいが…

「岸田文雄首相や岸田政権の閣僚の言動を眺めていると、どうにも怪しいところがある」――。

これは、著者自身がずいぶんと以前から懸念している論点のひとつです。

「岸田首相が辞めればバラ色の未来」論の大きな間違い』などでも議論しましたが、そもそも論として「日本には首相を任せられるほどの素晴らしい政治家が山ほどいる」という発想自体が大きな間違いであり、現状を踏まえれば、やはり岸田政権は日本にとって最も「マシ」な政権だ、というのが著者自身の考え方です。

「岸田文雄首相は、今すぐ辞めるべきである!」。SNSなどでは、おもに一般のユーザーによるものと思しき、そんな主張を見かけることが増えてきました。ただ、岸田首相自身が何かと「脇の甘い政治家」であることは否定しませんが、「気に入らない」という理由で全否定するのも行き過ぎです。私たち有権者には、ネット社会ならではの、政治家とのかかわり方があるのではないでしょうか?岸田首相への不満「岸田首相は直ちに辞任せよ!」「正直、こんな首相など、1日も早く辞めていただき、もっと優れた人物が内閣総理大臣に就任すべ...
「岸田首相が辞めればバラ色の未来」論の大きな間違い - 新宿会計士の政治経済評論

実際、岸田「政権」は、故・安倍晋三総理大臣や菅義偉総理大臣の置き土産である「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の考え方を基本に据え、防衛費の大幅な増額など、やるべきことはそれなりにやっています(細かい点で不満がないわけではありませんが…)。

また、政治家としての「技能」でいえば、岸田現首相よりも前任者である菅総理の方が、総合的には優れていることは間違いないのですが(たとえば『菅義偉総理大臣の事績集:「日本を変えた384日間」』等参照)、再生可能エネルギー推進など、個別政策では必ずしも適切ではないものが含まれていたともいえます。

たかが384日、されど384日。この384日には、日本の歴史を変えるほどのインパクトをもたらしました。今月4日で辞任(内閣総辞職)した菅義偉総理大臣の個人ブログサイトが更新されていたのですが、菅内閣の1年間の「功績」が24個ほど列挙されており、これが圧巻というほかありません。そんな有能な宰相を辞めさせた私たち日本国民に、反省点はないのでしょうか。東京オリパラを強行したスガは辞めろ!今年7~8月頃がピークでしたでしょうか、世間では、菅義偉内閣に対する批判が殺到し、各メディアの調査による内閣支持率も、昨年9...
菅義偉総理大臣の事績集:「日本を変えた384日間」 - 新宿会計士の政治経済評論

この点、もしも安倍総理が存命なら、2024年に自民党総裁としての任期を迎える岸田首相の後継者として、安倍総理の再々登板という可能性はあったのかもしれません。

しかし、「もしも安倍総理が存命なら」、「もしも第五次安倍政権が発足していたら」、といった「もしも話」の数々を行ったところで、現実社会のさまざまな政策課題の解決を模索するという観点からは、あまり生産的ではありません。

それよりもむしろ、著者自身としては昨日の『自称元徴用工問題で確立すべき「新たな圧力のルート」』でも報告したとおり、せっかくここまでインターネットが発達したのですから、私たち有権者が直接政治家に対して意見を申し上げ、政治家を使って霞が関に圧力を加えるという「新たなルート」を開拓すべきではないでしょうか。

国民→政治家→外務省、という「圧力の新ルート」早ければ韓国政府が考える自称元徴用工問題の「解決策」とやらも今週出て来るかもしれません。当ウェブサイトの見立てだと、その最も可能性が高いものは、「日本企業が財団と債務引受契約を締結するかたちでの併存的債務引受」、つまりいわゆる「パターン④」なのですが、もしそれが出てきたならば、私たち一般の有権者は、政治家に対し、SNSなどを通じて「それは解決策とは言わないのだよ」と教えてあげるべきです。徴用工と外務省、岸田首相自称元徴用工問題巡る「公開討論会」自称元...
自称元徴用工問題で確立すべき「新たな圧力のルート」 - 新宿会計士の政治経済評論

そして、昨日の記事を引用したついでに申し上げるならば、著者自身が懸念している「暴走しかねない官庁」の事例として、やはり財務省と外務省の2つを挙げておきたいと思います。

怪しげな官庁

財務省といえば増税、増税といえば財務省

財務省といえば増税、増税といえば財務省ですが、やはり予算という「国のサイフ」の入口(国税庁)と出口(主計局)を1つの官庁が同時に支配しているという状況は、大変に大きな問題です。このことにより、たかが役人風情が、私たち有権者が選んだ国会議員よりも大きな権力を握ってしまいかねないからです。

その財務省といえば、「税収弾性値」(GDPが1%増えたときに税収がどれだけ増えるかを示した指数)を1.1に置くという実態から乖離したムチャクチャなウソをつき、消費税・地方消費税を含めたさまざまな税率の引き上げを主導してきました。

財務省が目的としているのはおそらく「GDPの最大化」ではなく「税率の最大化」であり、最近だと国際通貨基金(IMF)の口から「消費税率を15%にしなければならない」などと言わせるなど、とんでもない構想に関する観測気球も投げているようです。

日本の消費税、2030年までに15%に IMFが報告書

―――2019年11月25日 16:36付 日本経済新聞電子版より

IMFが財務官僚らの代表的な出向先のひとつであるという事実を国民が知らないとでも勘違いしているのでしょうか?

このあたり、社会のネット化の進展に伴い、新聞、テレビを中心とする大手オールドメディアの情報支配力が瓦解しつつあるなかで、経済・金融の専門家が相次いで自身のウェブサイトないしチャンネル、ツイッターなどを通じて情報発信するようになったことで、「国の借金」論のウソがバレはじめているのも事実です。

貸借対照表で物事を見られない財務省

ちなみに当ウェブサイトでもささやかながら、資金循環統計をはじめとするいくつかの統計データを使い、そもそも「日本が財政再建を必要としている」とする主張が貸借対照表の右側(負債側)しか議論していないという点で妥当ではない、といった議論をしてきたつもりです。

最新版資金循環:急上昇する「海外向け金融資産残高」』でも報告しましたが、家計に2000兆円を超える金融資産が蓄積され、国内で使いきれなかった金融資産が海外に流出し、結果的に対外純資産が455兆円分も積みあがっている状況の、いったいどこが「財政危機」だというのでしょう。

相変わらず、日本国内では資金が有り余っています。日銀が本日公表した資金循環統計の速報値によると、家計金融資産の金額は引き続き2000兆円を超えており、海外部門に対する金融資産の額も1400兆円近くに達しています。「国の借金」(?)の額は1200兆円少々ですが、むしろもっと国債を増発し、国内で資金需要を喚起すべきという状況は、まったく変わっていないようです。よく誤解する人がいるのですが、「国家財政の財源はすべて税金でなければならない」とするルールは、経済学的には「必然」ではありません。適正な税額、政府債務...
最新版資金循環:急上昇する「海外向け金融資産残高」 - 新宿会計士の政治経済評論

オールドメディアの多くは、「国の借金が1200兆円を超えました!」、「もう大変です!」、「国民1人あたり1000万円です!」などとするプロパガンダを現在進行形で垂れ流し続けていますが、じつは一般国民の知的水準は、こうした頭の悪いプロパガンダに騙されるレベルではありません。

この点、財務省自身も現役の事務次官(※当時)が一般誌に「財政再建の必要性」に関する頭の悪いインチキ論考を奇行したことがありましたが(『矢野論考というインチキ財政再建論に騙されないために』等参照)、ネット上で経済、会計、金融などの専門家らからコテンパンに論破されていたのは印象的です。

財政再建の必要性を訴えた財務省の矢野康治事務次官の主張は、端的にいえばインチキであり、長年日本をデフレで苦しめてきた増税原理主義が凝縮されたトンデモ論考です。こうしたなか、明後日に日銀が最新版の資金循環統計を公表する予定ですが、そのデータを読む前に、日本の資金循環の現状を改めて確認するとともに、そもそも日本が財政再建を必要としていないという点を明らかにしておきたいと思います。日本国債のデフォルトと矢野論考以前からときどき当ウェブサイトで取り上げているとおり、日本が「財政破綻」する可能性は、こ...
矢野論考というインチキ財政再建論に騙されないために - 新宿会計士の政治経済評論

外務省の大失態は2015年のユネスコ遺産登録

さて、同じ文脈で見れば、やはり私たち国民にとってやきもきする存在のひとつは、外務省でしょう。

外務省といえば、2015年に日本が明治期の世界遺産登録を推進していたころ、韓国が「それらのいくつかで朝鮮人の強制労働がなされていた」などとするウソをついて猛烈に妨害してきたときに、あろうことか韓国の主張を認めてしまった組織です。

具体的には、ユネスコ総会の場で当時の佐藤地(さとう・くに)ユネスコ大使(のちのハンガリー大使に栄転)がユネスコ総会の場で、「その意思に反して連れて来られ」「厳しい環境の下で」「強制的に働かされた」などとするウソを述べたのです。

ちなみに “brought against their will” や “forced to work” の意味について、外務省が同年7月14日付で公表した記事の記述が噴飯物です。

朝鮮半島出身者については当時、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づき徴用が行われ、その政策の性質上、対象者の意思に反し徴用されたこともあった」。

今回の日本側の発言は、違法な『強制労働』があったと認めるものではないことは繰り返し述べており、その旨は韓国側にも明確に伝達している」。

この文章を執筆した者たちは、本当に愚かだと断じざるを得ません。なぜなら、日本国民の多数がこうした言い分を正当なものだと認めるのだとその者たちが思っているのならば、あまりにも日本国民をバカにし過ぎているからです。

自称元徴用工巡る外務省の「解決策」

そして、その外務省が現在、たとえば自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案を巡り、どうも韓国側と共謀して、「日本が譲歩する」式の落としどころを探っているフシがあります。例の「併存的債務引受方式」など、その典型例でしょう。

債務引受自体は2020年改正民法で明文化された制度ですが、じつは、それ以前から慣行としては存在していました。これに関し、著者自身の手元にある1996年刊行の書籍でも、債務引受の類型やその要件などに関する記述が設けられているのが確認できます。本稿ではこれについて概要を紹介するとともに、あわせて「債務引受を使った自称元徴用工問題『解決』の4パターン」についても紹介します。債務引受は『1996年版内田民法』に記述されているとある理由があり、個人的に数日前から「債務引受」について調べています。これについてはすで...
27年前の書籍で学ぶ「債務引受」の類型と要件、効果 - 新宿会計士の政治経済評論

いずれにせよ、外務省の役人どもが、こうやって日本国の利益を外国に売り渡してきたという実例を見せつけられると、外交分野において本当に「大掃除」すべきは外務省だと考えざるを得ませんし、その意味では「国民→政治家→外務省」という「新たな圧力のルート」を開拓すべきなのです。

くどいようですが、著者なりの持論は、「国家の命運に影響を及ぼすほどの判断権限を持って良いのは、国民から選挙で政権を託された集団に限られるべきだ」、というものです。

「国民から選挙で政権を託された集団」とは、2012年12月以降に関していえば自民党(と公明党)であって、けっして官庁(たとえば財務省や外務省、総務省など)や特定野党(たとえば立憲民主党や日本共産党)ではありません。

(※個人的には公明党が「国民から選挙で政権を託された集団」を構成していることに不満はあるのですが、この点も結局、国民が選択した結果ですので、現在のところは仕方がありません。)

しかし、現実の政策においては、先日の「1兆円増税」騒動にもあった通り、依然として「国民から選挙で政権を託されたわけではない勢力」(※この場合は財務省)が蠢動していることは間違いなく、民主的手続と相容れない勢力の政治権力をどう排除するかは重要な課題のひとつです。

読売新聞の怪しい記事

ただ、そのヒントがひとつあるとすれば、やはりネット空間ではないでしょうか。

ここで、当ウェブサイトの読者の皆さまのなかにもお気づきの方は多いと思いますが、読売新聞に週末、こんな記事が掲載されていました。

広島サミットへ韓国大統領の招待を検討…「元徴用工」で出方見極め最終判断

―――2023/01/07 06:30付 読売新聞オンラインより

読売は独自ネタとして、日本政府が広島市で5月に開催するG7サミットに、尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領を招待する方向で「検討に入った」と報じたのです。結論からいうと、当ウェブサイトではこの記事、典型的な「外務省プロパガンダ」だと考えています。

もちろん、読売新聞といえば、2021年7月に、「文在寅(ぶん・ざいいん)大統領(※当時)が東京五輪開会式に合わせて訪日し、菅総理と迎賓館で会談する」などとする盛大な誤報を発信したメディアでもあります(『文在寅氏訪日失敗:なぜ読売新聞は「間違えた」のか?』等参照)。

昨日の『読売「日韓首脳会談で徴用工など協議へ」をどう見るか』でも取り上げたとおり、読売新聞は昨日早朝に「日韓首脳会談を元赤坂の迎賓館で実施する」、「日本政府は駐韓大使館の相馬公使を更迭する構え」などと報じました。しかし、『日韓メディアが「文在寅韓国大統領が訪日断念」と速報』ですでに結論が出ていますが、この読売報道の内容自体、結果的に「大外れ」でした。一連の騒動に加え、文在寅氏が今後、どう動くかについても、興味は尽きないところです。文在寅氏の訪日スルスル詐欺ここ数週間、当ウェブサイトで「訪日ス...
文在寅氏訪日失敗:なぜ読売新聞は「間違えた」のか? - 新宿会計士の政治経済評論

したがって、今回の記事も単なる飛ばし報道という可能性を疑うのは正当な猜疑心に基づくものでもあるのですが、ただ、読売の記事には、こんな記述も含まれています。

オーストラリアやインドの首脳の招待も有力視されている。『自由で開かれたインド太平洋』(FOIP)の実現に向け、G7と価値観を共有する同志国との結束を打ち出す」。

豪州、インドの両国は日米とともに「クアッド」を形成している相手国であり、この両国を招くことは非常に自然な流れではあります。しかし、なぜここに韓国がねじ込まれているのでしょうか。

読売は、続けます。

民主主義や法の支配など価値観を共有する日韓・日米韓の連携は重要性を増している。韓国側もサミット参加を強く希望しており、実現すれば連携強化を内外に示す好機となる」。

そもそも最高裁にあたる「大法院」が国際法に反した判決を平気で下している時点で、韓国が「法の支配」という基本的価値を日本と共有していないことは明白です。なぜ読売新聞は、シレッとウソとつくのでしょうか?

もしかして、この記事など、「韓国は基本的価値を日本と共有している」というウソを混ぜ込んだ情報を読売新聞にリークすることにより、外務省が世論を騙そうと画策している証拠なのかもしれません。

ちなみに読売は、こうも報じています。

日韓間では、最大の懸案である元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題の解決に向けた外交協議が続いている」。

日本側は、日本企業への賠償命令は認められないとして韓国政府に解決を求める立場を崩していない。今後の韓国側の出方を見極めた上で、招待を最終判断する構えだ」。

おそらくこれも、韓国外交部が日本の外務省の黙認のもとで、当ウェブサイトでいうところの「④債務者契約方式に基づく併存的債務引受」方式を推進しているという動きを感じさせるものです。

読み応え十分な鈴置論考

鈴置氏「韓国の意図を見抜く米国」

こうしたなか、昨日は偶然でしょうか、著者自身が深く信頼する韓国観察者である鈴置高史氏がウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、こんな記事を寄稿していました。

「言うだけ番長はやめろ」と尹錫悦を叱った米国 広島サミットに招待しても食い逃げされる理由

「自由と民主主義の側に立て」と米国が韓国を促した。口先とは異なり、中ロと戦おうとしない尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権にしびれを切らしたのだ。韓国観察者の鈴置高史氏が米韓のせめぎ合いを解説する。<<…続きを読む>>
―――2023/01/10付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

記事タイトルでもわかるとおり、今回の鈴置論考の主題は、あくまでも韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権と米国との関係であり、このテーマ自体も大変に興味深いものでもあります。

とくに、今回の記事も、『韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する』でも取り上げた前回の記事に続き、具体的な事例が的確に紹介されており、説得力は抜群です。

年末に韓国観察者・鈴置高史氏が、「尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権の総集編」ともいうべき記事を公表しています。これがまた大変に面白いのです。鈴置氏といえば、過去に「日本が韓国に譲歩したところで意味がない」という点をわかりやすく説き明かした人物でもありますが、今回の論考もそれとまったく同じ文脈に位置付けることができそうです。課題は解決しなくても良いこともある「課題山積」なら「解決法」は――?「新年から、内外ともに課題は山積している」――。こんなことを述べると、必ず帰ってくる反応のひとつが、「では、そ...
韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、当ウェブサイトではこの記事について、「積極的に騙されに行く日本の姿」に対する鈴置氏の警告に見えて仕方がありません(裏読みのし過ぎでしょうか?)。

ビクター・チャ氏の「ドスの効いた」指摘

鈴置論考はウェブページ換算で3ページ分ですが、冒頭で、ジョージタウン大学教授で米国を代表する朝鮮半島研究科のビクター・チャ氏が韓国紙『朝鮮日報』(英語版)に1月5日付で寄稿した “What Can Yoon Do to Promote Freedom and Democracy?” という記事を取り上げます。

鈴置氏によると、この記事自体、文章の3分の2は尹錫悦政権を、「米国との関係強化に熱心に見える」などの理由で絶賛していながら、全13段落中の12段落目で「自由と民主主義を弾圧する中国、ロシアを韓国が非難しないこと」を、韓国が不十分な点だと指摘しているというのです。

ではなぜ、こんな回りくどい文章をチャ氏は執筆したというのでしょうか。

『米政界では尹錫悦政権の評判はいいぞ』とおだてたのが伏線として効いています。チャ教授は『自由、民主主義をしきりに唱える尹錫悦大統領』と強調しておき、結論部分で『では、行動はどうなのだ』と韓国人に迫ったのです」。

『米政界では評判がいいぞ』とのくだりも『見える』『強調している』と言った表現に留めており、尹錫悦大統領が『米国側に完全に戻った』とか『心から自由と民主主義を信奉している』とチャ教授自身が断じたわけではないことをはっきりさせています。普通の米国人は騙せても専門家は見切っているからな、とドスを効かせた感じでもあります」。

こうした鈴置氏なりの文章の読み方は、本当に参考になると言わざるを得ません。

なんと韓国語版では都合よく「改竄」されていた!

しかも、もっと驚くのが、その「続き」です。

鈴置氏によると、なんと朝鮮日報の韓国語版記事では、この「ドスを効かせた」部分が「すっぽり抜け落ちている」というのです。

韓国語版では先ほど引用した、金大中称賛・保守批判のくだりがすっぽり抜け落ちているのです。代わりに『現大統領は国家の核心的な価値として自由と民主主義を強調する』という、原文には全くない1文が紛れ込んでいます」。

この大胆な差し替えにより、韓国語版からは『尹錫悦は 〝言うだけ番長〟だ』との批判の色合いが一気に薄れ、『尹錫悦は頑張っている』と評価する記事に変貌したのです」。

何とも呆れる話です。

そのうえで、もともとは中国などを強く牽制する目的があるはずの「自由で開かれたインド太平洋」を巡っても、韓国版「インド太平洋戦略」では換骨奪胎されてしまうのです。

そもそも韓国は中国の報復を恐れ『ベトナムやニュージーランドと共に、準メンバーとして入りたい』などと虫のいいことを言っていたのです。準メンバーとは『中国とは軍事的に敵対しないメンバー』を意味します」。

日本はまたしても騙されてしまうのか?

では、それを米国は許容するのか。そして米国以外の国はどうなのか。

鈴置氏によるその答えが、これです。

J・バイデン(Joe Biden)政権は韓国の猿芝居をすっかり見抜いていますから騙されません」。

問題は、韓国の都合のいい自画像を信じ込んでしまう国があることです」。

「韓国の都合のいい自画像」とは「尹錫悦は頑張っている」というものであり、それを信じ込んでしまう国とはもちろん日本のことです(敢えて鈴置氏の意図を汲んで正確に言い直せば、「外務省」のことでしょうか?)。

鈴置氏はこう述べます。

2022年5月に尹錫悦政権が誕生した時は『日米の側に戻る政権だ。日本も韓国に譲歩して盛りたてよう』『韓国のQuad入りに反対すると米国に怒られる』といった言説がネットや紙媒体に噴出しました。外務省OB、学者、記者らが中心ですが、ほぼ韓国の専門家でした」。

そういう鈴置氏自身が紛れもない韓国の専門家で、しかも並み居るインチキ専門家と異なり確かな目をお持ちである、という点は、とりあえず脇に置きましょう。

この「韓国が保守政権になれば米国が日韓関係『改善』に向けて圧力をかけてくる」という言い分は、たしかに各所で目撃したものでもあります。といっても、だいだいの出所は、(自称)「韓国専門家」らでしたが。

おそらくその人は顔を真っ赤にして怒っている

ではなぜ、鈴置氏はこのタイミングでこの記事を出したのでしょうか。

その答えは、おそらく末尾のこの一文にあります。

『尹錫悦をG7サミットに招待しないと、米国に怒られる』と言い出す人が出そうなので、予め注意喚起する次第です」。

おそらくその「人物」とは、岸田首相に「入れ知恵」している関係者なのではないでしょうか。

そして、その「人物」は、もしかすると今回の鈴置論考を読んで、顔を真っ赤にして怒っているのかもしれませんし、ネット上でも「外務省はよく頑張っている」などとする虚偽のプロパガンダをあちらこちらに貼ろうとするのかもしれません(ご苦労様なことに、最近だと当ウェブサイトにもその手のコメントを書きに来る人がいます)。

ちなみに先ほど引用した読売の記事についても、鈴置氏はこう見抜きます。

尹錫悦政権が自称・徴用工問題で妥協案を示す見通しとなったので、それで禊(みそぎ)は済んだことにして、韓国をQuadメンバーに準ずる扱いにしてやる、ということでしょう」。

ただ、そんなことぐらいで韓国が中国包囲網に加わりはしない。むしろ、口先で『自由と民主主義』を語っていれば米国は許してくれると勘違いし、中国包囲網に加わらなくなる可能性の方が大きいのです」。

この記述、まさに『韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する』などでも論じたとおりの話です。

年末に韓国観察者・鈴置高史氏が、「尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権の総集編」ともいうべき記事を公表しています。これがまた大変に面白いのです。鈴置氏といえば、過去に「日本が韓国に譲歩したところで意味がない」という点をわかりやすく説き明かした人物でもありますが、今回の論考もそれとまったく同じ文脈に位置付けることができそうです。課題は解決しなくても良いこともある「課題山積」なら「解決法」は――?「新年から、内外ともに課題は山積している」――。こんなことを述べると、必ず帰ってくる反応のひとつが、「では、そ...
韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する - 新宿会計士の政治経済評論

結局のところ、韓国を動かしている原理は米中双方への忖度であり、日本が「歴史問題」で多少、韓国に譲歩をしたところで、日本が韓国を動かすことなどできやしません。むしろ日本が韓国に譲歩することは、韓国に誤ったメッセージを与え、対中包囲網全体にも悪影響が及びます。

そして、おそらく鈴置氏のことですから、何らかの動きをすでに掴んでいるのでしょう。

その意味では、12日に韓国外交部主催で開かれるとされている、自称元徴用工問題を巡る「公開討論会」で、いったいどんな「解決策」とやらが出て来るかについても、興味深いところです(※といっても、おそらく出て来るのは「債務者契約方式による併存的債務引受」という、本当に意味のない代物だとは思いますが…)。

新宿会計士:

View Comments (28)

  • 外務省(犯人)の理屈を読み解くとこんな感じでしょうか。
    ①韓国は国民の選挙によって指導者を選んでおり、自由、基本的人権など民主主義の価値観を共有できる相手である。
    ②中国、ロシアに対するニ正面作戦でも大変なのに三正面作戦などモッテノ他である。
    ③韓国は竹島を不法占拠しているが、だからと言って近い将来、対馬を奪いとりには来ないだろう。一方中国は日本固有の領土である尖閣諸島を真剣に奪おうとしている。

    以上の観点から竹島、慰安婦、徴用工の問題に対して日本政府は韓国政府に対して大胆な妥協を図るべきである。

    国際環境の変化の問題を解決する為に歴史問題で妥協しようという何故かテーブルを一つにまとめてしまった不思議な策です。外務省はなぜ相手が都合よく動いてくれるだろうという傲慢な考え方をするのでしょうね。相手に利益を与えたからと言って、それ通りに動くとは限らないでしょうに。

  • >鈴置:2022年12月28日、尹錫悦政権は「自由、平和、繁栄のインド太平洋戦略」を発表しました。韓国メディアが言う、いわゆる「韓国版インド太平洋戦略」です。

    訪韓中の公明党山口代表が其れを歓迎する発言をしてましたね。

    公明党は親中親韓主義が軸にあると見受けられるので、なるべく早く自民党が手を切る事を願ってます。

    なお、旧統一教会同様、宗教つながりで信者を選挙のボランティアに動員出来るのは、ボランティア選挙の原則の下では強みですね。

  • 皆さまおはようございます。お疲れ様です。
    本日の>>「日本が韓国に譲歩する」式の「自称元徴用工問題解決策」を画策しているであろう者たちが読むと、顔を真っ赤にして怒りそうな記事が出てきました。>>という書き出し、秀逸でございました。そして、あきらかな日本人の敵=アチラ系ではないものの、怪しいとかねてから思っていた読売も、そのようなふらちな画策をしているであろう者であったことが良く分かりました。
    さて、一時期の岸田首相に対する強い怒りも、ブログ主様に諭されて薄らいでいる今日この頃ではありますが、もしも林外相を更迭すれば、彼の将来はバラ色に変わるかもしれないと思っています。
    現在は首相更迭するとあちら系に餌を与えるだけになりそうですが、将来は以下のようになって欲しいと妄想しています。すなわち、できれば生きているうちに、高市首相、松川るい外相(改善すべき所もありますが、外国記者クラブで韓国を論破した言語力・発信力・行動力に期待)、小野田防衛相(公明党と縁切りしたところといい今の所改善点認められず)のそろい踏みを見てみたい。

    • 「知らんけど」レベルの話で恐縮ですが・・・
      読売では岸田氏応援の記事を書くと、岸田氏と同じ開成出身のナベツネの覚えがめでたい、などというウワサを聞いたこともあります。
      こと、岸田内閣に関わる政治部記事では、産経と読売に乖離があるように感じます。

    • 理系初老様、

      > 小野田防衛相(公明党と縁切りしたところといい今の所改善点認められず)

      意味のつながりがよく分からないんですが、「公明党と縁切りしたところ」が良いということでしょうか? それとも「公明党と縁切りしたところ」はいいが、その後何も無いということですか?

      • 一応念のため、小野田紀美防衛政務官、先の参院選で公明党との連携を切り、トップ当選した英語ペラペラでアチラ系や公明党にとっては憎き美人さんです(ここにはこれをもって女性差別ダーという輩はほとんどいないと思いますが、正直、美人でなければ、SNSをお気に入りに入れて活動を日々見守るようなことはしていないかも)。
        小野田紀美【参議院議員/岡山】 Retweeted
        航空自衛隊百里基地
        @jasdf_hyakuri
        #ナマステ ~🙏#नमस्ते!つ、ついにはるばる #インド から #Su30MKI が #百里基地 へフライインッ✈️百里基地は、共同訓練を通じて戦術技量の向上、日印 #空軍 種間の相互理解の促進及び #防衛協力 の更なる深化を図ってまいります。
        #インド空軍 #indianairforce
        #VeerGuardian
        #スホーイ #C17

  • 韓国との関係改善を重視するのって、弱い環を補強して鎖全体の強度を高めるってことなんだろうけど・・・
    ず~っとそうやって上手くいかなかったわけだし、そろそろ、弱い環を外すことを考えた方が良いと思うのです♪

    環がひとつ減ると多少鎖の長さが短くなるかもだけど、他の環は残るんだし良いんじゃないかなって思うのです♪

    •  良い例えですね。
       重要なのは"鎖の長さと強度が目的に足りるか"という点。外務省の傾向だと、とにかく環を抜けさせない、維持することに執着していて、全体像や目的を見ようとしていないように感じます。
       こういう理由でその環が必要なんですという説明、例えば経済的な指標や軍事的な数値を提示してもらえれば良いのですが。少なくとも掴める情報からは、「無い方がマシ」としか。

      「抜けたらダメだからこそ、抜けさせてはなりません。」

       ある意味で外相向きなのかしら……

  • 韓国の尹大統領をG7に招待する事で、日韓関係がアラ不思議!案件が無くなった〜とは、絶対になりません。むしろ日本が譲歩することで、更に無理難題をふっかけ、蒸し返して来ます。徴用工問題で、「債務者契約方式に基づく併存的債務引受」方式を日本が渋々でも認めようなら(もっとも岸田政権は退陣に追い込まれる)、0対100理論の成立です。鈴置氏の言う「自称・徴用工問題で妥協案を示すと、それで禊(みそぎ)は済んだことになる」ーー大甘の日本人なら、かつてはそうなったかも知れない。でも汚ないやり口が分かっているから、もう二度と通じない。韓国のやる事はまったく信用出来ないからだ。G7参加よりも、韓国は内政からキッチリやれ!

  • 本日午前10時韓国で慰安婦は売春婦である
    と授業中に発言したことで学生に訴えられた
    元教授の判決公判がありますね
    どうなるのか楽しみです

  •  仮に、韓国政府が自称元徴用工問題の「解決策」として考えているのが「債務者契約方式による併存的債務引受」とし、韓国のマスコミ報道が事実だとすれば、
    ➀韓国政府が「債務者契約方式による併存的債務引受」の「解決策」を発表する。
    ➁発表と同時に、韓国政府は日本政府の「呼応措置(=謝罪と財団への出資)」への期待を示す。
    という流れになると思います。
     しかし、韓国政府が「解決策」を発表した時点で、自民党内を中心に「債務者契約方式による併存的債務引受」は、日本製鉄と三菱重工業の「債務」=「賠償責任」を認める結果になり、「日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決した」というこれまでの一貫した政府方針と相反するため、絶対に受け入れてはならないという意見が大勢になって、結局、「解決策」は潰されてしまうと思うのですが、こうした考え方は楽観的過ぎるのでしょうか。

  • 朝日新聞が韓国側は日韓の寄付で賠償で解決で
    最終調整 日本側の誠意を期待と報じていますね

  • 財務省が税率を上げたがっているなら税率100%にすればいいんですよ。
    ただし、国民はお金を持たなくても生活や各種活動に不自由しないよう国が保証する、これが必ず守られるならば賛成する人も出てくるでしょう。

    ええ、理想的に運営された共産主義がこの側面を持ちますね。
    つまりは無理ってことです。
    税をとる以上、それに見合ったサービスを返す必要があるという事ですね。

  • >「財政再建の必要性」に関する頭の悪いインチキ論考を奇行

    つい本音が出たのでしょうか?あえて修正しなくてもいいと思いますが。

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