「消費減税の訴えは間違いだった」=立憲民主・枝野氏

枝野幸男氏が「消費税減税の公約は間違いだった」との認識を示したそうです。その理由は、その公約を掲げていながら、立憲民主党が衆院選、参院選ともに伸び悩んだからなのだそうですが、はたしてその認識は正しいのでしょうか?

立憲民主党は第2政党だが…

立憲民主党といえば、いちおうは日本の「最大野党」であり、衆議院では97議席(副議長である海江田万里氏を含む)、参議院では39議席(副議長である長浜博行氏を含む)という勢力を抱えていて、どちらも自民党に次ぎ2番目の勢力を誇っています。

ただ、非常に興味深いことに、衆参両院議員選挙では、立憲民主党、あるいはその前身政党である民進党、民主党の獲得議席数は、長期的に低落傾向にあります。

たとえば参議院議員比例代表の場合、政党別の得票率で見ると、今年7月に行われた選挙では旧民主党時代と通算して最低の得票率に沈んでいます(図表)。

図表 参議院比例代表・政党別得票率推移

(【出所】総務省・参議院選挙関連資料を参考に著者作成)

当ウェブサイトで普段から指摘しているとおり、国政選挙とは民意が最も直接的に示される場です。

したがって、自民党の得票率が少なくとも過去4回の参院選で3分の1を超えているのに対し、「最大野党」であるはずの立憲民主党の得票率が回復しないのは、有権者の同党に対する最も正直な評価であると考えるのは自然な発想でしょう。

このあたり、選挙区によっては特定の議員が政党の枠を越え、根強い地盤を作っているという事例もあるため、選挙結果が「政党」に対する評価であると一概に断言できないこともあるのですが、少なくとも比例代表の場合はこうした選挙区の特殊事情が薄まります。

したがって、比例代表の政党に対する得票率こそが、その政党に対する有権者の信頼感を推し量るうえで最も効果的ではないかと思う次第です(※ただし、参議院の場合、「比例代表でも個人名で投票できる」という点には、若干の注意は必要ですが…)。

立憲民主党に対する有権者の低支持は経営学的に説明可能

ではなぜ、立憲民主党に対する支持率が伸び悩んでいるのか――。

これについては正直、さまざまな人がさまざまな立場からさまざまな解釈を提示しているのですが、当ウェブサイト的にはやはり「経営学」的なアプローチから考察するのを好んでいます。

企業、会社というものは、何らかの財やサービスを作り出し、それを世の中に提供することで成り立っています。たとえば乳業会社であれば乳製品を加工し、紙パックに牛乳を詰めたり、チーズやヨーグルトといった加工製品を作ったりして、一般消費者などに販売しているケースが多いでしょう。

当然、消費者は無限におカネを持っているわけではありませんので、限られたおカネのなかで、品質と値段のバランスが最も優れた商品を買おうとしますし、企業もライバル社の製品ではなく自社の製品を買ってもらおうとして、広告宣伝に力を入れつつ、品質の改良、コスト削減などの経営努力を行います。

じつは、政党も経営学的に見れば、企業とまったく同じです。

乳業会社が優秀な従業員を雇い入れ、ライバル企業と切磋琢磨しながら高品質な牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの製品を作り出しているのと同様、政党もやはり優秀な政治家を所属させ、ライバル政党と切磋琢磨しながら高品質な政治サービスを世に送り出そうとするのです。

また、乳業会社も生き残っていくためには消費者に信頼され、消費者に選ばれ続けなければなりませんが、政党も同様に、生き残っていくためには有権者に信頼され、有権者に選ばれ続けなければなりません。

乳業会社の場合は消費者に信頼されるために、味の良さ、値段と品質のバランスだけでなく、厳格な品質管理を行いつつ、「安全・安心」な製品づくりを続けなければなりません。たった一度でも食中毒事件を発生させれば、最悪の場合、会社が消滅してしまうこともあります。

事件を風化させない雪印メグミルク株式会社

実際、雪印乳業が2000年の夏に集団食中毒事件を発生させたときは、製品の回収がなされ、結果的に社長も(失言問題などにより)辞任に追い込まれたうえ、翌年の子会社における牛肉偽装事件が決定打となり、最終的には事業再編により会社自体が消滅してしまいました。

同ブランドは名前を変え、違う事業主体に経営統合されて現在でもブランド自体は生きているものの、やはり当時の記憶についてはまだ残っている人も多いらしく、雪印メグミルク株式会社は自社ウェブサイトに『雪印乳業食中毒事件』のページを残し、社会に対する説明責任をしっかりと果たそうとしているように見えます。

ところで、旧民主党、その後継政党である民進党、立憲民主党は、こうした雪印メグミルク株式会社の取り組みに学ぶところはないのでしょうか。

個人的に「民主党政権時代」といえば、東日本大震災や福島第一原発事故直後の混乱を今でもよく覚えています。暗くなった東京の夜空を見上げ、「政権交代からたった1年半でこうなってしまった」と、不安に感じたことを、昨日のことのように思い出してしまいます。

また、経済的には、民主党政権時代には、政権公約になかった消費税の増税が可決成立し、安倍晋三政権下で2回にわたる消費税等の税率引き上げが実現したことも忘れられません。

ただ、なにより大きな問題点があるとしたら、立憲民主党のウェブサイトのどこを見ても、旧民主党政権時代の反省と総括に関するページはみあたりません。雪印メグミルク株式会社が食中毒事件について説明しているのとは大きな違いです。

枝野氏「消費減税は間違いだった」

こうしたなか、昨日は『Yahoo!ニュース』に、こんな話題を発見してしまいました。

消費減税の訴え「間違いだった」 立憲・枝野氏、公約見直しに言及

―――2022/11/13 7:00付 Yahoo!ニュースより【朝日新聞デジタル日本語版配信】

朝日新聞によると立憲民主党の枝野幸男前代表は12日、さいたま市内で講演し、「昨年10月の衆院選で当時代表として消費税率の引き下げを訴えたこと」を「政治的に間違いだったと反省している」などと述べた、というのです。

立憲民主党は今夏の参院選でも消費減税を掲げていましたが、朝日新聞によると枝野氏はこれについても、次期衆院選の選挙公約では「見直すべきだと思っている」との見解を示したのだとか。

枝野氏といえば、衆院選惨敗の責任を取って辞任した人物でもあります(※ちなみにどうでも良い話ですが、日本共産党は昨年の衆院選、今年の参院選で議席を減らしたにも関わらず、同党の志位和夫委員長が責任を取るという話は出てきません。不思議ですね)。

朝日新聞によると枝野氏は衆院選を振り返り、「敗軍の将として、あれ(消費減税を訴えたこと)が敗因の大きなひとつだ」などとしたうえで、「消費税減税で(選挙に)勝てるんだったら、とっくの昔に社民党政権ができている」、「消費減税の訴えだけでは選挙での支持拡大にはつながらない」との見方を示した、と報じています。

正直、なぜ立憲民主党が選挙で勝てないのか、なんとなく見えてきた気がします。

結局のところ、「多数の有権者が立憲民主党を支持しない」理由は、こうした首尾一貫性のなさにあるのではないでしょうか。

消費税等の増税は、立憲民主党の前身政党である民主党が政権与党だった時代に推進したものであり、この点に言及せずに「消費税を引き下げます」では、たしかに有権者から支持される可能性は高くありません。

結局のところ、立憲民主党は雪印メグミルク株式会社の取り組みに、少しは学んだ方が良いのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. ちょろんぼ より:

    立憲共産党枝野氏の発言の真意は解りませんが
    (立憲共産党員の言っている事が、全部解らない
    という問題は除く)
    消費税減税とか、軽々しく言える事に驚嘆します。
    もっとも憲法を守れと言いながら、憲法違反を
    軽々とできる事と同じ事なのだと思います。
    議員に貴方は統一教会信者?と質問できるのは
    サスガです。 憲法って9条以外もあるんですよ。
    憲法学者も知らないようですが。憲法違反だと
    指摘できない・しない時点で、憲法学者じゃないと
    公言しているようなモノです。

    さて、税等徴収問題は、非常に難しく、どう対処すれば
    良いかいつも考えてしまいます。
    所得税・地方税・消費税・酒税・ガソリン税。
    国民保険料・介護保険料とか、名前は変わりますが
    徴収される事は同じです。
    国の負担が~、鉄道存続が~とか、費用を補助する
    事を指摘等する毎に国が必要とする資金は増え、
    その対価として徴税等があります。
    「消費税率を下げると、消費が増え、税収が増えるる」と
    唱える宗教もありますが、肝心な消費を増やす為の賃金が
    増えない事には、消費が増えないのではないかと
    思っております。 本当は賃金が増え、消費税率が
    下る事が正しいと思いますが、人口が多すぎるから
    賃金が上がりづらいと思います。

  2. カズ より:

    政権担当能力の無さを顧みずもせず、よく言えたものです。
    消費減税で戦ったからこそ、”アレで留まった”なんて思いもしないんでしょうね。
    立民食堂の食券機からは汚職事件(おしょくじけん)しか出てこないんですものね。

  3. 引っ掛かったオタク より:

    オノレに都合の佳い「原因」を”設定”するコトで現実と向き合わずに済ませる、「そういうとこやぞ、枝野くん」
    枝:「見たくないのんは見えないのだ!」
    子どもか!
    (ソレハ子どもニ失礼)

  4. 通りすがり より:

    この話は一般的な社会における取引先との付き合いやご近所付き合いと同じことで、政治家云々や政策云々以前に、取引先やご近所として付き合うに値するかどうか、ひいては「人として信用できるのかどうか」ということに尽きると思う。

    普段から偉そうで尊大な態度を取り、他人を批判してばかりいるが自分は全く行動せず、他人の間違いやミスを必要以上に声高にあげつらう割に、自らの過ちは何でもごまかし、矮小化する。
    他人の責任はこれでもかというくらい追及するのにも関わらず、自分は絶対に責任を取ろうとしない。

    こんな人と取引先として、ご近所の住人として付き合いたいと思いますか?信用できますか?という極めて単純な話ですよ。

  5. のぶくん より:

    自民党の党首が中々ものごとを決められず支持率が落ちる中で対抗勢力の前代表がこのような認識だったことが驚きです、国民感情を全く分かっていないとても国民の代表として自民党と2大政党になれないことを明らかにしました
    なぜ国民はあなた方を選べないかといえば、人の足を引っ張るばかりできちんと物事を進めていけるように感じなかったので自民党も問題があるがとても選ぶことのできないレベルだと感じたからです
    国民民主の玉木さんが最近良く見えているのは私だけなんでしょうか?

  6. 農民 より:

     消費税について、あるいはあらゆる政策において「選挙で有利か不利か」しか考えていないよという自白ですね。
     消費税が存在することによって経済学的に損失が上回るという論を持っているのなら減税・廃止を、損失を上回るメリットややまれぬ必要性があるという論を持っているのなら維持・増税を唱える、というだけのはずです。
     あとは正しかろうが間違っていようが国民の責任において国民が選びます。「国民が政策を選び政党を選ぶ」のです。「政党が国民の選びそうな政策を選ぶ」のではありません。

     あと社民党が勝てないのは、消費税廃止を訴えることに効果が無いからではありません。消費税を無くしてくれようが国民全員にひゃくおくまんえん配ろうが、それでも「社民党はねーわ」と、他の政策や姿勢で判断されているだけです。立憲民主党も同様です。
     ちなみに個人的に、立憲民主党に政権を与えても良いなと思える条件としては、「旧民主党時代の議員を一人残らず切って、まともな政策を実際に出すこと」と明確です。でもそれはもはや立憲民主党じゃないんよ。

    1. CRUSH より:

      聞き惚れてしまいました。
      百パー賛同です。

      「あなた方はどうしたいのですか?」
      とウロウロしてるのではなくて、
      「我々はこうしたい!」
      と確固たる主張の政党同士が激突して、淘汰されるのがあるべき姿。

      現実を見ないから淘汰を恐れてるのでしょうね。
      なさけない人たちです。

  7. ジン より:

    ・原因究明
    ・責任追及
    ・再発防止
    先ずはここからです。

  8. さらく より:

    発想がおもろい
    詐欺師が手を変え品を変え別のアプローチを試みて
    何が何でも人を騙そうとしている光景
    言ってる内容じゃなくて言ってる人物が間違ってるんだよなぁ
    騙された人は懲りたのに、騙した人は懲りないね

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