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西側諸国の制裁がロシア経済に「壊滅的打撃」=米教授

米イェール大学のソンネンフェルド教授らのグループは、西側諸国による一致団結した経済制裁がロシア経済に「壊滅的な打撃」を与えているとする研究結果を発表したそうです。クレムリン側は「ロシア経済には打撃はない」と強調していますが、これとは真逆の内容です。同教授らは「クレムリンは長年、公式の経済統計をごまかしてきた実績がある」とも指摘しています。

イェール大教授「ロシア経済に壊滅的打撃」

米イェール大学リーダーシップ研究上級副学部長でもあるジェフリー・A・ソンネンフェルド経営大学院教授らのグループは、西側諸国による一致団結した経済制裁がロシア経済に対し「壊滅的な打撃」を与えている、などとする研究結果をまとめたそうです。

ここでは『ビジネス・インサイダー』の記事を紹介しましょう。

No matter what the Kremlin says, the sanctions against Russia are working and ‘catastrophically crippling’ its economy: study
  • Russia’s economy is crumbling under sweeping sanctions and a corporate exodus, a Yale study found.
  • The study stands in contrast to economic releases from the Kremlin.
  • “The Kremlin has a long history of fudging official economic statistics,” the Yale authors wrote.

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―――2022/07/29 19:30付 BUSINESS INSIDERより

ビジネスインサイダーによると、この研究の要旨は、こんな具合です。

  • エール大学の研究によれば、ロシア経済は徹底的な制裁や企業の撤退により崩壊しつつある
  • この内容は、クレムリンの経済発表とは真逆のものだ
  • 教授は「クレムリンには長年、公式の経済統計をごまかしてきた実績がある」と指摘する

…。

なかなかに、興味深そうな内容です。

外国企業の撤退でGDPの4割に影響

記事によるとソンネンフェルド教授らのチームは7月20日、ロシア語の民間データソースや「高頻度消費者データ」などの情報源をもとにした分析を通じ、「企業の撤退と制裁の結果、ロシア経済は回復しておらず、ロシア経済に破壊的な打撃を与えている」とするレポートを公表したそうです。

とくに、ソンネンフェルド教授らは過去30年近く続いてきた海外からの投資がロシアのGDPの40%を占めていたと指摘。ロシアに回復力があるかに見える理由のひとつが、クレムリンが「人工的な流動性」を経済に流し、「強権的な資本規制」で通貨・ルーブルを下支えしていることにある、などと説明したのだとか。

このあたり、非常に残念ながら、著者自身には「ロシア語の民間データソース」だの、「高頻度消費者データ」などといったものを手に入れる能力がなく、また、それらを手に入れたとしても分析する能力はありませんので、ソンネンフェルド教授の指摘そのものの正しさを検証することはできません。

また、「外国からの投資がGDPの40%」云々のくだりについても、もしGDPの40%を生み出していたセクターがロシアから撤退したならば、ロシア経済にかなりの打撃を与えるであろうことは想像に難くないにせよ、この記述自体の検証についても、なかなかに困難です。

現時点でできることといえば、国際通貨基金(IMF)や国際決済銀行(BIS)、SWIFTなどが公表する通貨、外貨準備などに関するデータをもとに、間接的にロシアが国際金融の世界からほぼ排除されてしまったことを、数値の上から裏付けることくらいです。

ロシアが資本フローに制限を掛けているのはおそらく事実

ただ、ロシアが保有していた外貨準備のうち、ドル、ユーロ、円といった西側諸国の資産が凍結され、ロシアの通貨・ルーブルがSWIFTの決済通貨ランキングから完全に姿を消したにも関わらず、外為市場ではルーブルが開戦前と比べてむしろドルに対して上昇しているなどの不自然さは、以前から指摘されていました。

この点、ロシアがかなり厳格で強引な資本規制を導入し、通貨・ルーブルの安定を図っているであろうことは、当ウェブサイトでも『「為替レート政策」という強烈な用語を掲載する韓国紙』などを含め、かなり以前から仮説として提示してきた点でもあります。

「為替レート政策」という、たった一言で現代の経済理論をまったく理解していないことが丸わかりの用語も珍しいかもしれません。通常の先進国の場合、為替レートは「政策で決める」ものではなく、「市場で決まる」ものだからです。韓国が以前から不透明な為替介入を繰り返し、その結果として外貨準備が急減しているという点についてはおそらく事実ですが、その裏には、彼らの為替ポリシーが経済額の鉄則に背いているという事情がありそうです。「為替レート政策」w韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、ちょっと変わった記事...
「為替レート政策」という強烈な用語を掲載する韓国紙 - 新宿会計士の政治経済評論

これは、「国際収支の世界においては、①資本移動の自由、②金融政策の独立、③為替相場の安定、の3つの命題を同時に達成することはできない」、という文脈で出てきた議論ですが、ロシアの通貨が安定しているという事は、「①資本移動の自由」に制限を掛けることでルーブルを防衛している、という仮説につながります。

具体的には、ロシアの通貨当局は現在、自国通貨と外国通貨の交換を極端に制限しており、ルーブルの価値は見かけ上安定していますが、その代償として、通貨・ルーブルの使い勝手を極端に落とさざるを得なくなるという「犠牲」を払っているのです。

言い換えれば、ルーブルは通貨防衛という「局所戦」には成功したものの、通貨そのものの信任という「戦略」で大敗した、ということでもあります。

いずれにせよ、西側諸国の対ロシア制裁が成功したか、失敗に終わったかについてを現時点で結論付けるには少し早いのですが、少なくともロシア経済は見た目ほど安定しているわけではないことだけは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (5)

  •  まったく影響がない、というロシアの説明と同様に、壊滅的、というのも振れているので、中間のどこかに答があると思っていればよいのではないのでしょうか。時間が経たないと分からないことはたくさんあります。
     ただ、ロシアが長期戦略的に失敗しているのは、間違いなさそうです。個人的には、彼らがどんな正当化をしようとも、意思決定の基調に(自国民も含めた)人命軽視があることに嫌悪感を感じています。私の感性が特殊というわけでもないでしょうから、世界中の多くの人が同じように感じていると思います。これはとてつもない負債に思えます。ロシアが何を得るか、何を得たいのか分かりませんが、それが世界が感じたこの嫌悪感によって失うものとバランスするのか疑問です。