【韓国のジレンマ】韓国銀行利上げも米韓金利差覆せず
このところの急速なウォン安にも関わらず、韓国銀行の利上げ幅は0.5%ポイントに留まりました。やはり国内の債務膨張問題もあり、韓国銀行としては抜本的な利上げに踏み切ることが難しかったのかもしれません。そして、今回の利上げにも関わらず、米韓金利差は開いたままの状態にあります。果たして今後、韓国は「危機のときに、出し惜しみをせず迅速に外貨を融通してくれる友人」を見つけることができるのでしょうか。
目次
国際収支のトリレンマには誰も逆らえない
当ウェブサイトでは最近、「国際収支のトリレンマ」と呼ばれる経済学の命題を取り上げることが増えています。
このトリレンマとは、自国の金融市場を対外開放し、かつ、金融政策の独自性を重視する国の場合、金融政策的には「為替相場の安定」という目標については放棄する必要がある、とする、経済学の鉄則(おきて)のようんまものです(『香港とスイスの明暗を分けるもの』等参照)。
)こうしたなか、この経済学のおきてに歯向かおうとしている勇気のある国が、私たちの隣に所在します。それが韓国です。
韓国はいちおう、金融市場を対外開放しており、(若干怪しいところはあるにせよ)外国の投資家は韓国国内の株式や債券、通貨などに自由に投資することが可能です(いわゆる「資本移動の自由」)。
また、韓国銀行は自国の経済の状況を見ながら金融政策を決定することができます。インフレ気味であれば利上げをして、デフレ気味であれば利下げをする、といった政策の微調整が可能です(いわゆる「金融政策の独立」)。
すでに米韓金利差は逆転してしまっている!
しかし、この2つの目的を達成しているにも関わらず、韓国はもうひとつ、「為替相場の安定」をも追求しようとしているフシがあります。
ことに、現在の韓国は、急激に進むウォン安・ドル高により、輸入品物価の上昇に加え、資本流出リスクの高まりに悩まされているのですが、このうちとくに後者は深刻です。
韓国経済はG7諸国などと比べると、貿易に対する依存度が高く、韓国企業が事業活動を営む上では、どうしても運転資金や設備資金として外貨を借り入れる必要があるのですが、韓国からの資本流出が続けば、これらの企業が必要な外貨を借り換えることができなくなるおそれもあります(いわゆる「キャッシュ・クランチ」)。
実際、すでに政策金利の世界では米韓金利が逆転してしまっています(図表)。
図表 米韓政策金利比較
(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Policy rates (daily, vertical time axis) データより著者作成)
これでみると、過去の一時期を除けば、韓国の政策金利は多くの場合、米国のそれを上回っていたのですが、米韓金利差が逆転してしまえば、多くの場合、韓国市場からホットマネーが逃げ出します。韓国市場のほうが米国市場と比べ、一般にリスクは高いからです。
もしも韓国企業が米ドルを調達できないという状況が生じてしまえば、韓国経済は外貨不足によってハード・ランディングという結末を迎える、といった可能性すらあります。
利上げができない韓国、為替介入で順調に外貨を溶かす?
こうしたなか、現在の韓国の通貨当局は、必死に為替介入(自国通貨買い・外国通貨売り)を行っているらしく、2022年9月末時点における外貨準備高は前月比200億ドル近く減少するという事態も生じています(『韓国外貨準備が過去2番目の減少』等参照)。
実際、本日も午前11時53分ごろ、韓国ウォンのチャートが不自然にストンとウォン高・ドル安方向に動いたのが確認できましたが、動きから判断して、韓国銀行による為替介入の可能性が高いとみてよいでしょう。
こうした「自国通貨買い・外国通貨売り」、すなわち通貨防衛による為替介入の場合、外貨準備が尽きれば、もう為替介入をすることはできなくなります。だからこそ、韓国は日本や米国との通貨スワップの締結を模索しているのだと思われます。
ただ、これも結局のところ、本質的な問題点は、韓国が貿易依存度の高い経済をみずから作り上げてきたくせに、韓国自身の通貨・ウォンの国際化を怠ってきたためか、韓国ウォンが世界に広く通用する通貨ではないという点に尽きるのでしょう。
いずれにせよ、韓国経済が外貨不足によるハード・ランディング・シナリオを避けるためには、まずは米韓金利差の逆転を解消することが望ましいのですが、利上げは困った副作用をもたらします。
韓国では家計や企業の債務が膨張しており、とくに韓国の家計部門は現在、低信用債務者、低所得者層などを中心に、家計債務問題がいつ金融危機に転嫁してもおかしくない状況になりつつあります。
こうした状況で大幅利上げを行えば、信用力が低い家計や企業を中心に貸倒が続出し、経営体力の低い銀行やノンバンクが資本不足に陥り、最悪の場合は連鎖破綻に至るという金融危機に一気に発展しかねない状況にあるのです。
大幅利上げができなかった韓国銀行
つまり、「通貨危機を防ぎ、通貨防衛をするために、思い切って利上げをする」のか、「金融危機を防ぎ、家計や企業を守るために、利上げを抑制する」のか、韓国銀行は非常に難しいかじ取りを余儀なくされています。
このあたり、もしも韓国銀行が本気でウォン安を食い止めるのであれば、少なくとも0.75%ポイントの利上げに踏み切るべきでしょう。
ところが、実際には利上げ幅は0.5%ポイントにとどまったようです。韓国銀行は本日、0.5%ポイントの利上げに踏み切りました。これにより「韓国銀行基準金利」は2.5%から3%に引き上げられます。
通貨政策の方向(2022.10.12)【※韓国語】
―――2022.10.12付 韓国銀行HPより
韓国銀行の発表内容は長いのですが、最初の一文は、次のとおりです。
金融通貨委員会は、次の通貨政策方向決定時まで、韓国銀行基準金利を現在の2.50%から3.00%に上方調整して通貨政策を運用することにした。高い物価上昇が続く中、為替レートの上昇により物価の追加上昇圧力と外国為替部門のリスクが増大しているだけに政策対応の強度を高める必要があると判断した。
いちおう、利上げの直接の理由は「物価上昇圧力への対応」ですが、さりげなく「為替レート」という文言が入っている点には注目しておきたいと思います。
ただ、米国と同じ0.75%ポイントの利上げができなかったのは、やはり家計・企業債務問題への対処ができないという悩みがあるのかもしれません。
こうしたなか、韓国銀行は、こうも述べています。
「金融市場では、米ドルの強さや円、人民元の弱さなどに影響され、ウォン/ドルの為替レートが大きく上昇し、外国人証券投資資金が純流出するなど、外国為替部門を中心に変動性が拡大した。長期市場金利は大幅に上昇し、株価は大幅に下落した。家計ローンは小幅減少し、住宅価格は下落幅が拡大した」。
少し事実確認が必要な箇所が含まれているようです。
韓国銀行は「家計ローンは小幅減少し」、と述べていますが、少なくとも現時点で公表されているデータ上は、まだ家計ローンの縮小は確認できないからです。ただし、韓国銀行は現在集計中のデータも持っているのでしょうから、今後出てくる統計で家計債務が圧縮され始めているのが確認できるのかもしれません。
自力で乗り切る?それとも友人を見つける?
いずれにせよ、韓国がこの危機をどう乗り切るのかについては、じっくりと眺めてみる価値はありそうです。韓国の場合、アジア通貨危機はIMFなどの支援で、リーマン・ショック時は日米スワップなどの支援で、欧州債務危機は「700億ドル野田佳彦スワップ」で、それぞれ乗り切った国だからです。
この点、私たちの国・日本は、かつて住専危機や不良債権問題などを自力で乗り切った実績を持っているため、「自国内の危機を自国内だけで乗り切る」のは当たり前の話ではありますが、どうも韓国メディアの報道ぶりを見ていると、「危機は外国の支援で乗り切るものだ」という論調が目に付いてしまうのです。
ただし、日本が韓国を支援する資格がある国かといえば、そうでは決してありません。リーマン危機時に韓国への通貨スワップを300億ドル規模に拡大した際には、当時の尹増鉉(いん・ぞうげん)韓国企画財政部長官が日本の支援を「遅すぎる」、「出し惜しみしている」、「ふがいない」だのと厳しく批判したからです。
「韓国が厳しい時、日本が最も遅く外貨融通」
―――2009.07.07 08:07付 中央日報日本語版より
したがって、韓国が必要としている「韓国が危機のときに、出し惜しみをせず迅速に外貨を融通してくれる友人」が日本ではないことだけは間違いありません。著者自身も、韓国がそのような友人を迅速に発見することをひそかにお祈り申し上げたいと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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>自力で乗り切る?それとも友人を見つける?
(。・・)ノ))) 自力で乗り切るに1票なのです♪
外貨不足になっても、家計や企業の債務が膨張しても、それだけだったら命が取られるわけじゃないのです♪
ホモ・サピエンスの歴史の大半は経済とかは関係なかったのです♪
韓国人もなんなりと生きてくことはできると思うのです♪
素人質問で恥ずかしいのですが・・・・
新宿会計士様のいうトリレンマって、みっつを同時に達成することはできないってことだと思うのです♪
ただ、国がどんなふうに経済の舵取りをするかは、時間とともに変化させることはできるんだから、あるときは、為替相場の安定を、別のときは市場の開放性を、また別のときは金融政策の独自性をって具合に、状況に応じて使い分けるってことはできないものなのでしようか?
そんなことをすると、どっちつかずになって、どれも上手く行かなくなるのかな?
七味 様
とても鋭い、本質的なご質問だと思います。
発展途上国が資本規制で市場を閉じていて、経済が発展していけば段階的に開放する、というのは、まさに七味様のいう「時間とともに変化する」という事例でしょう。
せっかくなのでこれについては近日中に、もう少し説明をさせていただきたいと思います。
⸜(*´ᗜ`*)⸝わーい♪
新宿会計士様、よろしくお願いしますなの♪
0.5%の利上げに留めたというのは、一種の様子見なのかもしれません。0.5%の利上げでは通貨防衛には対して効果がないのは明らかですが、先月だったかに出たレポートでは、0.25%の利上げですら限界企業やゾンビ企業が増え、高リスク世帯の破綻が増加するという内容だったかと記憶していますが、まずは0.5%上げてみて、どの程度限界企業が増えるのか、高リスク世帯の破綻が増えるのかを観察し、予想したほど酷くないようならば、改めて0.75%なり1%なり金利を上げるという戦術です。
結局のところ、これはうまく行っても時間稼ぎにしかならず、失敗すれば状況をさらに悪化させるだけになると思うのですが、韓国政府としては、時間を稼いでおけば、そのうち誰かが助けてくれるはずだと思ってるのかもしれませんね。
為替つながりということで。
ドル円市場は介入高値を超えてきています。
でも明らかに介入警戒してビビった値動きです。
財務省日銀が介入するなら、今日の株式市場引け後15時以降は怪しいと思いますが・・・やるんすかね。
先週金曜の夜やっとけば安くあがったと思うんですけどね。(しらんけど)
介入しないなら、とりあえず148円を目指すと思います。
昨日、結局介入はなかったですね。前回の介入から3週間弱で介入時の高値を超えたことになります。
ドル円で稼いでいた連中に冷や水を浴びせる効果はあったと思いますが、これだとやってもやらなくても大して変わりはなかったかもとも思います。
表向きの介入理由である「急激な変動」を抑えることができたのは間違いないですが。
4/28と7/14の高値を結んだ線の延長線を越えないように上昇(円安)速度をコントロールしたとか。そんな単純なことだったりして。
>ttps://www.newyorkfed.org/markets/desk-operations/central-bank-liquidity-swap-operations
>European Central Bank 欧州中銀 206,500,000
>Swiss National Bank スイス国立銀行 3,100,000,000
FRBの通貨スワップ発動でドル提供です、スイスはかなり厳しいようです。
こう言ったスワップ提供は流動性が危機状態にあると言う証拠でもあり逆効果の部分もありますね。
そして欧州中銀はテストかな、これは気になります。
南朝鮮はここぞとばかりにスワップ協定を連呼するでしょうが、部外者でしょ、と言われて終了です。
実は南には通貨危機対応で大技があります、スイス(のプライベートバンクあたり)に預けてる
南の上級国民の金融資産を国内に還流させれば良いんです。
数年前に1ドル=110円の頃、80兆円くらいあると報道されてました、
国家的危機なんですから愛国心が少しでもあるなら本国に戻したらどうでしょうか。
まぁ、通貨安は進行中だし、国内に良い投資先もない、さらに税務当局から脱税の嫌疑をかけられる
から絶対にやらないでしょう、ただ鬱陶しいほどスワップ協定を依頼される側からみると、
まず自分たちで助け合うべき、とお断りするのは当然ですよね。