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    Categories: 外交

英MI6長官「ロシアはウクライナで近日中に失速も」

「ロシアは人的リソースの欠乏から今後数週間以内に失速するかもしれない」――。こんな分析が出てきました。英国の情報機関「MI6」のリチャード・ムーア長官は現地時間21日に開催されたフォーラムで、欧州では外交官を装ったロシア人のスパイが400人以上追放され、諜報能力が激減しているなどとする分析を示し、あわせてウクライナ側の士気の高さや新たな武器による反撃の可能性に言及しました。

この5ヵ月でロシアが払った犠牲

早いもので、ロシアによるウクライナ侵略戦争の開始から、明日で5ヵ月が経過します。

ロシア側はこの戦争を「特殊軍事作戦」などと騙っていますが、その実態はもちろん、「軍事作戦」でもなんでもなく、れっきとした「国際法に違反した戦争」です。

いくつかの状況証拠に照らすなら、ロシア側は当初、数日でこの戦争を終わらせるつもりだったようです。

ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」?』などでも取り上げたとおり、たとえばRIAノーボスチ通信にはロシア時間の2月26日午前8時に、『ロシアと新たな世界の到来』という記事が誤配信され、すぐに非表示になった、という「事件」がありました。

このことは、一部では「ロシアが開戦からちょうど48時間以内にウォロディミル・ゼレンスキー大統領を排除し、キーウを制圧するつもりだった証拠だ」として注目されたのですが、現実にはウクライナ側の堅強な抵抗に遭い、48時間以内どころか5ヵ月経っても同国の東南部の一部を占領するにとどまっています。

そして、このためにロシアが払った犠牲も、大変に大きなものでした。とりわけ英国防衛省が5月に発信した情報などに基づけば、ロシアは地上戦力の4分の1から3分の1を失った、との試算もあります(『ロシア下院議長「西側制裁にアナザーG8で対抗を!」』等参照)。

インチキマクドでセルゲイ君(15)「コーラ以外味はほとんど同じ」ロシアの下院議長が土曜日、SNSに「西側諸国のロシアに対する制裁は『アナザーG8』の結成の契機となるかもしれない」、などと投稿したのだそうです。その構成国は中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、メキシコ、イラン、トルコの8ヵ国だそうであり、「購買力平価換算のGDP」では旧来のG7と比べて24.4%も規模が大きいのだとか。成果に対し犠牲が大きすぎる!2月24日に始まった、ロシアによるウクライナに対する違法な戦争を巡っては、すでに100...
ロシア下院議長「西側制裁にアナザーG8で対抗を!」 - 新宿会計士の政治経済評論

これに加えて最近ではHIMARSなどの新兵器がウクライナに貸与され、実戦投入されているとの情報もあり、現時点でロシア軍の損害ははさらに拡大している可能性もあります。

MI6長官「ロシアが近くウクライナで失速も」

このあたり、ロシア側が正確な損害を公表していないなどの事情もあり、果たしてロシア軍の戦争遂行能力がどの程度のものなのかを、日本にいる私たちが正確に知ることは困難でしょう。

しかし、これに関してはひとつ、興味深い話も見えてきました。

英国の情報機関であるMI6のリチャード・ムーア長官が現地時間の21日、欧州諸国がロシアのスパイを400人以上追放するなどした結果、ロシアの欧州における諜報能力が半減し、ロシアが近くウクライナで「失速」する可能性がある、などと述べたのだそうです。

Russia’s Ukraine war effort running ‘out of steam’ as Putin’s ability to spy in Europe cut in half, MI6 chief says

―――2022/07/22 02:42 GMT付 CNNより

CNNによると、ムーア長官はアスペン研究所が主催する「アスペン安全保障フォーラム」で、次のような趣旨のことを述べたのだそうです。

  • ロシアのウクライナ軍事侵攻以降、欧州諸国は外交官資格で活動する400人以上のロシア人諜報員を欧州域外退去処分にした
  • これに加えて「イリーガルズ」と俗称される、一般市民を装ったスパイもここ数ヵ月で多数摘発・逮捕されており、結果として欧州におけるロシアの諜報能力が半減したと考えられる
  • ロシアでは現在、マンパワーの枯渇に直面しており、今後数週間で人的資源の供給が困難となり、結果としてウクライナには反撃の機会が生じるだろう

…。

したがって、ロシアは今後数週間で勢いを失って失速するかもしれない、というのがムーア氏の見立てです。

戦略的に失敗したロシア

ちなみにムーア氏は、ウクライナ側の士気やモラルは依然として高い一方、ロシア側は「キーウを占領して政府を転覆させる」という当初の目的に「大きく失敗」したと指摘。あわせて東ウクライナでの攻防に兵力を消耗させている、などと述べているそうです。

このあたりは先月の『英軍制服組トップ「ロシアはすでに戦略的に敗北した」』などでも取り上げた、例の「ロシアの戦略的敗北」という論点とも整合している見解でしょう。

ロシアのラブロフ外相はBBCのインタビューに対し、「我々はウクライナに侵攻していない」と述べたそうです。なかなかに驚く認識ですし、「ウソにウソを積み重ねるとウソに呑み込まれる」という実例そのものでもあります。その一方で英軍制服組トップのラダキン参謀総長は「ロシアはすでに戦略的に敗北した」とする認識を示したのだとか。ロシアが払った犠牲が大きすぎるロシアによるウクライナ侵略の開始から、もうすぐ4ヵ月が経過します。非常に残念なことに、ロシアによる違法な侵略行為はいまだに続いており、ウクライナで多く...
英軍制服組トップ「ロシアはすでに戦略的に敗北した」 - 新宿会計士の政治経済評論

これらに関してはもちろん、ロシアとは「敵対」する英国の発表ですので、これを100%正しいものとして妄信して良いか、という問題はあります。ただ、現在になって振り返ってみると、この5ヵ月間の英国発の情報にはかなりの正確性があったことは間違いありません。

これに加えて英国防衛省が日常的に発信する『インテリジェンス・アップデート』でも、たしかにロシアの人的リソースの欠如については最近、しばしば指摘されているのですが、ムーア氏の言う「今後数週間における失速」が正しいかどうかはともかくとして、少なくとも英国の情報発信に大きな矛盾はありません。

英国の視野の広さは参考になる?

ちなみにこのムーア氏の発言には続きがあって、台湾侵攻を狙う中国が米国などの決意を「見極めようとしている」、などとする見解も出てくるのですが、私たち日本人にとってはむしろこちらの方が興味深い論点といえるかもしれません。

ただ、それ以上にいつも感心するのは、英国の視野の広さと分析の客観性です。

個人的にはかつて仕事柄、英メディア “Financial Times” を日常的に読んでいたのですが、その際も(一部の情報を除けば)日本国内の某経済新聞と比べると情報の確度も高かった記憶があります(ただし同じFTでも、日韓などの特派員が出す情報の質には若干の問題があったようですが…)。

いずれにせよ、国際情勢を読むうえで、英国発の情報には(そのすべてがそうではないにせよ)一目置く価値はありそうです。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • >ただし同じFTでも、日韓などの特派員が出す情報の質には若干の問題が

    西側メディアのアジア地域特派員には、食わせものが相当混ざっていると思います。駄目ポイントはどこか。特派員たちが「彼らに分かりやすい報道」をしようと歴史も事態も単純化して語るからです。英語を話すから自分たちの味方のはずだ、とその誤解を逆手にとって高い給料、高い社会的血を目指すアジア系も多いようですが、それは昔からそうです。

  • ニュースは数日前のものですが。

    ロイター:ロシアのラブロフ外相は7月20日、ウクライナにおける軍事作戦の目標を拡大したことを侵攻開始以来初めて明言した。
    https://twitter.com/ReutersJapan/status/1550050450422079490

    外相が、ドンバス以外の南部の併合も示唆し始めたと、受け取られています。
    「宣戦布告」ではドンバスのロシア系住民の安全確保が主目的と読み取れましたが、歴史がどうのといろいろ風呂敷を広げてましたから、戦況に合わせて目標を拡縮できると言うことなんでしょう。

    HIMARS活躍と供与の拡大への牽制もあるかもしれません。こんな写真もありました。

    https://twitter.com/thedimsol/status/1549794555444207619
    A clear example of how exactly HIMARS hits.

    80kmの距離からHIMARSから発射された誘導弾(?)が半径10m以内に集弾していると言われていて、精度の高さが話題になっています。精度は使われた弾の種類によるそうです。
    橋の外に落ちた弾があったのかどうかはわかりません。

  • > ロシアは今後数週間で勢いを失って失速するかもしれない
    1ヶ月以上前にも同じようなことを言っていた気もします。本当のところは,あと1~2ヶ月ぐらいしないと分からないでしょう。ただ,来月以降も同じような発言が繰り返される可能性もあり,もっと先にならないとわからないかもしれません。ところで,北朝鮮から兵士を補充,という話はどうなっているでしょう。

  • ハイマースで20カ所以上の弾薬庫を破壊。
    併せて兵站担当将校も数十人葬り去ったようだ。

    戦地の必要な場所に必要な武器弾薬を正確に届ける。
    これは一朝一夕に身につく能力ではない。

    また弾薬庫、指令所を前線から100km後方に分散して配置。
    前線にはトラック輸送で武器弾薬を運んでいる。

    こうなるとロシア軍の推進力は落ちるしかない。
    同時にウクライナ軍に反撃の機会が発生する。

  • ウクライナは、ロシア兵士同士、もしくはロシア兵と母国のかみさん通話を盗聴して多くの情報を得ており、英訳キャプションを付けて盗聴音声を頻繁に Youtube へ投稿しています。
    ・前線兵士たちのナマ会話(らしきもの)
    ドローンを併用して砲撃目標を精密特定するウクライナの戦術にいら立っている様子が伝わります。
    https://www.youtube.com/watch?v=htViI_O9wcg
    SSU Interception -- Russian occupiers envoy high-precision hits of Ukraine mortars and artillery.

  •  国連、トルコがロシア、ウクライナとそれぞれ食料輸出再開のための合意文書に署名したばかりだと言うのに、早速ロシアが約束を破って積出港のオデッサ(ガノタなのでこっちの呼称の方がしっくりきます)を攻撃。

     https://news.yahoo.co.jp/articles/2e99af2901605a16151dbfed1f5dac3686a21d53

     ロシアの約束を直ぐに反故にしたがる性癖って遺伝子レベルなんでしょうか?

  • まあだいぶ希望的観測が入っているとおもわれ話半分に聞いておく方が良いかと。
    ここに来てドイツの動きが不穏でしてどうやらガス供給に絡み何か密約を結んだ様子、ウクライナへの戦車提供の見返りに代わりの戦車を提供する約束をしていましたが何とT72、250両にたいしてレオパルド20両とおおよそ詐欺に近い内容、今後も対ロシア兵器の提供を渋る事も予想されます。

  • ロシア軍が恐怖を感じる程の機動打撃力が欲しいですね
    国境を越えてロシア軍の補給線を断たない限り、長期戦になりそうに思います

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