米上院「安倍総理は繁栄と安全保障に忘れがたい足跡」

追悼決議を全会一致で可決

米上院が現地時間の20日付で、安倍晋三総理を「一流の政治家であり、かつ、世界の民主的価値のたゆみない擁護者」、「日本の政治、経済、社会、そして世界の繁栄と安全保障に忘れがたい足跡を残した」などとする追悼決議を採択しました。本稿ではその具体的な内容について、決議本文部分の全体を可能な限り意訳しておきたいと思います。

世界が悼む安倍総理

史上最長の政権を率いた安倍晋三総理は今月8日、選挙演説中に凶弾に倒れ、帰らぬ人となりました。

これについて、当ウェブサイトではこれまで、「世界が安倍総理を追悼している」とする話題を取り上げてきたところですが(たとえば『「弔問外交」でわかる安倍総理と外国要人との深い親交』等)、その理由は、安倍総理が「空飛ぶ総理大臣」だったことにあります。

外務省ウェブサイトの『総理大臣の外国訪問一覧』によると、安倍総理は第二次内閣発足以降だけでも在任中に81回も外国を訪問していて、その訪問国は米国、欧州といった友好国のみならず、米国から敵視されているイランにも及びました。

米国や中国、あるいはロシアやウクライナ、さらにはインド、欧州、アラブ世界などから同時に追悼される人物というのは、世界にもあまり例がないのではないでしょうか。

米上院が安倍総理追悼を全会一致で可決

さて、「世界が安倍総理を悼む」という流れのなかで、アメリカ合衆国上院(US Senate)が現地時間の20日、安倍晋三総理を追悼する決議案を、全会一致で可決したとする話題についても触れておきたいと思います。原文は次のリンクにあります。

S.Res.706 – A resolution remembering former Prime Minister of Japan Shinzo Abe.

―――2022/07/20付 米上院ウェブサイトより

ここでは前文を除いた決議本文について、少し長いのですが、意訳しておきましょう(※原文では “former Prime Minister of Japan Shinzo Abe” ですが、意訳にあたっては「安倍総理」としています。また、英文については本稿末尾に収録しておきます)。

  • 過去75年間における繁栄した民主的な日本の出現は、世界の安定と平和の基礎のひとつだった
  • 安倍総理が2022年7月8日に悲劇的に暗殺されたことで、一流の政治家であり、かつ、世界の民主的価値のたゆみない擁護者を失う結果となった
  • 安倍総理は2006年から2007年、2012年から2020年まで日本の総理大臣を務め、日本の政治、経済、社会、そして世界の繁栄と安全保障に忘れがたい足跡を残した
  • 2007年8月、インドの議会で安倍総理は「二つの海の合流点」と題する歴史的な演説を行い、自由で開かれたインド太平洋のビジョンを鼓舞した
  • 2012年12月、安倍総理は現在のクアッド安全保障対話の前身となる「民主主義のセキュリティ・ダイヤモンド」構想を打ち出し、米国、オーストラリア、インド、日本の4ヵ国が、インド洋から西太平洋にかけての海洋秩序を「ダイヤモンドで守る」戦略を提唱した
  • 2015年4月、安倍総理は日本の指導者として初めて米議会合同会議で演説し、日米関係を「希望の同盟」と呼び、「第二次世界大戦中に失われたすべてのアメリカ国民の魂に永遠の哀悼の意を表する」と述べた
  • 安倍総理は米国の複数の大統領政権にまたがり、2019年10月7日の貿易協定を含め、米日同盟を外交、軍事、経済協力の強化によって前進させた
  • 安倍総理は朝鮮民主主義人民共和国による日本人拉致問題の解決に尽力し、日本への無事の帰国を求め続けた
  • 安倍総理は朝鮮民主主義人民共和国による違法な核兵器開発への資金供給を停止するため、国際社会を動かし、朝鮮民主主義人民共和国の非核化を粘り強く推進した
  • 安倍総理のリーダーシップは米日両国が世界中で自由、繁栄、安全を促進し、権威主義と専制政治に反対するための今後数十年にわたる連携に向けた永続的な基盤を形成した
  • 安倍晋三総理の暗殺により、合衆国は偉大な友人にして支持者を失った
  • よって、上院はいまここに決議する。
    1. 安倍晋三総理と米日同盟強化のための彼の功績を偲ぶ。
    2. 安倍晋三総理の遺族と日本国民に哀悼の意を表する。

米上院の決議が意味するものとは

米上院がここまでの決議を行うというのも、安倍総理が日米同盟を歴史的な水準に高めたという証拠でしょう。

とくに「世界の繁栄と安全保障に忘れがたい足跡を残した」、「権威主義と専制政治に反対するための今後数十年にわたる連携に向けた永続的な基盤を形成した」とする記述は、現在の米国が日本を単なる同盟国であるだけでなく、大切な友人であり、パートナーと認識していることを意味します。

安倍総理を失ったことの悲しみを乗り越え、私たちの国・日本は、この安倍総理の大いなる遺産を活用して、自由で開かれた国として、あるいは法の支配と人権尊重が貫徹する民主主義国として、世界に範を垂れる存在となるべきでしょう。

こうしたなか、安倍総理の国葬が9月27日に実施されますが、安倍総理の友人は、北朝鮮などを除いてほぼ全世界にいます。世界各国の国家元首、首脳、あるいは要職経験者らが一堂に会する機会は、大変に貴重です。

安倍総理自身が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」に賛同する国々にとっては、その価値に改めて気付く機会が得られますし、そうでない国々にとっても、自由、民主主義、法の支配、人権といった普遍的価値の魅力の一端に触れる機会となり得るからです。

安倍総理の国葬にはそのような意味があるということを、「反対者」の皆さんにはぜひ、強く認識していただきたいと思う次第です。

参考:原文

なお、米上院の決議本文についての原文も収録しておきましょう。

S.Res.706 – A resolution remembering former Prime Minister of Japan Shinzo Abe.

Remembering former Prime Minister of Japan Shinzo Abe.

Whereas the emergence of a prosperous and democratic Japan over the past 75 years has been one of the foundations of global stability and peace in the world;

Whereas former Prime Minister of Japan Shinzo Abe was tragically assassinated on July 8, 2022, resulting in the loss of a leading statesman and tireless champion of democratic values around the world;

Whereas former Prime Minister Shinzo Abe served as the Prime Minister of Japan from 2006 to 2007 and 2012 to 2020, while leaving an indelible mark on the politics, economy, and society of Japan, as well as prosperity and security around the world;

Whereas, in August 2007, at the Parliament of the Republic of India, former Prime Minister Shinzo Abe delivered a historic speech entitled “The Confluence of the Two Seas”, which inspired the vision of the free and open Indo-Pacific;

Whereas, in December 2012, former Prime Minister Shinzo Abe launched the concept of the democratic security diamond—the precursor to the modern-day Quadrilateral Security Dialogue—in which he envisaged a strategy under which the United States, Australia, India, and Japan would form a “diamond to safeguard” the maritime commons stretching from the Indian Ocean region to the Western Pacific;

Whereas, in April 2015, former Prime Minister Shinzo Abe made the first address by a Japanese leader to a joint session of Congress where he called the relationship between the United States and Japan “an alliance of hope” and offered his “eternal condolences to the souls of all American people that were lost during World War II”;

Whereas former Prime Minister Shinzo Abe advanced the United States-Japan alliance through multiple Presidential administrations of the United States by strengthening diplomatic, military, and economic cooperation, including the Trade Agreement between the United States of America and Japan, done at Washington October 7, 2019;

Whereas former Prime Minister Shinzo Abe tirelessly sought to resolve the issue of Japanese citizens abducted by the Democratic People’s Republic of Korea and continuously sought the safe return of such citizens to Japan;

Whereas former Prime Minister Shinzo Abe relentlessly pursued the denuclearization of the Democratic People’s Republic of Korea by leading a global campaign to cut off revenue to the unlawful nuclear weapons program the Democratic People’s Republic of Korea; and

Whereas the United States lost a great friend and ally with the assassination of former Prime Minister Shinzo Abe, whose leadership laid a lasting foundation for the United States and Japan to partner for decades to come in promoting freedom, prosperity, and security around the world and opposing authoritarianism and tyranny: Now, therefore, be it

Resolved, That the Senate—

(1) remembers former Prime Minister of Japan Shinzo Abe and his work to strengthen the alliance between the United States and Japan; and

(2) extends condolences to the family of former Prime Minister Shinzo Abe and the people of Japan.

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    これをもってして朝日新聞記者と朝日新聞は全否定されると判断してよろしいかと思います。
    それはどうでもいいことです。
    嘆かわしい風潮と当方はなるたけ考えないようにしてきた「キャンセル文化」について正面から向き合わなくてはならないなと覚悟を決めないと考えていたところですし。

  2. 雪だんご より:

    安倍元首相を高く評価する人にとっては良いニュースで、
    低く評価する人にとってはストレスで発火したくなる様なニュースですね。
    私自身は安倍元首相は100点中65点くらいだと評価していますが、
    民主主義では100点中75点くらいが上限とみなしているので前者に入ります。

    思えば後者の人達には、2012年の政権交代&第二次安倍政権以降は
    終わりなき連敗が続く悪夢の時代なのでしょう。そして最後まで安倍首相を引きずり
    下ろせず、自民政権はいささかも揺らがないどころか野党とマスコミは弱っていくばかり。

    今回の凶弾は皮肉にも安倍元首相を”無敵の死んだ英雄”にしてしまった。
    悲しく、おぞましい事件ではありましたが、同時に上記の後者の人達にとっても
    最悪のバッドエンドとなったのでしょう。

    彼らが今後”逆転”を狙いたいのなら、「安倍元首相は世界各国から評価されているよ、
    国葬は政治的に大いに意味があるよ」と言う指摘に何とかして反論しないと
    いけないでしょう。

  3. 愛知県東部在住 より:

    この米上院議院の追悼決議文採択に対して、日本共産党及び立憲民主党その他の、故安倍晋三元総理大臣の国葬に反対する諸野党の銀諸君、並びに朝日新聞をはじめとするアベガー勢力のマスゴミの各紙は、是非とも強烈なる抗議を行い、併せて反米キャンペーンを展開すべきでしょうね。

    それができないぐらいなら黙ってろ!と考える次第であります。

    1. 元ジェネラリスト より:

      彼らの普段の屁理屈具合を見ていると、
      「内政干渉だー!」
      くらい、言っても不思議じゃないですけどね。

      さすがに250以上の国と地域を向こうに回す覚悟はないかな。
      世界の中心で内政干渉を叫ぶ 絵面を見てみたい気はします。

  4. 普通の日本人 より:

    私は今でもアベロス、です。
    今、本当に必要な方でした。
    平和ぼけな日本国民にそうじゃないんだ。危機は直ぐそこにあるんだ。
    と言い続けて欲しかった。

  5. 世相マンボウ_ より:

    これまで、結果的にビュー増やしてはと
    書いてこなかったのですが、
    中核派のHP「前進」はお気に入りでよく読みます。
    もちろん、
    イカレ左翼過激派の言ってることなど
    ちゃんちゃらおかしいのですが
    ときどき吹き出してしまうような
    けったいな主張を書いている人の、
    60年代革命失敗活動家の哀愁に
    思いを巡らして楽しめます。
    そして何よりも読んでためになると思うのは
    国民に見破られないようまじめぶった
    偽装工作した特定野党の意見と違って
    同じ心根でありながらストレートに表現しているので
    特定野党の主張の
    「ははあ。これが本音なのね。」と
    よく分かるのに役立つことにあります。

    たとえば、最新号トップ記事タイトルは
    『極悪安倍の賛美を断じて許すな 
     今こそ日帝打倒の革命的内乱を ・・』
    です(笑)

    口先だけで哀悼の意を一言だけ言って
    その後裏腹な主張を延々として
    国葬反対までするみっともない
    少数の特定野党さんと違って、
    ずばりその汚れた心根をストレートに
    表現されており中核派のほうがその点正直です。(笑)

    1. 元ジェネラリスト より:

      「前進」を初めて見てみました。

      革共同に夏期カンパを 岸田打倒し革命に進もう
      http://www.zenshin.org/zh/f-kiji/2022/07/f32520104.html
      >日帝はNATOとも連携し中国侵略戦争をやろうとしています。断じて許せません。

      ΩΩΩ<な、なんだってー!?

      この設定、クアッド首脳会談の反対デモと同じでした。

      動画:日米・クアッド首脳会談に抗議、反対派が都内でデモ
      https://twitter.com/ReutersJapan/status/1528555942278594560
      >日本と米国が中国に対して、また改めて侵略戦争をしようとしている

      昨今の現実を前に説得力がないですよね。
      賛同する人々を増やそうという視点もなさそうで、もはや惰性で続けているんだろうか、と思ってしまいます。

  6. Padme Hum より:

    これで韓国が少しは安倍さんの悪口を言いにくくなればそれだけでも嬉しいけど、どうなんでしょう、あの人たち。単に「負けて悔しい、花いちもんめ」で終わるのかしら?

  7. 元ジェネラリスト より:

    国葬反対デモが「盛り上がって」いるのを見て思うのですが、デモで奇声を上げている人たちって、普段のヘイト発言を見れば、当然「弔意を表すなデモ」くらいのことをやっても不思議じゃないんです。でもさすがに批判に耐えられないためか、一応おとなしかった。

    そこに出てきた「国葬」。水を得た魚のように見えます。

    一部誤字がありますが、面倒くさいので訂正しません。

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