「円安の影響で韓国の輸出急減」=韓国経済研究院試算

円安で日本経済が強く復活し始める兆しがある一方で、円安で苦しんでいる国が日本の近隣にあるようです。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日掲載された記事によれば、ドルに対して円高が1%進めば、韓国の輸出が0.4%減少するという相関関係があり、これに基づけば今年1月から9月までの韓国の輸出が168億ドルも減少したとの試算結果が出てきたそうです。

悪い円安論の幻想

円高や円安が日本経済にどんな影響を与えるのか――。

今年に入ってから米FRBによる金融引締めの影響もあり、また、ウクライナ戦争の勃発などに端を発する資源高、中国のコロナ封鎖によるサプライチェーンの混乱などの影響もあり、円安と資源高が国民生活にもジワリと影響を与えていることは間違いありません。

また、民主党政権の「負の遺産」である主要原発の操業停止、太陽光発電だの、風力発電だのといった「再生可能エネルギー」の強引な推進などの影響もあり、国内電力供給は不安定化し、電気代の負担も高止まりしている状況にあります。

さらには、(名指しはしませんが)一部の会社が「円安倒産が増えた」などとするレポートを公表するなどしていることもあり、人々が生活に不安を感じ、また、「悪い円安」論に騙されるのも、ある意味では仕方がない話なのかもしれません。

ただ、ここで改めて強調しておきたいのは、「円安・円高」などの為替変動の論点と、資源高などの論点については、明確に分けて分析しなければならない、という点でしょう。一部のメディアや業者は最近、「悪い円安」論を強調するあまり、このあたりの事情を意図的に混同しているフシがあるからです。

円安は輸出競争力を高める

経済学の理論に従えば、円高・円安(つまり自国通貨の為替相場の変動)は、日本経済に対してそれぞれ複雑な影響を与えます。

まず、「製造大国・輸出立国」にとっては、基本的には円安が好ましく、円高は困りものです。なぜなら、国内の製造コストは円建てで測定されるからであり、したがって円安になればなるほど、輸出競争力が高まる効果が期待できるからです。

ただし関税、輸送コスト、製造拠点移転コスト等も含めれば、議論はもう少し複雑になりますし、「外国から素材を仕入れてきて国内で加工する」ようなモデルの場合、自国通貨安が必ずしも自国経済に有利とは限りません。輸入コストも上昇するからです。中国や韓国などがその典型例でしょう。

次に、輸入品のコストが上昇することで、同じような製品については国産品を買おうとする機運が生じますし、また、代替が可能な製品については国内で作ろうという機運が生じます。これが「輸入代替効果」です(実際、アイリスオーヤマのように、日本国内に製造拠点を戻そうとする動きも生じ始めています)。

その結果、輸出が増え、輸入が減ることにより、国内にはさまざまな恩恵が及びます。たとえば『これぞ円安の恩恵?全産業の経常利益が過去最大を記録』でも紹介したとおり、日本企業は2022年6月末時点において、過去最高の四半期経常利益を計上していますが、これもその恩恵のひとつです。

もっとも、輸入代替が困難なもの(日本の場合でいえば、たとえば石油、LNG、石炭などのエネルギーなど)については、円安で輸入価格が押し上げられてしまうため、これが日本経済の圧迫要因になります(当ウェブサイトで原発再稼働の必要性を強調している理由も、この点にあります)。

円安・円高の影響をまとめてみる

しかし、自国通貨安になれば、対外債権国の場合は非常に良い影響が生じます。とくに外貨建てで金融資産(貸出金や債券、株式など)を持っている国であれば、その外貨建ての金融資産で巨額の為替差益が生じます。日本の場合は無駄に多い外貨準備で巨額の含み益が生じているのはその典型例でしょう。

円安や円高の影響をまとめたものが、以前からしばしば当ウェブサイトにて紹介している、次の図表1です。

図表1 円高・円安の日本経済に対する影響
区分円高円安
輸出×輸出競争力は下がる〇輸出競争力は上がる
輸入〇輸入購買力は上がる×輸入購買力は下がる
国産品需要×輸入品に押される〇輸入代替効果が生じる
国産品×国内製造コストが上がる〇国内製造コストが下がる
海外旅行〇海外旅行に行きやすくなる×海外旅行に行き辛くなる
国内旅行×海外旅行に押され需要減〇海外旅行の代替で需要増
訪日観光客×外国人は来づらくなる〇外国人が来やすくなる
外貨建債権×為替評価損が生じる〇為替評価益が生じる
外貨建債務〇為替評価益が生じる×為替評価損が生じる

(【出所】著者作成)

日本に入国した外国人、最多は韓国人

こうしたなか、当ウェブサイトのこれまでの主張を裏付けるような記事も多々出てきています。

そのひとつが、インバウンド観光です。韓国メディア『中央日報』(日本語版)には本日、こんな話題が出てきています。

外国人ノービザ入国を再開した日本、最多訪問は韓国人

―――2022.11.17 12:02付 中央日報日本語版より

日本政府観光局(JNTO)が16日に公表したデータに基づけば、10月に日本に入国した外国人が49万8600人と前年同月比で22.5倍に増え、そのうち韓国人が12万2900人で最も多く、全体の4分の1を占めたというのです。

韓国は地理的に見て日本に最も近い外国であり、入国ビザ免除制度を適用している相手国でもあるため、韓国からの入国者が激増することは、ある意味では予想されたことではあります。

(※余談ですが、2019年7月以降、輸出管理適正化の影響で広まった「ノージャパン運動」を覚えている身としては、非常に不思議な気がしますし、自称元徴用工問題などの諸懸案が解決されていないことを踏まえれば、韓国国民に対し90日もの滞在をノービザで認める必然性はないと、個人的には考えています。)

ただ、記事には書かれていませんが、円安で韓国にとって日本が魅力的な訪問国に見えていることは間違いありません。韓国ウォンの日本円に対する為替相場(KRWJPY)の推移を眺めてみると、2008年の「リーマン以前」には1円=15ウォン前後だった韓国ウォンが、現時点では9.5ウォン前後です(図表2)。

図表2 KRWJPY

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成)

最近、韓国ウォンは米ドルに対して下落していますが、円がウォン以上にドルに対して下落している状況において、韓国にとってはウォン安の恩恵を十分に受けきれていない、ということでもあるのでしょう。

「円安は韓国の輸出を減少させる」?

そして、同じく中央日報に掲載された次の記事は、もっと露骨です。

円安進行で韓国の輸出168億ドル減少…今年の貿易赤字の58.2%水準

―――2022.11.17 11:21付 中央日報日本語版より

中央日報によると韓国全国経済人連合会傘下の韓国経済研究院は17日、『超円安が我が国の輸出に及ぼす影響と示唆する点』なるレポートで、「急激な円安で今年の韓国の輸出が170億ドル近く減少した」という分析が示されたのだそうです。

同院によるとグローバル輸出市場で日本は韓国と「最も輸出競争関係にある」のだそうであり、2005年第1四半期以降、今年第3四半期までの実証研究に基づけば、対ドル円相場が1%上昇すれば、韓国の輸出額は0.4%ポイント下落することが示されたと指摘。こんな趣旨のことを述べています。

今年の為替レート上昇率が17.9%であることを考慮すれば、今年9月までの韓国の輸出の減少額は168億ドルに達する。これは韓国の1~9月の累計貿易赤字288億9000万ドルの58.2%に匹敵する規模だ」。

このあたり、こうした試算が正しいのかどうかはよくわかりません。

ただ、少なくとも韓国の場合、日本などから高品質な素材、部品、装備などを輸入し、国内で組み立てて外国に輸出するというビジネスモデルを採用しているため、ウォンに対する円安の進行は、本来ならば好ましい話であるはずです。

しかし、円安がウォン安を上回る速度で進んでいることを踏まえると、ダイレクトに輸出競合する分野では影響が生じるのも当然といえるかもしれません。

いずれにせよ、円安がいつまで続くのかはわかりませんが、少なくとも日米金利差は当面続くでしょうし、短期的に1ドル=100円割れを目指すような円高に動く可能性はさほど高くないというのが実情でしょう。

「悪い円安」論者のみなさんも、そろそろ「円安が日本経済に良い影響を及ぼしている」という事実に目を向けるべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    う~ん
    韓国にとっての悪い円安の考察、ありがとうございます。
    韓国もウォン安なので、日韓の貿易に影響は少ないはず。
    韓国も、輸出ではウォン安の恩恵があるはずなのに、
    なぜ韓国メディアは記事にしないのかな?

    1. 古いほうの愛読者 より:

      ドル円チャートとドル・ウオンチャートを重ねて描いて見れば理由は自明だと思います。10月末まではウオン安より円安のほうが激しく進行していました。私の課題はこの先のチャートの予想です。

  2. はにわファクトリー より:

    韓国産業の現況については、日経が昨日 11 月 16 日 20:56 にソウル支局発報道として公開した記事が参考になります。
     『韓国企業の7~9月営業益26%減 半導体・鉄鋼が不振』
    新聞記者に特有な「困ったマッチポンプ的特性」のために実態以上に大げさな表現、意図的な論旨結論すり替えが起きている可能性はあります。冷静かつ批判的視点に立ってこの日経記事を吟味する必要があると当方は考えます。

  3. より:

    おそらく同工異曲多数なご意見。
    某国当局者「そうかぁ、ならばもっと自国通貨安にすれば輸出競争力を回復できるのだな。よし、中央銀行に自国通貨をガンガン売るよう指示しよう!」

    某国がどこの国かだなんて詮索するのは野暮ですww

  4. 七味 より:

    >「日本と輸出競合度が高い品目に対する研究開発(R&D)など支援を強化しなければならない」
    効果が出るまで時間のかかる研究開発よりも、単純に円を買いまくって円高に誘導すれば良いんじゃないかな?
    ٩(。˃ ᵕ ˂ )وはーい

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